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茶会
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コリンはどうすれば自分がバネッサと結婚できるかいつも考えていた。
バネッサはコリンより二つ年上の18歳。
幼い頃から金髪が美しく愛らしく、活発で剣を握るのが好きな少女だった。一緒に剣の稽古をしていると、彼女は汗をかき薄着になる。隣にいるとふわりと彼女の香りがして、上気した頬で「コリン凄いね」と言われると訳もわからずもぞもぞしてしまった。
今もたまに手合わせをするが、女だとバレてはいけないため、薄着になる事はもうない。
それでも上気した頬にいつもどきりとしてしまうのだ。
最近、バネッサはアーロンとしてジェニファーと結婚したが、当然2人の間に子はできない。バネッサの性格を考えるとジェニファーを縛り付ける事はしないはずである。きっと2人は3年後に白い結婚を理由に離縁するだろう。その頃にはエマニュエル王女はもうどこかに嫁いでいるだろうから、病弱を理由に領地に引っ込む事が可能なはずである。
そうしたら名前を変えてコリンに嫁ぐのが良いのではないか、と、本気でそう考えていた。
「まさかまだディミトリーのヤツを好きだなんてな。」
バネッサがディミトリーを好きだと言っていたのを思い出す。
ディミトリー・ロンバーダはロンバーダ侯爵家の次男だ。コリンから見ると彼は可も不可もない青年である。コリンが彼に負けていると認めるのは背の高さと爵位だけだ。
バネッサは女性にしては背が高く、アーロンに成り替わるのにはちょうどよかった。そんなバネッサに対しコリンはかろうじて背が高いだけである。コリンは密かにそのことを気にしていた。
しかし、バネッサが背の高さだけでディミトリーを好きだなんて思えない。バネッサは彼のどこがそれほど好きなのだろうといつも思う。
ディミトリーは幼い頃、バネッサから特別の視線を受けていた。愚鈍な彼は気付かなかっただろうが、コリンはバネッサをよく見ていたのですぐにバネッサが彼に向ける視線が他の者に向けるものと違うことに気がついた。
そして、その視線を受けるディミトリーをいつも羨ましく思っていた。
バネッサがアーロンとして過ごさねばならなくなってからコリンは献身的にバネッサを支えてきた。バネッサがアーロンになり変わっているということがこれまでバレずにすんでいるのも、コリンの協力があったお陰だと自負している。
もう6年も男として過ごしてきたのだから恋心も枯れたのではないかと思っていたが、どうやらバネッサも相当しつこい質のようである。
翌日、バネッサはジェニファーに事情を説明するため、庭の東屋でともに軽食を取ることになった。
コリンはジェニファーとバネッサを2人きりにするべきだと思い、その場から退いたが、バネッサとジェニファーがどのような会話をするのかが気になって白い花をたわわにつけたユキヤナギの木陰に隠れて2人の様子を伺った。
バネッサは今日も燕尾服をきちんと着こなし、ハットもかぶっていた。ジェニファーはベージュとモスグリーンのドレスを着ていた。
少しエキゾチックなドレスはジェニファーによく似合うデザインで、ああいう服は春の妖精のようなバネッサには似合わない。ドレスを見てそれがバネッサに似合うかどうか考えるのはコリンの日課である。
「それで、事情をお話ししてくださるのですよね?」
ジェニファーは落ち着いた様子で話をする。
アーロンは緊張しているのか少し顔を赤くしながら話し始めた。
「えぇ。まずは、ジェニファー嬢に最大の謝罪を。」
「謝罪?」
「私はジェニファー嬢とはまともな夫婦関係を築けないと思う。その・・・私は・・・男性を好きなんだ。」
そう言うとジェニファーははっと息を呑んだ。
「だから、元々は結婚するつもりなどなかったんです。どうかまずは、これから言うことをまずは聞いて欲しい。」
ジェニファーは言いたいことがあるのかもしれないが、表情を変えることなく辛抱強く話を聞いてくれるようだ。
ジェニファーがグッとお腹に力を入れた気がした。
「この事は父母も知っていて、だから、私が14になったら病弱ということにして後継をコリンにするはずだったんだ。」
アーロンはカップを右手にソーサーを左手に持ち、少し斜め下を見ながら話をしている。
「でも、その布石のために病弱を演じ始めると、エマニュエル王女に病弱であるなら王宮の医師に診察して貰えばいいと言われてしまってね。王宮の医師に診てもらったら嘘がバレるから、それで、病弱を理由に田舎に行くことができなくなってしまった。
それに、だ。エマニュエル王女がどうやら私のことを好ましく思っているようでね。王女を娶ってしまってから女性とはそう言う事はできませんとは言えない。それで、急いで誰かを娶る事にしたんだ。」
どうやら話はここで終わったらしい。
しばらく沈黙が落ち、ジェニファーが口を開いた。
「では、花嫁は誰でも良かったと?」
「いや、誰でもと言う訳では・・・結婚するにあたってエマニュエル王女が納得する人物でないといけない。しかし、おそらく離縁する事になるだろうから政治的な繋がりが強すぎると困る。そういう意味で君は・・・ちょうど良かった。なにしろ、君はとても美人だから、政治的な繋がりがなくても、結婚する理由になる、でしょう?」
これまで俯きながら話していたアーロンが「君はとても美人だから」と言うところで顔を上げ、ジェニファーと目線を合わせた。
その様子がとても爽やかで、ジェニファーはドキドキしてしまう。
しかし、だからと言って蔑ろにされたことがなくなる訳ではない。
「私なら蔑ろにしても問題ないと?」
「王女に不敬を働くのを避けようとするあまり、君の人生を狂わせてしまった事は本当に申し訳ないと思う。私にできることなら何でもするから、どうか許して欲しい。」
「何でもすると?」
「あぁ。」
「考えさせて下さい。」
そう言うとジェニファーは立ち上がった。結局、軽食には口をつけていない。
部屋に戻ろうとするジェニファーの後ろ姿にアーロンが声を投げかけた。
「もし、君が許してくれるなら、君と友人になれたらと考えている。もし、許して・・・くれるなら・・・」
バネッサはコリンより二つ年上の18歳。
幼い頃から金髪が美しく愛らしく、活発で剣を握るのが好きな少女だった。一緒に剣の稽古をしていると、彼女は汗をかき薄着になる。隣にいるとふわりと彼女の香りがして、上気した頬で「コリン凄いね」と言われると訳もわからずもぞもぞしてしまった。
今もたまに手合わせをするが、女だとバレてはいけないため、薄着になる事はもうない。
それでも上気した頬にいつもどきりとしてしまうのだ。
最近、バネッサはアーロンとしてジェニファーと結婚したが、当然2人の間に子はできない。バネッサの性格を考えるとジェニファーを縛り付ける事はしないはずである。きっと2人は3年後に白い結婚を理由に離縁するだろう。その頃にはエマニュエル王女はもうどこかに嫁いでいるだろうから、病弱を理由に領地に引っ込む事が可能なはずである。
そうしたら名前を変えてコリンに嫁ぐのが良いのではないか、と、本気でそう考えていた。
「まさかまだディミトリーのヤツを好きだなんてな。」
バネッサがディミトリーを好きだと言っていたのを思い出す。
ディミトリー・ロンバーダはロンバーダ侯爵家の次男だ。コリンから見ると彼は可も不可もない青年である。コリンが彼に負けていると認めるのは背の高さと爵位だけだ。
バネッサは女性にしては背が高く、アーロンに成り替わるのにはちょうどよかった。そんなバネッサに対しコリンはかろうじて背が高いだけである。コリンは密かにそのことを気にしていた。
しかし、バネッサが背の高さだけでディミトリーを好きだなんて思えない。バネッサは彼のどこがそれほど好きなのだろうといつも思う。
ディミトリーは幼い頃、バネッサから特別の視線を受けていた。愚鈍な彼は気付かなかっただろうが、コリンはバネッサをよく見ていたのですぐにバネッサが彼に向ける視線が他の者に向けるものと違うことに気がついた。
そして、その視線を受けるディミトリーをいつも羨ましく思っていた。
バネッサがアーロンとして過ごさねばならなくなってからコリンは献身的にバネッサを支えてきた。バネッサがアーロンになり変わっているということがこれまでバレずにすんでいるのも、コリンの協力があったお陰だと自負している。
もう6年も男として過ごしてきたのだから恋心も枯れたのではないかと思っていたが、どうやらバネッサも相当しつこい質のようである。
翌日、バネッサはジェニファーに事情を説明するため、庭の東屋でともに軽食を取ることになった。
コリンはジェニファーとバネッサを2人きりにするべきだと思い、その場から退いたが、バネッサとジェニファーがどのような会話をするのかが気になって白い花をたわわにつけたユキヤナギの木陰に隠れて2人の様子を伺った。
バネッサは今日も燕尾服をきちんと着こなし、ハットもかぶっていた。ジェニファーはベージュとモスグリーンのドレスを着ていた。
少しエキゾチックなドレスはジェニファーによく似合うデザインで、ああいう服は春の妖精のようなバネッサには似合わない。ドレスを見てそれがバネッサに似合うかどうか考えるのはコリンの日課である。
「それで、事情をお話ししてくださるのですよね?」
ジェニファーは落ち着いた様子で話をする。
アーロンは緊張しているのか少し顔を赤くしながら話し始めた。
「えぇ。まずは、ジェニファー嬢に最大の謝罪を。」
「謝罪?」
「私はジェニファー嬢とはまともな夫婦関係を築けないと思う。その・・・私は・・・男性を好きなんだ。」
そう言うとジェニファーははっと息を呑んだ。
「だから、元々は結婚するつもりなどなかったんです。どうかまずは、これから言うことをまずは聞いて欲しい。」
ジェニファーは言いたいことがあるのかもしれないが、表情を変えることなく辛抱強く話を聞いてくれるようだ。
ジェニファーがグッとお腹に力を入れた気がした。
「この事は父母も知っていて、だから、私が14になったら病弱ということにして後継をコリンにするはずだったんだ。」
アーロンはカップを右手にソーサーを左手に持ち、少し斜め下を見ながら話をしている。
「でも、その布石のために病弱を演じ始めると、エマニュエル王女に病弱であるなら王宮の医師に診察して貰えばいいと言われてしまってね。王宮の医師に診てもらったら嘘がバレるから、それで、病弱を理由に田舎に行くことができなくなってしまった。
それに、だ。エマニュエル王女がどうやら私のことを好ましく思っているようでね。王女を娶ってしまってから女性とはそう言う事はできませんとは言えない。それで、急いで誰かを娶る事にしたんだ。」
どうやら話はここで終わったらしい。
しばらく沈黙が落ち、ジェニファーが口を開いた。
「では、花嫁は誰でも良かったと?」
「いや、誰でもと言う訳では・・・結婚するにあたってエマニュエル王女が納得する人物でないといけない。しかし、おそらく離縁する事になるだろうから政治的な繋がりが強すぎると困る。そういう意味で君は・・・ちょうど良かった。なにしろ、君はとても美人だから、政治的な繋がりがなくても、結婚する理由になる、でしょう?」
これまで俯きながら話していたアーロンが「君はとても美人だから」と言うところで顔を上げ、ジェニファーと目線を合わせた。
その様子がとても爽やかで、ジェニファーはドキドキしてしまう。
しかし、だからと言って蔑ろにされたことがなくなる訳ではない。
「私なら蔑ろにしても問題ないと?」
「王女に不敬を働くのを避けようとするあまり、君の人生を狂わせてしまった事は本当に申し訳ないと思う。私にできることなら何でもするから、どうか許して欲しい。」
「何でもすると?」
「あぁ。」
「考えさせて下さい。」
そう言うとジェニファーは立ち上がった。結局、軽食には口をつけていない。
部屋に戻ろうとするジェニファーの後ろ姿にアーロンが声を投げかけた。
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