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22. アレクサンドルとの話し合い
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「さて、何から話そうか。」
アレクサンドルとカテリーナは小さいテーブルを挟んで向かい合って腰掛けた。
アレクサンドルは人払いをすると、そう口火を切った。
「勝手にポランスキに逃げてごめんなさい。」
カテリーナはまず謝った。
とても迷惑をかけたはずである。一国の王太子が隣国に来るなど生半可な手続きでは出来ない。
それをこの短期間で来るとなると、どれだけの人間に迷惑をかけたことか。
そして、アレクサンドルがポランスキに来ている間の仕事はどうなっているのか。
公務に携わっていたからこそ、その大変さがよくわかる。考えただけで眩暈がしそうだ。
「いや、それは、俺も悪かったんだ。もっとやり方があったはずなのに。だいたい、俺が王宮を追い出さなければこんな事にはならなかった。」
「でも、私が王宮から出たからこうやって歩み寄れたのですわ。」
「歩み寄る必要があったのは俺がカテリーナを無視していたからだ。婚約者になった時からちゃんと交流していたら、こんな事にはならなかった。」
「でも、初めから交流していたら・・・」
「交流していたら?」
「これほどまでにアレクサンドル殿下のことを愛おしいとは思わなかった・・・かもしれませんわ。」
「そうかな?」
アレクサンドルは少し首を傾げ驚いたような顔でつぶやいた。
「さぁ、わかりません。この世に「もしも」はないので本当のところはわかりません。でも、アレクサンドル殿下が王妃殿下を嫌い、私を嫌っていたことで見えた景色というのがあるはずです。そして、それが今のアレクサンドル殿下を作っている要素になっていると思うんです。私がお慕いしているのは今の殿下です。だから、多分二人にとって必要なことだったのですわ。」
アレクサンドルはじっとカテリーナを見ながら何かを考えていた。
そうして、少し顔をゆがめるとそっと呟いた。
「もう一度。」
「え?」
「もう一度言ってくれ。」
カテリーナは訳がわからずに言葉を口にした。
「二人にとって必要なことだったのです・・・」
「違う、そこじゃない。」
アレクサンドルが噛み付くように言う。
「お慕いしているのは今の殿下」
そこまで言った時、アレクサンドルは二人の間にあったローテーブルの上に足をつき体を乗り出すようにカテリーナの目の前まで顔を寄せた。
勢いよく飛び出したためか、アレクサンドルの座っていたソファが少し後ろに動き、床を擦って大きな音がした。
手はカテリーナを囲うようにカテリーナの左右のソファの背もたれに置かれている。
カテリーナはアレクサンドルの勢いに押されて言葉を紡げなくなった。
「慕ってくれているのか?さっき愛おしいという言葉も聞こえた気がした。都合の良い妄想かと思ったが・・・」
アレクサンドルと目が合った。
次の瞬間アレクサンドルはカテリーナに口付けをした。
カテリーナは何も言わなかったがカテリーナの目がアレクサンドルへの好意を雄弁に語っていたに違いない。
アレクサンドルは右手でカテリーナの頬を撫でた。
その手が首筋に回り、柔らかく撫でた時、カテリーナはゾワリとして体が少しはねた。
唇はまだアレクサンドルに塞がれたままである。
その時、声が降ってきた。
「この後、パーティに参加しなければならないのに何をしているんだ?」
その声を聞いてやっとアレクサンドルはカテリーナから唇を離した。
アレクサンドルの側近であるウラジーミルが部屋の中に入ってきていた。
「大きな音がしたからアレクサンドルがカテリーナ様に何かされたのかと思ったが」
と言ってウラジーミルはカテリーナを見た。
ウラジーミルはカテリーナの顔を見て「まさかうまくいくとはな」と言った。
アレクサンドルはカテリーナをさらに抱き締めるとウラジーミルに対し「見るな」と言う。
カテリーナは長い間キスで口が塞がれていてまだ頭が働かなかった。少し頭がボヤボヤしていて顔も赤くなっているのがわかった。
「二人とももう少し頭を冷やしたほうがいいな」
そう言うとウラジーミルはスタスタと部屋の中を横切り窓を少し開けた。
外はもう暗くなってきていた。思えば部屋も少し薄暗いかもしれない。
ウラジーミルは手際良く暖炉に火をつけると、その火を使って部屋の中の照明用の蝋燭に火を移していった。
「カテリーナ様は化粧直ししたほうがいい」
と言うとひょいと扉から顔を出し何か伝えるとあらためて部屋の中に戻った。
「出ていかないのか」
アレクサンドルがウラジーミルを睨むが全く効果がないようだった。
「カテリーナ様をリンツ公爵家の控室にお戻ししても良いのでしたら」
ウラジーミルがそう言うとカテリーナを抱きしめるアレクサンドルの腕に力が入った。
「そ、それはならん!」
焦ったアレクサンドルの様子を見てウラジーミルはふぅとため息をついた。
「カテリーナ様の侍女殿をお呼びしました。御髪を整えられた方が良いかと。それと紅も。」
アレクサンドルはまじまじとカテリーナを見ると「あぁ、そうだな」と呟いた。
その後、王宮の侍女が派遣され、髪を整えてくれた。
侍従が「そろそろです」と呼びにきて、アレクサンドルがカテリーナに手を差し出した。
カテリーナはその手を見て、アレクサンドルの顔を見た。
これまでこんな風にアレクサンドルに手を差し出されたことはなかった。
舞踏会でエスコートはされていた。
しかし、アレクサンドルと会うのは入場の扉の前でアレクサンドルから腕を差し出されると言うよりはカテリーナがアレクサンドルの腕に縋っているという感覚だった。
少しでもカテリーナが気を抜いてアレクサンドルのタイミングを逃すと腕を組む事もままならないのではないかと思うような感じだった。それはカテリーナにとってとても疲れることだった。
だからこうやって手が差し出されるだけでとても嬉しくて、思わず心に温かい感情が広がった。アレクサンドルに愛されているという実感が急に襲ってきたような感じだった。
アレクサンドルの手の上に自分の手を重ねる。
「どうしたの?」
アレクサンドルにそう言われて自分が泣きそうになっていることに気がついた。
「あれ、どうしたのかしら。」
そう言った時、瞳から涙がツーッと流れた。
アレクサンドルが不器用に涙を拭ってくれる。
「私、これまでずっと平気だと思っていたんです。こうやって手を差し出されることがなくても平気だと。でも、こうやって手を差し出されるとこんなに嬉しいんだなって思うとなんだか涙が。おかしいですわね。とても嬉しいはずなのに。」
「すまない。こんな当たり前のことを嬉しいと思ってくれるほどずっと蔑ろにしてきたんだな。」
「いえ、これは嬉しい涙ですもの。いい涙ですわ。」
カテリーナはにっこりと微笑んだ。
涙で化粧が剥がれたカテリーナは再び侍女に化粧をし直してもらい、すこし入場の時間を遅くしてもらった。
次にアレクサンドルの手の上に自分の手を重ねる時には心も落ち着き、ただただ幸せな気持ちで心が満たされていた。
そんなカテリーナをアレクサンドルが愛おしそうに見つめていた。
隣国の王太子夫妻は険悪な関係だと聞いていたポランスキの貴族たちは、噂などあてにならないと思いながら二人の様子を見ていた。
アレクサンドルとカテリーナは小さいテーブルを挟んで向かい合って腰掛けた。
アレクサンドルは人払いをすると、そう口火を切った。
「勝手にポランスキに逃げてごめんなさい。」
カテリーナはまず謝った。
とても迷惑をかけたはずである。一国の王太子が隣国に来るなど生半可な手続きでは出来ない。
それをこの短期間で来るとなると、どれだけの人間に迷惑をかけたことか。
そして、アレクサンドルがポランスキに来ている間の仕事はどうなっているのか。
公務に携わっていたからこそ、その大変さがよくわかる。考えただけで眩暈がしそうだ。
「いや、それは、俺も悪かったんだ。もっとやり方があったはずなのに。だいたい、俺が王宮を追い出さなければこんな事にはならなかった。」
「でも、私が王宮から出たからこうやって歩み寄れたのですわ。」
「歩み寄る必要があったのは俺がカテリーナを無視していたからだ。婚約者になった時からちゃんと交流していたら、こんな事にはならなかった。」
「でも、初めから交流していたら・・・」
「交流していたら?」
「これほどまでにアレクサンドル殿下のことを愛おしいとは思わなかった・・・かもしれませんわ。」
「そうかな?」
アレクサンドルは少し首を傾げ驚いたような顔でつぶやいた。
「さぁ、わかりません。この世に「もしも」はないので本当のところはわかりません。でも、アレクサンドル殿下が王妃殿下を嫌い、私を嫌っていたことで見えた景色というのがあるはずです。そして、それが今のアレクサンドル殿下を作っている要素になっていると思うんです。私がお慕いしているのは今の殿下です。だから、多分二人にとって必要なことだったのですわ。」
アレクサンドルはじっとカテリーナを見ながら何かを考えていた。
そうして、少し顔をゆがめるとそっと呟いた。
「もう一度。」
「え?」
「もう一度言ってくれ。」
カテリーナは訳がわからずに言葉を口にした。
「二人にとって必要なことだったのです・・・」
「違う、そこじゃない。」
アレクサンドルが噛み付くように言う。
「お慕いしているのは今の殿下」
そこまで言った時、アレクサンドルは二人の間にあったローテーブルの上に足をつき体を乗り出すようにカテリーナの目の前まで顔を寄せた。
勢いよく飛び出したためか、アレクサンドルの座っていたソファが少し後ろに動き、床を擦って大きな音がした。
手はカテリーナを囲うようにカテリーナの左右のソファの背もたれに置かれている。
カテリーナはアレクサンドルの勢いに押されて言葉を紡げなくなった。
「慕ってくれているのか?さっき愛おしいという言葉も聞こえた気がした。都合の良い妄想かと思ったが・・・」
アレクサンドルと目が合った。
次の瞬間アレクサンドルはカテリーナに口付けをした。
カテリーナは何も言わなかったがカテリーナの目がアレクサンドルへの好意を雄弁に語っていたに違いない。
アレクサンドルは右手でカテリーナの頬を撫でた。
その手が首筋に回り、柔らかく撫でた時、カテリーナはゾワリとして体が少しはねた。
唇はまだアレクサンドルに塞がれたままである。
その時、声が降ってきた。
「この後、パーティに参加しなければならないのに何をしているんだ?」
その声を聞いてやっとアレクサンドルはカテリーナから唇を離した。
アレクサンドルの側近であるウラジーミルが部屋の中に入ってきていた。
「大きな音がしたからアレクサンドルがカテリーナ様に何かされたのかと思ったが」
と言ってウラジーミルはカテリーナを見た。
ウラジーミルはカテリーナの顔を見て「まさかうまくいくとはな」と言った。
アレクサンドルはカテリーナをさらに抱き締めるとウラジーミルに対し「見るな」と言う。
カテリーナは長い間キスで口が塞がれていてまだ頭が働かなかった。少し頭がボヤボヤしていて顔も赤くなっているのがわかった。
「二人とももう少し頭を冷やしたほうがいいな」
そう言うとウラジーミルはスタスタと部屋の中を横切り窓を少し開けた。
外はもう暗くなってきていた。思えば部屋も少し薄暗いかもしれない。
ウラジーミルは手際良く暖炉に火をつけると、その火を使って部屋の中の照明用の蝋燭に火を移していった。
「カテリーナ様は化粧直ししたほうがいい」
と言うとひょいと扉から顔を出し何か伝えるとあらためて部屋の中に戻った。
「出ていかないのか」
アレクサンドルがウラジーミルを睨むが全く効果がないようだった。
「カテリーナ様をリンツ公爵家の控室にお戻ししても良いのでしたら」
ウラジーミルがそう言うとカテリーナを抱きしめるアレクサンドルの腕に力が入った。
「そ、それはならん!」
焦ったアレクサンドルの様子を見てウラジーミルはふぅとため息をついた。
「カテリーナ様の侍女殿をお呼びしました。御髪を整えられた方が良いかと。それと紅も。」
アレクサンドルはまじまじとカテリーナを見ると「あぁ、そうだな」と呟いた。
その後、王宮の侍女が派遣され、髪を整えてくれた。
侍従が「そろそろです」と呼びにきて、アレクサンドルがカテリーナに手を差し出した。
カテリーナはその手を見て、アレクサンドルの顔を見た。
これまでこんな風にアレクサンドルに手を差し出されたことはなかった。
舞踏会でエスコートはされていた。
しかし、アレクサンドルと会うのは入場の扉の前でアレクサンドルから腕を差し出されると言うよりはカテリーナがアレクサンドルの腕に縋っているという感覚だった。
少しでもカテリーナが気を抜いてアレクサンドルのタイミングを逃すと腕を組む事もままならないのではないかと思うような感じだった。それはカテリーナにとってとても疲れることだった。
だからこうやって手が差し出されるだけでとても嬉しくて、思わず心に温かい感情が広がった。アレクサンドルに愛されているという実感が急に襲ってきたような感じだった。
アレクサンドルの手の上に自分の手を重ねる。
「どうしたの?」
アレクサンドルにそう言われて自分が泣きそうになっていることに気がついた。
「あれ、どうしたのかしら。」
そう言った時、瞳から涙がツーッと流れた。
アレクサンドルが不器用に涙を拭ってくれる。
「私、これまでずっと平気だと思っていたんです。こうやって手を差し出されることがなくても平気だと。でも、こうやって手を差し出されるとこんなに嬉しいんだなって思うとなんだか涙が。おかしいですわね。とても嬉しいはずなのに。」
「すまない。こんな当たり前のことを嬉しいと思ってくれるほどずっと蔑ろにしてきたんだな。」
「いえ、これは嬉しい涙ですもの。いい涙ですわ。」
カテリーナはにっこりと微笑んだ。
涙で化粧が剥がれたカテリーナは再び侍女に化粧をし直してもらい、すこし入場の時間を遅くしてもらった。
次にアレクサンドルの手の上に自分の手を重ねる時には心も落ち着き、ただただ幸せな気持ちで心が満たされていた。
そんなカテリーナをアレクサンドルが愛おしそうに見つめていた。
隣国の王太子夫妻は険悪な関係だと聞いていたポランスキの貴族たちは、噂などあてにならないと思いながら二人の様子を見ていた。
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