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【後日談1】
一か月後の二人、私、お酒には強いので side汐里④
目が覚めると、私は見慣れた寝室のベッドの上にいた。
誰かに抱きしめられる温もりの中、顔を動かすと、まだ眠りの中にいる無防備な課長の顔が目に入った。半分寝惚けながら目の前の顎に頬を寄せる。少しだけ伸びた髭でざらりとした。
────あれ? 私昨日、話してる最中に寝ちゃって……もぞもぞと腕の中で体勢を変える。
思い出そうとすると夢の中のようにぼやけた映像が再生される。調子に乗って上機嫌で何かを話す自分と、それを笑いながら聞いてくれる課長の顔…………あれ?
私この服って……、着替えてるし……え? 私の部屋着じゃない、男物の腰を隠すくらい大きめのスウェット、ということは課長の服だ。やだ萌えるんだけど。ていうかスウェットの中は何も着てないって、ブラは? パンツは……おお履いてる履いてる、けど下のスウェットはどこよ、お尻や太腿剥き出しでこんな──。
そっと上半身を起こす。トイレに行こうかな、このすーすーする格好は落ち着かないし、着替えたい。
そういえば昨日の夜って───泊まりの時は毎回お待ちかねの、恋人たちのめくるめく甘い時間を過ごしているのに、課長とのその時間を一週間の励みにしていると言っても過言ではないのに、私が、寝てしまったから…………「あ、やってない」と、思わず呟く。
ショック、なんてことだ。週末しかチャンスないのに、してない。
バカだ、なんで寝ちゃったの、最悪、今日は日曜だから家に帰るしお泊まりできないのに、来週までおあずけ?
悲しい、ものすごく損した気分なんだけど…………あれでも、キスはしたな……え?
「────おはよう」
「お、おはよう、ございます!」
昨晩の失態を(酔いよりも、うっかり寝てしまいできなかったことを)心の中で嘆きながら、でもキスはした覚えがあると混乱していると、課長も起きたようで、ぼんやり目を開いてこちらを見ていた。
「起こしちゃいました?」
「……いや、何時? 七時前か」
「はい、六時、五十分ですね。……課長、ごめんなさい、私昨日いつの間にか寝ちゃって」
「呼び方が戻ってる」
「え? あ、あああ、そうでした、木藤さん、雅人さん」
「なんだそれ、昨日は普通に呼べてただろ」
笑いながらごろりと仰向けになる姿に、ぎゅんぎゅんときめく、寝起きのその無邪気な笑みは反則です、とりあえずもう一回くっついて寝てみてもいいかしら、えへ。と、調子に乗っていられたのはここまで。
「具合は? 大丈夫なのか? 頭痛いとか気持ちが悪いとか」
「全然大丈夫です、ちょっと怠いくらいかな」
「ふ、はは、あれで二日酔いにならないあたり、たしかに強いんだろうな」
「あれで…………」
昨晩のやり取りは完全に忘れたわけではなく、思い出そうとすると昨日自分がどれだけ喋り散らかしたか、じわじわと蘇ってくる。
やばい、やらかしている。でも最後の方は、本当にわからない。
「えっと……この服って、私 自分で着替えたんですよね? 全然覚えがなくて……寝る前、かなり酔ってたみたいなんですけど」
課長、いや雅人さんが、笑いを漏らしながら身体を横にして、寝そべったまま頬杖をつき、こちらを見上げる。
「まあ、その様子だと覚えてないだろうなあ? 酔ってたし、ほとんど寝かけてたから、着替えさせたのは俺だよ」
「は?」
課長が、着替えさせた? だってこのスウェットの下は裸で下着も付けてなくて……、そういえば気持ちが悪くなって、吐き気を催した覚えも……
「ま、まさか、吐いたとか?」
「いや、吐きはしなかったけどすごかったですよ。喉が渇いたって言うから、とりあえず床に座らせて台所に水を取りに行ってる間に汐里が酒瓶を手にしてて、よろけて自分の身体にぶちまけて」
「え!!」
「う、……だめだ、思い出すだけで笑える」
両手で顔を覆う。雅人さんは肩を震わせて笑っている。
「す、すみませんっ!! なにやってんだ、さいあくですね!?」
「別に最悪ではないよ、いつもより無防備で面白かったからな。そのままじゃ寝かせられないから着替えさせたんだ。水とウコンは素直に飲んでくれたけど」
「…………あの、わたし下着もつけてないんですけど」
「下着まで酒が浸透してたから、下は大丈夫だったけど。それに付けたままだと苦しいだろうから外したけど」
「外したけど? 誰が? 課長が?」
「俺しかいないだろ。「着替えるぞ」って言ったら嬉しそうに両手上げて万歳してたぞ」
「ばんざい、あーー……」
断片的に記憶がフラッシュバックする。
ふわふわした意識の中で「着替えるぞ」と言われて、なぜか満面の笑みで万歳してた自分が。上から服を全部脱がせてもらって、びしょびしょのブラも外してもらって。
終わったわ……。
「ほぼ意識ない状態の裸、うっ……泣きたい」
「何度も見てるじゃないか」
「そうだけど、全然違いますもん、ウゥッ」
「まあ、正直 可愛すぎて目に毒だったけどな、一分位しか見ていない」
「一分!? 着替えさせただけじゃなくてじっくり眺めてたってことですか?」
「汐里だって、一分どころじゃなく眺めてたことがあるじゃないか、同じ同じ」
「そ、それは、そうでしたが!」
たしかに私の方がタチが悪い。その上、課長をまた酔わせて愛でたいとか、そんな悪巧みをしていたら自分が酔っ払っておっぱい丸出しで寝てるって…………死にたい。
でも、怒ってるわけでもなく呆れてるわけでもなさそうだし、面白かった可愛かった、って言ってくれてるんだからいいんだよね…………くっ。やっぱ最悪。
「雅人、さん。ズボンも、貸してもらえますか……私お詫びに朝ご飯作ります、先に起きます台所お借りし────ぎゃっ」
ほとほと後悔しながらベッドから立ち上がろうとすると、目の前の腕が伸びてきて、腰をホールドされる。
課長の顔が私の胸のある場所に埋もれるようにあって、薄いスウェット一枚を隔てた状態で彼の吐息がかかりくすぐったい。甘えるような仕草で顔を寄せていて、口元は見えない。
「まだ起きなくていいだろ」
「ど、どうして」
「あ? いちゃいちゃするって言ったじゃないか。だめなの?」
な、なにこれ……急に乗っかってきて上目遣いでその口調、かわいすぎるんですが!
「だ、だめじゃないけど、わたし昨夜いろいろと……なにを言いました?」
「ん?」
頬擦りするように胸の膨らみに顔を埋めながら、さらに強く上半身を引き寄せられた。小さくも大きくもない平均的なおっぱいが、服の中でふにゃりと形を変えている。心臓がバクバクと音を立てて、縋るようなその姿に息が止まりそうになった。
「汐里は全部俺のものだって」
「…………な」
「ちがう?」
「……」
つき合ったばかりで浮かれすぎだって、笑われるかもしれないけど──それでもいい、仕方ない、この歳で初恋みたいなもんだけど だめだもう好き過ぎる。
私のすべてをこの人に差し出したい。身も心もぜんぶ。
「……そうですよ。課長のものです、全部」
頭をくるむように抱きしめると、愛おしさが込み上げて溜息が漏れた。これは、幸せだ。
そのまま言葉なく腕を引かれて、ベッドに押し倒される。覆い被さるように、課長が静かに見下ろしていた。
「昨日からずっともう、何を言ってるんだよ、可愛すぎるんだが」
「だっ、て……なにをって言われても」
「まあいいや、とりあえずイチャイチャしようか。最初が肝心だからな、よそよそしい距離感に慣れられたら俺が困る」
「……え」
「汐里の身体に触れるのは俺しかいないから、俺が触らなければ触る人は誰もいなくて可哀そうだもんな?」
「あ?」
そうだった、この一度聞いたことは一言一句忘れず細部まで記憶するところ、〝木藤課長〟の怖い特徴でもあった。なぜか懐かしさを感じる。
「もう遠慮しない、好きにすることにした」
「な、 なるほど」
私の間抜けな反応にも容赦することはなく、太腿からお尻に、課長の手が這う。素肌のお腹を撫でられてそのままスウェットの中に、するりと入り込んできた。
この流れは、艶めかしい手つきは、まさか。
「……もう、朝ですけど」
「ん? 朝だな」
「…………太腿に、なんかあたってる」
「うん、そりゃあなあ」
ちらりと見ると、課長も下はボクサーパンツ一枚だった。隠すつもりもないようだが、そういうことになっている。
「あ、朝勃ちって生理現象なだけで、すぐに収まるんじゃ……」
「この状況でそれ言う? 朝だからじゃない、汐里が隣に寝てたら収まるものも収まらないんだよ」
「一晩中こうだったんですか?」
「んなわけないだろう、死ぬわ」
え、なんで、夜じゃないのにこの感じ、うそうそ 始まるの? ────などと考えている暇もなく、簡易的に着ていたものは容易く脱がされて、冷えた床に朝陽が柔らかく差し込む中、上半身が露わになる。クロスして胸を隠していた両手は課長の右手で一つに纏められて、頭の上のシーツに軽く固定された。
「は、はず、はずかしいんですけど明るいのに丸見え、夜じゃないのにこんな」
「セックスは夜だけなんて決まりはないよ」
「……」
私とこういうことをする時はいつも、こんな顔をしていたのだろうか。暗い中で夢中になっていたせいか、ちゃんと見えていなかった。
男の人でもこんなに色気のある声と、表情と────
「汐里だってさっき、〝あ、やってない〟って言ってただろう?」
「ね、寝起きの、聞いてたんですか!?」
今度は見たこともないような爽やかな顔で、首を傾げながらにこりと微笑む。なんか知らん、一晩でかわいくなっているのですが!
「大丈夫、今日は予定もないし時間はたっぷりあるから。昨日散々煽られておあずけ食らった分は、付き合ってもらわなくちゃな」
「あ、うんわかった、課長、ちょっ待って、私お風呂に入ってないの、シャワーでいいのでお借りしたいんですっ」
「ここに課長はいません」
「雅人さんっ、身体洗って出直しますから……あっ」
「無理、あとで一緒に入ろうか」
いつもより長く息も絶え絶えになるような濃厚なキスから始まり、飢えたなにかに食べ尽くされる勢いで一度交わる。その後 有無を言わさずお風呂に一緒に入ることになり身体の隅々まで洗われて、またベッドに連れ戻された。
服を着ては脱いで愛されて、ぐちゃぐちゃに甘い時間。午後になりやっとありついた昼食は、隣にピッタリくっつかれて見つめられながら食べた。イチャイチャベタベタ、人が変わったかのように、四六時中傍にいて離れない。
ソファーに課長が座り、その足の間に座らされて、日曜の夜のニュースを見る。いつもなら帰る時間で車で送ってくれるはずなんだけど、どうなっているのだろうか?
そしてその日を境に、雅人さんに隠しごとは一切できなくなった。いつの間にか自然と誘導されて 言う羽目になっている、酔ってなくても。我慢せず何でも話してしまうが定番に。
甘え過ぎている自覚は、ちゃんとあります。
「なんか文句ある?」
「いえ、ないです、全然ないです」
ほぼほぼ私の希望通りなので、最高なのではないだろうか。
【後日談1】 END
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