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【後日談2】
さらに半年後の二人、真夜中の会話 side汐里②
繋がった直後の、雅さんの余裕のない表情が好きだ。色気全開の狙い澄ました目が私を射抜く。欲情しておかしくなって、いつもの冷静な顔とは全然違うから。嬉しくて胸が締め付けられそうになって、瞬きするのが惜しいくらい、目を逸らせない。
本能的に雄が雌を求めるように、ガツガツと腰を振り激しく揺さぶられて、もっともっと、優しくなんかしなくていい好きにして欲しいと、被虐的な快感を覚えてゾクゾクする。
でも、一度果ててもまだ終わりにはならず、それからもう一回、二度目はゆっくりと交わる。見つめ合って、汗ばむ肌を撫で時々話をしながら、ベタベタに甘い雅さんもこれまた最高。緩慢な動きなのにどんどん余裕がなくなり、敏感になった身体がびくびくと弓なりにしなる。最後の方は無意識に、何を言葉にしたのかもわからない。多分、他の人には絶対に見せられないような、相当だらしない顔をしていると思う。
こうして触れ合える時間は勿論幸せだけど、でも、傍にいなくても力をもらえるの。一緒に居なくても、すぐ近くにいるような。あなたの存在が私を元気にしてくれる。
*
「──私って、Mっ気があるのかもしれない」
「……まあ、どちらかといえばそうかもな」
「え、やっぱりそう? だよねえ……、だって雅さんが、そういうスイッチ入れるからよ」
「ははは、俺のせい? いくらでもお付き合いしますが」
二人とも横向きに寝転がりながら、顔を合わせてたらたらと、他愛のないお喋りは続く。
「最近私、色気が出てきたって言われる」
「誰だそんなことを言うやつは」
「岡谷さんと野島さん、あと雅さんの知らない幼馴染の友達からも言われたな。なんでちょっとムッとしてるの、悪口ではないでしょ」
「……まあ、そうだけど」
「ふふふー、色気だって。これまでの人生で一度も言われたことなかったよ」
「……」
「開発者としてはどうですか?」
「……それはもう、困ってる。ただ眠るつもりが隣にいるとついその気になってしまって」
「いつでもその気になっていいですよ? 大歓迎です」
「たまに、会社でも汐里を見かけるけどなんていうか……別にいいんだけど」
「なに、別にいいんだけどって。それで?」
「……やめて? その可愛い顔して煽るの、やっと落ち着いたのに。明日は買い物に行くんだろう?」
「あ、そうだった、明日っていうかもう今日だね。別に煽ってないし」
春になり、冬が来る直前に庭に仕込んでいた苗が、少しずつ花を咲かせている。暖かくなり また少しずつ増やしていく計画で、ホームセンターに花の苗やプランターを買いに行く約束をしていた。渋いデートである。
「雅さん、ジムにも行きたいんでしょ?」
「そうだな、今週行けなかったから。何時でもいいけど二時間くらい、いい?」
「うん、全然いいよ。そういえば雅さん、この辺、筋肉ついたよね」
雅さんは週に一回以上 必ずジムに通っている。本当は平日の夜に行きたいらしいが、今週は多忙で行けなかったようだ。怠慢すると身体が鈍ると言って、若い頃から続けてきた習慣らしい。ちなみに私もだいぶ前に誘われたのだが、運動嫌いなので一緒にジムに行く予定はない。だからその時間だけは別行動となる。
昔から太らない体質で、スレンダーの部類に入る私だ。雅さんには、よく食べるのにまったく運動しないでその体型、と、なぜか感心される。男の人はもう少し豊満な身体の方が好きなのではと正直気になっていたのだが、この間急に「よく考えたら好みのど真ん中だった」と、しみじみ言われた。よく考えないとわからなかったのかよ、でもど真ん中と言われたら悪い気はしない。
「温かくなったから、朝走るか」
「私は走らないよ」
「だよな」
気怠げな手つきで髪の毛を撫でられているうちに、うとうとと眠くなってきた。至福の時間である。
「雅さんは、結構私のことが好きだよね」
「ああ、好きだよ」
「ぐふふ、好きって言ってる」
「自分で聞いといて笑うな」
「笑うよ、嬉しいもん。ずっと言ってね、十年後も二十年後も」
「十年後も二十年後も今と変わらずに、バケツに入った愛情をお互いにじゃぶじゃぶかけ合うみたいに、だろ?」
「あはは、そうそう、よく覚えてる。コップでちょろちょろかけ合うようなんじゃ足りないの、私の愛は重いからね」
「はいはい」
「……これからもずっと、私のことこうして撫でてね」
「ああ、うざがられるくらいに」
「ずっと、一生だからね……」
「プロポーズみたいだな」
「そうかもね」
眠くて、何を言ってるのかわからなくなってきた私を、よしよしと包み込んでくれる。
「──ああそうだ、汐里、あのさ」
「……うん、なに?」
「言っておかなければならないことがあって」
「え、なに? 大事な話?」
「うん、まあ……今日の飲みの席で、少しだけあなたの話が出て」
「私の話? え、なんだろ、怖い」
「一課の連中が、酔っ払って話してるのが偶然聞こえてきたんだが」
*
『──総務の松島さん、近くで見たことあります? すごい綺麗じゃないですか? 俺めっちゃタイプなんですけど』
『松島? 綺麗だけど、たしか結婚してるんじゃなかったか?』
『いえ、してないです、独身です』
『そうかあ、タイプってか~』
『彼女、意外とひょうきんな性格だよなあ、天然っていうか』
『総務に異動する前は、長い間二課にいたじゃないか』
『営業にいた頃は特に、何も思わなかったんですけど、話す機会もなかったですし。この間、総務で事務処理する時に丁寧に対応してもらって、すごく感じのいい方で、ちょっとグッときちゃいまして』
『まあなあ、気持ちはわからんでもないけど』
『松島さん~? 無理だろ、いるだろ誰か』
『それは聞いてみないとわからないじゃないですか。俺ちょっと、頑張って目指しちゃおうかなあ、社内恋愛』
『堂々とそういうこと言うなよ、今時コンプラに引っ掛かるぞ』
『僕年下ですしそんなしつこく追い回さないですよ、でも誰か、松島さんと近しい人いないかなあ、最初はグループで飲みに行くとか』
『合コンじゃねえか』
『総務か営業二課の誰かに頼んでみれば?』
『……おお、いいところに木藤君がいた、松島さんて去年まで二課で働いてただろう?』
『え、あ、お疲れさまです!(木藤課長!? たしかに松島さんの元上司だけど、こういう話題嫌いそうだし呼ばないでくれよ)』
よりによってそのタイミングに呼ばれちゃったの? と、思わず口が開いてしまう。
『そうですね、三~四年一緒に働いてました』
『S本君、松島さんがすごいタイプなんだと。なんか情報ない? つき合ってる相手がいるとかいないとか』
『い、いいですよそれは、自分で聞くので』
『いますね』
『『え?』』
その話題に群がっていた全員が、一瞬ぴたりと止まった。
『……あ、やっぱりいるのかあ、じゃあダメだなS本君、諦めろ』
『う、だから自分で聞くって言ったのに……』
『だけどまだ結婚してるわけじゃないんだし、わからんよ、別れるかもしんない』
『そうだ、わからんわからん、別れた時が狙い目なんだ、頑張れ』
『別れないと思いますが』
『『え?』』
再び皆が注目する。興味なさげにすぐ居なくなると思った人物が、まだその場にとどまっているからだ、めずらしい。
『どうした木藤君、そんなはっきりと……松島さんの相手がどんな奴か、もしかして知ってるのか?』
『そうなんですか!? まさか社内とか……』
『ああ、俺です』
『え、俺?』
『……』
『え?』
皆、ぽかんとしながら木藤課長を見つめる。驚いている者、意味がわからない者、首を傾げながら笑い飛ばそうとする者──
『……び、びっくりした、木藤君が松島さんとつき合ってるみたいに聞こえたじゃないかー、真面目な顔して冗談言うからわからんよ、はっ、ははー……』
『いえ冗談ではなくて、松島の相手は俺です。総務に移ってからですけど』
その場はしんと静まり返る。想像すると、
とても気の毒である。
『────う、嘘だ、木藤課長と!?』
『嘘じゃない、悪いがS本君、諦めてくれ』
*
「…………うわ」
「ごめん、つい言ってしまった」
「つ、つい、って」
「社内で広まるのも時間の問題だろうから、よろしく」
「私が言うことじゃないけど、その営業の方、大丈夫でした?」
「なんか、真っ白になってたな」
「でしょうね!」
懇親会はつつがなく終わったよ、みたいなことを言っておいて何をやっているのか。
私のことより木藤課長が堂々とそんな発言をするなんてあり得ないことだから、その場に居合わせた人たちはかなりの衝撃だっただろう。
当の本人はしれっとした顔をして、さすがに眠いのか目を閉じてうとうとし始めた。
寝る間際にそんな爆弾を落として、確信犯に違いない。社内に広がるのも時間の問題って、月曜日は質問攻めに合うだろうな、覚悟しなくては。
「汐里」
「はい」
「明日も泊まって、帰らないで」
「うん、そのつもり。ここにいるよ」
「もう帰らないで、ずっと居ればいいのに」
「……」
「月曜日も火曜日も」
なんだか胸が苦しくなって、視界がじわりと滲んだ。私が思っている以上に、求められているのかもしれない。世界で一番大好きな人が、傍にいてくれと。
「うん、そうしようかな。水曜日も木曜日も」
「そうだろ?」
「……ふ」
「ずっと、一生」
「……なんか、プロポーズみたいだね」
「そうかもな」
「ふ、はは」
朝 目が覚めると、左手の薬指に見たことのない指輪が嵌められていた。
「少し前に準備してたんだけど、今だなと思って」と、目の前の策士が無邪気に笑った。
END
───────────────────
お読みいただきありがとうございました。
これにて完結です。
このお話で出てくる、二川楓は、別のお話のヒロインです。木藤課長も汐里も、そちらのお話にも出ております。
このお話の他に、『恋する凡人』も同時に連載しております。もしよろしければそちらも是非、お読みいただけると嬉しいです。
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sakaepandaさん😊
連載お付き合いいただき、嬉しい感想まで、ありがとうございました!
付き合う前、付き合い始め、そして半年後、少しずつ二人の空気も変わってきて、汐里も遠慮がなくなるというか素の状態で過ごせるようになったのは、やはり木藤君が愛情と安心感を与え続けているからだろうなと。心配する要素がないというか。どんどん綺麗になっちゃいそうですね🥰
どんなプロポーズかな、と思った時に、彼なら多分抜かりなくさり気なくやるだろうなと。少年のような木藤君でした。
いつも応援📣してくださりありがとうございます!こちらこそ、心より感謝です😭🙇♀️
nekotamaさん☺️
連載追いかけていただき、感想もたくさん、本当にありがとうございました。ステキ💓嬉しいです!
オフィスラブに限らずですが、ヒーローがヒロインのどこに惹かれるのか、過程や理由にどうしてもこだわってしまうので、課長と同じ目線で汐里を好きになってもらえたらなあ、と思いました。😁
木藤君の仕事中の描写は今回少なかったですが、多分、課長モード木藤はもっとギラギラしていると思います。プライベートは案外穏やかだった。
お付き合い本当にありがたかったです。感謝を込めて🙇♀️
( *´艸`)イチャラブ〜💕(*´ `*)💕
こりゃ、かなり食べ尽くされてますね(笑)🥰すぐにベイビー誕生かしら?
でも、ベイビーいなくても仲睦まじい二人が想像できます😍😍😍
次も楽しみッ❤😆
番外編SS、後日談は、読んでくださった皆さんに楽しんでいただきたく、御礼も込めて。
本編中よりもギラッとしています。元々木藤君はそういう男なので、落ち着いて心の余裕も取り戻したようです。笑
ラスト一話です。今日は夕方にまた更新します🫡