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真実
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ジェニファーを私室に送って自室に戻るとアーロンはどすっとチェアに腰掛けた。チェアは革張りでフカフカとしていてとても座り心地がいい。
背もたれにもたれかかり斜め上を向きながら目頭を抑えた。
「真実を話したほうがいいんじゃない?」
コリンが砕けた口調で言う。コリンは歳下の従兄弟で、他人がいるときだけアーロンに丁寧な言葉で話すがそれ以外では常に砕けた口調で話している。
「それはまだ早い。信頼できるかわからない。」
「大丈夫じゃない?彼女、君に惚れてるみたいだし。」
「やめてよ。」
そう言いながらアーロンは貧乏ゆすりをはじめた。
普段なら貧乏ゆすりをするとコリンが注意するのだが、今日は許してくれているらしい。
コリンはデスクの上に乗っているマロングラッセの包み紙をあけ、口の中に放り込んだ。
「男が好きだって言えば?」
もぐもぐと食べながらコリンは何気なく言う。
「これなら嘘じゃないし、彼女を避ける理由にもなる。」
「男が好き・・・ねぇ。」
「え?違うの?だって君、初恋はディミトリーだろ?」
コリンにそう言われてアーロンは焦った。顔に血が集中し、身体中の至る所から変な汗が噴き出ている。
「な、な、なんで?」
確かにアーロンの初恋はディミトリーだった。しかし、その想いを誰かに気付かれていたなんて思いもしなかった。
「そりゃ、わかるよ。アーロン兄さんがディミトリーを連れてきたら、君はいつもお気に入りのカチューシャをつけていたし、声もいつもより半トーン高かった。」
「そうかな?」
そう言いながら昔は気持ちがバレてはいけないなんて考えたこともなかったと懐かしい気持ちになる。
むしろ、誰かにこの気持ちに気付いて欲しかった。
そうしたら、その気付いた誰かの仲立ちで婚約なんてこともあるかもしれないと、そう思っていたのだ。
今だってディミトリーの事は好きだ。彼は嫡子ではないので王宮の近衛兵になっている。
貴族院の議会で王宮に行く際、兵服姿の彼を見てドキドキしてしまうのだ。この数年でアーロンはすっかり気持ちを隠すのが上手くなってしまった。
「まさかバネッサ、まだ奴のことが好きなのか。」
コリンの声が少し大きくなった。
アーロンは眉を顰めた。
「その名前で呼ぶのやめてくれる?今はアーロンなんだから。」
そう、バネッサは今アーロンとして生きている。
バネッサとアーロンは双子として生まれた。アーロンが兄、バネッサが妹である。
そして、幼い頃より2人が入れ替わるイタズラを二人はよくやっていた。
そんな日々を過ごす中でアーロンは刺繍が得意になり、バネッサは剣を握るのが好きになっていた。
12歳になった頃、アーロンが刺し、バネッサの名前でバザーに出した刺繍が王家で刺繍を教えているガバネスの目に留まった。そうして、王女とおしゃべりしながら刺繍をするという刺繍会なる内うちのイベントにお呼ばれしてしまったのだ。
名誉な事だし断れないがアーロンとバネッサでは刺繍の腕にだいぶ差がある。本当のバネッサが参加をするとすぐに嘘がバレてしまう。
そこで、嫌がるアーロンを説得して王女の刺繍会に参加してもらった。
12のアーロンはまだバネッサよりも体が小さく、女装をしても違和感はなかった。2人はよく似た双子だったし気付く者はいなかった。
アーロンは王女に気に入られたらしく何度かその会に呼ばれるようになった。そして、刺繍会が開かれている時に王女の暗殺未遂があった。アーロンは王女をかばい命を落としてしまった。
ミッドラッツェル家は栄誉を得たが困ってしまった。
亡くなったのはあくまで公にはバネッサだということになっている。しかし、本当は嫡男であるアーロンが亡くなってしまったのだ。
今更、アーロンが亡くなったことには出来ない。王女の私的な友人たちとの集まりに男が紛れ込んでいたなどあってはならない事だからだ。
そこでしばらくはバネッサがアーロンとして過ごし、頃合いを見て病気療養をすると言って領地に引っ込み、病弱を理由に嫡子を伯爵の弟の子であるコリンに変更するという筋書きが作られた。
しかし、現実はそう上手くいかない。
アーロンが14になり、そろそろ領地に行こうかという頃、エマニュエル王女がアーロンに付きまとうようになったのだ。
どうやらエマニュエル王女がアーロンに惚れてしまったらしい。
領地に引っ込む準備のために病弱を気取っていると、王女から王宮の医師を派遣するから一度調べてもらいましょうと言われてしまった。
王宮医師に調べられたら性別を偽っていることがバレてしまう。そのため、アーロンが病弱だという設定は使えなくなってしまった。
仕方なくのらりくらりとしながらバネッサはアーロンとしてそこから更に4年過ごした。そのうち王女の恋も冷めるだろうと思っていたのだが、そんなことはなかった。
エマニュエル王女はアーロンやバネッサよりも一つ年下でそろそろ婚約者を据える頃である。
正式に婚約の申し込みは来ていないが候補の筆頭がアーロンである事は間違いなかった。
エマニュエル王女と結婚などしようものならこれまでの嘘が全てばれてしまう。そうならないうちになんとかしなければ。エマニュエル王女との結婚を避けるためなら手段は選んでられなかった。
そういう訳でバネッサはアーロンとしてジェニファーと結婚することになったのだ。
背もたれにもたれかかり斜め上を向きながら目頭を抑えた。
「真実を話したほうがいいんじゃない?」
コリンが砕けた口調で言う。コリンは歳下の従兄弟で、他人がいるときだけアーロンに丁寧な言葉で話すがそれ以外では常に砕けた口調で話している。
「それはまだ早い。信頼できるかわからない。」
「大丈夫じゃない?彼女、君に惚れてるみたいだし。」
「やめてよ。」
そう言いながらアーロンは貧乏ゆすりをはじめた。
普段なら貧乏ゆすりをするとコリンが注意するのだが、今日は許してくれているらしい。
コリンはデスクの上に乗っているマロングラッセの包み紙をあけ、口の中に放り込んだ。
「男が好きだって言えば?」
もぐもぐと食べながらコリンは何気なく言う。
「これなら嘘じゃないし、彼女を避ける理由にもなる。」
「男が好き・・・ねぇ。」
「え?違うの?だって君、初恋はディミトリーだろ?」
コリンにそう言われてアーロンは焦った。顔に血が集中し、身体中の至る所から変な汗が噴き出ている。
「な、な、なんで?」
確かにアーロンの初恋はディミトリーだった。しかし、その想いを誰かに気付かれていたなんて思いもしなかった。
「そりゃ、わかるよ。アーロン兄さんがディミトリーを連れてきたら、君はいつもお気に入りのカチューシャをつけていたし、声もいつもより半トーン高かった。」
「そうかな?」
そう言いながら昔は気持ちがバレてはいけないなんて考えたこともなかったと懐かしい気持ちになる。
むしろ、誰かにこの気持ちに気付いて欲しかった。
そうしたら、その気付いた誰かの仲立ちで婚約なんてこともあるかもしれないと、そう思っていたのだ。
今だってディミトリーの事は好きだ。彼は嫡子ではないので王宮の近衛兵になっている。
貴族院の議会で王宮に行く際、兵服姿の彼を見てドキドキしてしまうのだ。この数年でアーロンはすっかり気持ちを隠すのが上手くなってしまった。
「まさかバネッサ、まだ奴のことが好きなのか。」
コリンの声が少し大きくなった。
アーロンは眉を顰めた。
「その名前で呼ぶのやめてくれる?今はアーロンなんだから。」
そう、バネッサは今アーロンとして生きている。
バネッサとアーロンは双子として生まれた。アーロンが兄、バネッサが妹である。
そして、幼い頃より2人が入れ替わるイタズラを二人はよくやっていた。
そんな日々を過ごす中でアーロンは刺繍が得意になり、バネッサは剣を握るのが好きになっていた。
12歳になった頃、アーロンが刺し、バネッサの名前でバザーに出した刺繍が王家で刺繍を教えているガバネスの目に留まった。そうして、王女とおしゃべりしながら刺繍をするという刺繍会なる内うちのイベントにお呼ばれしてしまったのだ。
名誉な事だし断れないがアーロンとバネッサでは刺繍の腕にだいぶ差がある。本当のバネッサが参加をするとすぐに嘘がバレてしまう。
そこで、嫌がるアーロンを説得して王女の刺繍会に参加してもらった。
12のアーロンはまだバネッサよりも体が小さく、女装をしても違和感はなかった。2人はよく似た双子だったし気付く者はいなかった。
アーロンは王女に気に入られたらしく何度かその会に呼ばれるようになった。そして、刺繍会が開かれている時に王女の暗殺未遂があった。アーロンは王女をかばい命を落としてしまった。
ミッドラッツェル家は栄誉を得たが困ってしまった。
亡くなったのはあくまで公にはバネッサだということになっている。しかし、本当は嫡男であるアーロンが亡くなってしまったのだ。
今更、アーロンが亡くなったことには出来ない。王女の私的な友人たちとの集まりに男が紛れ込んでいたなどあってはならない事だからだ。
そこでしばらくはバネッサがアーロンとして過ごし、頃合いを見て病気療養をすると言って領地に引っ込み、病弱を理由に嫡子を伯爵の弟の子であるコリンに変更するという筋書きが作られた。
しかし、現実はそう上手くいかない。
アーロンが14になり、そろそろ領地に行こうかという頃、エマニュエル王女がアーロンに付きまとうようになったのだ。
どうやらエマニュエル王女がアーロンに惚れてしまったらしい。
領地に引っ込む準備のために病弱を気取っていると、王女から王宮の医師を派遣するから一度調べてもらいましょうと言われてしまった。
王宮医師に調べられたら性別を偽っていることがバレてしまう。そのため、アーロンが病弱だという設定は使えなくなってしまった。
仕方なくのらりくらりとしながらバネッサはアーロンとしてそこから更に4年過ごした。そのうち王女の恋も冷めるだろうと思っていたのだが、そんなことはなかった。
エマニュエル王女はアーロンやバネッサよりも一つ年下でそろそろ婚約者を据える頃である。
正式に婚約の申し込みは来ていないが候補の筆頭がアーロンである事は間違いなかった。
エマニュエル王女と結婚などしようものならこれまでの嘘が全てばれてしまう。そうならないうちになんとかしなければ。エマニュエル王女との結婚を避けるためなら手段は選んでられなかった。
そういう訳でバネッサはアーロンとしてジェニファーと結婚することになったのだ。
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