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秋葉原バックストリート
秋葉原バックストリート(4)
しおりを挟む(なんだろ?)
大幣は、一度高く掲げてから手首のスナップを利かせ、左、右、左、と振るもの。
その前に何かに引っ張られるのでは困る。
(うーん……)
ハルは思い切って、力任せに持ち上げることにした。
(御祓いのひとつも満足にできなくて、巫女なんかやってられますかってね!)
てやんでえってね。よっ、江戸っ子! ——千葉っ子だけど。
(一、二の~、三っ!!)
ハルは両手に持った大幣を勢いよく振り上げた——。
どーん!!
(どーん?)
何だか聞いてはいけない音を聞いた気がする……いや、確かに聞いた。
そしてなぜだろう、冷たい……。
おそるおそる瞼を持ち上げる——と、目の前で大量の水が噴き出し、頭上遥か、壮大な水柱が立ち昇っていた。
「え゙!? ええーっ!」
水道管破裂。
予期せぬ緊急事態。
しかし巫女たるもの、どんなときでも平静を保ち、落ち着いた行動を心がけなければならない。
うろたえたり取り乱したりなどもってのほか。
……でも、人間だもの。
ハルは逃亡した。
(ああーっ! 反射的に逃げちゃったけど!)
が、それなら引き返しますか、と問われれば、そんなわけはない。
駆け込んだ路地を十字路まで来たところで、ハルはようやく息を吐いた。
パソコンショップや飲食店が入ったビルが雑然と並んでいるあたり。
物陰からおそるおそる顔を覗かせれば、表通りは大騒ぎになっていた。
「どどど、どうしよーっ! ていうか、なに、なに、なに? わ、わたしのせい!?」
状況証拠からいえば。
「ととと、とにかく、おおお、落ち着かなくちゃ……ん?」
ふと、ハルは頭が妙に重たいことに気がついた。
何かが頭の上に乗っかっている気がする——というより乗っかっている。
触ってみれば、むにゅう、という感触がした。
むにゅう?
柔らかい。そして生暖かく、小刻みに震えているような。
手触りは悪くなく、滑らかな毛皮みたいだ——まるで小動物か何かのように。
……。
「えー!? やだやだやだ! なにこれ、なにこれ、なにこれ!?」
ハルは、それを両手で無理やり引き剥がし、地面に投げつけた。
ぽん、ぽん、ぽよん、とバウンドしたあと、アスファルトの上を転がり、それは止まった。
毛皮のかたまり……である。
「ええ……? なんか気色わる……」
そしてひくのが人情というもの。
——が、それは急にモソモソっと動き出したかと思えば、体を伸ばして起き上がった。
大きな尻尾に円らな瞳、リスっぽい。
とりあえず「リスもどき」としておこう。
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