新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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秋葉原バックストリート

プロローグ & 秋葉原バックストリート(1)

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 如月きさらぎハルは、2点ほど、個性的な趣味に御執ごしゅうしんであることを除いたとすれば、都内の高校に通う、ごく普通の女子高校生である。

 ひとつは巫女みこであること。

 趣味というには、これはいささか飛躍のし過ぎかもしれない。

 巫女みこであるのは、代々神職を務める家系に生まれたからであり、それを趣味というには無理がある。

 ただ、その巫女装束みこしょうぞくを普段着にしているのはいかがなものか——という疑問はあるし、それはもはや趣味なのではなかろうか?

 もうひとつは、スペック的に電脳系の数学ヲタクスーヲタであること。

 ステレオタイプのお年寄りにとって、携帯電話(『ケータイ』ではない)は、本来の用途のとおりに電話をするものであって、
 番号以外のボタンを押したら、爆発するかもしれないから怖くていじれない、
 スマホなんてもはや、異次元からやってきたモノリスか敵国の新兵器なので、存在することすら認めない——ということになっている。

 しかし個人差はあるもの。

 昭和20年代生まれで、古式ゆかしい神主のくせに、コンピューター関係にはれいめい期から関わっているという、ハイテクでハイパーなじじいが、ハルの祖父。

 そんなじじいに付き合っていれば、キュートな女子高校生も電脳化するし、
 ちょっとしたスマホアプリや、パソコンソフトくらいはプログラミングできるし、
 定理と論理でつむがれた美しき数学の世界は、その延長線上にあるものに過ぎない——というのがハルの主張(誰に?)。


〝定理と論理でつむがれた美しき数学の世界〟


 ……いや、それってもう、どうかしてるって。

 あと、その『ちょっとした』スマホアプリやパソコンソフトって、課金できるレベルなんですけど。

 そんなハルが、祖父の発注により、不満たらたら秋葉原にやってきたのは、7月下旬のとある日曜日、昼下がりのこと——。


1. 秋葉原バックストリート

 発注——注文を出すこと。対義語は受注。

 注文内容は、

①ともかく秋葉原に行け。
②スマホにインストールしたアプリを起動しろ。
③画面に表示された目標地点に向かって歩け。
④着いたら電話しろ。

 以上。

 自分勝手、傍若無人、強引、問答無用、聞く耳持たず。
 祖父のスペックを並べればキリがなく、振り回されること四六時中。

 ゴーイングマイウェイなじじいには辟易するし、貴重な日曜日の午後をまるまるつぶされては、たまったものではない。

 しかし一方で〝発注〟だ。

 受注してクエストをこなし、ミッションコンプリートすれば、かならず報酬が待っている。

 その額、五千円。
 ぐちいちよう、古くはいなぞう(もうすぐうめ)、下世話ないい方では大中小の「中」。

 高校生には魅惑の金額だ。しかも、交通費・食費は別途全額支給(後日精算)。

 自分勝手で、傍若無人で、強引で、問答無用で、聞く耳を持たないのに、公平で一本筋が通っているのが、昭和20年代生まれのハイパー神主、如月きさらぎこうれい——ハルの脳内における呼称は『クソじじい』。

 そのクソじじいは、ハードウェア方向にハイパーなので、スマホにインストールされたアプリも、もとはいえば、ハルが受注して実装したものだ。

 3か月間、週末をつぶして寝不足の毎日を過ごし、大5枚。

 ほぼ趣味の延長で、楽しくて仕方がなかったのだから妥当。
 特典としてケーキのバイキングが付いてくれば、もう気が利いていると認めざるを得ない。

 ぐぬぬぬぬ——とみしてから、ハルは盛大にため息をついた。

「はー」

 そして、諦め、ハルは巾着からスマホを取り出した。

 基本的に素直であり、やるべきことは最後までやりとげるし、年配者に優しく、小さな子の面倒見も良く、かといって、引っ込み思案で前に出ることは好まない——なんてこともなく、いうべきことはいうし、曲がったことも許さない、という、性格欄にひとこと書くとすれば、〝クソ真面目〟なハルであった。
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