【R18】私が後輩のセフレに沼ってから別れるまでのお話。

志貴野ハル

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第6章

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 降ったり止んだりを繰り返す不規則な雨はいよいよ傘が必要なくらい強くなって、雨宿りがてら近くの大型書店に避難した。
 カフェが併設された書店の中を時間潰しにぶらぶら歩く。
 そういえば最近はめっきり本を読まなくなった。昔は漫画も小説も気になるものがあれば手に取っていたのに、どうしてだっけ。
 作家の名前で五十音順に書棚を眺めながら、なんとなく中学と高校の頃に好きだった作家の名前を見つけて、昔、単行本で読んだ本が文庫化していたことを知る。
 適当に開いた箇所を数行読んで「やっぱり好きだな」と再確認して、気づいたらレジに持っていっていた。
 支払いを終えて外に出ようと出入り口方面を見ると、ガラス張りの店内から見える外は日が暮れたように真っ暗で、雨はさっきよりも強くアスファルトを叩きつけていて、本よりも傘を買うべきだったかと心の中で苦笑する。
 雨も止みそうにないしお昼ご飯もまだだったから、隣のカフェへ入ってミックスサンドとカフェオレを注文した。
 卒業式ではあったけど、カレンダー上では平日の月曜日だからか思ったより人は少なく、私以外の客が三人ほど、窓際のカウンター席やボックス席に散らばるように座っている。
 その中でカフェと書店の境目の、窓際のカウンター席に座った。
 カフェオレを一口飲んで、今さっき買った本を取り出す。
 本棚の前で手に持っていたときは懐かしさで読むのが楽しみだったのに、場所を変えるとそんな気持ちはすっかり薄れて、気づけば本よりもスマホを触っていた。
 厚い窓ガラスを突き破ってこちらまで入ってきそうなくらい勢いのある大粒の雨をときどきぼんやり眺めながら、天気予報のアプリを開く。一時間後には小降りになると書いてあるけど、この降りようでは信憑性に欠けた。
 取り止めのないショート動画をスワイプするのに夢中になって、思い出したように少し乾いてしまったサンドイッチに口をつける。
 特に美味しいとも不味いともいえないありきたりな味で、口の中の水分が奪われていくのを冷めかけたカフェオレで補った。
 穏やかなテンポのピアノジャズと店内の薄暗さのせいで、少し眠くなっていると書店の出入り口から一組の男女が入ってきた。
 長時間雨に降られたのか、暗めの茶色の長い髪から雫が落ちるくらいずぶ濡れになった彼女のほうは、入ってくるなり、大きめの声で天気の文句を言っていて、一瞬、周りの注目を集めた。だけど店内の静かな雰囲気を察知するとすぐに口をつぐんでバツが悪そうにうつむいた。背の高い男の人はそんな彼女をからかうような目で見ている。

 ——ユウマくんだった。

 ユウマくんが、女の子と一緒にいるのは初めて見た。サークルでは女の子と話すことはあってもいつも数人のグループで固まっているから、二人きりで女の子と会っているというのは、今まで私以外になかった。
 並んで店内を進む二人を目で追う。これだけ目を逸らさずにじっと見ても、ユウマくんに気づかれなかった。目は合った気がしたのに……。気づいていたけどあえて知らないフリをしたのかもしれない。
 相手の女の子は誰なんだろう。サークルにはいなかった顔だ。同期の友人だろうか。もしくは同じバイト先の子で、向かう途中でたまたま会っただけかもしれない。たまたま会って雨に降られて、近くにあった本屋に避難してきただけ。自分にそう言い聞かせてみるけど、心臓が異常なほど強く波打って指先から体温が抜けていく。
 ユウマくんが、私以外の女の子と話していた。笑いかけていた。たったそれだけだってわかっていても、心臓がビリビリに破れた気分になった。
 たとえ数人のグループでも女の子と話しているところを見るのが嫌で、同じ学部でも今まで会わないように、一年生の必修講義と被らないようにしながら自由単位を取っていたのに。
 実際にそういう場面を見てしまうと、思った以上に辛い。自分がこんなに弱くて独占欲の強い女だと思わなかった。
 だって私は、ユウマくんと一度もセックスなしで会ったことがない……。


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