空っぽの人形(ボク)を愛でてください

あまえ うる

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よく「お人形さんみたいで可愛いね」と言われた。
美しい母に似たのだろうその容姿は、周りの人に褒めれ続けた。
「お前はただ、ヘラヘラ笑っていればいい」
父のその言葉だけを信じた幼少期。
その言葉を信じれなくなったのは、僕が思春期とやらに入ったあたりからだった。

ただの人形にはなりたくなかった。



      *


「天翔、大丈夫よ。
お母さんがいるからね」
母のその言葉を思い出した。

僕にはどの母が本当の母か分からなかった。
父に叱られている僕を見て見ぬふりしていた母か、泣き止まない僕に子守唄を歌ってくれた母か、あの日父に啖呵を切って出ていった母か…。

だが僕はずっと信じている。
僕がそうであるように母も本当は僕達を大切に思ってくれているということを。 

だから今、涙が零れたのは仕方が無いことだ。

あの日の燃え上がる炎が目に浮かんだ。
僕は顔を水につけた。
水から顔を出すともうどれが涙か分からなくなった。

今日みたいななんてことない日は、いつも以上に虚しくなる。
あんな悲しいことがあった日の後は悲しむことさえ出来なくなる。

僕の中身が空っぽだということに気付かないふりをして必死に誤魔化してきた。

が、こういう日は…
完璧すぎて眩しい人に会ってしまった日は…
誰かに突然優しくしてもらった日は…

自分が空っぽな人形だということを隠しきれない。

『義務、責務は果たす。が、それ以上もそれ以下もしない。自分が気持ちよければそれでいい』
僕の行動理念はそれだけだ。
誰かのために動ける人を見れば、自分が小さく中身のない人間だということが見透かされてしまう。

ずっと怖かった。

今は、とても苦しい…、




「お風呂、上がりました…」
乾ききらない髪にタオルをあてがい、僕はそっとリビングに入った。
「ん、ずいぶん長かったな」
そう言って振り向いた瞬間うみさんは何かに勘づいた。
これだから勘のいい人は困る。
僕は、赤くなった目をタオルで押さえた。
それを見たうみさんはそっと僕から目を逸らす。
「今日はもう寝ろ。
お前の部屋はその奥だ。」
うみさんの仕事部屋の隣の扉を指さしうみさんは優しい声音で言った。
「はい…」
僕は部屋に入り扉を閉めると電気もつけずその場に座り込んだ。

─うみさんの仕事部屋にあった写真の女の人に見覚えがあった─

僕は顔をタオルで覆うと、瞼の裏に母の顔を思い浮かべた。

─綺麗な笑顔で笑っていた─

母の笑顔は瞼の裏に美しく映し出される。

─ずっと見てきた笑顔だった─



僕の頬に一筋の光が流れた。






あれは…僕の母だ。
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