とある騎士に見初められたドラゴンの話

おにぎり1000米

文字の大きさ
3 / 3

しおりを挟む

「は?」
 もちろん俺の口からはそんな声しか出てこなかった。
「……ドラゴン? ドラゴンだって? そんなことあるはずないだろ。俺は人間だ! ただの農民なんだから……」

 何秒かあとにやっと反論が出てきたが、俺がわめきはじめると、男は今度は唇に人差し指をあてる。
「もう夜も遅い。静かに」
「……だ、だけどそんな……そんな馬鹿なこと……」
「いや。ドラゴンは特殊な生き物だ。特に現代では、ドラゴンの姿のまま生きるものはめったにいない。この宝石のような卵から孵った直後こそドラゴンの形をしているが、近くに人間や動物がいると、その種族の幼体に変態する」
「で、でも……俺は生まれたときから人間で……親だって……」

 男は奇妙な表情をうかべて俺をみた。
「ほんとうにそうか? おまえの両親は? 生まれたときのことを聞いているか?」

 実は俺はそう問われる前から答えを知っていたのだ。俺は森のばあちゃんの家の前に、どこかの旅人が捨てて行った赤ん坊だった。そして生まれてまもない赤ん坊を病気で亡くしたばかりの両親が、俺を自分の子として育ててくれたのだ。両親が死んだあと、俺はばあちゃんからそのことを聞いた。

「だからといって俺がドラゴンだなんて、そんな……」
「その宝石がおまえの尻から出てきたのが、その証拠だ」
「そんな馬鹿なこと、あるはずない」
「そのまさかだ。俺たちがダンジョンに遣わされたのは、ほんとうはこれをさがすためだった」

 それから男に「これは門外不出だ」と口止めされた上で聞かせられたのは、この国の王家とドラゴンにまつわる、とんでもない話だった。

 王家には代々、たったいま俺が産んだものにそっくりな宝石が秘宝として伝えられている。実はこれは、王家に嫁いだドラゴンが産んだ卵なのだ。一世代に一度、その卵を孵して他の王族の子と共に育て、王家の末子の伴侶として迎え入れるのが、古来からの習わしなのだという。

 そんなのありなのか。焦った俺に男は辛抱強くいいきかせた。人間の姿をしたドラゴンは実際のところ、人間そのもので、いわゆるドラゴンの姿に戻ることもないし、翼が生えたり火を吹いたりすることもなく、寿命もふつうの人間とほぼおなじらしい。ただ少しだけちがうところはある。病気にかかりにくかったり、妙な特技をもっていたり。

 しかしもっとも大きなちがいは、ごくたまに、俺がいまやったような卵を産む、ということだ。伴侶とつがったあとに生まれた卵であれば、それはいつか孵るのだという。もっともそれにはいくつか条件がある。産んだ者が生きているあいだは、その卵は孵化しない。もうひとつわかっている条件は、卵のすぐ近くで他の生き物の出産があることだ。

「王家にあった最後の卵は、王弟殿下の奥方の出産にあわせて孵化させるはずだった。ところが手違いがあった。奥方の部屋の窓辺にツバメの巣があったのだ。卵はいつのまにか孵化して、ツバメになって飛んでいってしまった……」

 俺の口は呆れてあけっぱなしになっていたが、そこまで聞いたとき、ふと思いつくことがあった。
「じゃあ湿布が金に変わったのもそのせいか? それに流行病で、俺だけさっさと治ってしまったのも――」
「湿布が金?」

 しまった。これは誰にもいっちゃいけないことだったのに。俺は裸の体をすくませて、とんでもないことになったと思った。つまり王家はドラゴンの卵をほしがっているということで、俺は卵が産めることをこの男――都から来た騎士に知られてしまった。この上、何かが金に変えられたりするとわかったら――

「待て。怖がるな」
 先回りするように男がいった。
「おまえがドラゴンだとしても、この石を俺にくれれば何もしない。ダンジョンで発見したと王に伝えて、おまえはいままで通りこの村で――いや、それよりもっといい方法がある」
「もっといい方法?」
 男は体をおこし、俺の肩に両手をおいて、そっと抱きおこした。
「おまえが俺の伴侶になればいい。そうすれば王家の秘宝が無事に戻り、王の末子がドラゴンを娶る習わしも完了して、何もかも丸くおさまる」
 は?
「ちょっと待て」
 俺はあわてて口をはさんだ。

「俺がおまえの伴侶になる? ドラゴンを娶る習わし?」
「そうだとも。俺は王の末息子、第六王子のデュランだ」

 はあ?――と思ったその瞬間、俺は男の顔が何に似ているのかに思い至った。貨幣に刻まれた昔の王様の顔だ。
 男は素っ裸のまま胸を張った。

「秘宝――ドラゴン――がツバメではなく人間の赤子になったなら、いつか俺が娶ったかもしれない。それもかなわぬことになった矢先、この村の近くでダンジョンがみつかって、卵をさがせという密命がくだされた。しかしドラゴンがここにいたのなら、これも運命というもの――」

「待って待って待って! 待ってくれよ!」
 俺はもっとあわてて叫んだ。
「そんなの聞いてない! 俺はべつに……そんなつもりじゃ……」
 男――デュラン王子は平然とした顔で俺をみた。
「ではおまえは、俺に無理強いされて抱かれたと?」
「そ、そんなわけじゃないけど……」

 それにあんたのアレはでかくて気持ちよかったし、湿布や張り型とおなじだったら、気持ちよくないとあの石は出てこなかっただろうし――と俺は思ったが、それはいわずにこれだけ答えた。

「あのろくでなしの冒険者なら媚薬でもなんでもいやだったけど、あんたはべつに……いやじゃないけど、でもそんな早まって……伴侶だなんて気の迷いを……」
「早まってなどいないし、気の迷いでもない」
 貨幣に刻まれているのとおなじ顔が堂々と宣言する。

「俺は生まれてこのかたずっと、俺のものになるドラゴンを求めていたのだ。それにおまえは俺とつがってこの卵を産んだ。俺以前におまえは卵を産んだことがあるか?」
「あるわけないだろ」
 俺はほとんどふてくされながら答えた。
「こんなのが自分の身体から出てくるなんて、いまはじめて知ったんだから」
「では俺はおまえに卵を産ませることができたはじめての男というわけだ。俺を信じろ」

 どうしてそんなに自信たっぷりでいられるのか俺にはさっぱりわからなかったが、拒否するのは得ではないように思えた。それで俺は、この男――いまは王国の騎士団長になったデュラン王子と共に都へ行くことになったのだ。

 そのあとのことは吟遊詩人が歌ったり瓦版に書かれたりしているから、表向きの話ならみんなどこかで聞いたことがあるはず。つまり王子の自信たっぷりな言葉とは裏腹に、都へ行く途中も行ったあともいろいろなことがあったってことだ。
 それでもしまいには、彼は俺にとってかけがえのない存在になり、俺はあれから何年もたったいまも、こうして騎士団長の伴侶として都に住んでいる。宝物庫の奥には俺が産んだ宝石がひとつひとつ箱に入れてしまってある。

 もしこれをホラ話だと思うなら、俺が死んだあとに試してみるといい。ドラゴンの卵を孵化させるコツは、子供が生まれそうな動物のそばに置いておくことだ。一個くらい猫やツバメになったところで、怒られることはないだろう。なにせたくさんあるからな。




(おしまい)

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

声なき王子は素性不明の猟師に恋をする

石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。 毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。 「王冠はあんたに相応しい。王子」 貴方のそばで生きられたら。 それ以上の幸福なんて、きっと、ない。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...