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17. 園遊会
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園遊会でカテリーナは出来る限り目立たぬようにしたつもりだった。
しかし、隣国から来た貴族ということでどうしても目立ってしまう。
しかも、隣に居るイレーナはこの国の貴族社会で何かと話題の人である。
イレーナと二人で居ると逆に誰も話しかけてこなかった。それでもチラチラとこちらを見る視線が痛かった。
会場は何となく年嵩のご婦人たちと若い令嬢とで分かれており、ご婦人たちは日陰のあるテラスで、令嬢たちは噴水近くの四阿に集まっていた。カテリーナは同世代の令嬢との交流があまり得意ではない。
王太子の不安定な立場の婚約者として長い間、遠巻きにされていたからだ。
カテリーナ一人であれば誰とも社交せずにこのままおずおずと帰っても問題ないだろう。しかし、イレーナはこの場で頑張らなくてはいけない。
それなのにイレーナは一人でいるのが嫌なのかカテリーナの後ろを子鴨のようについてまわるのだ。
「少し花を摘みに行って参りますわ。」
そう言ってイレーナの側を離れるとどうしたものだろうかと思いながら歩いた。
イレーナに足りないのは自信なのでもう少し自信が持てるようになれば、と思うのだが。
厠から帰ってくると先ほどとは場の雰囲気がだいぶ変わっていた。
「・・・貴族というものを理解していらっしゃらないのよ。」
誰かから発せられたそんな声が響いた。
「領民に混ざって一夜を明かすこともあると聞いた時は卒倒いたしましたわ。」
また同じ声が響いた。
どうやら令嬢たちの中心にいる気の強そうな女性が話をしているらしい。
するとその隣に居た女性が扇で口元を隠しながら言った。
「サロメア様があのような男に嫁がなくて幸運でしたわ。」
サロメアという名を聞いてピンと来た。
セドリックの元婚約者だ。なるほど。サロメアがセドリックの話をし出したのでみんな聞き耳をたてているのだ。
「そのようなこと、言うものではなくってよ。私の代わりに嫁がれた方もいるのですから。」
サロメアはそう言うとチラリとイレーナを見た。
イレーナは何も言えず俯いている。
「まぁ、彼にはお似合いな方なのでしょうけれど」
そう言ってサロメアは笑みを深めた。
どうやらセドリックが言う通りサロメアがイレーナを快く思っていないのはその通りのようだ。サロメアの方が格下なのに随分な態度である。
イレーナはここで何か言い返し威厳を見せなければならない。
しかし、小刻みに震えるばかりで何も出来ないようである。
カテリーナはお腹にグッと力を入れると優雅に見えるように歩きながら、顔に笑顔の仮面を貼り付けた。
「まあ、楽しそうなお話をされていらっしゃるのね。わたくしも仲間にいれてくださいません?」
その言葉に反応したサロメアたちが振り返る。顔には明らかに嫌悪感が乗っている。
「まぁ、失礼な。サロメア様は侯爵令嬢でいらっしゃるのよ。」
取り巻きの一人がそんな発言をする。この場にサロメアより高位の貴族が居ないのを知っていての態度のようだ。まあ、公爵家の嫡男でドラキュリー子爵の儀礼称号を名乗っているセドリックの妻であるイレーナが一番高位なのだが、彼女たちはそれを認めていないようである。
「さようでございますか。私、ラッシースカヤから参りましたカテリーナと申します。リンツ公爵とは親戚関係にあたりますの。」
そう言ってカテリーナが礼を取ると取り巻きの一人が「これだから田舎者は。リンツ公爵の親戚だからって偉いわけじゃないのよ。」と言ったがすぐにサロメアが動きを抑えた。
「ポドルフスキ侯爵家のサロメアと申します。ご無礼お許しください。」
サロメアが青ざめた顔でカテーシーを行った。
その様子を見て取り巻きたちも慌てて名乗り、あいさつをし、カテーシーをした。
「まぁまぁまぁ。田舎者には過分な挨拶ですわ。お直りくださいな。それより、私のはとこ殿の話を聞かせていただけるかしら?貴族というものを理解していないと?」
佇まいを元に戻したサロメアがカテリーナの顔色を伺った。カテリーナとサロメアの目があった。
サロメアはカテリーナが隣国の王太子妃だと理解しているようだ。しかし、セドリックに対してカテリーナがどのような感情を抱いているのかまでは掴みあぐねているようだ。
「わたくしとドラキュリー子爵は考えがあわないようでした。婚約を結ぶ直前で解消となったのは、私にとっても幸運だったと話していただけでございます。まるで、わたくしが被害者のように考えていらっしゃる方が居たようですので。」
にこりと笑いながらそう言うサロメア嬢。カテリーナが隣国の王太子妃だと知りながらそのような事をいうのだから、なかなか胆力のある女性らしい。
「まぁ。そうなの。確かに一方的に被害者認定されると腹立たしいですわよね。」
そうやって肯定してやると明らかにサロメアの顔に安堵の色が広がった。
「でもね、わたくし、セドリックとは親戚なのよ。それにこの場には彼の奥様もおいでなのよ?もう少し考えて行動される事をなさる事ね。」
そう言って笑うとサロメアの顔色が再び悪くなった。美しいシャンパン色のドレスをぎゅっとに握る。
「まぁ、顔色がよろしくなくてよ。ポドルフスキ侯爵令嬢があのような発言をされたのも体調が優れなかったからなのね。わかりますわ。体調が悪いと言ってはいけないと思っている本心がつい口から出てしまいますものね」
カテリーナは更にサロメアに畳み掛けた。
「えぇ。そのようですわ。今日はもうこちらで失礼させていただきます。」
サロメアは取り巻き二人に声をかけてと本当に園遊会から出て行った。
カテリーナはあまり騒ぎを起こしたくなかったが思いがけず大立ち回りを披露してしまった。
これがイレーナのためになったのかはわからない。しかし、馬鹿にされた状態で放置するのが悪手であるということだけはわかる。
ふぅとため息をつきながら透明な蒸留酒に手を伸ばすと、小さな錫製のタンブラーに入ったその酒を一気に煽った。
しかし、隣国から来た貴族ということでどうしても目立ってしまう。
しかも、隣に居るイレーナはこの国の貴族社会で何かと話題の人である。
イレーナと二人で居ると逆に誰も話しかけてこなかった。それでもチラチラとこちらを見る視線が痛かった。
会場は何となく年嵩のご婦人たちと若い令嬢とで分かれており、ご婦人たちは日陰のあるテラスで、令嬢たちは噴水近くの四阿に集まっていた。カテリーナは同世代の令嬢との交流があまり得意ではない。
王太子の不安定な立場の婚約者として長い間、遠巻きにされていたからだ。
カテリーナ一人であれば誰とも社交せずにこのままおずおずと帰っても問題ないだろう。しかし、イレーナはこの場で頑張らなくてはいけない。
それなのにイレーナは一人でいるのが嫌なのかカテリーナの後ろを子鴨のようについてまわるのだ。
「少し花を摘みに行って参りますわ。」
そう言ってイレーナの側を離れるとどうしたものだろうかと思いながら歩いた。
イレーナに足りないのは自信なのでもう少し自信が持てるようになれば、と思うのだが。
厠から帰ってくると先ほどとは場の雰囲気がだいぶ変わっていた。
「・・・貴族というものを理解していらっしゃらないのよ。」
誰かから発せられたそんな声が響いた。
「領民に混ざって一夜を明かすこともあると聞いた時は卒倒いたしましたわ。」
また同じ声が響いた。
どうやら令嬢たちの中心にいる気の強そうな女性が話をしているらしい。
するとその隣に居た女性が扇で口元を隠しながら言った。
「サロメア様があのような男に嫁がなくて幸運でしたわ。」
サロメアという名を聞いてピンと来た。
セドリックの元婚約者だ。なるほど。サロメアがセドリックの話をし出したのでみんな聞き耳をたてているのだ。
「そのようなこと、言うものではなくってよ。私の代わりに嫁がれた方もいるのですから。」
サロメアはそう言うとチラリとイレーナを見た。
イレーナは何も言えず俯いている。
「まぁ、彼にはお似合いな方なのでしょうけれど」
そう言ってサロメアは笑みを深めた。
どうやらセドリックが言う通りサロメアがイレーナを快く思っていないのはその通りのようだ。サロメアの方が格下なのに随分な態度である。
イレーナはここで何か言い返し威厳を見せなければならない。
しかし、小刻みに震えるばかりで何も出来ないようである。
カテリーナはお腹にグッと力を入れると優雅に見えるように歩きながら、顔に笑顔の仮面を貼り付けた。
「まあ、楽しそうなお話をされていらっしゃるのね。わたくしも仲間にいれてくださいません?」
その言葉に反応したサロメアたちが振り返る。顔には明らかに嫌悪感が乗っている。
「まぁ、失礼な。サロメア様は侯爵令嬢でいらっしゃるのよ。」
取り巻きの一人がそんな発言をする。この場にサロメアより高位の貴族が居ないのを知っていての態度のようだ。まあ、公爵家の嫡男でドラキュリー子爵の儀礼称号を名乗っているセドリックの妻であるイレーナが一番高位なのだが、彼女たちはそれを認めていないようである。
「さようでございますか。私、ラッシースカヤから参りましたカテリーナと申します。リンツ公爵とは親戚関係にあたりますの。」
そう言ってカテリーナが礼を取ると取り巻きの一人が「これだから田舎者は。リンツ公爵の親戚だからって偉いわけじゃないのよ。」と言ったがすぐにサロメアが動きを抑えた。
「ポドルフスキ侯爵家のサロメアと申します。ご無礼お許しください。」
サロメアが青ざめた顔でカテーシーを行った。
その様子を見て取り巻きたちも慌てて名乗り、あいさつをし、カテーシーをした。
「まぁまぁまぁ。田舎者には過分な挨拶ですわ。お直りくださいな。それより、私のはとこ殿の話を聞かせていただけるかしら?貴族というものを理解していないと?」
佇まいを元に戻したサロメアがカテリーナの顔色を伺った。カテリーナとサロメアの目があった。
サロメアはカテリーナが隣国の王太子妃だと理解しているようだ。しかし、セドリックに対してカテリーナがどのような感情を抱いているのかまでは掴みあぐねているようだ。
「わたくしとドラキュリー子爵は考えがあわないようでした。婚約を結ぶ直前で解消となったのは、私にとっても幸運だったと話していただけでございます。まるで、わたくしが被害者のように考えていらっしゃる方が居たようですので。」
にこりと笑いながらそう言うサロメア嬢。カテリーナが隣国の王太子妃だと知りながらそのような事をいうのだから、なかなか胆力のある女性らしい。
「まぁ。そうなの。確かに一方的に被害者認定されると腹立たしいですわよね。」
そうやって肯定してやると明らかにサロメアの顔に安堵の色が広がった。
「でもね、わたくし、セドリックとは親戚なのよ。それにこの場には彼の奥様もおいでなのよ?もう少し考えて行動される事をなさる事ね。」
そう言って笑うとサロメアの顔色が再び悪くなった。美しいシャンパン色のドレスをぎゅっとに握る。
「まぁ、顔色がよろしくなくてよ。ポドルフスキ侯爵令嬢があのような発言をされたのも体調が優れなかったからなのね。わかりますわ。体調が悪いと言ってはいけないと思っている本心がつい口から出てしまいますものね」
カテリーナは更にサロメアに畳み掛けた。
「えぇ。そのようですわ。今日はもうこちらで失礼させていただきます。」
サロメアは取り巻き二人に声をかけてと本当に園遊会から出て行った。
カテリーナはあまり騒ぎを起こしたくなかったが思いがけず大立ち回りを披露してしまった。
これがイレーナのためになったのかはわからない。しかし、馬鹿にされた状態で放置するのが悪手であるということだけはわかる。
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