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王立図書館の副館長はみなしごの一角獣に執着される
第4話 副館長はドラゴンのリリに甘すぎるのではないかという疑惑について
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アルドレイク王国の王宮は王都の北西に位置する小高い丘に建っている。正門をくぐって最初にたどりつくのは四つの尖塔をそなえた主宮殿だ。その背後に広がる庭園には歴代の王や王妃が整備させた優美な小宮殿が点在している。
ルークは主宮殿の一階大廊下の中央地点、歴代王族の肖像画がずらりとかけられた壁際に、ひとりたたずんでいた。公用の外出なので、服装は官吏が着るものとほとんど変わらない。それなのにルークがいるところだけ、光が当たっているように見えるのは、その美貌のゆえである。
ちなみにルーク・セクストンは見知らぬ場所に行っても目に見えて緊張するということがめったにない、だいたいにおいてマイペースを保っていられる種類の人間だった。しかしそんな彼にも例外はあり、王宮はそのひとつだった。
ただし王宮のあらゆる場所でそんな気分になるわけではない。それにルークは先の冬、一時のことではあったが王宮に客人として滞在していたことがあり、ラッセルと共に大広間でひらかれた舞踏会に出席したこともある。その時の経験を踏まえると、王宮でルークがもっとも落ちつくのは広大な庭園のはずれにある薬草園であり、もっとも緊張するのは今ラッセルを待っている大廊下だった。
理由はただひとつ、通りすぎるすべての人の視線が自分に集中している気がするからである。屋外を歩いているときは人の視線など気にならないし、主宮殿の大廊下は天井も高く、幅も大学街の路地の数倍あってまるで大通りのようなものなのに、ここでは他のところよりも目立っている気がする。
リリを連れていれば周囲の視線も気にならなかったかもしれないが、リリは現在、王宮のはずれの薬草園にいる。以前滞在していたときに顔見知りになった下働きの少女に預けてきた。
というのもルークがここにいるのは、さきほど終わったばかりの御前会議に館長代理として出席していたからだ。このところラッセルは王子に課された役目のために会議や視察に引っ張りだこで、今日はどうしても予定があわなかった。
王立図書館副館長のドラゴンは王宮でも有名なのだが――ルークが出席した舞踏会にはリリも同伴していたのである――さすがに肩に乗せて会議に出るわけにはいかない。というより、そもそもドラゴンを王宮に連れてくる必要はない。実のところルークはリリに執務室で留守番してもらうつもりだったのである。その証拠に昨日までは、リリにこう言い聞かせていたのだ。
「明日私は王宮の御前会議に出席する。終わったらラッセルと落ちあって宝物庫に行くことになってる。でも日が暮れる前には戻ってくるから、リリはそれまでいい子にしているんだ」
ピピ…?
リリは藍色の目をくりくりさせて、ルークの話を理解しているような顔をしていたが、いざ図書館を出発する直前になって、それが間違いだったことがわかった。
ピッピピピイイイーーー!!! ピピッポプポウプウピーーーーーー!!
(おいてかれるの嫌ぁ! やあだぁやなのおおおお!)
泣きながらルークの執務室の天井を飛び回ったリリは、ルークが閉めようとした扉のすきまを抜けて廊下に飛び出し、さらに泣きわめいたのである。
ピピチュピプピプピピッピプピ! ピピピッピピィピィ!
(リリもおそとであそびたいもん! おっきなお庭いくもん!)
「リリ、私は遊びに行くわけじゃ……」
思わずひたいを押さえたルークに、通りかかった職員がそっと耳打ちした。
「あのう、副館長……実はリリちゃん、前も……」
職員がいうには、すこし前にもルークが所用で半日以上留守にしたとき、リリは執務室でしばらく泣きわめいていたという。
「かわいそうだし、利用者さんにまでリリちゃんの声聞こえてて……どうにかなりませんか」
「そうですか。以前はこんなことはなかったと思うのですが……困りましたね」
いつのまにリリはこんなに辛抱のきかないドラゴンになったのか。季節のせいか、成長の過程で起きることなのか。朝の散歩や、家に連れて帰ってからはそんなことはないのに――とルークは頭を抱えたくなったが、とにかくその時は出発しなければならなかった。御前会議は午後いちではじまるので、このために早めに昼食もすませたのである。
「しかたない。リリ、今日だけだ。一緒に行こう」
ルークがそう告げたとたん、空色の羽根のドラゴンは機嫌を直した。
ピッピピーー!!
パタパタとルークの肩に舞い降りて得意げな顔をする。それは本当に可愛らしい、いつものリリで、職員はうっとりした顔になった。
とはいえルークは悩ましかった。館長邸ではリリの籠は一日中開けっ放しで、好きなように出入りできるようにしているし、夜はルークとラッセルがベッドに入るより先に、枕元で寝ているときもある。休みの日は王立公園の温室に連れて行き、リリと同じ出自のドラゴンたちと遊ばせてもいる。
それなのに一日も留守番していられないというのは、ちょっと前にラッセルがいった通り、私はリリを甘やかしすぎているのだろうか。
しかしこれはさすがに……?
そう思ったとたん、ルークの心の中でピン! とくるものがあった。しかしそれは本当に一瞬のことで、すぐに他の考えにまぎれて消えてしまった。
――と、そんなことがあってリリも王宮にいるわけだが、いまごろは薬草園の付近で楽しく遊んでいるはずである。ちなみに薬草園や厨房など、王宮の周囲で働く人々は、精霊族を崇めているだけでなくルークのことも妖精ではないかと疑っていたため、彼の頼みを断るはずもなかった。
アルドレイク王国の伝承では、妖精は人間の声で頼みごとをしてくる不思議な存在で、断るとひどい目にあうことになっている。むろんルークは自分にそんな疑いがかけられていることなど、まったく知らない。
御前会議自体はつつがなく終わったが、それにしてもラッセルの到着が遅い。ルークは自分をせっかちだとは思っていなかったが、人通りの多い場所で無駄に時間を過ごしているのは嫌だった。それにラッセルが遅れているのは何か理由があるのかもしれない、とも思った。とはいえ確かめる方法もない。
じりじりしながら大廊下を見渡したとき、急ぎ足でこっちへやってくる官吏の姿が見えた。
「セクストン副館長……す、すみません、ラッセル王子、いや、王立図書館館長から伝言があります!」
「館長が? 何でしょうか」
「会議が長引いておりまして……あと一時間はお待ちいただければと」
「わかりました」
ルークは表情を変えずにいった。
「では待ち合わせ場所を変えるよう、伝えていただけませんか」
「はい、もちろんです」
ルークはさっさと大廊下を離れたかった。考えたのはそれだけだったが、「西の尖塔の……」といいかけてから、ふと思い直して問い返した。
「一時間といいましたね?」
「は、はい」
「本当に一時間で終わりますか? 一時間延長された会議は、再延長されるものです。あなたがここまで来た時間を差し引いても」
官吏はルークに正面からみつめられて、なぜか顔を赤らめた。
「はっ……たしかにその可能性も……可能性は大いに……」
「わかりました。館長にはそこの庭園にいるとお伝えください」
ルークは大廊下の窓を指さした。「少々遅れてもかまいません」
「了解いたしました!」
官吏は兵士のようにしゃちこばって礼をすると、顔を赤くしたままルークの前を辞した。ルークは心の中で非効率な会議に対する呪いの言葉を唱えはしたが、思いがけず手に入れた自由時間を無駄にしないことに決めて、大廊下を歩きはじめた。
ルークがまず向かったのはリリを預けている薬草園の方向である。五月の空は高く晴れて美しく、木々の葉はきらきらと輝いている。そよ風はあるものの、午後もなかばになると、少々汗ばむような気温になっていた。
柵で囲まれた薬草園にルークが到着すると、空中をピュッ、ピュッと何かが飛んでいくのが見えた。
ハイッ
ピッ!
ハイハイッ
ピピ!
ハイハイハイッ
ピピピ!
掛け声とともに宙に放り投げられた緑のボール(草を編んで固めたもの)をリリが羽根で打ち返し、また投げられたものを打ち返している。空色の羽根がひるがえるたびに木陰からパチパチと拍手が起き、笑い声が響いた。
「うまい!」
「可愛いねえ」
王宮の使用人がリリと遊んでくれているのだ。ルークはそっと木陰に近寄った。
「あの……」
そろそろと声をかけると、拍手していた二人が文字通り飛びあがった。
「ん? あ、ああ、妖精さんだ!」
「どうもありがとうございます。たくさん遊んでもらって……リリ?」
ルークが呼んだときにはもう、リリはその肩にとまっていた。
「お礼は?」
ピップピ!
(おもしろかった!)
リリはお礼などそっちのけでそうさえずった。ルークは内心焦ったが、使用人たちは感心してまた手を叩いた。
「うおおおお……いや、こちらこそ……」
「お手数をおかけしました。リリ、行くよ」
ルークが歩きはじめると、リリはルークの頭上を羽ばたきながらついてきたが、さえずりの内容はいささか不満そうである。
ピップピププ…
(リリもっとやりたかった)
「だめだよ、彼らも仕事があるんだ。ずっと遊んでいられない」
ピピピッパピピピ!
(なにしてあそぶ!)
「聞いてないな」
ルークはため息をついたが、リリにねだられるとどうも強く出られないのである。やはり私はリリを甘やかしすぎているのかもしれない。
とはいえ、今は空き時間である。リリは「大きなお庭」で遊びたがっていたのだし、ラッセルが来るまでリリにつきあってもかまわないだろう。
どこかで水しぶきの音がする。みると刈りこまれた植栽の向こうで噴水があがっている。
「リリ、あっちに行こう」
ピピピピーーー!
(やったー!)
空色の羽根のドラゴンは高く舞い上がり、ルークは走ってそのあとを追った。走っているとルーク自身も、リリの心が乗り移ったように楽しくなってくる。リリは噴水にたどりつくと、吹きあがった水のてっぺんぎりぎりで水鳥のように浮かんで見せた。ルークが手を叩いて喜んでいると、今度は羽根を大きく羽ばたいて、水を四方に飛ばして見せる。
「リリ! 冷たいよ!」
あとになって王宮で働く知人に「副館長が噴水でドラゴンと戯れていた」と聞いた図書館職員は、なぜ自分はそれを見られなかったのかと、くやしがって地団太を踏んだという。
なお、ラッセルが長い会議を終えてやっと庭園にたどりついたとき、遊びすぎて疲れ切ったリリはルークの膝で昼寝をしていた。
ルークは主宮殿の一階大廊下の中央地点、歴代王族の肖像画がずらりとかけられた壁際に、ひとりたたずんでいた。公用の外出なので、服装は官吏が着るものとほとんど変わらない。それなのにルークがいるところだけ、光が当たっているように見えるのは、その美貌のゆえである。
ちなみにルーク・セクストンは見知らぬ場所に行っても目に見えて緊張するということがめったにない、だいたいにおいてマイペースを保っていられる種類の人間だった。しかしそんな彼にも例外はあり、王宮はそのひとつだった。
ただし王宮のあらゆる場所でそんな気分になるわけではない。それにルークは先の冬、一時のことではあったが王宮に客人として滞在していたことがあり、ラッセルと共に大広間でひらかれた舞踏会に出席したこともある。その時の経験を踏まえると、王宮でルークがもっとも落ちつくのは広大な庭園のはずれにある薬草園であり、もっとも緊張するのは今ラッセルを待っている大廊下だった。
理由はただひとつ、通りすぎるすべての人の視線が自分に集中している気がするからである。屋外を歩いているときは人の視線など気にならないし、主宮殿の大廊下は天井も高く、幅も大学街の路地の数倍あってまるで大通りのようなものなのに、ここでは他のところよりも目立っている気がする。
リリを連れていれば周囲の視線も気にならなかったかもしれないが、リリは現在、王宮のはずれの薬草園にいる。以前滞在していたときに顔見知りになった下働きの少女に預けてきた。
というのもルークがここにいるのは、さきほど終わったばかりの御前会議に館長代理として出席していたからだ。このところラッセルは王子に課された役目のために会議や視察に引っ張りだこで、今日はどうしても予定があわなかった。
王立図書館副館長のドラゴンは王宮でも有名なのだが――ルークが出席した舞踏会にはリリも同伴していたのである――さすがに肩に乗せて会議に出るわけにはいかない。というより、そもそもドラゴンを王宮に連れてくる必要はない。実のところルークはリリに執務室で留守番してもらうつもりだったのである。その証拠に昨日までは、リリにこう言い聞かせていたのだ。
「明日私は王宮の御前会議に出席する。終わったらラッセルと落ちあって宝物庫に行くことになってる。でも日が暮れる前には戻ってくるから、リリはそれまでいい子にしているんだ」
ピピ…?
リリは藍色の目をくりくりさせて、ルークの話を理解しているような顔をしていたが、いざ図書館を出発する直前になって、それが間違いだったことがわかった。
ピッピピピイイイーーー!!! ピピッポプポウプウピーーーーーー!!
(おいてかれるの嫌ぁ! やあだぁやなのおおおお!)
泣きながらルークの執務室の天井を飛び回ったリリは、ルークが閉めようとした扉のすきまを抜けて廊下に飛び出し、さらに泣きわめいたのである。
ピピチュピプピプピピッピプピ! ピピピッピピィピィ!
(リリもおそとであそびたいもん! おっきなお庭いくもん!)
「リリ、私は遊びに行くわけじゃ……」
思わずひたいを押さえたルークに、通りかかった職員がそっと耳打ちした。
「あのう、副館長……実はリリちゃん、前も……」
職員がいうには、すこし前にもルークが所用で半日以上留守にしたとき、リリは執務室でしばらく泣きわめいていたという。
「かわいそうだし、利用者さんにまでリリちゃんの声聞こえてて……どうにかなりませんか」
「そうですか。以前はこんなことはなかったと思うのですが……困りましたね」
いつのまにリリはこんなに辛抱のきかないドラゴンになったのか。季節のせいか、成長の過程で起きることなのか。朝の散歩や、家に連れて帰ってからはそんなことはないのに――とルークは頭を抱えたくなったが、とにかくその時は出発しなければならなかった。御前会議は午後いちではじまるので、このために早めに昼食もすませたのである。
「しかたない。リリ、今日だけだ。一緒に行こう」
ルークがそう告げたとたん、空色の羽根のドラゴンは機嫌を直した。
ピッピピーー!!
パタパタとルークの肩に舞い降りて得意げな顔をする。それは本当に可愛らしい、いつものリリで、職員はうっとりした顔になった。
とはいえルークは悩ましかった。館長邸ではリリの籠は一日中開けっ放しで、好きなように出入りできるようにしているし、夜はルークとラッセルがベッドに入るより先に、枕元で寝ているときもある。休みの日は王立公園の温室に連れて行き、リリと同じ出自のドラゴンたちと遊ばせてもいる。
それなのに一日も留守番していられないというのは、ちょっと前にラッセルがいった通り、私はリリを甘やかしすぎているのだろうか。
しかしこれはさすがに……?
そう思ったとたん、ルークの心の中でピン! とくるものがあった。しかしそれは本当に一瞬のことで、すぐに他の考えにまぎれて消えてしまった。
――と、そんなことがあってリリも王宮にいるわけだが、いまごろは薬草園の付近で楽しく遊んでいるはずである。ちなみに薬草園や厨房など、王宮の周囲で働く人々は、精霊族を崇めているだけでなくルークのことも妖精ではないかと疑っていたため、彼の頼みを断るはずもなかった。
アルドレイク王国の伝承では、妖精は人間の声で頼みごとをしてくる不思議な存在で、断るとひどい目にあうことになっている。むろんルークは自分にそんな疑いがかけられていることなど、まったく知らない。
御前会議自体はつつがなく終わったが、それにしてもラッセルの到着が遅い。ルークは自分をせっかちだとは思っていなかったが、人通りの多い場所で無駄に時間を過ごしているのは嫌だった。それにラッセルが遅れているのは何か理由があるのかもしれない、とも思った。とはいえ確かめる方法もない。
じりじりしながら大廊下を見渡したとき、急ぎ足でこっちへやってくる官吏の姿が見えた。
「セクストン副館長……す、すみません、ラッセル王子、いや、王立図書館館長から伝言があります!」
「館長が? 何でしょうか」
「会議が長引いておりまして……あと一時間はお待ちいただければと」
「わかりました」
ルークは表情を変えずにいった。
「では待ち合わせ場所を変えるよう、伝えていただけませんか」
「はい、もちろんです」
ルークはさっさと大廊下を離れたかった。考えたのはそれだけだったが、「西の尖塔の……」といいかけてから、ふと思い直して問い返した。
「一時間といいましたね?」
「は、はい」
「本当に一時間で終わりますか? 一時間延長された会議は、再延長されるものです。あなたがここまで来た時間を差し引いても」
官吏はルークに正面からみつめられて、なぜか顔を赤らめた。
「はっ……たしかにその可能性も……可能性は大いに……」
「わかりました。館長にはそこの庭園にいるとお伝えください」
ルークは大廊下の窓を指さした。「少々遅れてもかまいません」
「了解いたしました!」
官吏は兵士のようにしゃちこばって礼をすると、顔を赤くしたままルークの前を辞した。ルークは心の中で非効率な会議に対する呪いの言葉を唱えはしたが、思いがけず手に入れた自由時間を無駄にしないことに決めて、大廊下を歩きはじめた。
ルークがまず向かったのはリリを預けている薬草園の方向である。五月の空は高く晴れて美しく、木々の葉はきらきらと輝いている。そよ風はあるものの、午後もなかばになると、少々汗ばむような気温になっていた。
柵で囲まれた薬草園にルークが到着すると、空中をピュッ、ピュッと何かが飛んでいくのが見えた。
ハイッ
ピッ!
ハイハイッ
ピピ!
ハイハイハイッ
ピピピ!
掛け声とともに宙に放り投げられた緑のボール(草を編んで固めたもの)をリリが羽根で打ち返し、また投げられたものを打ち返している。空色の羽根がひるがえるたびに木陰からパチパチと拍手が起き、笑い声が響いた。
「うまい!」
「可愛いねえ」
王宮の使用人がリリと遊んでくれているのだ。ルークはそっと木陰に近寄った。
「あの……」
そろそろと声をかけると、拍手していた二人が文字通り飛びあがった。
「ん? あ、ああ、妖精さんだ!」
「どうもありがとうございます。たくさん遊んでもらって……リリ?」
ルークが呼んだときにはもう、リリはその肩にとまっていた。
「お礼は?」
ピップピ!
(おもしろかった!)
リリはお礼などそっちのけでそうさえずった。ルークは内心焦ったが、使用人たちは感心してまた手を叩いた。
「うおおおお……いや、こちらこそ……」
「お手数をおかけしました。リリ、行くよ」
ルークが歩きはじめると、リリはルークの頭上を羽ばたきながらついてきたが、さえずりの内容はいささか不満そうである。
ピップピププ…
(リリもっとやりたかった)
「だめだよ、彼らも仕事があるんだ。ずっと遊んでいられない」
ピピピッパピピピ!
(なにしてあそぶ!)
「聞いてないな」
ルークはため息をついたが、リリにねだられるとどうも強く出られないのである。やはり私はリリを甘やかしすぎているのかもしれない。
とはいえ、今は空き時間である。リリは「大きなお庭」で遊びたがっていたのだし、ラッセルが来るまでリリにつきあってもかまわないだろう。
どこかで水しぶきの音がする。みると刈りこまれた植栽の向こうで噴水があがっている。
「リリ、あっちに行こう」
ピピピピーーー!
(やったー!)
空色の羽根のドラゴンは高く舞い上がり、ルークは走ってそのあとを追った。走っているとルーク自身も、リリの心が乗り移ったように楽しくなってくる。リリは噴水にたどりつくと、吹きあがった水のてっぺんぎりぎりで水鳥のように浮かんで見せた。ルークが手を叩いて喜んでいると、今度は羽根を大きく羽ばたいて、水を四方に飛ばして見せる。
「リリ! 冷たいよ!」
あとになって王宮で働く知人に「副館長が噴水でドラゴンと戯れていた」と聞いた図書館職員は、なぜ自分はそれを見られなかったのかと、くやしがって地団太を踏んだという。
なお、ラッセルが長い会議を終えてやっと庭園にたどりついたとき、遊びすぎて疲れ切ったリリはルークの膝で昼寝をしていた。
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