お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚

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『頑張れよ~』と、嘯くようにそれだけ口にすると、くるりとヘリオスは、ファルコに背を向けて去っていく。

「ヘリオス兄様、待っ……」

ファルコの静止もむなしく、部屋にはパタンと小気味良い音がひびく。

「一体、何を伝えたかったって言うんだ…………?」

静かな部屋に、ファルコの困惑がぽつりと落とされた。


夜会の日はあっという間にやって来た。兄妹揃って出席する筈だったのだが、直前になってフェリアが体調をくずしてしまい、結局、ファルコは一人で出席していた。普段は流れるままにしている短いシルバーブロンドはしっかりかき上げられ、その冷たいようにも見える美貌が現になっている。

(ヘリオス兄様は……どうやら来られていないようだ。)

あれだけ意味深にたき付けるようなことを言ったのだから、彼も出席するのだろうとふんでいたが、どうやら違ったらしい。とりあえずヘリオスを待ってみながら会場を見て回っている内に、あらかた今回の目的だった商談
を済ませていたため、彼が来ないとなると、この後の時間がポッカリ空いてしまう。どうせなら折角もらった情報だ。セライナ子爵令嬢に接触を試みてみようか。結局、ヘリオスの思惑通りになっているようで、なんだか釈然としない。とりあえず会場を見回して彼女を探してみよう………………。

ドンッ

「きゃっ、失礼しましたわ。」

視線を下げるとそこには、うるんだ赤色の瞳で見上げる少女が居た。

「申し訳ございません……。お召し物を汚してしまいましたわ」
「いえ、大した事ではございませんのでお気になさらず。」

手に持っていたシャンパンをほんの少し、ファルコの服にかけてしまったのだ。
少女がその手に持っていたハンカチでふくような仕草をしながら、余計な所までベタベタと触られているような気がして、サッと身を引いた。
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