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「どうしてそんなことを突然……。」
「君は、スチュアート侯爵家と共に失墜するには惜しいと思ったからだ。僕個人の感情的にも、公人としても、だ。……失礼を承知で、だが。……君の両親の態度はお世辞にも褒められたものではない。」
彼の何重にもオブラートに包んだ物言いにも、アイリーンは彼が言わんとしていることを正確に汲み取った。
両親が自分を道具としてしか見ていないという事。愛されてなどいなかったという事。彼女自身も薄々勘づいていたものの、深く追求せずに、疑問に蓋をしてがむしゃらに頑張ることで気付かないふりをしてきたこと。アイリーンがギルバートの婚約者では無くなった途端にいっそ鮮やかなほどの手のひら返しを見せた彼らの態度を見ていてなお、明確に言葉にしなかったのは彼なりの精一杯の優しさだろう。
ギルバート個人の感情を無視したとしても、国を守る為に彼はクラリスと結婚する訳にはいかない。彼が心から望むアイリーンとの結婚が叶わなくとも、少なくとも国母にふさわしい器の人間と結婚せねばならないからだ。
だが、婚約破棄には相応の理由が必要であり、それは確かに存在するが、侯爵家にそれを追求すれば失墜は免れず、アイリーンとの結婚は勿論望めなくなる。それは十中八九決まりきった未来だが、ギルバートの主張が認められ、侯爵家有責になったとしても、婚約破棄の根拠としては弱く、王家有責になったとしても、だ。
最早侯爵家の没落は変えようがない未来であった。
――でも。
それならば何故ギルバートは改めてアイリーンに内心を吐露したのだろう?
どうして自分一人にだけ現在置かれている王家と侯爵家の状態を改めて説明した?
先程見た国王夫妻の様子が頭を過ぎった。
改めて目の前のギルバートの様子を伺う。
じっと静かにアイリーンの次の言葉を待っている彼を信じたい、と思った。
心の奥にしまい込んで、報われないまま一生抱えるつもりだった恋心を信じてみようと思った。
そして何より、自分をこれまでも、これからも大切にしてくれる人たちを信じたいと思った。
「殿下、」
アイリーンは真っ直ぐギルバートの目を見つめ返すと、このまま心にしまっておこうか悩んでいた事を伝える事に決めた。
「どうしてそんなことを突然……。」
「君は、スチュアート侯爵家と共に失墜するには惜しいと思ったからだ。僕個人の感情的にも、公人としても、だ。……失礼を承知で、だが。……君の両親の態度はお世辞にも褒められたものではない。」
彼の何重にもオブラートに包んだ物言いにも、アイリーンは彼が言わんとしていることを正確に汲み取った。
両親が自分を道具としてしか見ていないという事。愛されてなどいなかったという事。彼女自身も薄々勘づいていたものの、深く追求せずに、疑問に蓋をしてがむしゃらに頑張ることで気付かないふりをしてきたこと。アイリーンがギルバートの婚約者では無くなった途端にいっそ鮮やかなほどの手のひら返しを見せた彼らの態度を見ていてなお、明確に言葉にしなかったのは彼なりの精一杯の優しさだろう。
ギルバート個人の感情を無視したとしても、国を守る為に彼はクラリスと結婚する訳にはいかない。彼が心から望むアイリーンとの結婚が叶わなくとも、少なくとも国母にふさわしい器の人間と結婚せねばならないからだ。
だが、婚約破棄には相応の理由が必要であり、それは確かに存在するが、侯爵家にそれを追求すれば失墜は免れず、アイリーンとの結婚は勿論望めなくなる。それは十中八九決まりきった未来だが、ギルバートの主張が認められ、侯爵家有責になったとしても、婚約破棄の根拠としては弱く、王家有責になったとしても、だ。
最早侯爵家の没落は変えようがない未来であった。
――でも。
それならば何故ギルバートは改めてアイリーンに内心を吐露したのだろう?
どうして自分一人にだけ現在置かれている王家と侯爵家の状態を改めて説明した?
先程見た国王夫妻の様子が頭を過ぎった。
改めて目の前のギルバートの様子を伺う。
じっと静かにアイリーンの次の言葉を待っている彼を信じたい、と思った。
心の奥にしまい込んで、報われないまま一生抱えるつもりだった恋心を信じてみようと思った。
そして何より、自分をこれまでも、これからも大切にしてくれる人たちを信じたいと思った。
「殿下、」
アイリーンは真っ直ぐギルバートの目を見つめ返すと、このまま心にしまっておこうか悩んでいた事を伝える事に決めた。
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