闇に咲く花~王を愛した少年~

めぐみ

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闇に咲く花~王を愛した少年~53

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 布団を敷いて倒れるように横たわると、改めて今日一日の出来事が甦り、涙が溢れた。
 尚善に手籠めにされ続けた間中、泣いていて、もう涙も涸れ果てたと思うほど泣いたのに、まだ涙が出ることが自分でも不思議に思える。
 どうして、御仏は自分にこんな酷い仕打ちをなさるのだろう。自分が何の罪を犯したからといって、あそこまでの辱めを受けねばならない?
 死にたいほど辛かった、恥ずかしかった。
 自分でも見るどころか触ったこともない箇所を容赦なく暴かれ、指や舌先でかき回されたのだ。とりわけ、あの男を初めて迎え入れたときの痛みは言葉に言い尽くせないほどだった―。あまりの衝撃と激痛に涙を振り散らし、跳ねる身体をあの男は容赦なく押さえ込み、自分自身を突き入れた。
 もう、二度とあんな想いはしたくない。
 我が身が女でなくて良かったと思ったのは、これが初めてだった。あれほど何度も交わったのだ、女の身であれば、もしや、あの男の胤を宿してしまったのかもしれないと余計な心配をすることになっただろう。
 あの男が自分の胎内深くに入り込み、何度も精を放ったのだと思い出しただけで、吐き気がしそうだ。あれほどの辱めを受けて、正気でいられる我が身がむしろ不思議だ。
 ああ、このまま息絶えることができたなら、どれほど幸せだろうか。
 もう、生きていたくない。こんな穢れたままの身体で、あの男にさんざん慰み者にされた自分を光宗に見せたくない。
 だが、死は許されない。あの男は誠恵の死をけして許しはしない。〝任務〟を遂げるまでは、唯一の安息を得られる手段としての死さえ、自分には許されないのだ。
 誠恵は掛け衾(ふすま)を頭からすっぽりと被ると、枕に顔を押し当て声を殺して泣いた。
 
 誠恵が久しぶりの里帰りから戻ってきたのとほぼ同じ時刻。
 大殿では、光宗が柳内官の訪問を受けていた。ここのところ、柳内官は留守が多い。
 大殿付き内官である柳内官は普段、光宗のすぐ傍に控えており、どこにゆくにも付き従う。だが、最近は他に用事があるらしく、昼間は姿を見せない。代わりに別の内官が大殿に詰めていた。
「柳内官、話とは何だ?」
 既に夜は更け、国王の就寝の時間が近づいていた。 
「殿下、怖れながら、お人払いをお願い致します」
 柳内官が頭を下げると、光宗が頷く。
 国王に促され、傍に控えていた内官は恭しく一礼した後、静かに出ていった。
「さて、これで予と二人きりになったぞ」
 光宗が屈託なく言うのに、柳内官は小声で話し始めた。
「殿下のお怒りを買うのを承知で、ご報告させて頂きます」
「不愉快になる話なら、止めてくれ。緑花についての話もするな」
 早くも不機嫌になった光宗にも柳内官は頓着しなかった。
「私はここ半月ばかり、町へ出ておりました」
 光宗の眼付きが警告するように険しくなった。
「どういうことだ? 宮殿の外に良い女でもできたのか」
 戯れ言めいた口調とは裏腹に、眼が笑っていない。
「そう申せば、監察部の内官たちもここ半月は町に出て何かを探っているようだな。一体、何を調べている? 予は何の命も出した憶えはないが」
 柳内官は丁重に返した。
「内侍府は常に殿下と密接な拘わりを持ち、殿下の手脚となって動くために存在します。従って、たとえ殿下のご命令がなくとも、殿下のおんためであると判断すれば、独自に動くこともございます」
「つまり、そなたは王命もないのに、勝手に何かを探ってきたということだな」
 光宗はプイとそっぽを向いた。
「もう良い。今宵は退がれ。今夜は、これ以上、そなたと話さぬ方が互いのために良さそうだ」
 柳内官は取りつく島もない王の態度にも怯まなかった。
「私は、そのようには思いませぬ。殿下、どうか私の衷心よりの言葉に耳をお傾けになって下さいませ」
「衷心だと? 予の気持ちを無視したそなたの言動のどこが衷心だ?」
 光宗の烈しいまなざしが柳内官を射るように見据えた。
「殿下、私と監察部長を初め、数人の者たちで張女官について調べて参りました。ここのところ、町に頻繁に出ていたのは、そのためにございます」
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