【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした

珊瑚

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コンコン……。

控えめなノックから数秒、自室のドアがゆっくりと開かれた。
体を起こしたアイリーンは、そっと様子を伺う。
部屋に入ってきたギルバートは、少し顔色が悪いように見える。


「病み上がりに押しかけて申し訳なく思っている。だが、君が目を覚ましたとの知らせを受けて、」
「ギルバート殿下!!!!!」

起き上がって挨拶をしようとしたアイリーンを軽く片手を上げて制し、頭に響かない様にと気を使っているのか、いつもより気持ち小さめで穏やかな口調でギルバートが話し始めた途端、ドタバタと音を立てながら侯爵夫妻が現れた。


「ようこそお越しくださいました、殿下。娘はもう、この通り元気で…………アイリーン、どうしてお前はまだベッドの中にいるんだ!!今すぐにそこから出てギルバート殿下にご挨拶を……」
「僕が止めました。病み上がりの人間にその様なことを強要するのはどうかと。」
「そ、それは失礼いたしました、殿下。殿下はお優しいのですね。そ、そうだ、殿下。もうすぐこちらにクラリスがまいります。今朝こちらにいらっしゃるとのお知らせがあってからあの子はそれはそれは楽しみにしておりまして。」
「えぇ、えぇ!そうですのよ!大事な時期を台無しにしたアイリーンのことは殿下も見たくないでしょう?それよりも婚約者のクラリスのお話の方がきっと聴きたいに決まっていましたわね
!まぁ私たちったら気が利かない。」

そうこういいながら、アイリーンを貶める発言と、クラリスがいかに素晴らしいかと言うことを、アイリーンのいる前で熱弁し始めた侯爵夫妻を、アイリーンは自嘲的な笑いを顔に貼り付けたまま聞き流すしかなかった。
いくら腑が煮え繰り返りそうなほどのことを言われていても今は王族の前。騒ぎを起こすことは許されない。
ふと見上げたギルバートの表情はぴくりとも動かず、『冷たくて恐ろしい』と評されるに相応するだろう。だが、彼の目の下にはうっすらとだが、化粧でも誤魔化せなかったのであろう隈が見て取れた。
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