まばゆいほどに深い闇(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米

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第2部 ハウス・デュマー

19.幻日の犬(中編)

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 どうやって寝室へたどりついたのか、ヒートの熱さに朦朧とした俺にはよくわからなかった。カーテンで昼の光が遮られた中で、俺はベッドに座って、前に立つ藤野谷の手が俺の服を脱がせていく。シャツの裾から中に入りこんだ手がへそをなぞり、下へと動いてベルトを外す。殻でもむくようにつるりと下着がはぎとられ、ペニスが空気にさらされる。

 布が肌をこすり、指先が触れるたびに俺の口からは勝手に声がもれる。藤野谷の手のひらは優しくて丁寧だった。傷に触れないようにゆるやかに動き、それがもどかしい。もっと激しくしてほしい、いっそ乱暴に扱われたい欲望で苦しいほどだ。痛くてもかまわない。

 胸のサポーターだけはそのままに裸でベッドに横たえられると、藤野谷が動くわずかな気配にも鳥肌が立った。俺の手は勝手に動き、彼の肌を求めてシャツをつかむ。藤野谷の顔が一瞬ゆがんだようにみえた。
「ああ、サエ……」

 嘆息のような声とともに唇が顔におちてくる。俺は眼を閉じる。布がこすれる音がして肌の温もりが俺の肩を覆い、俺はやっと求めていたキスを受け入れる。舌が絡まるたびに陶酔が深くなる。藤野谷の堅くなった中心が俺のそれに重なり、擦れるたびに体じゅうが喜びでうごめく。

 とっくに前も後ろも濡れていて、それを恥ずかしいと思うゆとりすらない。この腕が俺を抱いているのだと思うとそれだけで息がとまりそうで、今ほんとうにそうなってもよかった。

 いつのまにか唇が解放されて、俺を覆っていたぬくもりが離れ、気配が遠ざかる。急に俺の中に不安がきざす。結局全部いつもの――いつものヒートの夢だったら、置いていかれてしまったら……だが次の瞬間、温かい感触がペニスを覆って俺は息をのむ。先端をなめられ、裏の筋を舐めあげられ、根元までしゃぶられる。同時に尻をつかんだ指が後ろの穴をさぐり、すでにどろどろに濡れているそこに入りこんだ。
 不安も何もかも、すべてが俺の頭から消し飛んだ。
「ああ―――ああ、あ……」

 前と後ろ、両方をなぶられて、俺の手はもがくように藤野谷の髪をつかむ。唇の動きにあわせ、後ろをまさぐる指を俺の内側がきゅうっとしめつけるのがわかった。深いところの一点をさぐられて脳髄に星が飛んだ。急な坂をのぼりつめるように俺は達したが、藤野谷の舌は最後まで愛撫を止めなかった。俺自身を吸いあげて、全部飲みこんでしまう。

 射精後のけだるさでぼんやりした俺の眼と藤野谷の眼があった。藤野谷のまぶたの下に暗い影がおち、唇がうすく微笑む。背中に彼の指を感じ、横に転がされて背後から抱きしめられた。うなじに吐息がかかり、もっと強く触れられたいと腰の奥がうずく。
 そんな俺のすべてをわかっているかのように、後ろの穴に熱いものが押し当てられる。周囲をさぐるようになぞられ、俺のペニスはまた堅くなって、藤野谷の手のひらに覆われる。

「……あ、あ――天……」
「サエ……」

 二、三度先端が内側を擦り、一気に深く楔を押しこまれた。奥を突かれて、俺は自分のものとは思えない叫びをあげる。藤野谷の腕は俺の前にまわってゆるい愛撫をくりかえし、握りこまれるたびに内側の襞がうごめく。藤野谷の吐息がうなじにかかって熱く、もっと強く触ってほしくてたまらなかった。圧倒的な欲望に俺は屈服する。

「天、天!」
 熱い息がうなじから耳へうつって、耳たぶを噛まれた。
 そこじゃない。もどかしさに気が狂いそうだ。
「天……噛んで……お願い……」
 藤野谷の動きが止まった。
「――噛んで……」
「駄目だ」
 低いささやきが落ちた。
「今は駄目だ……サエ……愛してる……」

 次の瞬間、藤野谷の熱が俺の内側を激しく責め立て、俺の意識はあの輝く夜の色に覆われた。




「サエ」
 目をあけると真上に藤野谷の顔があった。俺をのぞきこみ、眉をひそめる。
「大丈夫?」
「……意識とんでた」

 俺は藤野谷を真正面からみつめたが、急に恥ずかしくなって顔をそむけた。腰にあたるシーツが濡れて冷たい。藤野谷は腕をまわして俺を引き寄せ、胸に巻いたサポーターをそっと撫でた。
「痛い?」
「……シャワーに行きたい」

 俺は毛布をはねのけた。ゆっくり立ち上がる。足首の腫れはすこし引いただろうか、それともヒートのせいで気にならないのか。
 裸のまま廊下に出て、藤野谷が立てる物音を聞きながら浴室に入る。シャワーをひねってぬるめの湯を出し、サポーターと湿布を剥がした。絆創膏はそのままにして傷のない部分を洗っていると、全裸の藤野谷がガラス戸をあけて、ぬっと俺の前に立つ。

「サエの髪、洗っていい?」

 答える前に藤野谷はもう俺の髪を濡らしている。目の前に藤野谷の胸と肩があり、俺がつけたのかもしれないひっかき傷がみえた。
 俺は目を閉じる。ぬるま湯にうたれながら、藤野谷の指が俺の耳の裏から後頭部へ動き、髪を梳く。
「座りたい?」
 耳元でささやかれて背中がふるえた。
「このままがいい」

 シャンプーの香りがふわりと広がる。指が頭皮をやわらかくこすり、心地よさにまぶたが自然におちる。泡を洗い流され、目をあけると、温かい雨のように藤野谷の髪からもぬるま湯が垂れていた。藤野谷は自分の顔を両手でこすり、前髪をかきあげて俺をみつめ、晴れやかに笑った。そのまま唇がおりてきて、俺はぬるい雨のなかでキスをうけとめる。上唇をついばむようにしてこじあけられ、舌で歯のうえ、裏側をつつかれ、舐められる。

 膝がふるえた拍子に湯が流れるタイルに背中があたった。藤野谷は腕をのばして俺を支え、注意深く傷や脇腹をよけながら、俺の胸や臍のまわり、尻から太腿に手のひらを這わせた。藤野谷の楔が股のあいだで擦れ、また堅くなった俺のそれと触れあった。
「て、天――」俺は焦って声をもらす。
「何?」
「ここだと……こわ……」
「ごめん」

 藤野谷の動きは早かった。すばやくシャワーを止め、バスタオルを俺の頭にかぶせるようにして洗面所へ押しやる。タオルを奪い合うようにふたりで拭いて、俺はパジャマを羽織ると剥がした絆創膏を捨てた。
 洗面所のゴミ箱には中和剤のパッケージが捨てられている。新しいものに張り替え、足首の捻挫にシップを巻いてサポーターで固定する。肋骨の折れた部分にもシップを貼り、サポーターを締める。

 藤野谷はバスタオルを腰に巻いただけだ。すぐそばに立っている。狭い洗面所は藤野谷の存在感に占領されて、俺の脳髄から楔を埋められていた腰の奥まで甘い感覚がくだっていく。首のうしろが物足りなくて、欲しくてたまらない。無茶苦茶にされたい、そう思っている自分が怖い。
「あっ……」
 むきだしの太腿に藤野谷の指が触れ、俺は声をかみ殺した。

「サエ、痛くない?」
「どこが?」
「どこでも」
「脇腹とか……すこし痛い」
「ごめん」
「おまえのせいじゃない」

 裸の胸が俺のパジャマに寄る。また太腿を撫でられたとたん、後ろが濡れた。たらりと太腿を垂れる感触に俺は焦った。藤野谷は微笑みながら俺の鎖骨に唇をよせる。
「サエ、可愛い」
「やめろって――あ……」
「もう一回、ベッドで」
 そんなふうにささやかれると俺にはもう、赤面の余地も残らない。



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