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一ノ宮ガユウ

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前ぶれ

カルナは風の匂いを嗅いだ

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 花は、結局パンツのまま食器を洗って、お鍋や炊飯器を片づけてから、圭に直してもらったスカートを履き、朝練へ。
 送り出してから、圭も防衛局の制服に着替える。

 ちなみに凛は、料理は得意だけれども整理整頓という概念を持ち合わせていないので、食べた後のことをいっさい考えていない。
 服も脱ぎっぱなし、放りっぱなし、洗濯物も畳めない。

 で、洗濯とお裁縫を含む衣類ケアは圭の担当、実は几帳面な花は掃除と食器洗い担当——と。

 ❖ ❖ ❖ ❖ ❖

 とりじんぐう


 カルナは拝礼を終え、振り返った。

 古くから神域として大切に守られてきた境内には、いまなお、手つかずの自然が残されている。
 深いもりを、初夏の風が通り抜け、鳥の鳴き声が響き渡る。

 ただ、その中にさざめきを感じて、カルナは眉をしかめた。

 こころに思い描いたことを、言葉として、何もない空中に指先で描く。
 それを、ただそのままに、幾度も幾度もたどって、力を宿した軌跡がユクルユフェーア。
 ユクルユフェーアをつむぐ者を、アルテリウア・ユーヴェ、あるいは単にアルテリウアと呼ぶ。

 その力の根源は言葉だ。

 理屈からいえば、言葉など音の組み合わせに過ぎないし、それをあらわした文字もまた、ただ形を重ね合わせただけのものだ。
 しかし、遥かな時を超えてきた言葉には、人々の想いと、人々をいだき守ってきたあめつちの温もりがこもっている。

 だから、アルテリウアは言葉に想いをのせ、願い、ユクルユフェーアとしてつむぎ、力とするのだ。

(——ただ、力のみなもとが言葉に託された人々の想いにあり、そして、そのはじまりが人々をいだき守ってきたあめつちにあるのなら、つむいだユクルユフェーアの力は、少なからず、あめつちに伝わり、呼び起こしてしまう。特に、それがよこしまな力であるのなら)

 カルナは風の匂いをいだ。

(どうやら、この地の神々は目覚めようとしている。二十日兎マルシェか……)

 カルナは熟考する——が、そのキリリとした表情は、にゅるん(?)と溶けた。

「若菜さ~ん、おはようございます~♨」
「おはようございます、カルナさん!」

 巫女みこの若菜さんが歩いてくる。

「今日もご苦労さまです」
「いえいえ、若菜さんこそ、いつもありがとうございます」

 若菜さんは、はく緋袴ひばかま、そして足下にしろ足袋たびと赤いはなぞう——巫女装束みこしょうぞくに身を包んでいる。

 カルナは、変わらず体験してみたいと思っているものの、いまはぐっと我慢。

(いつかきっと……♡)

「そうそう、お菓子いただいたんですけど、カルナさん、甘いものはお好きですか?」
「もちろん、大好きですよ~♫」
「時雨堂さんのお団子。これが絶品なんです!」
「お団子!! 噂には聞いてますけど、まだ、いただいたことないです!!」
「まあ! それはなおさら!! あとでお持ちしますね!」
「ありがと~。楽しみにしてますぅ♥」

 またあとで——と別れる。

(時雨堂さんのお団子……。わくわく~♪)

 むふふん、と笑みがこぼれる。
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