出来損ないのアルファ

ゴールデンフィッシュメダル

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「ねぇ、僕のこと好き?」

情事が終わった後、彼が天井を見ながらつぶやいた。
俺は身体を彼の方に向けると彼の頭を触りながら言った。

「好きです」

すると、彼がポロリと涙を流しながら呟いた。
「僕、嫌われてるのかと思ってた。」

あとから後から出てくる涙を抑えようと彼は手を目に持っていったがなかなか止まらなかった。

俺は彼の頭を撫で続けながら言った。

「初めて会った時からずっと好きでした。俺はジュンさんのおかげでアルファに分化できたんです。」

彼はヒックヒックと喉を鳴らしながらしゃべった。
「うん・・・めい・・・て、きづ・・・いて」

「気付いてました。でも、兄の婚約者候補だったし、ジュンさんが兄のことを憎からず思っているのを知って、身をひくことにしたんです。」

そう言いながら耳の方にたれた涙にそっと触れた。彼はぼそっとつぶやいた。

「いつ」

いつそんな事を思ったのかということだろう。
「あなたと初めて会った次の月曜。あなたはお友達と居酒屋で話をしていて。俺もたまたまその居酒屋に居たんです。そこで思いがけずご友人との聞いてしまいました。それで、ジュンさんが兄のことを好きなら俺は身を引こうと思って、気付いたらアメリカに来ることになってました。」

「そっか。あはは。」

彼の涙はもう止まっていたようだ。
何がおかしいのか笑っている。

「そっか。そっか。僕はてっきり嫌われているからアメリカに行ったのかと思ったよ。」

「嫌いだなんてそんな。」

そう言いながら俺は首を振った。

「僕、君のお兄さんのこと好きだなんて思ったことないよ。」
「えっ?でもあの時」
「エッチが凄かったってハナシしてただけでしょ?確か。」

そう言われるとそうだったかもしれない。

「そりゃ、ハジメテだったから、きっと誰に突っ込まれててもそうなってたんだと思うよ。」

「でも、ジュンさんは好きでもない人に抱かれたりしないかと思って。」

「まぁ、普段ならそうかもしれないんだけど。僕、あの後ヒート起こしたんだよね。周期でもなくて薬も持ってなくて、マサトさんが僕のヒートに釣られてラット起こして気付いたら抱かれてたの。」

まぁ、事故みたいなもんだよね。
そう言う彼は何が吹っ切れたようで満面の笑みを浮かべていた。

「どうしてヒートになったと思う?」


「まさか。」

「そう、マヒロくんに会ったからだよ。でも僕は君のことをベータだと思っていたし、当時は手術の後遺症で鼻が詰まってて自覚出来なかったんだよ。」

話をしている間にいつのまにか俺の手の動きは止まっていた。すると今度は彼が俺の頬に触れてきた。

「マヒロくんは『運命の番』が嫌いな人が居るって知ってる?」

「??」

「僕は君がそれなんだと思ってた。運命の番って強制力半端ないでしょ?出会ってすぐ、ヒート起こすわラット起こすわ。そういう動物的な関係に嫌悪感を抱く人ってのは一定数居るんだって。あとは運命以外に番がいたり好きな人が居る人も運命を嫌う人は居るね。」

「俺はそんな。」

「わかってるよ。僕がそうなんじゃないかと勘違いしたってだけ。」

彼はそういうとまた天井を見上げた。

「運命の番がマヒロ君だって気付いた時には、僕はマサトさんの婚約者になっていて、マヒロくんはアメリカだった。それから、いろいろ大変だったんだよ。」

「いろいろ?」

「そりゃ、運命の番の兄に嫁ぐなんて常識的に考えたら無理でしょう?いつお互いにヒートやラットを起こすかわからない関係だよ?それが親戚だなんて無理だよ。だから、婚約解消を申し出たんだけど、それまでマサトさんとの関係は上手くいってたからね。話し合いが難航して。君が運命の番だって白状したんだけどその時には信じてもらえなくてね。」

「いつのころ?」

「気付いたのは君がアメリカに行ってだいぶたってからかな。12月に君の家にお呼ばれした時に家に残った君の匂いに反応したんだ。この匂いの人と番いたいと心の底から思った。でもマヒロくんのことはベータだと思ってたから、家に出入りしてる別のアルファかもと思った。」

それから、俺が番だと気付くまでに時間を要し、そこから婚約解消までにはさらに時間が掛かった。
その頃には彼の中では俺は運命の番に嫌悪感を抱く人物だということになっていた。

「だって、運命の番ってすごいでしょ?僕、少なからず傷付いたんだよ。運命の番と2度も顔を合わせているのに襲ってもらえなかったって。」

「それは、ジュンさんのためを思って。」

「マヒロくんとしてはそうだったんだろうけど、僕から見たら違って見えたって話。」

「そんな。じゃあずっとすれ違ってたってこと?」

「そうみたい。」

「どうして急に会いにきたの?」

「いくつか理由があるんだけど、一番大きいのは子供が欲しかったから。」

「子供?」

そうか、子供。ヒート中のオメガの妊娠率は100%に近い。

「僕、次の婚約の話が出てるんだ。でも、僕、マヒロくん以外と番うつもりは無いから。だから。」

そう言った彼の顔は今にも泣きそうだった。
そうさせてしまったのが自分だと思うと後悔してしまう。

俺はガバッと起き上がるとジュンさんの手を取った。

「初めて会った時から好きでした。アメリカに来てからも実はずっとSNSでジュンさんアカウントは追ってて。ジュンさんのひととなりは見てきたつもりです。運命の番だからだけではなく性格も好きです。俺と結婚してください。」

俺がそう言うと彼は涙を流した。

「嬉しい。ずっと・・・きら・・・・・われ・・・てる・・・・かと」

「そう勘違いさせたのは俺です。渡米する前にちゃんと話し合っていればこんな事にはなってなかった。」

そう言ってもう一度彼の唇を塞いだ。
軽い口付けを何度か繰り返した後に尋ねた。

「ここ、噛んで良い?」

彼の頸を撫でながら聞くと彼は俺の目を見てコクリと頷いた。
彼と目を合わせると欲情が競り上がってくる。

もう我慢できなかった。

再び俺たちは触れ合い、まぐわい、そして番になった。

心を幸せが満たしていく。

彼との恋を諦めてアメリカに来たときは、こんな幸運な結果が待っているなんて思ってもいなかった。

愛しい片割れを腕に抱きながら、何時間も愛を育んだ。

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