闇に咲く花~王を愛した少年~

めぐみ

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闇に咲く花~王を愛した少年~㊴

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「や、止め―」
 言葉は熱い口づけに塞がれ、もがこうとする両腕は持ち上げて押さえつけられた。
―なに、どうして?
 何がどうなっているのか、判らなかった。十で遊廓に売られ、そこで育った誠恵は男娼と客が夜毎褥を共にするのを知っていた。香月は必要以上に誠恵に性的知識を授けようとしなかった。水揚げの夜、何も知らない純真で初な少年を好む客もいるからだ。
 ゆえに、誠恵は男女(或は男同士)が褥を共にしても、具体的に何をするのかは理解できていない。
 強引に舌を差し入れられ、口の中を蹂躙される。何度となく唇を重ねてきたのに、こんな嫌悪感を催すのは初めてだった。
 その間に、大きな手が誠恵の身体中をまさぐる。
 漸く、誠恵にも光宗が何をしようとしているのかが判った。
 優しかった光宗の笑顔が瞼をよぎり、消えていった。今、力ずくで自分の身体を犯そうとしているのが同じ男だとは思えない。
 のしかかってきた光宗の下腹部が腹に当たり、固い怒張したものが触れるのに気付き、誠恵はハッとした。
 そのときの誠恵の衝撃と恐怖といったら、この上なかった。光宗が自分と同じ男であるとか、裸にされてしまえば男だとバレる―、そんな意識はどこかに消えていた。
 ただ恐怖だけしかなかった。
「いやーっ」
 誠恵は力の限りを込めて、両手で男の身体を突いた。思わぬ反撃を受けて、光宗が一瞬怯む。その隙に誠恵は身をすべらせ、逃れた。
 部屋を走って横切り、両開きの戸に手をかける。
―怖い、怖い、誰か、助けて。
「いやっ、怖い。来ないで」
 背後に迫る気配を感じた誠恵は振り向いて、悲鳴を上げた。血走った眼がぎらついて、自分を射抜いている。以前の誠恵がよく知る穏やかな青年王はどこにもいなかった。
 女を暴力で我が物にしようとするしか頭にない、まるで荒れ狂う手負いの獣のようだ。
「国王殿下、お願いでございます。お許し下さいませ、お許し下さい―」
 誠恵は涙を堪えきれず、恐怖のあまり、とうとう泣き出した。
「予が怖いだと? 何故、怖いのだ。惚れておるなら、怖いことなどないだろう。国王が抱いてやると申しておるのだ。そなたは後宮の女官であろう。そなたを予が望むからには、そなたは予の意に従わねばならぬ」
 怖いと怯える誠恵が余計に光宗の欲情と怒りを煽っていることにも気付かず、誠恵は哀願した。
 優しいあの方が権力や暴力で自分を意のままにするはずがない。あくまでも光宗を信じていたのだ。
 手を伸ばしてきた光宗を見て、誠恵が悲鳴を上げた。
「そなたは予をそれほどまでに嫌うか」
 光宗の双眸に昏い光が妖しく瞬く。
 誠恵は夢中で扉を開けようとしたが、外から細工がしてあるのか、微動だにしない。
「誰か来て! 助け―」
 懸命に小さな拳で戸を叩き続ける誠恵の背後から再び徳宗が襲いかかる。
 業を煮やした光宗は先刻以上に容赦がなかった。背後から抱きしめた誠恵を突き飛ばすようにしてその場に押し倒すと、間髪を置かず上から覆い被さる。
 荒々しい仕種でチョゴリの紐を解こうとするが、上手くゆかず、怒りに任せて引きちぎった。
「いや! 止めて。殿下、どうか、お許し下さい―」
 焦らすつもりなんて毛頭なかった。
 光宗の他に好きな男もいない。
 最初から今まで、ずっと王だけを見つめ、恋い慕ってきたのに。領議政から課せられた〝任務〟と王への恋心の間でどれほど心揺れ、悩んできたことか。
「緑花、これでやっと予のものになるのだな」
 うわ言めいて言う光宗の口調は熱を帯びている。
 チョゴリを剥ぎ取られた次は、すぐに白い下着も脱がされた。
 後は上半身は胸に詰め物をした上に巻いている布だけだ。相当何重にも巻いているから、易々と解けはしないが、それも時間の問題だ。
 その気になれば、あっという間だろう。
 第一、触れられれば、本物の胸とは違うこのはすぐに判る。
 光宗は、真上から恍惚として誠恵の身体を眺めている。その蛇のような視線が胸にまとわりついていた。
「許してくれ、こんな形ででも想いを遂げねば、そなた恋しさのあまり予は気が狂うに違いない」
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