空っぽの人形(ボク)を愛でてください

あまえ うる

文字の大きさ
7 / 14

2つ目 3

しおりを挟む
自分に価値を見出したことなどなかった。
好きな人ってのは、自分に価値があるとわかった上で自分と一緒にいて欲しいという感情だと思っていた。
だから、僕は誰かを好きになったことなどなかった。

ただ、『凄いな』と憧れたり、『いいな』と羨んだりしたことしかない。

嫌いな人はいくらでもいるのに、どうしてだろう…。

僕は『誰かの何か』になりたかった。

それが自分の存在価値だと思うから。

今の僕は『誰の何』なのだろう。

いつから僕は、僕なのだろう…



        *


「風呂上がったぞ」
肩からタオルをかけ、髪から水滴を落としながら海さんが風呂場からでてきた。
美しい黒髪が先ほどより輝いて見える。
水も滴るなんとやら、だ。

「次入っていいぞ」
そう言いながらリビングのソファに深く腰をかけたうみさんを見届け、僕は着替えを持って風呂場に入った。
今日は葬式だったため、中学校の制服を着ていた。
少しくたびれた学生服のボタンをひとつずつ外していく。
きっとこの服を着るのは、今日で最後だろう。
そんなことを思いながら躊躇うことなく制服を脱いでいった。


一通り身体を洗い終え、湯船に入ったところでひと息ついた。
風呂を先に入ったのはうみさんなりの気遣いだろう。
僕が気を使わなくていいように、うみさんは色々してくれている。

うみさんの噂は僕の耳もに入っていた。
『完璧な男』『完全無欠の副会長』
そんなあだ名がつけられるほど、完璧な人間らしい。
頭が良く某有名大学を出ているうえに、運動で出来ないことはないらしい。
人付き合いもよくどんな人とも仲良くなり、どんな人でも優しい。
顔は見てのとおり整っているが、女性とのトラブルは聞いたことがない。
彼の完璧さは、今日数時間一緒にいただけで分かった。
彼といると居心地がよかった。

だか、それと同時にいくつか分かったこともある。
部屋が散らかっていたことについて。
完璧と見せかけて家事ができない、なんてありがちな欠点まで完璧なのかと思ったがそうではなかった。
部屋は確かに散らかっていたが、散らかっていただけだった。
掃除の行き届いた窓や家具。
チリが落ちていない綺麗な床にあとからばらまかれたような本や紙のゴミ。
確実に綺麗な部屋を意図的に汚く見せた、と考えていいだろう。

洗濯機も毎日回っているようで、洗剤もしっかり置いてあったし
料理に至っては、冷蔵庫の中身が充実してるだけでなく、常人には手に入れることの出来ないような珍しい調味料の類が綺麗に並べてあった。
きっとかなりの料理好きだ。

なぜうみさんは嘘をついていたのか。

僕のためと考えるのが妥当だろう。
僕がこの家にいる理由を作ってくれている。

だが、なぜ僕のためにそこまでしてくれるのか。


もうひとつ分かったことがある。
うみさんには好きな人がいるようだ。
それは、部屋を片付けていて少しずつ感じたこと。
これという決定的な証拠はないが、何となくそんな気がした。
ずっと片思いをしていて、忘れられないということだけ分かった。
女っ気のないのはそのせいだろう。

ただ、うみさんの仕事部屋が一瞬開いた時、見てしまったんだ。
机の上に大切に立ててある、1枚の女の人の写真が。


あの顔には、見覚えがあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

処理中です...