【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした

珊瑚

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それからしばらく気まずい空間は続いた。――侯爵夫妻は気がついていないかもしれないが。
いはく、感情の起伏が乏しい、優秀なことを気にかけていて性格が悪い、性根が捻じ曲がっている、そんなアイリーンにクラリスはいつも泣かされていた、などそれはそれは多岐にわたった。
いったいクラリスと侯爵夫妻の『もうすぐ』とはなんなのかと思われるほどの時間続けられるその全てに、ギルバートは表情ひとつ変えず、ただ「そうか。」とだけ返していた。アイリーンがさすがにショックで俯いていると、何やら視線を感じたような気がした。そちらを向いてみると目が合ったギルバートはわずかに目を見張ると、何やら逡巡するように口を開閉する。


「…………君は…………」

ギルバートがそう口をひらいた瞬間、パタパタと足音が聞こえてきた。


「…………いや、なんでもない。」

彼が諦めたように小さくつぶやいてアイリーンから視線を外したのと、勢いよく自室の扉が開かれたのはほぼ同時だった。


「ギルバート様!!!ようこそお越しくださいました!わたしに会いに来てくれたなんて嬉しいわ!こんな辛気臭い部屋早く出て、ティールームでお茶でもいかがですか?」

そう言いながらクラリスはさっさとギルバートの手を取って部屋から引きずって行こうとする。
侯爵夫妻もせっかく婚約者同士が一緒にいるのだから、とクラリスに加勢していた。
ギルバートはまだ何か言い足りないことがあったのか、アイリーンの方をちらちら見ながら困った顔をしている。
そんな彼の様子にいち早く気がついたクラリスは、ぱっと自然にギルバートがアイリーンに背を向ける立ち位置に誘導した。


「お姉様ったら、何を思ったのか大事な婚約式の直前に事故に合われて……。お姉様、本当にお可哀想。」

それは一見すると語尾に音符でもつきそうなほど機嫌のよさそうな声に聞こえた。
そしクラリスは、アイリーンにしか見えない位置で、その可愛らしい顔からは想像もつかないような悪どい笑顔を見せた。それはまるで、企みが成功した小さな子供のように。

彼女にとってアイリーンの事故は、棚からぼたもちが落ちてきたようなものだろう。その笑顔を見せるのにも納得が行く。

だが何故か、その笑顔は見覚えがあるように思えたのだった。
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