華鏡【はなかがみ】~帝に愛された姫君~

めぐみ

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逢瀬と初夜の真実⑤

第二話「絶唱~身代わり姫の恋~」

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「止めて、止めてぇっ」
 さんざん弄り回された乳首は外気に触れただけで、何か得体の知れない痺れを感じるようになってしまっている。すっかり敏感になった乳首を頼経は口に銜えて、あろうことか赤児のように吸っている。
―なに、何なの。
 生温い口が気持ち悪くて、千種は泣きながら厭々をするように首を振った。
 肉厚の舌で扱かれている中に、突起はいっそう敏感になってゆく。さんざん吸った後、頼経は両の乳房の先端にチュッチュッと音を立てて口づけて、それで辛い責め苦はやっと終わった。
 恐る恐る視線を動かして胸を見た千種はまた泣きそうになった。ピンと屹立した乳首は頼経に弄られるまでは慎ましい薄紅色だったのに、今は熟した林檎のように真っ赤に染まっている。しかも、唾液に濡れて淫猥に光っている様はおぞましい。
 だが、これで辛い〝お務め〟からも解放される。この時点で千種は御台所の閨での役目というものがこれで終わったとしか認識できていなかった。なので、頼経の手が再び自分の身体をさ迷いだしたときは、恐怖と絶望に眼を一杯に見開いて彼を見た。
「御所さま、今度は何をなさるのですか?」 この場合、この先に何をされるのかと訊ねる恥ずかしさよりも怖さの方が勝った。今度はどんな目に遭うのか、千種は怯えを宿した瞳で震えながら頼経を見上げた。
「シッ」
 彼が黙っているようにと眼だけを動かして千種を見た。元々美しい男だから、欲情に翳っている今は凄艶でさえある。しかし、今の千種にはそんな彼の変化はただ不安をいや増すばかりだった。
 せめて頼経が優しい言葉をかけてくれたなら、それだけでも千種の気持ちは随分と慰められ落ち着いただろう。
「そなたの身体は隅々まで綺麗なのだな。ほれ、ここを見てごらん」
 あり得ない場所を頼経の手が撫でている。何事が起こりつつあるのかと不安で震えながら上半身を起こした千種は絶句した。
 剃毛され、剥き出しになった恥丘を大きな手が這い回っている。
―どうして。
 千種は絶望のあまり、眼の前が白くなった。普通の夫婦ならば、こんなことまでしない。男女の事には疎いけれど、初夜に妻が下半身を良人のために剃るだなんて聞いたことがない。
 御台所はここまでしなければならないのだろうか。十六も若い良人を惹きつけるために? だとしたら、あまりにも惨めだ。
「きれいだ。ここの部分まで雪のように白く、なめらかだ」
 頼経は幾度も呟きながら、その手触りを愉しむかのように下半身を撫でる。その手がふと悪戯を愉しむかのように、固く閉じた双貝の口を指先でなぞった。
 たったそれだけの刺激で、信じられないことに秘められた狭間はあっさりと開き、千種の秘所は頼経の指を受け容れた。再び身を起こして信じがたい現実を目の当たりにした瞬間、千種は哀願するような声で呟いた。
「止め―」
 だが、最後まで言い終えることなく、その声は途切れた。頼経が彼女の太腿に両手を添え両脚を力任せに開かせたからだ。彼女の身体が大きく仰け反り、衝撃でまた褥に身体を打ちつけて倒れ込んだ。
 無理に割り裂かれた両脚も激痛を訴えていたけれど、その次に受けた衝撃に比べれば何でもなかったといえる。
 頼経が自らも夜着を脱ぎ、鍛えられた若々しい体軀を晒した刹那、彼の下半身で隆々と存在を誇示しているものがあった。千種はそれを見て悲鳴を上げた。
 四年前の祝言前日、茜から肝心な部分はぼかして曖昧に伝えられた初夜の一切が今更ながらに脳裡に浮かぶ。まさか、あの巨大な陽物が自分の中に挿入(はい)るというのか? 信じられない想いで烈しくかぶりを振り、後ずさる。逃げようとする腰を両手で掴み引き戻される。
「無理、無理です」
 千種は眼に涙を溜めて縋るように彼を見た。
「御所さま、お許し下さい。どうか、お許しを」
 きっとあの優しい男なら聞きとどけてくれる。無理強いはしたくないのだと言っていた。いつだって千種の意思や気持ちを優先してくれたあの方なら。
 だが、千種の信頼は粉々に砕かれた。
 頼経は千種を熱っぽい瞳で見据える。
「そのような眼で見つめたとて、逆効果だ」
 無情な言葉とともに激痛が下半身に走った。あまりの痛みに、泣くつもりはもないのに、涙が溢れて散った。

 一夜明けて、将軍夫妻が結婚四年にして漸く名実共に夫婦になったことは政子にも伝えられた。
 若い将軍は御台所の身体に夢中になった。
 しかし、千種の方は
―もう二度と、こんなことは繰り返したくない。
 翌日からは幾度、頼経からのお召しがあろうと頑なに辞退することが続いた。
 その中には信じられないような噂が御所内で立ち始めたのである。
 将軍と御台所がめでたく初夜を迎えてから半月余りのある日、尼御台政子の居室をさる人物が訪れていた。
 政子が手ずから淹れた茶を執権北条泰時はさも美味そうに飲んだ後、茶器を押し頂いた。
「相変わらず、伯母上のお淹れになった茶は美味い。温くもなく熱くもなく、まさしく絶妙の熱さ。これは昨日今日人生を知った者には出せぬ味にござります」
 政子がフフと笑った。
「相変わらず泰時どのは口が上手い」
 この泰時と政子、実は伯母と甥の関係に当たる。泰時の父義時は政子の実弟である。
「この泰時、伯母上にお世辞など申しませんぞ」
 この時、泰時は五十歳。整った面立ちに鼻下にたくわえた髭が幕府を率いる執権らしい重みを出している。実際、この泰時の政治的手腕はなかなかものである。民のことを第一に考える彼の考えが反映された政は徳政と呼ばれ、幕府内だけでなく京の朝廷内にも彼の人柄を慕う公卿は多いほどだ。
 政子が手ずから淹れた茶でもてなす客は限られている。つまりは泰時はその数少ない賓客の一人だ。
 茶を飲み終えた泰時は最近の都の様子から始まり、御所内のあれこれなどをかいつまんで政子に話して聞かせた。ひととおり話し終えた後、政子があからさまに眉をひそめた。
「それは、どういう意味ですか? 御所さまが御台所を追いかけ回しているという噂というのは」
 泰時は自慢の髭を撫でつつ、思案顔になった。
「まあ、有り体に言えば、言葉どおりですよ。御所さまは御台さまに夢中になっておられる。お相手が頼家公ご息女でございますゆえ、我々も初夜に不祥事があってはと、御所さまには事前に幾度かは年長の侍女からの手ほどきを受けて頂きました。ゆえに御所さまは女人が初めてというわけではありません。さりながら、過ぎたるはまた災いの元、御所さまが万が一、他の女に眼を向けられても困ると、女関係は身を慎んで頂いていたのですよ。その効果でしょうな、初めてどっぷりと溺れる女体の色香にのぼせ上がっておられる」
 コホンと政子が咳払いし、泰時を睨んだ。
 泰時の落ち着き払った貌に狼狽が走った。彼の唯一の泣き所はこの伯母だ。泣く子も黙る執権も尼御台には頭が上がらない。
「それで、追いかけ回していると?」
「さようでしょう。幾ら夜伽を命じられても断られる始末で、最近は御所内を御台さまがお行きになる先々まで後をつけられているそうです」
「真ですか? それではまるで」
 女の尻をやたらと追いかけ回す無頼の輩のようではないか。そう言おうとして、将軍に対する物言いではないと飲み込んだ。
 と、泰時がその代わりのように、あっさりと言った。
「御所さまはまだお若いゆえ、激情に走られるのも致し方ないですな。男というものは惚れたおなごには、そのようなものです。恐らく惚れた女を狩りの獲物と勘違いなさっておられるのでしょう」
「泰時どの」
 窘めるように言われ、泰時は叱られた小児のように身を縮めた。また、わざとらしい大きな咳払いをする。
「いや、言葉が過ぎました。失礼をお許し下さい。伯母上。ですが、事は予想以上に上手く行きましたな。婚儀の二ヶ月前に紫姫のことがあったときは、どうなることかと思いましたが、御台さまはご立派に本来のお勤めを果たして下さった。後は将軍ご夫妻に御子が授かる日を待つだけにて」
 政子が婉然と笑った。
「どうも泰時どのは今日は風邪を召しておいでのようじゃ。何なら引き始めによう効く薬など持たせましょうかの」
 泰時が慌てた様子で手をひらひらと振る。
「伯母上のお心遣いは痛み入りますが、この泰時、老いたるといえども、まだまだ風邪など何ほどのこともござらん」
「そうは申しても、執権どのもまた代わりのきかぬ大切なお身体。泰時どのは幕府にとってはならぬ方ゆえの」
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