新宿アイル

一ノ宮ガユウ

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新宿アイル

新宿アイル(9)

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 ミチルは、デッサが分離した〈ティアの羽根〉という装置を両肩に装着した。

 透明にぼんやり光る羽根が背中に生まれる。
 周囲の景色が歪み、ミチルの体は地面からわずかに浮かび上がった。
 人間用の簡単な飛翔装置らしい。

 それにしてもデッサが装備していたということは、コルヴェナも使おうと思えば使えたわけで、そんな便利な装置をどうしてこれまで使わなかったのだろうか——?

「人間にはモノを使うタイプと使われるタイプの2種類がいるの! でも、あたしはそのどちらでもない。あたしはすばり、モノに頼らないタイプ!」

 コルヴェナは、ずばばばんっ、とミチルに人さし指を向ける。

「いい換えると、使いこなせなかったということですね!」

 丸眼鏡は、すばびしんっ、とコルヴェナに人さし指を向ける。
 気が合いそう。

 コルヴェナと、その肩に手を添えたモジャコがフォルトヴで移動したのを見送り、リグナとミチル、そしてデッサも侵入地点へ向かう。

 ハルものうのバイクに乗って松が谷のあき神社へ。


 深夜の街は静かで、行き交う車のヘッドライトもまばらだった。

 あおいメモリーカードに残された記録の中で、オーラもまた、パルノーと同じように〈ロートの追憶〉を古代の星の舟と予想した上で、ひとつの仮説を立てていた。

(星の舟はであり、結界とはその眠りが妨げられないように施されたもの。ルジェが星の舟の正確な位置を知ることができたのは、1923年9月、あの大地震で結界が揺らいだから)

 結界は星の舟と強く結びついている。
 かつてあったはずのその制御装置を見つけ、円環ロンドに干渉されずに伝送路を構成することができたのなら、星の舟へ交信できる。

(オーラさんはそれを〝ソニテ〟と呼んでいた……)

 ただそれがどこにあったのか、そしていまどこにあるのか、オーラにもわからなかった。
 まして、ハルに知るよしもない。

 そもそもすべては仮定の中の物語であって、もしすべてが正しかったとしても、交信の結果として何が起こるのか、まったくわからない。

 けれども、それならただ手をこまねいて待っているのかといえば、そんなことはない。

(なにもせずに後悔するくらいなら、やるだけのことをやって後悔したほうがマシだ)

 それに、いちばんわからない疑問の答えを導き出そうとするとき、すべては正しいと思えてならないのだ。

(なぜ、星の舟は東京の地下に眠るのか——?)
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