13 / 24
13. 隣国
しおりを挟む
カテリーナはリンツ公爵の馬車で南の帝国に入国した。
ポランスキのリンツ領では先ごろ嵐があり、収穫前の小麦に大きな影響があったらしい。リンツ公爵はその為帰国を急いでいるということだった。
カテリーナは小麦畑を見たことがなかった。北の帝国では寒すぎて小麦は育たないためだ。
馬車が南下していくと街道沿いにも小麦畑が見えた。この辺りはリンツ領ではないため小麦は順調に生育しており一面に広がる黄金色の小麦畑はとても美しかった。
ライ麦畑だと背が高いため、高いところから眺めないとこのような広がりは見えないが、小麦は背が低く、馬車からでも一面に広がる黄金色の絨毯を見ることができ、とても素敵だと思った。
カテリーナがリンツ領のカントリーハウスに着いたのはカテリーナが国境を越えて10日も経った頃だった。
10日間ほとんど休まず駆け抜けたのだ。カテリーナはかなり疲れていた。
リンツ公爵のカントリーハウスは川に沿って立てられているとても美しい城だった。
川が自然の要塞になっているようで、あまり兵が居なくても城を守れる作りになっているらしかった。
城に入るための跳ね橋が降ろされると馬車は橋を渡って城の中に入って行った。
入り口ではリンツ公爵の息子、セドリックが出迎えてくれた。
セドリックはカテリーナの登場に驚いていたようだったが、リンツ公爵が公式の客人だと伝えてくれたので客間に通された。
「カテリーナ、私はこれから領内の小麦畑に向かう。今日は対策を練るのに忙しいため歓迎できないが、戻ってきたら今後についてゆっくり話し合おう」
リンツ公爵にはそう言われた。
そうして、少し休ませてもらった後、メイドと共にリンツ公爵の奥方であるバルバラがカテリーナを訪ねてきた。
「あぁ、カテリーナお久しぶりね。顔をよく見せてちょうだいな。王太子妃になったあなたに言うのは良くないのだろうけれどあなた、少し痩せたんではなくて?」
そう言いながらバルバラがカテリーナを抱擁した。
「バルバラ、お久しぶりです。突然訪ねてきてしまって申し訳ありません。」
カテリーナがバルバラと再会するのはおよそ2年ぶりである。それまでは夏の避暑にリンツ公爵と共にラッシースカヤに来ていたが、そう言えば昨年はバルバラはラッシースカヤには来ていなかった。
「いいえ、いいのよ。あなたが、北の帝国で蔑ろにされていると聞いて、主人ともども心配していたのよ。カテリーナのように素敵な子を蔑ろにするなんて、あんな帝国出てきて正解だわ。」
バルバラはカテリーナのためにかなり怒ってくれているらしかった。
しかし、そんなことを言われてカテリーナの心に浮かんだのは、北の帝国だって良いところがあるんだと言うことだった。
思っていたより自分には愛国心があるらしい。
バルバラにドレスを見繕ってもらってカテリーナを出迎えるための晩餐に参加した。そこで初めてセドリックの結婚相手であるイレーナと対面した。
カテリーナは噂程度でしか知らないが、公爵令息と子爵令嬢の恋愛譚はラッシースカヤにまで轟いている。しかもその子爵令嬢が美しい元平民ということが人気に拍車をかけているらしい。
イレーナはプラチナブランドの背の低い女性で、目の見えないカテリーナにも雰囲気だけで可憐な子なんだとわかった。
「はじめまして。カテリーナ様」
と言った声はとても可愛らしかった。
しかし、貴族の生活にはまだ慣れていないのか座る時の衣擦れの音が気になった。ドレス捌きがまだイマイチ馴染んでいないのかもしれない。
それに、この日の晩餐では豆の付け合わせが出たのだが、それをフォークで刺すのが得意ではないのかかなりガチャガチャと音が鳴っていて、とてもこれでは客をもてなすことは出来ないだろうなと思われた。
カテリーナは、昨年も今年も公爵夫人が公爵との旅行に帯同しなかった理由がわかった気がした。
客がホストにマナーを指摘するのはマナー違反だし、カテリーナは客人としてホストと会話をする義務がある。
はじめは嵐の影響を受けたという春蒔きの小麦の話を夫人と行っていた。
ラッシースカヤで育てるライ麦は秋蒔きが中心のため、春に種を蒔き秋に収穫するという栽培方法について色々と興味を持ったのだ。
リンツ公爵の領地は元々ライ麦を中心に栽培してきたが春蒔きの小麦が最近開発され、栽培実験を行なっているらしい。
「道中でも小麦畑をいくつか見ましたわ。」
カテリーナがそう言うと、夫人が
「えぇ。ポドルフスキ侯爵の土地でしょう?」
と言った。
夫人がその名を口に出した時、イレーナの身体が僅かにピクンと反応したのをカテリーナは見逃さなかった。
しかし、夫人は気づかなかったのか、話を続けた。
「この国に春蒔きの小麦を持ち込んだのはポドルフスキ侯爵なんです。カテリーナも知っていると思うけれど小麦はライよりも寒さに弱いでしょう?この国は北の帝国よりは暖かいとはいえ、小麦を育てられる土地は少ないわ。でも春蒔きの品種なら育てられるのよ。本当ならポドルフスキ侯爵から栽培について色々教えてもらうはずだったんだけど・・・」
そう中途半端なところで夫人が話を区切るのでカテリーナは続きを促さざるを得なかった。
「まぁ、何かございまして?」
カテリーナがそう聞くも、その続きは教えてもらえなかった。
「きっとおいおいわかりますわ。」
その言葉でこの会話は終わった。
この日、イレーナはバルバラとカテリーナの会話に入ってくることはなかった。
ポランスキのリンツ領では先ごろ嵐があり、収穫前の小麦に大きな影響があったらしい。リンツ公爵はその為帰国を急いでいるということだった。
カテリーナは小麦畑を見たことがなかった。北の帝国では寒すぎて小麦は育たないためだ。
馬車が南下していくと街道沿いにも小麦畑が見えた。この辺りはリンツ領ではないため小麦は順調に生育しており一面に広がる黄金色の小麦畑はとても美しかった。
ライ麦畑だと背が高いため、高いところから眺めないとこのような広がりは見えないが、小麦は背が低く、馬車からでも一面に広がる黄金色の絨毯を見ることができ、とても素敵だと思った。
カテリーナがリンツ領のカントリーハウスに着いたのはカテリーナが国境を越えて10日も経った頃だった。
10日間ほとんど休まず駆け抜けたのだ。カテリーナはかなり疲れていた。
リンツ公爵のカントリーハウスは川に沿って立てられているとても美しい城だった。
川が自然の要塞になっているようで、あまり兵が居なくても城を守れる作りになっているらしかった。
城に入るための跳ね橋が降ろされると馬車は橋を渡って城の中に入って行った。
入り口ではリンツ公爵の息子、セドリックが出迎えてくれた。
セドリックはカテリーナの登場に驚いていたようだったが、リンツ公爵が公式の客人だと伝えてくれたので客間に通された。
「カテリーナ、私はこれから領内の小麦畑に向かう。今日は対策を練るのに忙しいため歓迎できないが、戻ってきたら今後についてゆっくり話し合おう」
リンツ公爵にはそう言われた。
そうして、少し休ませてもらった後、メイドと共にリンツ公爵の奥方であるバルバラがカテリーナを訪ねてきた。
「あぁ、カテリーナお久しぶりね。顔をよく見せてちょうだいな。王太子妃になったあなたに言うのは良くないのだろうけれどあなた、少し痩せたんではなくて?」
そう言いながらバルバラがカテリーナを抱擁した。
「バルバラ、お久しぶりです。突然訪ねてきてしまって申し訳ありません。」
カテリーナがバルバラと再会するのはおよそ2年ぶりである。それまでは夏の避暑にリンツ公爵と共にラッシースカヤに来ていたが、そう言えば昨年はバルバラはラッシースカヤには来ていなかった。
「いいえ、いいのよ。あなたが、北の帝国で蔑ろにされていると聞いて、主人ともども心配していたのよ。カテリーナのように素敵な子を蔑ろにするなんて、あんな帝国出てきて正解だわ。」
バルバラはカテリーナのためにかなり怒ってくれているらしかった。
しかし、そんなことを言われてカテリーナの心に浮かんだのは、北の帝国だって良いところがあるんだと言うことだった。
思っていたより自分には愛国心があるらしい。
バルバラにドレスを見繕ってもらってカテリーナを出迎えるための晩餐に参加した。そこで初めてセドリックの結婚相手であるイレーナと対面した。
カテリーナは噂程度でしか知らないが、公爵令息と子爵令嬢の恋愛譚はラッシースカヤにまで轟いている。しかもその子爵令嬢が美しい元平民ということが人気に拍車をかけているらしい。
イレーナはプラチナブランドの背の低い女性で、目の見えないカテリーナにも雰囲気だけで可憐な子なんだとわかった。
「はじめまして。カテリーナ様」
と言った声はとても可愛らしかった。
しかし、貴族の生活にはまだ慣れていないのか座る時の衣擦れの音が気になった。ドレス捌きがまだイマイチ馴染んでいないのかもしれない。
それに、この日の晩餐では豆の付け合わせが出たのだが、それをフォークで刺すのが得意ではないのかかなりガチャガチャと音が鳴っていて、とてもこれでは客をもてなすことは出来ないだろうなと思われた。
カテリーナは、昨年も今年も公爵夫人が公爵との旅行に帯同しなかった理由がわかった気がした。
客がホストにマナーを指摘するのはマナー違反だし、カテリーナは客人としてホストと会話をする義務がある。
はじめは嵐の影響を受けたという春蒔きの小麦の話を夫人と行っていた。
ラッシースカヤで育てるライ麦は秋蒔きが中心のため、春に種を蒔き秋に収穫するという栽培方法について色々と興味を持ったのだ。
リンツ公爵の領地は元々ライ麦を中心に栽培してきたが春蒔きの小麦が最近開発され、栽培実験を行なっているらしい。
「道中でも小麦畑をいくつか見ましたわ。」
カテリーナがそう言うと、夫人が
「えぇ。ポドルフスキ侯爵の土地でしょう?」
と言った。
夫人がその名を口に出した時、イレーナの身体が僅かにピクンと反応したのをカテリーナは見逃さなかった。
しかし、夫人は気づかなかったのか、話を続けた。
「この国に春蒔きの小麦を持ち込んだのはポドルフスキ侯爵なんです。カテリーナも知っていると思うけれど小麦はライよりも寒さに弱いでしょう?この国は北の帝国よりは暖かいとはいえ、小麦を育てられる土地は少ないわ。でも春蒔きの品種なら育てられるのよ。本当ならポドルフスキ侯爵から栽培について色々教えてもらうはずだったんだけど・・・」
そう中途半端なところで夫人が話を区切るのでカテリーナは続きを促さざるを得なかった。
「まぁ、何かございまして?」
カテリーナがそう聞くも、その続きは教えてもらえなかった。
「きっとおいおいわかりますわ。」
その言葉でこの会話は終わった。
この日、イレーナはバルバラとカテリーナの会話に入ってくることはなかった。
181
あなたにおすすめの小説
人生の全てを捨てた王太子妃
八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。
傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。
だけど本当は・・・
受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。
※※※幸せな話とは言い難いです※※※
タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。
※本編六話+番外編六話の全十二話。
※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。
愚か者は幸せを捨てた
矢野りと
恋愛
相思相愛で結ばれた二人がある日、分かれることになった。夫を愛しているサラは別れを拒んだが、夫であるマキタは非情な手段でサラとの婚姻関係そのものをなかったことにしてしまった。
だがそれは男の本意ではなかった…。
魅了の呪縛から解き放たれた男が我に返った時、そこに幸せはなかった。
最愛の人を失った男が必死に幸せを取り戻そうとするが…。
記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
【完結】あなたに嫌われている
なか
恋愛
子爵令嬢だった私に反対を押し切って
結婚しようと言ってくれた日も
一緒に過ごした日も私は忘れない
辛かった日々も………きっと………
あなたと過ごした2年間の四季をめぐりながら
エド、会いに行くね
待っていて
優柔不断な公爵子息の後悔
有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。
いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。
後味悪かったら申し訳ないです。
【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下
花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すのだった。 ■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」のヒロインのポジションの人です ■画像は生成AI (ChatGPT)
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる