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ホセ
その3 出会い
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ホセはベンボーリオ伯爵家の次男として産まれた。
幸運なことに幼い頃から勉強も武芸もよく出来た。しかし、この国の貴族は長子相続で複数爵位を持っていても分割して相続させたりはしない。
ホセはいくら優秀であっても次男というだけで何も手に入れることができない存在だった。
学園に通っても授業を少し受けるだけで学年で十位以内をキープできたし、小さな剣の大会で優勝したこともあった。
しかし、ホセは恵まれているがゆえに常に斜めに世界を見ていたし、いつも虚しかった。
学園最後の統合試験でトップを取ったホセは誰もが高級文官を目指すと思った。統合試験トップの成績だったらどの部門でも選び放題どころか、毎年、各部門からスカウトが来るくらいである。
しかし、ホセはその全てを断り、騎士になった。理由は特にない。強いて言うなら剣が一番苦手だったからだ。苦手といっても、小さな大会で優勝する程度には得意なのであるが。
ホセが騎士の道を選んだ時、両親や兄は落胆したし、同級生たちも口を揃えて勿体無いと言った。平和なこの国では騎士や兵士の価値は低い。
そんなホセは騎士としても早くに頭角を表した。
特に、予算会議や護衛の配置相談など文官とやりあわないといけないような場面では重宝された。3年も経たないうちに議会で武官の顔として発言するまでになっていた。
そんなホセに王女の護衛を見繕ってほしいと依頼が来たのはホセが二十一歳になったばかりの頃だった。あまり他人に興味のないホセは王女の噂など聞いたこともなかったが、学園に登校したと見せかけて学園を抜け出し遊び歩いていると聞いて驚いた。それと同時に非常に興味を持った。
ホセは学園に通っていた当時、学園などつまらないと思いながら、それでも毎日真面目に通っていた。自分には学校をサボるなどという発想すらなかった。王女は優秀だと聞くが、学校をサボって何をしているのだろうか。
学園は囲まれた箱庭で貴族はみな、身一つで学園に通う。
残り数年で公爵家への降嫁が決まっている王女には、他の貴族同様護衛など付けられていなかった。
ホセは忙しい身でありながら自ら護衛を買って出た。
はじめは、初日だけホセが随行して次の日からは別の者に任せれば良いと考えていた。
初めて対面した王女はクリっとした目をした可愛らしい少女だった。あぶない街に出入りしているらしいとのもっぱらの噂だったがそんな雰囲気は全くなかった。
王女は王宮から馬車で学園まで送ってもらうと校舎に向かおうともせず、そのまま街に向かった。行き先は噂通り娼館街の方である。しかし、到着したのは娼館ではなく教会だった。王女はそこで子供たちに勉強を教えていた。
ホセは自分も王女と共に読み書きや計算、そして大きな男の子供たちには剣術も教えた。教会にいる子供たちは貴族である自分と比べれば何も持っていない。それでも明日を信じて精一杯生きていた。ホセにとつて子供たちはとても眩しく見えた。
ホセは次の日から別の者に護衛を任せるつもりだったのを忘れ、王女の護衛をしながら毎日、子供達の元へ通った。
子供達の中ではリーダー格の少年、エビタシオから兵になる試験を受けたいと相談を受けた時は二つ返事で推薦状を書いてあげた。
ホセが王女の護衛をし続けられたのは王女の街での遊びが毎日、午前中だけだからである。議会などは昼から開催されることが多かったので、午前中は王女の護衛、午後からは議会に参加し、夕方以降に次の日の議会に向けての資料づくりなどをすることにしていた。
ある日、議会が終わり武官の控室に向かう途中で王宮の庭園を散歩する王女が見えた。一緒に居るのは金髪の美しい青年で、王女との距離から見て婚約者だろう。
二人の表情から楽しい話題をしているのでないことは伺えた。
「ベアトリス、もう少し真面目に過ごしてくれ。今の君では公爵家の女主人としては相応しくない。」
風に乗ってそんな声が聞こえてきた。
「学園は確かに少しサボっておりますが、テストでは問題のない点を取っておりますし、真面目に過ごしているつもりです。」
王女は泣きそうな顔をしながらも青年にそう告げた。
「君は社交界で流れている噂を聞いているか?火のないところに煙はたたないだろう?しばらくは大人しくしていてくれ。」
「もし不真面目をお疑いなら、明日ご一緒に街に参りますか?」
「よしてくれよ。俺は生徒会で忙しいんだ。真面目な生徒だからな。」
青年はそう言い捨てると王女を宮殿までエスコートすることもなく立ち去った。
青年を見つめる王女の揺れる瞳を見て、あんなに辛辣なことを言われているのに王女は婚約者を好きらしいと言うことにホセは気付いた。
「どうして言い訳しないんだ?」
急に現れたホセに驚きながらも王女の表情は変わらないままだった。護衛をしている時に身分をバラしたくないという事でホセは王女に気安い口調を許されている。婚約者に代わり王女をエスコートする。
「期待しているのかもしれないわ。」
「期待?」
「彼が自分から興味を持って真実を突き止めてくれるのを。でも今のままじゃ無理ね。」
そう言った王女の瞳の奥には間違いなく恋の炎が灯っていた。
幸運なことに幼い頃から勉強も武芸もよく出来た。しかし、この国の貴族は長子相続で複数爵位を持っていても分割して相続させたりはしない。
ホセはいくら優秀であっても次男というだけで何も手に入れることができない存在だった。
学園に通っても授業を少し受けるだけで学年で十位以内をキープできたし、小さな剣の大会で優勝したこともあった。
しかし、ホセは恵まれているがゆえに常に斜めに世界を見ていたし、いつも虚しかった。
学園最後の統合試験でトップを取ったホセは誰もが高級文官を目指すと思った。統合試験トップの成績だったらどの部門でも選び放題どころか、毎年、各部門からスカウトが来るくらいである。
しかし、ホセはその全てを断り、騎士になった。理由は特にない。強いて言うなら剣が一番苦手だったからだ。苦手といっても、小さな大会で優勝する程度には得意なのであるが。
ホセが騎士の道を選んだ時、両親や兄は落胆したし、同級生たちも口を揃えて勿体無いと言った。平和なこの国では騎士や兵士の価値は低い。
そんなホセは騎士としても早くに頭角を表した。
特に、予算会議や護衛の配置相談など文官とやりあわないといけないような場面では重宝された。3年も経たないうちに議会で武官の顔として発言するまでになっていた。
そんなホセに王女の護衛を見繕ってほしいと依頼が来たのはホセが二十一歳になったばかりの頃だった。あまり他人に興味のないホセは王女の噂など聞いたこともなかったが、学園に登校したと見せかけて学園を抜け出し遊び歩いていると聞いて驚いた。それと同時に非常に興味を持った。
ホセは学園に通っていた当時、学園などつまらないと思いながら、それでも毎日真面目に通っていた。自分には学校をサボるなどという発想すらなかった。王女は優秀だと聞くが、学校をサボって何をしているのだろうか。
学園は囲まれた箱庭で貴族はみな、身一つで学園に通う。
残り数年で公爵家への降嫁が決まっている王女には、他の貴族同様護衛など付けられていなかった。
ホセは忙しい身でありながら自ら護衛を買って出た。
はじめは、初日だけホセが随行して次の日からは別の者に任せれば良いと考えていた。
初めて対面した王女はクリっとした目をした可愛らしい少女だった。あぶない街に出入りしているらしいとのもっぱらの噂だったがそんな雰囲気は全くなかった。
王女は王宮から馬車で学園まで送ってもらうと校舎に向かおうともせず、そのまま街に向かった。行き先は噂通り娼館街の方である。しかし、到着したのは娼館ではなく教会だった。王女はそこで子供たちに勉強を教えていた。
ホセは自分も王女と共に読み書きや計算、そして大きな男の子供たちには剣術も教えた。教会にいる子供たちは貴族である自分と比べれば何も持っていない。それでも明日を信じて精一杯生きていた。ホセにとつて子供たちはとても眩しく見えた。
ホセは次の日から別の者に護衛を任せるつもりだったのを忘れ、王女の護衛をしながら毎日、子供達の元へ通った。
子供達の中ではリーダー格の少年、エビタシオから兵になる試験を受けたいと相談を受けた時は二つ返事で推薦状を書いてあげた。
ホセが王女の護衛をし続けられたのは王女の街での遊びが毎日、午前中だけだからである。議会などは昼から開催されることが多かったので、午前中は王女の護衛、午後からは議会に参加し、夕方以降に次の日の議会に向けての資料づくりなどをすることにしていた。
ある日、議会が終わり武官の控室に向かう途中で王宮の庭園を散歩する王女が見えた。一緒に居るのは金髪の美しい青年で、王女との距離から見て婚約者だろう。
二人の表情から楽しい話題をしているのでないことは伺えた。
「ベアトリス、もう少し真面目に過ごしてくれ。今の君では公爵家の女主人としては相応しくない。」
風に乗ってそんな声が聞こえてきた。
「学園は確かに少しサボっておりますが、テストでは問題のない点を取っておりますし、真面目に過ごしているつもりです。」
王女は泣きそうな顔をしながらも青年にそう告げた。
「君は社交界で流れている噂を聞いているか?火のないところに煙はたたないだろう?しばらくは大人しくしていてくれ。」
「もし不真面目をお疑いなら、明日ご一緒に街に参りますか?」
「よしてくれよ。俺は生徒会で忙しいんだ。真面目な生徒だからな。」
青年はそう言い捨てると王女を宮殿までエスコートすることもなく立ち去った。
青年を見つめる王女の揺れる瞳を見て、あんなに辛辣なことを言われているのに王女は婚約者を好きらしいと言うことにホセは気付いた。
「どうして言い訳しないんだ?」
急に現れたホセに驚きながらも王女の表情は変わらないままだった。護衛をしている時に身分をバラしたくないという事でホセは王女に気安い口調を許されている。婚約者に代わり王女をエスコートする。
「期待しているのかもしれないわ。」
「期待?」
「彼が自分から興味を持って真実を突き止めてくれるのを。でも今のままじゃ無理ね。」
そう言った王女の瞳の奥には間違いなく恋の炎が灯っていた。
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