【R18】私が後輩のセフレに沼ってから別れるまでのお話。

志貴野ハル

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第4章

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「……痛くなかった?」

 うつ伏せで枕に顔を突っ込んでいる私にユウマくんが話しかける。だけどあんな身体の隅々まで暴かれた恥ずかしさで顔は見れないし、痛くないし、むしろ気持ち良かったんだけど、正直に返していいかわからない。

「先輩? 怒ってる?」
「………………大丈夫」

 もごもごと絞り出した言葉はこれだけ。もっとなんか感想とか言ったほうがいいんだろうか。だけど今までのことを考えると、目を合わせたら絶対にからかわれる気がした。
 ユウマくんが、ふぅ……と息を吐いて私の頭を撫でた。びっくりして頭を動かすと、困ったような苦笑いを浮かべている。

「……ごめんなさい」

 突然、ユウマくんの口から絶対に出てこないような言葉が出てきて目を丸くした。

「え、怒ってないよ……」
「でもさっき、こっち見てくんなかったし」
「や、それは……なんか、恥ずかしいからで」
「恥ずかしいの?」
「だって、あんなの、したことない……」

 結局、全て白状してしまった。だってこんなにしおらしくしてるユウマくんは今まで見たことがなかったから。どうしてか、こっちがいじめているような、悪いことをしてる気分になる。

「あぁもう、……ちょっと寝よっか、休憩」
「うん」

 身体の下にあった布団を引っ張って、ユウマくんにかける。同じようなタイミングで部屋の電気が消されて真っ暗になった。

「ねえ、先輩」
「……ん」
「ベッドの中、寒い」
「エアコン強くする?」
「違う」

 もぞもぞと隣の身体が動いてユウマくんが頭の下に腕を回してきた。抱き枕みたいに抱っこされて、びっくりしすぎて固まってしまう。

「……いつも先輩のベッドで寝てたから、なんか広くて落ち着かない」
「あ、あぁそっか、うち、シングルだから」
「…………」

 ユウマくんは何も話さなくなってしまった。耳をそば立てて少し待ってみると規則正しい寝息が聞こえてくる。疲労感も相まってそれを聞いていた私の瞼もだんだん重くなってきた。


 目が覚めるとユウマくんはまだ裸のままで寝息を立てていた。こういうホテルは窓を隠しているから、どれくらい眠っていたのかわからない。いつも以上に重だるい体を起こしてベッドから足を下ろすと、下腹部が引き攣るように疼いた。
 布切れみたいに床に転がっていたバスタオルを身体に巻き付けて、ガラステーブルに置いていたスマホで時間を確認する。午後三時前だ。午前十時にここへ来たと思ったから、五時間もいたのかと驚く。そのうち、どれくらいセックスに費やしたのだろう。

「——何時?」

 背後から声をかけられて振り向くと、ユウマくんが仰向けのまま顔だけをこちらに向けていた。

「……三時前」
「あー、どおりで腹減ったね」

 ピッという電子音と共に、部屋が明るくなる。

「外出ようか」
「えー、めんどくさい……、ここで食べよう。なんか注文できたはず」

 いつもの口調に戻っている。数時間前のしょんぼりしたあの態度はなんだったんだろう。ベッドからのそのそと起きるユウマくんにリモコンを手渡すと、裸のままぽちぽちと画面を操作しながら目をしかめている。

「……全然見えねえ。俺、メガネどこやったっけ」
「あ、ここにあるよ。本当に目悪いんだね」

 ガラステーブルからメガネを取って、ユウマくんに手渡す。

「うん、もう昔から。つーか先輩、よく立って歩いてられるね。下半身、大丈夫?」
「ううん、ダメ、ガクガクしてる」
「こっち座りなよ」

 ユウマくんが笑いながら体をずらして、空いたスペースをぽんぽんと叩く。
 結局、食事もホテルで済ませて、お互い汗と体液でベタベタになった身体をもう一度シャワーで流した。
 初めて丸一日以上、ユウマくんと過ごしたのが嬉しくて舞い上がりそうになる。それをを抑えて脱衣所で服を身につけて急いで髪を乾かした。
 一足早く服を着替え終えていたユウマくんは、ソファでスマホをいじっていた。

「ごめん、お待たせ」
「んー……先輩ー、帰るのめんどくさくなってきた」

 スマホから顔を上げずにユウマくんがそんなことを言い出す。

「へ?」
「泊まろうよ」

 顔を上げたユウマくんと目が合ってたじろぐ。

「え? あ……、でももう、全身くたくただからできないよ」
「なに、人を性欲の塊みたいなこと言って失礼な」

 ……違うのか。心外みたいな顔をして否定してくるユウマくんがおかしくて笑ってしまった。

「……いいよ、泊まろっか。明日も特に予定ないし。あ、でもユウマくん、バイトは?」
「明日の夜から」

 平静を装うけど、内心、飛び上がるくらい嬉しい。たとえ「私と一緒にいたい」じゃなく「帰るのがめんどくさい」という理由でも、一緒にいられるならもうなんだっていい。



「へー、一回精算しなくていいんだ。こんなに長くここにいたことないから知らなかった」

 このまま泊まれるものなのかと調べて、テレビに表示されるインフォメーションを見ながら呟く。

「来たことはある?」
「……それは、まあ、付き合ってる人はいたから」
「あぁ」

 たぶん、頭の中で同じ人物を思い浮かべたんだろう。私は少し気まずくなったけど、ユウマくんはなんとも思っていないような顔をして、私からリモコンを奪い取るとテレビの方を向き出した。
 このまま泊まれるとわかると、ユウマくんはついさっき着替えたばかりの服を脱いで新しいバスローブに着替え始めた。誰よりもくつろぐ気満々だ。
 私もさっきは急いでシャワーを浴びたから、ゆっくりお風呂に入りたい。
 
 何時間もいるとだんだんとこの場所にも慣れてきて、私の部屋にいるときと同じように映画を流しながらお酒を飲むことになった。ユウマくんが飲み会以外の場所でお酒を飲むのは珍しくて、いつもより笑顔が増えて饒舌になる。

「先輩とするの、めちゃくちゃ気持ちよくて依存症みたいになってんの。どうしようかと思う」
「私のせい?」
「うん。毎日したい」
「あはは、性欲つよー」
「ねえ、毎日行っちゃダメ? 毎日会いたい。なんなら先輩のこと飼いたい。俺、小学生の頃、飼育係だったから世話うまいよ?」
「えー、何それ、ペットか。小学生って金魚とか? ていうか、ユウマくん酔ってるね?」
「……ねー、やばいでしょ。普通引くよね。俺も今言っててやべえって思った」

 そう言っておきながら、全く悪びれる様子もなく笑う。
 ユウマくんはたまに、ゼロか百かみたいな極端な物言いをすることがあった。そしてそれは冗談なのか本気なのか、区別のつかないニュアンスで話されるから、私はどう返していいかわからなくなる。
 それに「飼う」なんて言葉は、好意を持っている相手には言わない気がする。対等ではなく、下に見られている。

「……飼ってくれるならさ、お酒は常備しといて欲しいな」
「そんくらい、全然いいよ」

 軽々しい返事に、本気度は見えない。
 やっぱり私はそういう立ち位置なんだと改めて認識して、でもあまり嫌じゃないのはなんなんだろう。今までだったら泣きそうになるくらいへこんでいたはずだ。……私もだいぶ酔っ払っているのかもしれない。
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