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第2部 ハウス・デュマー
20.幻日の犬(後編)
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ひとつ。ふたつ。みっつ……。
コンドームがベッドのそばに落ちている。俺は眠い頭でその数を数えていた。こんなに?
藤野谷が俺の視界を覆うようにベッドを降りた。残りをすばやく見えないところへ押しのけてしまう。
俺は手首をひたいにあてた。熱っぽさはまだぼんやり俺を覆っているが、あの激しい衝動は消えていた。みると俺の下にバスタオルが敷いてある。窓の外は暗かった。
俺はぼんやりとベッドサイドの明かりに浮かぶ藤野谷の裸体をみつめていた。下着をつけただけの裸体はモデルにするには最適だろう。急に描きたいという強い衝動をおぼえた。いま俺の眼に映っているこの像は俺だけのもので、俺が描かなければならないのだ。描けば俺の中にとどめておけるのかもしれない。
俺の運命。
「サエ」
藤野谷は水のボトルとグラスを持って俺のそばにかがみこんでいる。起き上がろうとしても力が入らず、どうすればいいのかもわからない。藤野谷の腕が回って俺を抱きおこし、俺は彼の肌から漂う匂いにうっとりする。
今だけでよかった。一度だけでも――こんなヒートのどさくさにまぎれたような形であっても、藤野谷を独占できて満足だった。ずっと長い間つづいた渇きをうるおされたような気がした。どれほど渇いていたのか、自分でも知らなかったくらいに。
藤野谷がグラスを差し出す。
水が俺の体の内側をくだり、冷やしていく。小さな明かりに照らされた藤野谷はいつもの夜の色をまとっている。夜は真っ暗でも、単色でもない。深く濃く艶めくなかにたくさん光る色が含まれている。俺が藤野谷をみつめるたびにそれらが点描のようにきらめく。今ならもう少し描けるのかもしれない。
「きれいだ」
声を出したつもりはなかったのに藤野谷に聞かれていた。
「何が?」
「天の色」
「俺?」
俺は藤野谷のまわりに見える色を指でたどった。空中に俺の指はあちらに飛び、こちらに飛ぶ。
「おまえの周りに見えるんだ。匂いだけじゃなくて……だからわかったんだ。最初から……」
「俺にだってサエはいつもちがって見えてた」
藤野谷はなぜか子供のような得意げな表情をする。
「それ、何なんだよ」
俺は笑い、するとまた脇腹が痛んで、しまったと思った。折れた肋骨のせいだ。
「天のはきっと錯覚だよ。俺は偽装してたし……」
「でもずっと前からだ。俺はサエを必ず見分けた。どんなに遠くにいても、人に混ざっていても。たしかに今はサエの匂い、たまらないけど。俺は骨を投げられた犬みたいだ。こんなので釣られたら、どんなに遠くても問答無用で追いかけてしまうよ。もっと早く気がついて……」
藤野谷は言葉を途中で切り、俺からグラスを奪って水を飲んだ。
「二度と離したくない。ずっとサエを傷つけてきたけど、それでも……サエ、愛してる。おまえと生きていくためなら俺は何でもする」
俺は左足首のテーピングをみつめていた。忘れていた痛みが急に戻ってきたような気がした。胸の奥のありもしない傷が痛むのだ。幻なのに痛むなんてどういうことだろう。
「天、俺は今日だけでいい」と俺はいう。
「今ならまだ大丈夫だ」
「サエ?」
「おまえはよく知ってるだろう? 運命のつがいなんてろくなものじゃない。――俺の両親みたいに、動物みたいにひきあって周りを巻きこむなんて、俺は嫌だ」
くしゃみが出て、また脇腹が痛かった。藤野谷が毛布をひっぱりあげ、自分と俺をまとめてくるむ。
「サエ、俺たちは大丈夫だ」
毛布の中で藤野谷は俺の肩を抱いて髪を撫でた。
「馬鹿天」
俺は小さくいう。暗幕の中にいた十六歳の日が俺の頭に思いうかぶ。でももう、俺たちは大人になってしまった。
「一番そういうのを嫌ったのはおまえだろ? 今はいい。そのうち思い出すさ」
「ちがう」
藤野谷の声は俺の心とは裏腹に力強い。
「サエがそう思ってるのは俺のせいだというのはわかってる。でも俺はずっとサエだけが好きだった。知ってるくせに。社名だって……」
TEN‐ZERO。
もちろん知っていたさ。でも俺にはどうにもならなかった。
だから俺は答える代わりにからかい半分、意地悪半分でこんなことをいった。
「だけどおまえ、一時期ハウスでけっこうな悪名を馳せていたらしいじゃないか。三波や鷹尾に聞いたぞ」
藤野谷がたちまちしゅんとしたのがわかった。叱られた犬みたいだった。
「俺は……」
「馬鹿、からかったんだ。それに天は……噛まなかったしな」
すっと息をのむ気配が立つ。
「ああ、いいんだ」
俺はあわてて付け加える。
「もしおまえが噛んでいたら俺はいま後悔していた。だいたいヒートで盛り上がっただけでつがいになるなんて馬鹿げてる。ハウスが何のためにあるんだか」
「サエ、勘違いするな」
藤野谷は性急な声でいった。
「今日は――単に俺に準備ができていないからだ。いま俺がサエをつがいにしたら、俺の実家のせいでサエをもっと傷つけてしまうかもしれない。サエのせいじゃない。俺が悪い。でも俺に用意ができたら――」
「だけどいまさらこうなっても……いまの俺におまえの子供が産めるかどうかは怪しいし」
言葉は俺の口からぽろりと転がり出た。藤野谷が驚いた顔で俺をみる。
「サエ、何をいってる――俺は子供なんていらない」
「馬鹿だな」
俺は小さく笑った。折れた骨のあたりに響いて痛かった。
「天、おまえが子供が欲しいといったんだ。藤野谷には子供が必要だと、あのときキノネの庭で俺にいったじゃないか」
「それはサエをあきらめたつもりだったからだ!」
藤野谷の手は毛布の下で俺をぎゅっと抱きしめていた。だるい身体にそのぬくもりは嬉しすぎた。嬉しすぎて、俺はすこし泣きたかった。
「ごめん、天」
藤野谷にこんな話をする日が来るなんて、俺は想像したことがあっただろうか。
「なあ、俺たちはやっぱり駄目だよ。藤野谷家のために子供を産まなかった葉月をおまえの家は許さなかっただろう? 俺はいまだに怖いんだ。俺の両親やおまえの伯父さんに起きたことが。それに俺は――おまえの子供を産みたいのかと聞かれると、正直いってよくわからない」
ぽつんと毛布の上にしみが落ちた。水だ。指で触ってみるまで自分の頬が濡れているのに気づかなかった。こんなのは泣くようなことではなかった。俺はまともなオメガとして育てられてこなかったから、子供を産む可能性についてまともに考えたことは一度もなかった。
俺はただ描ければよかった。藤野谷を描いていられればよかったのだ。
「おまえが好きだ」俺はつぶやく。
「俺にはどうしようもないくらい。オメガや運命なんかと関係なければいいのにな。おまえの家とも俺の親とも、何も関係がなくて……」
突然俺の視界が回転した。毛布ごと押し倒されたのだ。重みが上にのしかかり、俺は脇腹の痛みにうめく。毛布の影に入っているせいで藤野谷の顔はよく見えない。吐息が俺の顔にかかる。
「馬鹿なのはサエのほうだ」
藤野谷の声は押しつぶされたように低かった。
「俺を好きなら、サエはずっと俺を好きでいればいい。それだけだ」
俺たちはそのままじっとしていた。毛布の中は心地よい闇で、それなのに俺の視界には藤野谷の匂いが色彩になって散る。この色はやっぱり俺にしか見えない。藤野谷はいったい俺に何を見て、あんなことをいうのだろう。
暖かい手が俺の頭をしつこいくらい撫でる。犬か猫でもかまっているような手つきだった。また眠気が襲ってきて、俺は目を閉じる。
こんな夜が来るなんて、これまでただ一度も信じていなかったせいだろう。願望には信念が含まれる。逆にいえば、絶対に信じられないことについて、ひとは望みさえ持てないのではないだろうか。いまの俺には藤野谷が横にいる未来を思い描けなかった。加賀美や三波、峡の困ったような笑顔が頭にうかぶ。目覚めるとすべてが夢だった、そうなっているのかもしれなかった。
しかしそうはならなかった。
夜明け前に起きたとき俺は飢えそうなほどの空腹で、藤野谷はまだ俺の横にいた。
「冷凍ものならすぐ食べられるぞ」
俺は冷凍庫を開ける。
「マルゲリータ、イワシとトマトのピザ」
「サエはピザが好きだったのか?」藤野谷が聞き返した。
「お取り寄せにハマってる叔父が年末にくれたんだ。あとは……チーズリゾット、チャーハン、今川焼、エビ餃子……朝飯って感じじゃないな」
キッチンの床はつめたくて、冷凍庫の風にくしゃみが出た。痛みが響く脇腹をおさえると、背中がぬくもりに覆われた。
「何でもいい」と藤野谷がいう。
「いいから、天が食べたいのをいえよ」
そのとたん藤野谷の腕が俺の肩にからみついた。
「そんなの決まってる。サエ」
「馬鹿、食い物の話をしてるんだ」
藤野谷の腕は離れなかった。俺は絶対にふりむくものかと思った。外はうっすらと明るくなり、これから日が昇るところだ。結局マルゲリータピザを温めて、俺たちはガツガツと食べた。二十時間以上というもの、セックスして水を飲んだだけで何も食べていなかったのだ。
藤野谷のモバイルは着信ランプがつきっぱなしで、俺の方も似たようなものだった。もう月曜だった。藤野谷はガレージで靴を履くと俺の肩に腕をまわし、頭がぼうっとするようなキスをした。
「サエ、俺から逃げても無駄だよ。毎日連絡する」
小石を散らして青のSUVが遠ざかり、俺は藤野谷の匂いでいっぱいの、空のガレージに取り残された。
コンドームがベッドのそばに落ちている。俺は眠い頭でその数を数えていた。こんなに?
藤野谷が俺の視界を覆うようにベッドを降りた。残りをすばやく見えないところへ押しのけてしまう。
俺は手首をひたいにあてた。熱っぽさはまだぼんやり俺を覆っているが、あの激しい衝動は消えていた。みると俺の下にバスタオルが敷いてある。窓の外は暗かった。
俺はぼんやりとベッドサイドの明かりに浮かぶ藤野谷の裸体をみつめていた。下着をつけただけの裸体はモデルにするには最適だろう。急に描きたいという強い衝動をおぼえた。いま俺の眼に映っているこの像は俺だけのもので、俺が描かなければならないのだ。描けば俺の中にとどめておけるのかもしれない。
俺の運命。
「サエ」
藤野谷は水のボトルとグラスを持って俺のそばにかがみこんでいる。起き上がろうとしても力が入らず、どうすればいいのかもわからない。藤野谷の腕が回って俺を抱きおこし、俺は彼の肌から漂う匂いにうっとりする。
今だけでよかった。一度だけでも――こんなヒートのどさくさにまぎれたような形であっても、藤野谷を独占できて満足だった。ずっと長い間つづいた渇きをうるおされたような気がした。どれほど渇いていたのか、自分でも知らなかったくらいに。
藤野谷がグラスを差し出す。
水が俺の体の内側をくだり、冷やしていく。小さな明かりに照らされた藤野谷はいつもの夜の色をまとっている。夜は真っ暗でも、単色でもない。深く濃く艶めくなかにたくさん光る色が含まれている。俺が藤野谷をみつめるたびにそれらが点描のようにきらめく。今ならもう少し描けるのかもしれない。
「きれいだ」
声を出したつもりはなかったのに藤野谷に聞かれていた。
「何が?」
「天の色」
「俺?」
俺は藤野谷のまわりに見える色を指でたどった。空中に俺の指はあちらに飛び、こちらに飛ぶ。
「おまえの周りに見えるんだ。匂いだけじゃなくて……だからわかったんだ。最初から……」
「俺にだってサエはいつもちがって見えてた」
藤野谷はなぜか子供のような得意げな表情をする。
「それ、何なんだよ」
俺は笑い、するとまた脇腹が痛んで、しまったと思った。折れた肋骨のせいだ。
「天のはきっと錯覚だよ。俺は偽装してたし……」
「でもずっと前からだ。俺はサエを必ず見分けた。どんなに遠くにいても、人に混ざっていても。たしかに今はサエの匂い、たまらないけど。俺は骨を投げられた犬みたいだ。こんなので釣られたら、どんなに遠くても問答無用で追いかけてしまうよ。もっと早く気がついて……」
藤野谷は言葉を途中で切り、俺からグラスを奪って水を飲んだ。
「二度と離したくない。ずっとサエを傷つけてきたけど、それでも……サエ、愛してる。おまえと生きていくためなら俺は何でもする」
俺は左足首のテーピングをみつめていた。忘れていた痛みが急に戻ってきたような気がした。胸の奥のありもしない傷が痛むのだ。幻なのに痛むなんてどういうことだろう。
「天、俺は今日だけでいい」と俺はいう。
「今ならまだ大丈夫だ」
「サエ?」
「おまえはよく知ってるだろう? 運命のつがいなんてろくなものじゃない。――俺の両親みたいに、動物みたいにひきあって周りを巻きこむなんて、俺は嫌だ」
くしゃみが出て、また脇腹が痛かった。藤野谷が毛布をひっぱりあげ、自分と俺をまとめてくるむ。
「サエ、俺たちは大丈夫だ」
毛布の中で藤野谷は俺の肩を抱いて髪を撫でた。
「馬鹿天」
俺は小さくいう。暗幕の中にいた十六歳の日が俺の頭に思いうかぶ。でももう、俺たちは大人になってしまった。
「一番そういうのを嫌ったのはおまえだろ? 今はいい。そのうち思い出すさ」
「ちがう」
藤野谷の声は俺の心とは裏腹に力強い。
「サエがそう思ってるのは俺のせいだというのはわかってる。でも俺はずっとサエだけが好きだった。知ってるくせに。社名だって……」
TEN‐ZERO。
もちろん知っていたさ。でも俺にはどうにもならなかった。
だから俺は答える代わりにからかい半分、意地悪半分でこんなことをいった。
「だけどおまえ、一時期ハウスでけっこうな悪名を馳せていたらしいじゃないか。三波や鷹尾に聞いたぞ」
藤野谷がたちまちしゅんとしたのがわかった。叱られた犬みたいだった。
「俺は……」
「馬鹿、からかったんだ。それに天は……噛まなかったしな」
すっと息をのむ気配が立つ。
「ああ、いいんだ」
俺はあわてて付け加える。
「もしおまえが噛んでいたら俺はいま後悔していた。だいたいヒートで盛り上がっただけでつがいになるなんて馬鹿げてる。ハウスが何のためにあるんだか」
「サエ、勘違いするな」
藤野谷は性急な声でいった。
「今日は――単に俺に準備ができていないからだ。いま俺がサエをつがいにしたら、俺の実家のせいでサエをもっと傷つけてしまうかもしれない。サエのせいじゃない。俺が悪い。でも俺に用意ができたら――」
「だけどいまさらこうなっても……いまの俺におまえの子供が産めるかどうかは怪しいし」
言葉は俺の口からぽろりと転がり出た。藤野谷が驚いた顔で俺をみる。
「サエ、何をいってる――俺は子供なんていらない」
「馬鹿だな」
俺は小さく笑った。折れた骨のあたりに響いて痛かった。
「天、おまえが子供が欲しいといったんだ。藤野谷には子供が必要だと、あのときキノネの庭で俺にいったじゃないか」
「それはサエをあきらめたつもりだったからだ!」
藤野谷の手は毛布の下で俺をぎゅっと抱きしめていた。だるい身体にそのぬくもりは嬉しすぎた。嬉しすぎて、俺はすこし泣きたかった。
「ごめん、天」
藤野谷にこんな話をする日が来るなんて、俺は想像したことがあっただろうか。
「なあ、俺たちはやっぱり駄目だよ。藤野谷家のために子供を産まなかった葉月をおまえの家は許さなかっただろう? 俺はいまだに怖いんだ。俺の両親やおまえの伯父さんに起きたことが。それに俺は――おまえの子供を産みたいのかと聞かれると、正直いってよくわからない」
ぽつんと毛布の上にしみが落ちた。水だ。指で触ってみるまで自分の頬が濡れているのに気づかなかった。こんなのは泣くようなことではなかった。俺はまともなオメガとして育てられてこなかったから、子供を産む可能性についてまともに考えたことは一度もなかった。
俺はただ描ければよかった。藤野谷を描いていられればよかったのだ。
「おまえが好きだ」俺はつぶやく。
「俺にはどうしようもないくらい。オメガや運命なんかと関係なければいいのにな。おまえの家とも俺の親とも、何も関係がなくて……」
突然俺の視界が回転した。毛布ごと押し倒されたのだ。重みが上にのしかかり、俺は脇腹の痛みにうめく。毛布の影に入っているせいで藤野谷の顔はよく見えない。吐息が俺の顔にかかる。
「馬鹿なのはサエのほうだ」
藤野谷の声は押しつぶされたように低かった。
「俺を好きなら、サエはずっと俺を好きでいればいい。それだけだ」
俺たちはそのままじっとしていた。毛布の中は心地よい闇で、それなのに俺の視界には藤野谷の匂いが色彩になって散る。この色はやっぱり俺にしか見えない。藤野谷はいったい俺に何を見て、あんなことをいうのだろう。
暖かい手が俺の頭をしつこいくらい撫でる。犬か猫でもかまっているような手つきだった。また眠気が襲ってきて、俺は目を閉じる。
こんな夜が来るなんて、これまでただ一度も信じていなかったせいだろう。願望には信念が含まれる。逆にいえば、絶対に信じられないことについて、ひとは望みさえ持てないのではないだろうか。いまの俺には藤野谷が横にいる未来を思い描けなかった。加賀美や三波、峡の困ったような笑顔が頭にうかぶ。目覚めるとすべてが夢だった、そうなっているのかもしれなかった。
しかしそうはならなかった。
夜明け前に起きたとき俺は飢えそうなほどの空腹で、藤野谷はまだ俺の横にいた。
「冷凍ものならすぐ食べられるぞ」
俺は冷凍庫を開ける。
「マルゲリータ、イワシとトマトのピザ」
「サエはピザが好きだったのか?」藤野谷が聞き返した。
「お取り寄せにハマってる叔父が年末にくれたんだ。あとは……チーズリゾット、チャーハン、今川焼、エビ餃子……朝飯って感じじゃないな」
キッチンの床はつめたくて、冷凍庫の風にくしゃみが出た。痛みが響く脇腹をおさえると、背中がぬくもりに覆われた。
「何でもいい」と藤野谷がいう。
「いいから、天が食べたいのをいえよ」
そのとたん藤野谷の腕が俺の肩にからみついた。
「そんなの決まってる。サエ」
「馬鹿、食い物の話をしてるんだ」
藤野谷の腕は離れなかった。俺は絶対にふりむくものかと思った。外はうっすらと明るくなり、これから日が昇るところだ。結局マルゲリータピザを温めて、俺たちはガツガツと食べた。二十時間以上というもの、セックスして水を飲んだだけで何も食べていなかったのだ。
藤野谷のモバイルは着信ランプがつきっぱなしで、俺の方も似たようなものだった。もう月曜だった。藤野谷はガレージで靴を履くと俺の肩に腕をまわし、頭がぼうっとするようなキスをした。
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