花さんと僕の日常

灰猫と雲

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過去

秋の章 「文化祭 4」

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「なぁ聞いてもいいか?」
俺は悶々とするのが得意ではない。
もっともそんなの得意なやつは聞いたことがないが。
「なぁに?なんでも答えるよ?」
なんでも答えるのか。
「お、お姉さん今日はどんなパンツ履いてるの?」
ほんの軽い冗談だった。
いきなり聞きたいことを話すには少し抵抗があったのでちょっとだけふざけただけだ。
何言ってんの?と冷めた目で見るだけで俺の性癖は満たされたのに。


「え?…あ、あの…紫のやつ秋も見たでしょ?お気に入りなの…可愛くて…」


小さな声でゴニョゴニョと囁き少し顔を赤らめて、けど上目遣いで俺を見る。
「…あ、ありがとう」
何故か俺はお礼を言った。
「どう…いたしまして」
今度は恥ずかしげに目を背けながら小さな声でゴニョゴニョする。
俺は本でよく使われている『萌え』を初めて体感した。
「見たい…の?」
「え?」
「見たく…ない?」
「そ、そりゃあ…」
乃蒼の両手がスカートの裾をつまみゆっくりとめくりあげる。
太ももが少しずつ露わになる。
「ねぇ乃蒼ちょっと待ってよ!冗談!冗談だってば」
乃蒼はつまんだ裾をパッと離し、あるべき所定の位置まで戻すと、それまでの潤んだ瞳や照れて赤らんだ顔がサッと奥に引っ込んで代わりに無表情、というよりも冷めた目で俺を見る。
「うん知ってる。で、どうしたの?冗談挟まないと言えないようなそんなに聞きにくい事聞こうとしてる?たとえば私の好きな人は誰、とか?」
察しが良くてなによりだが不意に見た太ももでそんな事はどうでも良くなってしまった。
夏場の体育の時にみる足の5分の4を見たところでなんとも思わないが、スカートをめくって見る5分の3は比較にならないくらい刺激的だ。
「あ、今絶対エッチなこと考えてる」
図星だった。否定はしない。
「パンツよりエッチなことって…まさかブラ!?え~、ブラも見たいの?けどブラは…ちょっと勇気がいるなぁ…」
困った顔を俺に見せた後、乃蒼はまた空を見上げる。
何かを決心するかのように…ってやめろ、なんの気持ちを整理しているんだ!
お前はこういうエロい話になると清純とエロキャラの振り幅がデカイよ…。
「いや、もういいから!やなさいっ!俺も思春期の男の子だ!」
俺の顔はもう真っ赤だし頭の中は下着でいっぱいだ。
「だから冗談だよ?笑。見せるわけないでしょ、エッチ」
なんだこのエロ拷問?
幸せな言葉だな、エロ拷問て笑。
毎日されてみたい、エロ拷問。
聞きたいことがあったはずなのに、なんかそんな気分じゃなくなってしまった。
もしかしたらまんまと乃蒼の策略にはまったのかもしれないけどまぁいいや、幸せな数分間だった。
「さぁて、俺はそろそろ行くわ」
「あれ?聞きたいことあったんじゃないの?」
「なんかどうでもよくなっちゃった」
俺が立ち上がると乃蒼は「起こして」と右腕を伸ばしてきた。
その手のひらを握りグッと引くと乃蒼も立ち上がる。
握ったその手の温もりが少し照れくさかった。
「それじゃあ行こうか」
と乃蒼は歩き出す。
「ん?行くってどこに?」
「いま自分で言ったんじゃん。戻るんでしょ?佐伯くん手伝いに」
本当に察しが良くて何よりだ。
「別にお前まで手伝わなくてもいいんだぞ?」
俺は好意でそう言ったのだが
「じゃあなに?友達もいない私に1人で文化祭を見てまわれとでもいうの?あんたは本当に冷たい人ね」
と目に見えてわかりやすくむくれ始めた。
「それに佐伯くんがいま1人なのはそもそも私が言い出したからなんだよ?だから私も手伝うのは当たり前でしょ」
至極当然とばかりに主張する。
なぁ乃蒼、お前は小さい時から周りから少しだけいじわるされて生きてきたのに、どうしてそんなに優しくなれたんだ?俺にはそれが少し不思議だよ。
ひょっとしてそれはお前にはイレーヌがいたからなのか?も
しそうだとしたら、やっぱりイレーヌは花さんに似てると思うんだ。
「あのさぁ、明日俺たちと文化祭まわらないか?」
少しだけ乃蒼の顔に緊張が走る。
「秋、達と?」
「ああ。俺とタケルと彩綾と、そんで花さんの5人で」
なぁダメかな?俺はいま無性にその5人で一緒に居たいんだ。
乃蒼のためじゃなく、俺がそうしたいんだよ。
そしたらきっと今よりももっと未来が面白くなる気がするんだ。
本能がそう叫ぶんだ。
「秋、前に言ってたよね?花さんなら大丈夫だって。花さんと普通に話せないんだったらもうそいつは死ぬしかないって。私、花さんと会ってみたい。会って話してみたい!」
乃蒼は若干興奮気味だった。
しかし、一転して表情が曇る。
「けどいいのかな?突然私なんか一緒にいても。昔からの幼馴染なんでしょ?佐伯くんと荒木さん」
そうだよな、乃蒼がそう言うのは想定の範囲内。
「残念なお知らせがあってだな。俺らも、そして花さんも若干頭が悪くてそう言うのが気にならないんだ。気にならないからいきなり距離詰めてくるかもしれない。むしろ先に謝っておく」
乃蒼がさっきとは逆で下を向いた。
泣いてるのかな?と思ったら実は笑いをこらえているようだった。
よほど嬉しいようだった。
「ワカッタ。ガンばル!」
おいもう片言だぞ?1つしかひらがなねぇぞ?
「ねぇ、お願いなんだけどさ。私がうまく話せなかったり笑えないっていうのは花さんには教えないでおいて」
「いいのかよ。知ってた方が乃蒼が話しやすいようにしてくれると思うよ?」
「だからなの。全部が全部甘えるのもダメだから。私は私で頑張んないと。それに秋もいるし、大丈夫」
俺が乃蒼の保険になるなんて光栄なことだ。
「わかった。花さんのことだからすぐわかっちゃうかもしれないけど、俺からはなにも言わないよ」
「ありがとう。楽しみ。ホント楽しみ!誘ってくれてありがとう」
乃蒼は先ほどのように右手を俺に差し出す。俺は右手でまた手のひらを握る。
俺らがアメリカ人ならきっとハグをする場面なんだろうけど、俺たちは日本人だ。
気持ちを表すのは照れ臭くて握手が精一杯。
「さ、佐伯くんを助けに行きましょう」
カラカラと教室のドアを開け前を歩き出すスカートからのぞく足を追いかけながら、乃蒼にとって明日が幸せな1日になるように願った。
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