【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル

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13. 隣国

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カテリーナはリンツ公爵の馬車で南の帝国ポランスキに入国した。


ポランスキのリンツ領では先ごろ嵐があり、収穫前の小麦に大きな影響があったらしい。リンツ公爵はその為帰国を急いでいるということだった。
カテリーナは小麦畑を見たことがなかった。北の帝国ラッシースカヤでは寒すぎて小麦は育たないためだ。
馬車が南下していくと街道沿いにも小麦畑が見えた。この辺りはリンツ領ではないため小麦は順調に生育しており一面に広がる黄金色の小麦畑はとても美しかった。
ライ麦畑だと背が高いため、高いところから眺めないとこのような広がりは見えないが、小麦は背が低く、馬車からでも一面に広がる黄金色の絨毯を見ることができ、とても素敵だと思った。

カテリーナがリンツ領のカントリーハウスに着いたのはカテリーナが国境を越えて10日も経った頃だった。

10日間ほとんど休まず駆け抜けたのだ。カテリーナはかなり疲れていた。

リンツ公爵のカントリーハウスは川に沿って立てられているとても美しい城だった。

川が自然の要塞になっているようで、あまり兵が居なくても城を守れる作りになっているらしかった。
城に入るための跳ね橋が降ろされると馬車は橋を渡って城の中に入って行った。

入り口ではリンツ公爵の息子、セドリックが出迎えてくれた。
セドリックはカテリーナの登場に驚いていたようだったが、リンツ公爵が公式の客人だと伝えてくれたので客間に通された。

「カテリーナ、私はこれから領内の小麦畑に向かう。今日は対策を練るのに忙しいため歓迎できないが、戻ってきたら今後についてゆっくり話し合おう」

リンツ公爵にはそう言われた。
そうして、少し休ませてもらった後、メイドと共にリンツ公爵の奥方であるバルバラがカテリーナを訪ねてきた。

「あぁ、カテリーナお久しぶりね。顔をよく見せてちょうだいな。王太子妃になったあなたに言うのは良くないのだろうけれどあなた、少し痩せたんではなくて?」

そう言いながらバルバラがカテリーナを抱擁した。

「バルバラ、お久しぶりです。突然訪ねてきてしまって申し訳ありません。」

カテリーナがバルバラと再会するのはおよそ2年ぶりである。それまでは夏の避暑にリンツ公爵と共にラッシースカヤに来ていたが、そう言えば昨年はバルバラはラッシースカヤには来ていなかった。

「いいえ、いいのよ。あなたが、北の帝国で蔑ろにされていると聞いて、主人ともども心配していたのよ。カテリーナのように素敵な子を蔑ろにするなんて、あんな帝国出てきて正解だわ。」

バルバラはカテリーナのためにかなり怒ってくれているらしかった。
しかし、そんなことを言われてカテリーナの心に浮かんだのは、北の帝国ラッシースカヤだって良いところがあるんだと言うことだった。
思っていたより自分には愛国心があるらしい。

バルバラにドレスを見繕ってもらってカテリーナを出迎えるための晩餐に参加した。そこで初めてセドリックの結婚相手であるイレーナと対面した。
カテリーナは噂程度でしか知らないが、公爵令息と子爵令嬢の恋愛譚はラッシースカヤにまで轟いている。しかもその子爵令嬢が美しい元平民ということが人気に拍車をかけているらしい。
イレーナはプラチナブランドの背の低い女性で、目の見えないカテリーナにも雰囲気だけで可憐な子なんだとわかった。

「はじめまして。カテリーナ様」

と言った声はとても可愛らしかった。
しかし、貴族の生活にはまだ慣れていないのか座る時の衣擦れの音が気になった。ドレス捌きがまだイマイチ馴染んでいないのかもしれない。
それに、この日の晩餐では豆の付け合わせが出たのだが、それをフォークで刺すのが得意ではないのかかなりガチャガチャと音が鳴っていて、とてもこれでは客をもてなすことは出来ないだろうなと思われた。

カテリーナは、昨年も今年も公爵夫人バルバラが公爵との旅行に帯同しなかった理由がわかった気がした。

客がホストにマナーを指摘するのはマナー違反だし、カテリーナは客人としてホストと会話をする義務がある。
はじめは嵐の影響を受けたという春蒔きの小麦の話を夫人と行っていた。
ラッシースカヤで育てるライ麦は秋蒔きが中心のため、春に種を蒔き秋に収穫するという栽培方法について色々と興味を持ったのだ。

リンツ公爵の領地は元々ライ麦を中心に栽培してきたが春蒔きの小麦が最近開発され、栽培実験を行なっているらしい。

「道中でも小麦畑をいくつか見ましたわ。」

カテリーナがそう言うと、夫人が
「えぇ。ポドルフスキ侯爵の土地でしょう?」
と言った。
夫人がその名を口に出した時、イレーナの身体が僅かにピクンと反応したのをカテリーナは見逃さなかった。

しかし、夫人は気づかなかったのか、話を続けた。

「この国に春蒔きの小麦を持ち込んだのはポドルフスキ侯爵なんです。カテリーナも知っていると思うけれど小麦はライよりも寒さに弱いでしょう?この国は北の帝国ラッシースカヤよりは暖かいとはいえ、小麦を育てられる土地は少ないわ。でも春蒔きの品種なら育てられるのよ。本当ならポドルフスキ侯爵から栽培について色々教えてもらうはずだったんだけど・・・」

そう中途半端なところで夫人が話を区切るのでカテリーナは続きを促さざるを得なかった。

「まぁ、何かございまして?」

カテリーナがそう聞くも、その続きは教えてもらえなかった。

「きっとおいおいわかりますわ。」

その言葉でこの会話は終わった。
この日、イレーナはバルバラとカテリーナの会話に入ってくることはなかった。


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