花さんと僕の日常

灰猫と雲

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秋の章 「Noah's Ark 後編」

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「あれ?もう帰っちゃうの?」
乃蒼のお母さんは本当に洗濯をしていたようで玄関の隣に位置した、これもまた俺の部屋くらいに広い洗濯室で洗い終わった下着を干していた。
ん?下着?
「ちょっとおおおおおお!おかぁさぁぁぁぁん!!!!」
後ろから突風のように俺の横をブチ抜いて乃蒼はイレーヌの持っていたブラジャーを奪い取り、干していたパンツを慌てて隠した。
「なんでよりにもよって私の下着洗濯してんのよ!!!」
「え?良かれと思って」
「誰によ!」
「そりゃ七尾くんにでしょ」
イレーヌは俺の方を見てウィンクした。
さすが100%純フランス人。
日本人がするとわざとらしく感じるウィンクもとても自然だった。
「ねぇ見た?見たでしょ私のパンツ!」
こっちに詰め寄る乃蒼の後ろでイレーヌが死守していたブラジャーを両手で俺の方に広げて見せた。
「パンツって言うよりもパンティって言って欲しい」
「誰もそんなこと聞いてないわよ!」
「心配すんなって。正直あんま見えなかった」
「嘘ばっかり!」
「ほんとマジ見えなかったって」
薄い紫。
レースの刺繍。
程よい大きさのカップ。
意外と乃蒼って、胸あるんだな。
「ちょっと秋どこ見て…きぃやぁぁぁぁぁ!」
お母さん、初めて会ったのにわざわざ娘さんのブラジャーおっ広げて見せてくれてありがとうございます。
「なに人のブラジャー優勝トロフィーみたいに掲げてんのよ!ちょっと秋も見ないでっ!」
「大丈夫、もう見てないよ。俺はもうそのステージにいない」
「なにワケわかんないこと、、、ちょっと…ねぇどこ見てんの?まさかいま、私の下着姿想像してるわけじゃないよね?」
「バカにすんな!俺は中学生だぞ!想像するに決まってんだろうが!いまお前は俺の中でとんでもなくいやらしい姿で俺を誘っている!」
「やめてよ!」
「やめないよっ!これはいくら本人が止めたって絶対にやめないっ!」
「なんでそんな強気で来るのよ泣。普段は柔和なのに…」
「性癖だからだっ!」
「そんな恥ずかしいことをおっきい声で言わないでっ!」
「性癖だからだ(ひそひそ)」
「小ちゃい声でも言わないでよ変態っ!」
「(ぞくっ)」
「ゾクゾクしないでっ!もぉ~帰ってよぉ~泣。用事あるんでしょ~泣」
そうだった、花さん待たせてるんだった。
「それじゃお邪魔しました。乃蒼、病み上がりなんだからあんまり叫ぶなよ?じゃあまた学校で」
「もぉ~、なんで急に普通に戻れるのぉ泣」
浴室くらいある玄関で置いてある靴の中で1番見すぼらしいスニーカーを履いてドアに手をかける。
「じゃな。お大事に」
「ありがと。また来てよ。今度はお母さんがいない時に!」
後半はわざと大きな声で乃蒼がそう言うと、イレーヌは
「あら、大胆ね笑」
とまた余計な一言を口に出して娘にパンティを投げられている。
「お母さん、ありがとうございました」
とても良いものを見せていただいて。
「またいらっしゃい。でも避妊だけはちゃんとしてね」
こくん
「こくん、じゃないわぁ!早よ帰れぇ!んでイレーヌ!おどれちょっとコッチ来い!」
激しい親子に頭を下げドアを閉めると廊下はさっきのが嘘みたい静まり返っていた。
なんか扉一枚内側に戻りたくなるような、そんな寂しさを感じていた。
>
>
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エレベーターを降りあの重厚なドアを開けるとホテルマン風の男はさっきと同じ位置でピンと背筋を伸ばし直立不動で立っていた。
俺は何か挨拶しようとと思ったけどなんて言っていいのか思いつかず軽く頭だけ下げると、無表情だけど優しい声で「お気を付けてお帰り下さい」と返してくれた。
マンションから出て少し歩き、再び振り返って見てみるとやっぱり物凄いマンションだと改めて思った。
この辺りでは1番高い建物だ。
当然のことながら値段も。
40階を眺めると当たり前だけど人影すら見ることができないほど高くて遠かった。
俺は見えるか見えないかはわからないけどなんとなくそうしたくなって40階に向かって大きく手を振った。
振り返してくれたかどうかまでは俺の視力では確認することはできなかった。
「もしもし花さん、今終わったよ。うん、そう、やっぱりあのマンションだった。どうする?え?うん、わかった。じゃコンビニで」
花さんとコンビニで待ち合わせをして合流し、看板猫のいる喫茶店でコーヒーを飲みながらさっきまでの事を花さんに話した。
きちんと謝れたこと、乃蒼からも謝ってもらったこと、乃蒼のお母さんからも。
お母さんがフランス人だったことや部屋にはウチ以上に本があったこと、洗濯室が俺の部屋と同じ広さだったこと、とにかく凄い家だったこと、乃蒼のブラジャーは薄紫だったこと。
「いいの見せてもらったねぇ笑。なかなか同年代の女性の下着なんて見れないんだよ」
花さんのそういって浮かべる笑みはイレーヌと同じだった。
やっぱり似てるよなぁ、イレーヌの方が過激だけど笑。
「そういえばおつり。やっぱり5000円は多いよ」
残った千円札2枚と小銭を出すと
「ここ、秋が奢ってよ」
と花さんは受け取らなかった。
「奢ってって、これ花さんのお金でしょ?」
「違うよ、秋にあげたの。だから秋のお金。ねぇ奢ってよぉ」
なんだろう?なんかのプレイなのかな?
俺はレジで渡すはずだったおつりから1400円を払った。
それでもお金が余ったのでそれを花さんに渡そうとすると「いいから。あげるからお菓子でも買いなさい」と言った。
「お菓子って笑。子どもかよ笑」
「子どもだよ。あ、違うか。今日の秋は同級生の下着を見てドキドキした立派な大人だもんね」
そう言ってクスクスと笑ったけど、レジに立っていたお姉さんは俺のことを気持ち悪そうに見つめていた。



中学生女子の下着なんて見たことがなかった。
乃蒼のブラジャーをみた瞬間、乃蒼が女なんだってことを強く意識した。
人に見られることを前提としていないブラジャーやパンツに何故色が綺麗だったり刺繍がしてあるのかはいまいちわからないけれど、そういったものだからこそ見た時に男はドキリとしてしまうのかもしれない。
あの薄い紫の、レースの刺繍がしてあるブラジャーは、間接的に乃蒼のおっぱいを垣間見た気にさせる。
おっぱいって…宇宙みたいだなと思った。
生きてたら良いことばかりじゃない。
小さなことで落ち込んだり不安になったりするけど、これから先おっぱいを頭に思い浮かべるだけで俺はなんでもできると思った。
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