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宇宙(ソラ)の扉
相馬圭
しおりを挟む防衛局の建物は、取手駅西口にほど近い、駅ビル沿いの坂の途中にあった。
(どっち……!?)
階段を降り切って、圭は左右を見回した。
坂を駆け上がるルクフェネの後ろ姿は、もうずっと向こうだ。
(速い……)
すごいな——と、圭は率直に思う。
相馬圭、17歳。
茨城県取手市在住で、県内の高校に通う普通の高校生——だった。
——数日前までは。
日本政府にあっさり見捨てられ、いまや、元茨城県取手市在住のセーグフレード領シモウサ市民(領民とは呼ばないらしい)——であるところの元高校生。
高校はやめてしまった。
最大の理由は、セーグフレード領シモウサとして分離された結果、その外との行き来が不可能になったこと。
都内の大学への進学がかなわないのなら、勉強を続ける意味がない——。
(違う)
圭は自分で否定する。
伸び悩んでいた。
たぶん、ずっとやめる口実を探していたのだ。
いいタイミングで国境ができ、たまたま防衛局補佐の募集を見つけたから、それに飛びついただけ。
消えてしまった道の先を、いつまでも未練がましく、目を凝らして探しているくらいなら、新しく開かれた道を進むほうがずっとよいはずだ——と、信じたい気持ちはあるけれど、いまの圭に、それが正しいといい切るだけの自信はない。
はたして前へ向かって歩いているのかさえ、わからない。
昔の自分ならきっと、どうしたらよいのかも決められず、立ち止まってうずくまっているだろうな——と思う。
それよりはマシだろうというのが、たぶん、いまのせいいっぱい。
国境ができてしまったこと以外に、セーグフレードに対する特別な感情はなかった。
おそらく土地柄か、取手市民には、良くも悪くもこだわりというものがない。
歴史上、大々的に注目されたことは一度もないし、ものすごい有名人を送り出したこともない。
けれども、ほどほどに関心を向けられて過ごしてきた気はするし、そこそこ著名な人物は輩出してきたと思う。
観光地や景勝地はなく、知名度の高い名所・旧跡もないし、当然、絶景スポットなんかあるはずもない。
ただ、息を呑むように壮観な景色が見られないということは、つまるところ、地形も気候も穏やかであり、ここ最近、大きな自然災害に見舞われた記録はない。
中世・近世はまだしも、現代にかけても、何かしらの城下町になったことはなく、地域の中心になったこともないものの、そのぶん、妙なプライドで意固地になることもない。
交通の便は悪くはないが、かといって至便というほどでもなく、困ることはないという程度で、適度に人が住み、適度に店があり、適度に自然豊かな、適度な郊外。
それが取手。
——ここが防衛局ですか……?
防衛局のオフィスを訪れたとき、そう質問したのは、言葉のとおりに確認しただけであって、それ以上の意味はなかった。
ルクフェネを見て感じたのは、セーグフレードの人とはいっても自分たちと変わりないんだ——ということくらい。
年下の16歳なのに司令という立場にあるのは、彼女が優れているからだろう。
そんな彼女に、自分は必要とされる存在になれるのだろうか?
むしろ、そう考えてしまう。
わからない。
でも、立ち止まってもいられない。
いまは、何ができるかわからなくても、とにかく足掻くしかない。
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