【完結】自分のことを覚えていなかった幼馴染をそれでも一途に愛し続ける

ゴールデンフィッシュメダル

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セバスティアーノ=ストウ家から恋愛に生きる人間が出るというのは貴族の間では有名な話だった。それは兄スティーブンもそうだし、ある時は王女との不倫のために爵位を剥奪されそうになったとか、平民の娘しか妻に娶らないと駄々をこねて当時貴族間の結婚しか許していなかった法律を変えさせたなんて逸話もある。
その中でも最も有名な話はこの国で人気の歌劇「ユーリアムとセーラ」である。「ユーリアムとセーラ」は300年戦争の時代、敵対しあうセバスティアーノ家の嫡男ユーリアムとストウ家の娘セーラの悲恋を描いた作品だ。
300年戦争終結のきっかけともなった出来事で彼らの呪いからセバスティアーノ=ストウ家の人間は生涯で一人の人しか愛せないと言われている。

私はそんな血が憎かった。
とっくにジェレミーに惚れていてもいい頃なのに心の中にはまだサミュエルへの想いがたぎっていた。





ジェレミーと正式に婚約し、あっと言う間に2年が過ぎた。
ジェレミーは優秀な成績で士官学校を卒業し、王宮付きの近衛部隊に入隊することが決まった。
私もこの2年でセバスティアーノ=ストウ家の娘としてジェレミーと結婚し、家を守っていく覚悟が出来たつもりだ。
サミュエルへの想いを封印してジェレミーと一緒になるのだと。

たまに兄スティーブンのように全てを投げ捨ててサミュエルを求めたいと思ったが、デビュタントの舞踏会でのサミュエルの態度を思い出し思いとどまった。

結婚式は10月に盛大に行われた。
侯爵家と元首相の孫の結婚式とあって、名だたる上流階級の人たちはみな出席した。
当然、サミュエルも新郎の友人として出席していた。

背の高い彼は遠くからでもとても目立つ。二年前より大人になりさらにカッコよくなっていた。私はサミュエルと目があった気がした。彼が見つめる目は射るような目だったがそこには相変わらず嫌悪の色が含まれている事に気付いた。

やはり徹底的に嫌われているらしい。

私はジェレミーと結婚するのだし、サミュエルのことはきっぱり諦めなくてはならない。自分のことが嫌いな男性のことをずっと好きだなんて不毛なだけだ。
彼はジェレミーの友人なので全く会わないことは難しいかもしれないが接触も出来るだけ避けよう、と心に決めた。






しかしその覚悟もむなしく2年後に急転直下、サミュエルと婚約する事になる。





2年の間に色んなことがあった。
まずは同盟国の応援部隊として従軍したジェレミーが21歳と言う若さで亡くなった。私は結婚1年経たずに未亡人になったのだ。
その後、父母も事故で亡くなり、爵位が父の従兄弟のシェーマス叔父に移った。
そしてシェーマス叔父から良い縁談があると紹介されたのがハロー商会の跡取りサミュエルだった。

時代が進んだとは言え侯爵令嬢と商家の嫡男の結婚というのは相当な身分差があるが、私が初婚ではなく、ハロー家が貴族をも凌ぐ家だったことから釣り合いの取れた縁談であった。
それに、シェーマス叔父が爵位を継ぐ前からセバスティアーノ=ストウ家は家計が火の車だった。

セバスティアーノ=ストウ家の領地はもともと大きな道が通っている国の要所だった。
領地の中心である都市リアムはかつてのストウ家の領主ユーリアムから名を取った街である。

セバスティアーノ=ストウ家はブリターニャ国の辺境伯であったセバスティアーノ家とイーリア国五家だったストウ家が国の併合の際に血を結び1つの家となり侯爵位を得たのがその始まりである。三百年戦争と呼ばれる戦争はそのほとんどがセバスティアーノ=ストウ家の領地での戦争であった。戦争が終わった後、リアムの街は旧国の2つの首都を結ぶ街道の宿場町として発展した。また長年の戦争から街には要塞などが残っており、訓練用の軍事施設も多数存在し、軍からの収益も幾ばくかある。

しかし、10年ほど前に鉄道が開通した。特にめぼしいもののない都市リアムにわざわざ降り立つ旅人など居らず、街は廃れていった。
当然、領民からの収入も減り、道路整備なども以前のようには出来なくなっていた。

スーザンもただ黙って見ていたわけではない。何か産業を起こすことが大切だと蜂蜜の生産に取り掛かった。

セバスティアーノ=ストウ家の領地はかなり広い。しかし、広い割には産業を持っていない。
これといった名産品も名物となりそうな農作物もなかった。2つの国の辺境の地であった領地はお世辞にも農業的に良い土地とは言えなかった。
森があるため林業は可能かもしれないが売るために育てた木ではないのですぐに多くの収入を得るのは難しい。今から育てるとしても木は育つのに時間がかかる。

そこで手っ取り早く現金を手に入れる方法として思いついたのが養蜂であった。
養蜂に目を向けたのは、新大陸で新しく発表された養蜂技術に関する論文を見たことがきっかけだった。まだこの国では取り入れられていない技術をいち早く使うことで蜂蜜の大量生産を目論んだのだ。
蜂蜜は「ユーリアムとセーラ」でユーリアムがセーラにプレゼントし、セーラが彼を思いながら蜂蜜湯を飲むシーンがある。
そんな背景もあり、リアムの特産となればさらに付加価値をつけることができるかもしれないとの野望もあった。

養蜂はジェレミーが存命のうちから進められたプロジェクトであった。はじめは論文の通りにやってみてもうまく蜂が冬を越せなかったり、またどのタイミングで蜂蜜を取り出すのが良いかの知識もないまま手探りで始めた事業だったが数年をかけなんとか販売出来る量を生産できるまでになった。

しかし次の問題が起こる。蜂蜜がなかなか売れなかったのだ。蜂蜜は店に並べてもらわないと収入にはならない。

幸運にもリアムは2つの大都市の中間地点にあり、鉄道も通っているため流通網には苦労しない。蜂蜜は高級品のため売れさえすればかなり儲かる算段だった。

その販路の一つとして声をかけたのがハロー商会だった。
ハロー商会はいまや小売からホテルや劇場、船や鉄道なども所有する一大企業になっていた。

セバスティアーノ=ストウ家では故ジェレミーがサミュエルの旧友ということでハロー家とのビジネスの話を聞いてもらえることになった。
そして、販路の話と共に舞い込んできたのがスーザンとサミュエルの見合い話であった。

スーザンはこの話が来た時、どうせ断られるだろうと思っていた。
惚れた弱みを抜いてもサミュエルはかっこよく、未婚の独身で、親が結婚に焦っているとはいえまだ22歳である。爵位こそないがその辺の爵位持ちを凌駕する金持ちであり、どう考えても選ぶ立場は向こうにあった。

スーザンはサミュエルに嫌われていると確信があった。
スーザンとしてサミュエルにあったのはたった二度だったが、その時のあの冷たい目は今でも忘れられない。

なので、きっと断られるのだからと気軽な気持ちで話を受けた。勿論、立場的にこちらからお断りするなどあり得ないことだった。
もしかすると顔合わせをするまでもなく断られるかもしれない。私としてはそれならそれで全く問題なかった。

しかしどういう訳かとんとん拍子に話が進みサミュエルとの結婚が決まってしまった。

見合いの席で彼はこう言った。

「本当は私はまだ結婚するつもりなどありませんでした。でも結婚しないと外野が煩い。純情なお嬢さんをだまして結婚するのは忍びない。でもあなたなら」

そこまで言うとニヤッと笑った。
私ならだまして結婚しても構わないとでも言うのだろうか。

「わたしなら?」

「なあに。私は貴方を愛することはないでしょう。あなたと子を成すつもりもありません。もし私が他に結婚し子をなしたいと思った時に大人しく離縁していただければそれで良い」

「白い結婚を望んでいらっしゃると?」

「えぇ、端的に言えばそうです。それにジェレミーからあなたは頭の良い方だと伺っています。うちは母が社交が得意ではない。そちらを一手に引き受けてくだされば、あとは何をしても構いません。あっと、他の男と子を作るのはなしでお願いします」

こんな事を言われてもなお、サミュエルのことが好きだという気持ちは色褪せない。愛されることはないと宣言されたようなものだ。それでもこれを受け入れればしばらくは隣に並んでいられる。それに、どこかで彼の役に立てるかもしれない。
お兄様だったらどうするかしら?きっと、愛されなくても近くにいる事を望むだろう。そこにしか幸せはないのだから。

「わかりましたわ。その条件、お飲みしましょう」

そういう訳で私とサミュエルの婚約が決まったのである。

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