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はじまりの十回目? ドライブ、デート?
2
どこにでもあるような平凡なラブホに入った。
改装したばかりのようで清潔感があって、想像よりシックで落ち着いた空間であることがありがたい。一人ずつ縦になって歩いた方がスムーズなのはわかっているが、廊下を歩くのに、絡みついた手が離れないかのように離そうとはしなかった。
いい年してお互いにおかしくなっているが、たまにはおかしくなるのも仕方がない。
部屋に入るなり引き寄せて、腕の中に収める。胸に松島の顔、片方の耳がくっついているから、鼓動の速さはバレバレだろう。震えるように息を吐いた。
ここに居てくれるだけで安心する、それだけで満たされるような。
いつからかわからないが、ずっとこうしたかった。身体も欲しいが それだけじゃなく、とにかくこうしたかった。
目の前にある頭に頬を擦り寄せると、ふわりといつもの、松島の匂いがする。甘く懐かしいような、好きな匂いだ、とても。
どんな顔をしているのか気になり、少しだけ顔を離し覗いてみる。とろんとした目とバチッと目が合った。
「…………ふ、ははっ」
「……笑うな」
「笑いたいですよ、この状況は」
愛おしくなり、もう一度頭ごと抱きしめる。
好かれているとは思う、多分。彼女の口から好きだと言われたことはないけれど。
「ハグだけ、ですか」
「ん?」
たしかにそうだ、部屋の入口に突っ立って抱きしめて、満足している場合ではない。
「もっとこう、キスとか」
「……」
「部屋に入るなり、壁にどんって押し付けて、貪るような熱烈な感じの」
「どこで仕入れてくるんだ、そういう情報は」
「あ、ええと、主に小説とか、漫画も少々」
本気なのか冗談なのか、その目が期待に満ちていて、にやけてしまう。
なんていうか、常に想像の斜め上をいくんだよ、あなたは。おかげで冷静になりましたよ、少しだけ。
「これでも大事にしたいと思っているんですが」
「大事になんて、しなくていいです」
「わかった、お望み通りに」
頬を撫で、唇を親指の腹で擦った。
一つ一つのパーツが、特別なものに見えるのは、多分病気。おでこに軽くキスを落とす。
〝え、またそれだけ?〟って、目で語るな、
わかってるから。
背中に手を回し ひょいっと抱き上げると、今度は「ひっ」と、色気のない声を上げる。
「こういうのが好きなんだろ?」
「違っ、抱き上げられるとか、待って想定外」
「この距離は、歩いた方が早いけどな。さて今からいただきますか、って感じで悪くない」
「ちょっ、腰抜けるから、見た目より重いんだから私、下ろしてかちょ──」
抱き上げたままの状態で、騒ぐ口をキスで塞いだ。なめんな、おっさんだけど、これくらいなんともない。
キスは、あの夜も散々したのだろう、おそらく。覚えていないことが恨めしい。
密着したままベッドの上で、俺の太腿の上に彼女を乗せた体勢で、互いに唇を寄せる。
触れるだけのキスを楽しむ間もなく、すぐに深くなった。
ゆっくり少しずついきたい、勿体無いから。がっつくつもりなどなかったのに、火をつけるのが上手過ぎる。
でもやはりキスするのには慣れていなくて、慣れないながらも必死でついてこようとする。
かわいすぎんだよ。
よくこれまで何事もなく生きてこられたな、なのになぜ俺なのか、意味がわからない。
変わった形のワンピースを、子どもが脱衣するように上からすぽんと脱がせて、下着姿になった松島が、恥ずかしいのか 身体を捩りながらベッドの上に座っている。
ダメだこれは、相当くる。
「課長も脱いで」
ブラジャーのホックを自分ではずして、ふるりと露わになる双丘。
好きな女の身体なら、どんな身体でも構わないし魅力的だと思っているが、あまりにも美しい裸体に見惚れる。
もう一度見たかったと思わず本音を漏らすと、それ私も同じですからと、俺の上半身にやわやわと手を当てた。
「課長の身体、綺麗」
「綺麗? ではない、それは俺の台詞だろう」
「ううん、すごく綺麗です、ムキムキじゃないけど程よく筋肉があって。走ったり、自宅で筋トレしてるからですかね」
「そんなのよく知ってるな」
「みんな知ってますよ」
「そうかあ?」
適当に相槌を打って、俺の身体などどうでもいい、こっちの方がずっと綺麗だと、肩を引き寄せ頬擦りをする。
「もっと触っていいですか?」
「……ああ」
返事をしながらふと、断片的な記憶が蘇る。
あれ?
なんかこのやり取り、過去にもあった。
いつ?
『課長の身体、触っていいですか』
『……いいよ』
嬉しそうに笑う松島、よしよしと、お互いに触れ合ううちに、どちらからともなくキスが始まって、止まらなくなって────ああ、
「少しだけ、思い出したかもしれない」
「え」
「断片的に……人の記憶って不思議だよなあ、全然繋がらないのに、映像が出てきた」
「……」
なぜか驚いた表情になる松島と、至近距離で見つめ合い、松島の方から無言でキスされる。
緩く抱き付かれてそのまま、彼女が上に乗る形で押し倒されていた。
「課長、早く続きを」
「……ん」
どうした急に、やる気満々な可愛い人よ、
笑うしかない。
柔らかな胸が上半身にくっついて、男の肌を刺激する。どこを触ってもしっとりとやわらかく貪りたくなるような身体に、夢中になる。
上下反転して、頭から首筋、鎖骨へと愛撫しながら、あの日の朝直視できなかった胸の蕾を口に含むと、艶めかしい吐息が耳にかかった。
「あ、あっ、っ……」
明るめの間接照明の中、浮かび上がる彼女の痴態。潤んだ目で 必死でしがみついてきて、かわいくて仕方がない。
かわいいから好きになったのか、好きだからかわいく見えてしょうがないのか。どちらでもいい、とにかくかわいい。
最後の一枚を取り去って覆い被さり、太腿の奥の柔らかな中心と敏感な膨らみを両方、指でなぞる。
「あっ……んっ、そんな風に、触らないで」
「痛いか?」
「全然い、たくないけど、課長に触られると変になるっ、格好良すぎて、怖いっ」
「なんだそれ、少しだけ挿れるぞ?」
温かくぬかるんだ場所は指の挿入を拒まず、きゅうきゅうと吸い付くように誘ってくる。
「課長、してください、中に。もう私……」
「……煽りますね、はじめてと思えない。ちょっと待って、今、」
「……はじめてじゃないですよ」
「え?」
「たくさんキスするのもセックスも、あの夜、課長に教えてもらったんだから」
「…………」
俺ではない 別の誰かの話を聞いているようで、過去の自分に嫉妬しそうになる。
酔って平気で手を出した自分自身が憎い。
ところがそれと同時に、脳内で散り散りになった記憶の映像が再生される。
全て夢だと思っていたことが、現実の出来事だとしたら────
『───い、痛っ! ……少し、痛いかも』
『痛い? ごめん、ちょっと待って』
『ああっ、違うんです、課長のせいじゃないです。ごめんなさい、私あの、これまでこういう経験が、一度も無くて』
『そうか、はじめてだった?』
どんな表情だったかまでは思い出せないが、首を縦に振っていたのだけ覚えている。
『ごめんな、気づかなくて。怖かったな、これ以上しないから』
はじめてと聞いて、驚き以上に申し訳なくなり、腰を引いて終わりしようとした記憶。どういう流れでそこに至ったのか、そこがわからないのだが、知らずに進めたことを後悔した。
今さら止めると言っても今さらだが、挿入はすべきではないと、一欠片の理性が働いたらしい。ところが、
『やだ、止めないで』
『大丈夫だよ、まだ最後までしてない』
『そうじゃなくて、して、だめ、お願い続けてください。課長がいいの、課長じゃないとイヤなんです、今日だけでいいから、私を──』
懇願するように、胸にぐりぐりと顔を埋める松島の声。わかったからと宥めて───そこでまた、プツンと途切れる。
*
入口を探っていた欲望がグッと中まで入り、我慢できずに奥まで進もうとする。深呼吸して耐えながら、松島の目に滲む涙を拭った。
「痛い?」
「ううん、痛くない」
「あと少しだけ、ゆっくりするから」
「……はい」
やせ我慢しているようには見えない。
首のうしろに手が回り、足を腰に絡みつけるようにして、ぴたりと腰をくっつけてくる。
ああもう、優しくしたいと思っているのに、人の気も知らないで。
切羽詰まった声が、理性を狂わせる。
遠慮せずに腰を奥まで押し付けると、松島の身体が、びくびくとしなった。
「大丈夫か」
「んッ、あっあっ、はぁ……」
「…………ふー……」
熱い、なんだかすごく、
自分も松島も、どこもかしこも熱い。
「……すごいことですよね、これ以上なく人と人がくっついて繋がって、課長今、私の身体の中にいる」
「……はぁ……ちょっと、まって」
「課長かわいい、動いていいですよ」
「……」
言われなくても、そろそろ動かずにはいられませんが?
松島おまえ、覚悟しろよ、そんだけ煽って。
「────あっ、あっ、んんっ……」
「顔、隠すな」
「やだ、見、見られたくない」
「俺は全部見たい」
顔を覆っていた腕を剥がして、両手をシーツに縫い付ける。
追い詰めるように激しく腰を動かすと、何かに耐えるようにぎゅっと目を閉じて、涙が頬を伝う。舐め取って、嬌声をキスで塞いだ。
一通り事が終わっても、ああだこうだと無自覚で飄々と煽り続ける松島を、お望み通りに、というかだいぶ調子に乗って、際限なく求め続けた。
今いってる、怖いっ、ストップもう十分、と、何度も何度も果てる姿があまりにも可愛くて、離し難くて。
今は完全にぐったりとして、ベッドに沈んでいる。意識はあるようだが、目は瞑ったまま。
「水、飲む?」
「……うん」
口元にペットボトルの水を持っていくと、溢しながら少しだけ、こくこくと飲み込んだ。
目尻に涙のあと、あどけない顔でそのまま眠ってしまった。
よほど疲れたのだろう、朝からノンストップだったからな。
今日の今日こんなことになるなんて、正直思っていなかった。(捕まえる気は満々だったので、期待してなかったと言えば嘘になるが)これからずっとこうして、二人の時間が続いていくことを確信して、すやすやと寝息を立てる彼女の隣に潜り込んだ。
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