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この5年サミュエルのことを忘れたことなど無かった。だから紹介される前に一眼見て彼だとわかった。身長も体格もだいぶ変わっていたがすぐに彼だとわかったのだ。
確かに私は変わってしまった。
金髪だった髪は成長と共に焦げ茶になってしまった。毛の色が変わってしまったため、当然だがまつげや眉の色も変わり、顔の印象をよりキツくしてしまっている。
子供の頃は男の子たちと駆け回っていたため焼けた肌だったが今は外に出ることは殆どなく貴族っぽい青白い肌になった。
サミュエルがチャーミングだと言ってくれたそばかすもかなり減り化粧をしている今はほとんど見えないだろう。
(それでも気付かないほどの変化でないはず)
わたしは毎年のクリスマスとサミュエルの誕生日に、いつか再会した時に渡すためのプレゼントを用意していたし、彼が好きだと言ったコーヒー味のタフィーを食べては彼を思い出していた。
諦めきれなかった。まだ自分がサマンサだとは名乗っていない。もしかすると本当に私がサマンサだとわかっていないだけかもしれない。
そう思うことでなんとか平常心を保っていた。そうでなければ取り乱し、足にすがり付いてなぜ嫌いになったのかと叫んでいただろう。
「スー大丈夫?」
ジェレミーが優しく聞いてくれる。彼はいつだって優しい。察しの良いジェレミーにはきっと私がサミュエルにひとかたならぬ思いを抱いていることなど気づいているだろう。
婚約者として、あるまじき態度であるがジェレミーはそんな時でも怒ったりはしない。
「今日はもう疲れましたわ」
「じゃあもう帰ろうか。はじめての舞踏会で疲れたでしょう?」
帰りの馬車の中は2人とも何も話さなかった。
ジェレミーはきっと聞きたいことがたくさんあるだろう。それでもそっとしておいてくれる彼の優しさが嬉しかった。
ジェレミーは貴族の結婚に愛がないことなど普通だと言ってくれたが、ジェレミーが私のことをずっと特別に思ってきたことはわかっていた。
ジェレミーはいつも優しく接してくれていたが私を見つめる瞳の奥に宿る恋の炎に気付かぬほど馬鹿ではなかった。
どうして私が好きなのはジェレミーではないのだろう。ジェレミーを好きになれたら良かったのに、と心の底から思った。
ジェレミーだって素敵な青年である。
サミュエル程ではないが背は高いし少年の頃の好奇心旺盛な瞳はそのままだ。実際、好奇心旺盛なんだろう。色んなことを知っていて話題が豊富で尽きることがない。どんな人とどんな話題でも繰り広げることができ彼を嫌う人などいないだろう。人の顔色を読むのが得意で誰かを嫌な気持ちにさせることなど無い人だ。
しかし、サミュエルのように場を支配し圧倒するような存在感もなければ、何かあったときになんとかしてくれる安心感もない。私の事を愛しくて愛しくてしょうがないという時のあの射るような瞳も、頬を撫でる優しく大きな手も、ニヤリと笑う口角もジェレミーには無い。
言葉がなくてもお互い通じ合うような目と目の会話も、すべてを飲み込む有無を言わせないような口付けもジェレミーとは出来ないだろう。
どんなに嫌われたとしても私は骨の髄からサミュエルのことが好きなのだ。
翌日、冷静になれば、初対面であれほど嫌われることなどまずないはずだという思いで心が一杯になった。だとすると、サミュエルは私の正体に気付いた上で私を嫌っているのだ。確かにシープシャーの屋敷でも最後の数日は口も聞いてもらえないくらい嫌われていた。
手紙が読まれなかったのか、あれでは誤解が解けなかったのか、いずれにせよサミュエルは私を嫌っている。
昨日、婚約を知らされた時には家から出て行こうと考えていた。家のしがらみがなければサミュエルの胸に飛び込めるのだと信じていた。
しかし、サミュエルの胸に飛び込んだところでサミュエルが私を受け止めてはくれないと知ってしまった。
好きな人が居ながら他の人と結婚って出来るものなのだろうか。ジェレミーとは一緒にお茶をして同じ屋敷で寝起きする事は出来るだろう。
でもキスをしたりその先が出来るのだろうか。私の立場では出来るか出来ないかではなくやらなくてはならないのだ。
スーザンは由緒正しいセバスティアーノ=ストウ家の最後の一人で、婿を取って跡を継がなければならない立場である。
スーザンの気持ちに蓋をしてジェレミーと結婚するのが一番良いということくらい理解している。
この国では女性の爵位継承は認められていないため私の婿となるジェレミーと父が養子縁組をし、ジェレミーが爵位を継ぐ事になっている。戸籍上は父であるものの本当は祖父である父はもう50を超えている。いつ何がおこるかわからない。
イースターの休暇が終わる前にジェレミーとジェレミーの御両親が会いにきた。
婚約と結婚のことについて詳細をまとめるためだ。
ジェレミーはこの夏にグリフィス校を卒業する。その後、王立士官学校に入学し、軍人になるという。
これは、爵位継承権を持たない貴族の次男としては妥当な生き方である。
父は
「君はセバスティアーノ=ストウ家を継ぎ侯爵になるのだから茨の道を歩む必要はないんだよ」
と言っていた。ただ、ジェレミーはセバスティアーノ=ストウ家が領地の収入だけでは立ち行かなくなってきていることに気が付いていた。
セバスティアーノ=ストウ家の領地には軍の施設がいくつかあるため今後の領地の発展のために軍とパイプを作っておくのは良い判断だった。
「爵位を継いで領地経営をしているだけで安泰という時代はもう終わります。下位の貴族はどんどん爵位を放棄している。侯爵家はまだ大丈夫でしょうが、時代は思いの外早く進んでいます。若い時に色んな経験をしておかなければならないと考えています」
雄弁に語るジェレミーの言葉は素敵だった。サミュエルと仲の良い友人というだけのことはある。彼も同じような考えだろう。
「流石ですわ、ジェレミー様」
それまで婚約に乗り気ではなかった私がジェレミーを褒めたことにみな驚いたようだった。
「スーザンがジェレミーとの結婚に前向きになってくれて嬉しいよ」
と父は言った。
ジェレミーが士官学校を卒業するのは順当にいけば2年後で、そのタイミングで結婚する事になった。
イースター休暇の最後にジェレミーからのプロポーズを受けた。家同士の政略結婚でもきちんとこうやってプロポーズしてくれるのはなんともジェレミーっぽかった。
「セバスティアーノ=ストウ家の君が一度恋に落ちたらそこから逃れることは難しい事くらい知っていたよ。でも、今は僕と結婚するのも悪くないと思っているだろう?愛してくれとは言わないさ。お互いに尊重しあって穏やかな温かい家庭を作って行こう」
この言葉は私が欲しかった言葉そのままだった。ジェレミーはどこまで察しのいい人なんだろう。確かにわたしはサミュエルへの恋心をまだ捨てれないだろう。サミュエルの代わりに自分を愛して、などと言われていたら期待に応えられないと悩んでいただろうが、サミュエルへの恋を諦めずに一緒になることを許してくれるのは大変ありがたかった。ジェレミーの事は尊敬しているしジェレミーとなら穏やかな家庭が築けるだろう。
スーザンはジェレミーとの結婚を受け入れた。
確かに私は変わってしまった。
金髪だった髪は成長と共に焦げ茶になってしまった。毛の色が変わってしまったため、当然だがまつげや眉の色も変わり、顔の印象をよりキツくしてしまっている。
子供の頃は男の子たちと駆け回っていたため焼けた肌だったが今は外に出ることは殆どなく貴族っぽい青白い肌になった。
サミュエルがチャーミングだと言ってくれたそばかすもかなり減り化粧をしている今はほとんど見えないだろう。
(それでも気付かないほどの変化でないはず)
わたしは毎年のクリスマスとサミュエルの誕生日に、いつか再会した時に渡すためのプレゼントを用意していたし、彼が好きだと言ったコーヒー味のタフィーを食べては彼を思い出していた。
諦めきれなかった。まだ自分がサマンサだとは名乗っていない。もしかすると本当に私がサマンサだとわかっていないだけかもしれない。
そう思うことでなんとか平常心を保っていた。そうでなければ取り乱し、足にすがり付いてなぜ嫌いになったのかと叫んでいただろう。
「スー大丈夫?」
ジェレミーが優しく聞いてくれる。彼はいつだって優しい。察しの良いジェレミーにはきっと私がサミュエルにひとかたならぬ思いを抱いていることなど気づいているだろう。
婚約者として、あるまじき態度であるがジェレミーはそんな時でも怒ったりはしない。
「今日はもう疲れましたわ」
「じゃあもう帰ろうか。はじめての舞踏会で疲れたでしょう?」
帰りの馬車の中は2人とも何も話さなかった。
ジェレミーはきっと聞きたいことがたくさんあるだろう。それでもそっとしておいてくれる彼の優しさが嬉しかった。
ジェレミーは貴族の結婚に愛がないことなど普通だと言ってくれたが、ジェレミーが私のことをずっと特別に思ってきたことはわかっていた。
ジェレミーはいつも優しく接してくれていたが私を見つめる瞳の奥に宿る恋の炎に気付かぬほど馬鹿ではなかった。
どうして私が好きなのはジェレミーではないのだろう。ジェレミーを好きになれたら良かったのに、と心の底から思った。
ジェレミーだって素敵な青年である。
サミュエル程ではないが背は高いし少年の頃の好奇心旺盛な瞳はそのままだ。実際、好奇心旺盛なんだろう。色んなことを知っていて話題が豊富で尽きることがない。どんな人とどんな話題でも繰り広げることができ彼を嫌う人などいないだろう。人の顔色を読むのが得意で誰かを嫌な気持ちにさせることなど無い人だ。
しかし、サミュエルのように場を支配し圧倒するような存在感もなければ、何かあったときになんとかしてくれる安心感もない。私の事を愛しくて愛しくてしょうがないという時のあの射るような瞳も、頬を撫でる優しく大きな手も、ニヤリと笑う口角もジェレミーには無い。
言葉がなくてもお互い通じ合うような目と目の会話も、すべてを飲み込む有無を言わせないような口付けもジェレミーとは出来ないだろう。
どんなに嫌われたとしても私は骨の髄からサミュエルのことが好きなのだ。
翌日、冷静になれば、初対面であれほど嫌われることなどまずないはずだという思いで心が一杯になった。だとすると、サミュエルは私の正体に気付いた上で私を嫌っているのだ。確かにシープシャーの屋敷でも最後の数日は口も聞いてもらえないくらい嫌われていた。
手紙が読まれなかったのか、あれでは誤解が解けなかったのか、いずれにせよサミュエルは私を嫌っている。
昨日、婚約を知らされた時には家から出て行こうと考えていた。家のしがらみがなければサミュエルの胸に飛び込めるのだと信じていた。
しかし、サミュエルの胸に飛び込んだところでサミュエルが私を受け止めてはくれないと知ってしまった。
好きな人が居ながら他の人と結婚って出来るものなのだろうか。ジェレミーとは一緒にお茶をして同じ屋敷で寝起きする事は出来るだろう。
でもキスをしたりその先が出来るのだろうか。私の立場では出来るか出来ないかではなくやらなくてはならないのだ。
スーザンは由緒正しいセバスティアーノ=ストウ家の最後の一人で、婿を取って跡を継がなければならない立場である。
スーザンの気持ちに蓋をしてジェレミーと結婚するのが一番良いということくらい理解している。
この国では女性の爵位継承は認められていないため私の婿となるジェレミーと父が養子縁組をし、ジェレミーが爵位を継ぐ事になっている。戸籍上は父であるものの本当は祖父である父はもう50を超えている。いつ何がおこるかわからない。
イースターの休暇が終わる前にジェレミーとジェレミーの御両親が会いにきた。
婚約と結婚のことについて詳細をまとめるためだ。
ジェレミーはこの夏にグリフィス校を卒業する。その後、王立士官学校に入学し、軍人になるという。
これは、爵位継承権を持たない貴族の次男としては妥当な生き方である。
父は
「君はセバスティアーノ=ストウ家を継ぎ侯爵になるのだから茨の道を歩む必要はないんだよ」
と言っていた。ただ、ジェレミーはセバスティアーノ=ストウ家が領地の収入だけでは立ち行かなくなってきていることに気が付いていた。
セバスティアーノ=ストウ家の領地には軍の施設がいくつかあるため今後の領地の発展のために軍とパイプを作っておくのは良い判断だった。
「爵位を継いで領地経営をしているだけで安泰という時代はもう終わります。下位の貴族はどんどん爵位を放棄している。侯爵家はまだ大丈夫でしょうが、時代は思いの外早く進んでいます。若い時に色んな経験をしておかなければならないと考えています」
雄弁に語るジェレミーの言葉は素敵だった。サミュエルと仲の良い友人というだけのことはある。彼も同じような考えだろう。
「流石ですわ、ジェレミー様」
それまで婚約に乗り気ではなかった私がジェレミーを褒めたことにみな驚いたようだった。
「スーザンがジェレミーとの結婚に前向きになってくれて嬉しいよ」
と父は言った。
ジェレミーが士官学校を卒業するのは順当にいけば2年後で、そのタイミングで結婚する事になった。
イースター休暇の最後にジェレミーからのプロポーズを受けた。家同士の政略結婚でもきちんとこうやってプロポーズしてくれるのはなんともジェレミーっぽかった。
「セバスティアーノ=ストウ家の君が一度恋に落ちたらそこから逃れることは難しい事くらい知っていたよ。でも、今は僕と結婚するのも悪くないと思っているだろう?愛してくれとは言わないさ。お互いに尊重しあって穏やかな温かい家庭を作って行こう」
この言葉は私が欲しかった言葉そのままだった。ジェレミーはどこまで察しのいい人なんだろう。確かにわたしはサミュエルへの恋心をまだ捨てれないだろう。サミュエルの代わりに自分を愛して、などと言われていたら期待に応えられないと悩んでいただろうが、サミュエルへの恋を諦めずに一緒になることを許してくれるのは大変ありがたかった。ジェレミーの事は尊敬しているしジェレミーとなら穏やかな家庭が築けるだろう。
スーザンはジェレミーとの結婚を受け入れた。
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