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第一章
第八話 集会と何が違うの始業式
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学校は最寄りの駅が早貴達の住む日向町から二駅離れており、そこから送迎バスに乗るのがスタンダード。
しかし広範囲にコースが設けられていて、そのコースの一つに日向町経由がある。
そのためわざわざ電車で二駅乗ってからバスに乗るという乗り換え無しに、端からバス一本で学校を目指すことができる。
学校に到着したバスは乗車用・降車用共に開いてぞろぞろと生徒達が降りてくる。
その中の一台、早貴達のバスからはもはや囁き声ではなくなりテンションの上がった声が聞かれるようになっていた。
それにより他のバスから降りてくる生徒達や、すでに学校玄関前で貼り出されているクラス表で自分の名前を探している生徒などがその声の発生源へ視線を向ける。
早貴が二つあるブレザーのボタンを下だけ外し、千代はボタンを掛けずにカーディガンを見せるスタイルでバスの乗車口から降りて来た。
その騒ぎが聞こえながらもクラス表から目を離さない生徒がいる。
「一年生が騒ぎ始めましたか。毎年凄いですね、あのお二人は」
一年生を中心に周りを囲まれつつ自分の関係者がどこのクラスなのかをメモしながらそう呟くのは、セミロングにウェーブをつけてハイポニーにしているメガネっ娘、凪川奏《かなで》である。
ちなみに身長百五十四センチ、冬制服を着ていても一目でわかる大きさを誇る胸の持ち主。
また、早貴と千代が所属する陸上部のマネージャーでもある。
「お、奏発見。いろいろ目立ってるよね~」
早貴と千代は奏を目指して歩いて行く。その間周り、特に一年生の女子が騒々しさを増していた。
「あの二人だよね。ほんとにいたんだ! 実際に見ることができただけでもこの高校にして良かったと思う~」
「もう一人もクラス表の前にいるじゃん! 三人揃ってる!」
そんな内容の感嘆があちこちで漏れまくっているのだが、早貴と千代の耳には毎度、毎日、耳には入らないらしい。
早貴が奏の後ろから声をかける。
「か~な~で。おっはよ~。なかなか時間が合わないまま結局春休み中に遊べなかったね」
「お二人とも、おはようございます。ええ、残念でしたが今年は私もお二人と同じC組ですよ」
奏がクラス表へ向けてペンで指す。
『夜桜大学付属葉桜高等学校 新クラス』
早貴と千代が奏のペン先に釣られてクラス表を見る。
「ん~、やっぱ校名も制服に負けずクセがあるよね」
「桜散ってしまってるじゃん、て最初は思うし」
『葉桜』は新しい息吹を意味して、『夜桜』はどんな時でも周りから注目される存在になるようにとの願いが込められているらしい。
高校の制服が緑色なのは、葉桜が由来なわけだ。
「やったね、奏。お千代ともまた一緒だし、ラスト一年楽しめそうだ」
「エスカレーター狙ってたら二年からコース絞られていっしょになりやすいのはわかってたけど――痛い」
早貴が千代の頭をチョップする。
「もう、そういうことじゃなくて、こう、なんかさ、もうちょっとないの? うれしいじゃん、一緒になるの。二年の時同じクラスになれなかったんだし」
「早貴さんのそのセリフをもっと聞けるようになるのですね。楽しみです」
奏が楽しそうにクスクス笑う。
「では、C組に行きましょうか。周りの騒ぎも増してるようですし」
「バスに乗ってた時からそうなんだよね。そんなにこの高校ってテンション上がる要素あったっけ? 確かにインパクトのある制服を気に入る人はいるかもだけど」
早貴は不思議そうな、千代は少々呆れ気味な顔をしている。
「お二人は、こんな状況でもお気づきにならないんですね。そこがまた私は好きですけど」
奏を挟むように早貴と千代が並び、三人は校舎の方へと歩いて行く。
はっきり言っておこう。現在の葉桜高校が誇る美少女三人組が歩いているのだ。
この学校の生徒達にとっては芸能人を見るのと変わらない状況と言える。
女子生徒達が三人の間近を占拠しているため、男子生徒達は遠巻きにしか見ることが出来ない。
昇降口に入ると話し込んだり迷ったりしている生徒達で混みあっているため、縦列になって中を進んでいく。
土足のため下駄箱で渋滞することは無い。
しかし要領を得ていない一年生が混ざると、必然的に人の動きは停滞してしまうのだ。
「ごめんね~、ちょっと通して~」
一声掛けると、ざっと八割の生徒が次々と道を開けてくれる。
早貴と千代はそれを不思議とも思わずに先を行く。
二人の間にいる奏は恥ずかしそうに肩をすくめて付いて行く。
三年C組は二階。
一年の時は四階だったので二フロア降りて来たわけだ。
ワンフロアを上がるだけで教室のある廊下を歩くことができるのも、三年生になったと感じる一面である。
手前から特進コースのA組とB組、進学コースのC~H組、普通科のI~L組。
そのようなクラス分けになっているため早貴達は三クラス目になる。
ということは進学コースであり、夜桜大学へ行く気満々の生徒達の一員なのだ。
廊下にはこれまでの友達の所へお互いに往復して遊んだり、廊下で話をしたりしている生徒達で溢れており、教室内より賑わっていた。
そこへ三人が登場し、C組へと入っていく。
黒板に貼ってある座席表で自分の席を確認する。
三人は自分の席に荷物を置いてとりあえず奏の席を囲むように集まった。
その様子を見ているC組の生徒達がヒソヒソと話をしている。
初めて三人と一緒、もしくは早貴と千代の二人か奏と初めて一緒のクラスになった生徒が騒いでいるようだ。
そんな状況になっているC組の出入り口から教室内を覗いて、探そうとした矢先に目的の人物を見つけて騒いでいる生徒達を縫うようにかわしながら、身長百七十センチの女子が入ってきた。
その生徒は三人に近づき、手を挙げながら挨拶をする。
「おっはよ~! 教室覗いたらすぐに見つけたよ」
「ひゃ~、綾様だ! やっほー」
「お~、綾だ! おはよー」
「おはよう、綾」
綾と呼ばれているこの生徒は佐戸倉綾《あや》。
一~二年は奏と同じクラスであり奏が陸上部マネージャー。
それにより早貴と千代の二人とも仲が良い水泳部部員だ。
挙げている手をそのまま三人の目線に下ろすと、三人が順番にタッチをしていく。
綾は近くのイスを持ってきて、三人の輪に加わった。
「私はD組になっちゃった。あんたらいつもの事とは言えヤバイね~。これだけ反応があるってことは本物って証拠だもんね」
綾が奏に目で確認をしてみる。
「このお二人は、相変わらずですよ」
綾の確認に奏が答えた。早貴と千代はなんの話か見えず二人に問う。
「ねえ、何? アタシらヤバイの? お千代は知ってるの?」
「いや、何のことやら」
奏と綾がクスクスと笑う。
「奏、ちゃんと教えた方がよくない? そりゃ三年になっても気づいてないんだから、今更感が半端ないけど」
「どうでしょうか。教えたところで今まで通りとは思いますが」
「まあ、奏も二年になった時に教えてあげるまで分かってなかったけどね」
綾が軽く奏を指差してケラケラと笑い出した。
「それは、言わないでください。だって、私がそんな扱いになっているなんて、普通思わないじゃないですか」
真っ赤な顔になって奏は俯いた。
そのまま話を続ける。
「なので、お二人も私と同じになるかと。意識してもしなくても周りは変わりませんから。悪いことなら解決しないといけませんが、どちらかというと良いことですし」
笑っていた綾が座り直し、奏にオーケーと手で合図をして答えを求めている早貴と千代を見た。
「この話、わ~す~れ~て~」
綾が両手を左右に振りながら強引に話を終わらせた。
この強行採決に早貴と千代は抗議する。
「ち、ちょっと! そこまで話しておいてやめるって無い無い! だってヤバイんでしょ? 何か知らないうちに仕出かしてるとかだと本当にヤバイし」
「それは大丈夫。あんたたちは何も悪いことはしていない。これは間違いない。だから安心して」
「ん~、悪いことをしていないってのはわかった。でも、アタシ達が知らないままでいいことって何よ」
「それは~、それを言っちゃうと、奏と私が楽しめなくなるから~。だよね、奏?」
奏はごめんなさい、と両手を合わせたポーズを見せる。
「でも、これからまだ一年あるわけですし、自然に分かる時があるような気もします。私もお伝えした方が良いと判断したら、すぐにお伝えしますので」
「私が未熟なばかりに余計な心配させちゃったね。反省反省。以後気を付けます」
結局、早貴と千代は答えを教えてもらえないまま鐘が鳴り、綾がD組へ帰って行った。
差し当たり名簿順で割り振られた席へと早貴と千代も戻った。
程なくして教室の扉が開けられ、帳簿を持った女性の担任教師が入ってきた。
セミロングで前髪を左へ流して黒のスーツを着ている。
そのまま教卓に帳簿を置いて生徒を見回す。
「みなさん、おはようございます。いよいよ三年生が始まりましたね。残りの高校生活を充実したものにしてね。って、名前がまだだった。いきなり順番間違えちゃった」
生徒の一部から笑い声が聞こえる。
担任は、黒板に名前を書きだした。
『鏑木冴子』
「え~、かぶらぎさえこ、と言います。まだこの学校に赴任して二年目で三年生の担任に抜擢されてしまいました。はは。みなさんはココの生徒として三年目ですので、私の先輩になります。後輩の私に負けないよう、納得のいく卒業に向けて、一緒に頑張りましょう」
笑いが混じる中、盛大な拍手が送られた。
「それでは、ある程度顔見知りもいるのだろうけどこのクラスのメンバーが誰なのか、最初に名前だけでも一度は耳に通しておきましょう。呼ばれたら立ち上がってみんなに顔を見せてあげてください」
そう言って、一人ずつ鏑木は読み上げていく。
千代、奏、早貴の名前が呼ばれた時には特に盛り上がった。
奏以外の二人はなぜだかわからずきょとん顔だったが。
先生が全員の名前を読み終わったところで全員に待機を指示し、他のクラスの先生と廊下で打ち合わせを始めた。
少しの間話した後駆け足で教室に戻ってきて全員に指示を出す。
「それでは始業式が始まるので、みんな廊下で名簿番号順に並んで~」
全員がイスの脚で床を擦る音をたてながら立ち上がり、廊下へと移動する。
「それでは、体育館へ移動しま~す」
体育館では全校生徒をパイプ椅子に座らせられる広さは無い。
一年生、二年生がそれぞれの決められたエリアで床に座っていた。
そこへ三年生がクラスごとのエリアに誘導され、A組から順番に座っていく。
全クラスが座り終えたところで始業式が始まり校長の挨拶と先生の紹介等が行われ、あっさりと終了した。
教室に戻って今後の予定を聞いたり新しい教材を受け取ったりするなどして、バッグが重くなったところで解散となった。
陸上部の三人は自然に集まり、早貴と千代が奏から陸上部の様子を聞いていた。
「今日も休みだそうです。他の部ならこういう日は時間が多くとれるので、寧ろ積極的に活動するところなのですが」
「春休み中も全然活動無かったし、これじゃあ陸上部自体が幽霊部じゃない」
「この学校で悔やまれるのは部活だったね」
「私も、お休みを伝えているだけのような気がして。お二人、足速いので勿体ないです」
ションボリとしてしまった奏を早貴と千代が両側から抱きしめる。
「奏が落ち込むことないよ~。いつもアタシ達の走りを楽しみにしていてくれたのは凄くうれしいんだけどさ、アタシ達ね、陸上部入ったのは、ただ昔から二人共人よりちょっと足が速いのが嬉しくて、二人で走る場所が欲しかっただけなんだよ」
早貴の話を聞いて奏は千代に振り向き、目で本意かどうかを聞く。
千代は二度大きく頷いてみせた。
「お二人が辛くないのであれば、私には何も言うことがないのですが」
「かなでー。私今日部活無いって~。だからいっしょに帰ろ~」
綾が教室の外から大きな声で奏に伝える。
「そっか、水泳部も休みか。じゃあさ、四人で甘いものでも食べに行く?」
早貴の企画に千代と奏が賛同して三人は綾を誘いに教室を出た。
三人が教室を出ていくまで話している様子をジーっと見ながら呟いている男子生徒達がいる。
「あのさ、なんなのあの娘さん達は」
「この学校の三大美女じゃん」
「あの子達と俺らは同級生なの?」
「だからラッキーにも同じクラスになれて、こうして眺めていられたわけじゃん」
「今年、おみくじ大吉じゃなかったんだが、大吉級じゃないか? これ」
「だろうな。間近で見られるなんて思ってもなかったからな、声すら聞けないと思ってたよ」
「ラスト一年、癒されそうだな」
「だな」
男子生徒のほとんどは、このような会話をしている。
しかし広範囲にコースが設けられていて、そのコースの一つに日向町経由がある。
そのためわざわざ電車で二駅乗ってからバスに乗るという乗り換え無しに、端からバス一本で学校を目指すことができる。
学校に到着したバスは乗車用・降車用共に開いてぞろぞろと生徒達が降りてくる。
その中の一台、早貴達のバスからはもはや囁き声ではなくなりテンションの上がった声が聞かれるようになっていた。
それにより他のバスから降りてくる生徒達や、すでに学校玄関前で貼り出されているクラス表で自分の名前を探している生徒などがその声の発生源へ視線を向ける。
早貴が二つあるブレザーのボタンを下だけ外し、千代はボタンを掛けずにカーディガンを見せるスタイルでバスの乗車口から降りて来た。
その騒ぎが聞こえながらもクラス表から目を離さない生徒がいる。
「一年生が騒ぎ始めましたか。毎年凄いですね、あのお二人は」
一年生を中心に周りを囲まれつつ自分の関係者がどこのクラスなのかをメモしながらそう呟くのは、セミロングにウェーブをつけてハイポニーにしているメガネっ娘、凪川奏《かなで》である。
ちなみに身長百五十四センチ、冬制服を着ていても一目でわかる大きさを誇る胸の持ち主。
また、早貴と千代が所属する陸上部のマネージャーでもある。
「お、奏発見。いろいろ目立ってるよね~」
早貴と千代は奏を目指して歩いて行く。その間周り、特に一年生の女子が騒々しさを増していた。
「あの二人だよね。ほんとにいたんだ! 実際に見ることができただけでもこの高校にして良かったと思う~」
「もう一人もクラス表の前にいるじゃん! 三人揃ってる!」
そんな内容の感嘆があちこちで漏れまくっているのだが、早貴と千代の耳には毎度、毎日、耳には入らないらしい。
早貴が奏の後ろから声をかける。
「か~な~で。おっはよ~。なかなか時間が合わないまま結局春休み中に遊べなかったね」
「お二人とも、おはようございます。ええ、残念でしたが今年は私もお二人と同じC組ですよ」
奏がクラス表へ向けてペンで指す。
『夜桜大学付属葉桜高等学校 新クラス』
早貴と千代が奏のペン先に釣られてクラス表を見る。
「ん~、やっぱ校名も制服に負けずクセがあるよね」
「桜散ってしまってるじゃん、て最初は思うし」
『葉桜』は新しい息吹を意味して、『夜桜』はどんな時でも周りから注目される存在になるようにとの願いが込められているらしい。
高校の制服が緑色なのは、葉桜が由来なわけだ。
「やったね、奏。お千代ともまた一緒だし、ラスト一年楽しめそうだ」
「エスカレーター狙ってたら二年からコース絞られていっしょになりやすいのはわかってたけど――痛い」
早貴が千代の頭をチョップする。
「もう、そういうことじゃなくて、こう、なんかさ、もうちょっとないの? うれしいじゃん、一緒になるの。二年の時同じクラスになれなかったんだし」
「早貴さんのそのセリフをもっと聞けるようになるのですね。楽しみです」
奏が楽しそうにクスクス笑う。
「では、C組に行きましょうか。周りの騒ぎも増してるようですし」
「バスに乗ってた時からそうなんだよね。そんなにこの高校ってテンション上がる要素あったっけ? 確かにインパクトのある制服を気に入る人はいるかもだけど」
早貴は不思議そうな、千代は少々呆れ気味な顔をしている。
「お二人は、こんな状況でもお気づきにならないんですね。そこがまた私は好きですけど」
奏を挟むように早貴と千代が並び、三人は校舎の方へと歩いて行く。
はっきり言っておこう。現在の葉桜高校が誇る美少女三人組が歩いているのだ。
この学校の生徒達にとっては芸能人を見るのと変わらない状況と言える。
女子生徒達が三人の間近を占拠しているため、男子生徒達は遠巻きにしか見ることが出来ない。
昇降口に入ると話し込んだり迷ったりしている生徒達で混みあっているため、縦列になって中を進んでいく。
土足のため下駄箱で渋滞することは無い。
しかし要領を得ていない一年生が混ざると、必然的に人の動きは停滞してしまうのだ。
「ごめんね~、ちょっと通して~」
一声掛けると、ざっと八割の生徒が次々と道を開けてくれる。
早貴と千代はそれを不思議とも思わずに先を行く。
二人の間にいる奏は恥ずかしそうに肩をすくめて付いて行く。
三年C組は二階。
一年の時は四階だったので二フロア降りて来たわけだ。
ワンフロアを上がるだけで教室のある廊下を歩くことができるのも、三年生になったと感じる一面である。
手前から特進コースのA組とB組、進学コースのC~H組、普通科のI~L組。
そのようなクラス分けになっているため早貴達は三クラス目になる。
ということは進学コースであり、夜桜大学へ行く気満々の生徒達の一員なのだ。
廊下にはこれまでの友達の所へお互いに往復して遊んだり、廊下で話をしたりしている生徒達で溢れており、教室内より賑わっていた。
そこへ三人が登場し、C組へと入っていく。
黒板に貼ってある座席表で自分の席を確認する。
三人は自分の席に荷物を置いてとりあえず奏の席を囲むように集まった。
その様子を見ているC組の生徒達がヒソヒソと話をしている。
初めて三人と一緒、もしくは早貴と千代の二人か奏と初めて一緒のクラスになった生徒が騒いでいるようだ。
そんな状況になっているC組の出入り口から教室内を覗いて、探そうとした矢先に目的の人物を見つけて騒いでいる生徒達を縫うようにかわしながら、身長百七十センチの女子が入ってきた。
その生徒は三人に近づき、手を挙げながら挨拶をする。
「おっはよ~! 教室覗いたらすぐに見つけたよ」
「ひゃ~、綾様だ! やっほー」
「お~、綾だ! おはよー」
「おはよう、綾」
綾と呼ばれているこの生徒は佐戸倉綾《あや》。
一~二年は奏と同じクラスであり奏が陸上部マネージャー。
それにより早貴と千代の二人とも仲が良い水泳部部員だ。
挙げている手をそのまま三人の目線に下ろすと、三人が順番にタッチをしていく。
綾は近くのイスを持ってきて、三人の輪に加わった。
「私はD組になっちゃった。あんたらいつもの事とは言えヤバイね~。これだけ反応があるってことは本物って証拠だもんね」
綾が奏に目で確認をしてみる。
「このお二人は、相変わらずですよ」
綾の確認に奏が答えた。早貴と千代はなんの話か見えず二人に問う。
「ねえ、何? アタシらヤバイの? お千代は知ってるの?」
「いや、何のことやら」
奏と綾がクスクスと笑う。
「奏、ちゃんと教えた方がよくない? そりゃ三年になっても気づいてないんだから、今更感が半端ないけど」
「どうでしょうか。教えたところで今まで通りとは思いますが」
「まあ、奏も二年になった時に教えてあげるまで分かってなかったけどね」
綾が軽く奏を指差してケラケラと笑い出した。
「それは、言わないでください。だって、私がそんな扱いになっているなんて、普通思わないじゃないですか」
真っ赤な顔になって奏は俯いた。
そのまま話を続ける。
「なので、お二人も私と同じになるかと。意識してもしなくても周りは変わりませんから。悪いことなら解決しないといけませんが、どちらかというと良いことですし」
笑っていた綾が座り直し、奏にオーケーと手で合図をして答えを求めている早貴と千代を見た。
「この話、わ~す~れ~て~」
綾が両手を左右に振りながら強引に話を終わらせた。
この強行採決に早貴と千代は抗議する。
「ち、ちょっと! そこまで話しておいてやめるって無い無い! だってヤバイんでしょ? 何か知らないうちに仕出かしてるとかだと本当にヤバイし」
「それは大丈夫。あんたたちは何も悪いことはしていない。これは間違いない。だから安心して」
「ん~、悪いことをしていないってのはわかった。でも、アタシ達が知らないままでいいことって何よ」
「それは~、それを言っちゃうと、奏と私が楽しめなくなるから~。だよね、奏?」
奏はごめんなさい、と両手を合わせたポーズを見せる。
「でも、これからまだ一年あるわけですし、自然に分かる時があるような気もします。私もお伝えした方が良いと判断したら、すぐにお伝えしますので」
「私が未熟なばかりに余計な心配させちゃったね。反省反省。以後気を付けます」
結局、早貴と千代は答えを教えてもらえないまま鐘が鳴り、綾がD組へ帰って行った。
差し当たり名簿順で割り振られた席へと早貴と千代も戻った。
程なくして教室の扉が開けられ、帳簿を持った女性の担任教師が入ってきた。
セミロングで前髪を左へ流して黒のスーツを着ている。
そのまま教卓に帳簿を置いて生徒を見回す。
「みなさん、おはようございます。いよいよ三年生が始まりましたね。残りの高校生活を充実したものにしてね。って、名前がまだだった。いきなり順番間違えちゃった」
生徒の一部から笑い声が聞こえる。
担任は、黒板に名前を書きだした。
『鏑木冴子』
「え~、かぶらぎさえこ、と言います。まだこの学校に赴任して二年目で三年生の担任に抜擢されてしまいました。はは。みなさんはココの生徒として三年目ですので、私の先輩になります。後輩の私に負けないよう、納得のいく卒業に向けて、一緒に頑張りましょう」
笑いが混じる中、盛大な拍手が送られた。
「それでは、ある程度顔見知りもいるのだろうけどこのクラスのメンバーが誰なのか、最初に名前だけでも一度は耳に通しておきましょう。呼ばれたら立ち上がってみんなに顔を見せてあげてください」
そう言って、一人ずつ鏑木は読み上げていく。
千代、奏、早貴の名前が呼ばれた時には特に盛り上がった。
奏以外の二人はなぜだかわからずきょとん顔だったが。
先生が全員の名前を読み終わったところで全員に待機を指示し、他のクラスの先生と廊下で打ち合わせを始めた。
少しの間話した後駆け足で教室に戻ってきて全員に指示を出す。
「それでは始業式が始まるので、みんな廊下で名簿番号順に並んで~」
全員がイスの脚で床を擦る音をたてながら立ち上がり、廊下へと移動する。
「それでは、体育館へ移動しま~す」
体育館では全校生徒をパイプ椅子に座らせられる広さは無い。
一年生、二年生がそれぞれの決められたエリアで床に座っていた。
そこへ三年生がクラスごとのエリアに誘導され、A組から順番に座っていく。
全クラスが座り終えたところで始業式が始まり校長の挨拶と先生の紹介等が行われ、あっさりと終了した。
教室に戻って今後の予定を聞いたり新しい教材を受け取ったりするなどして、バッグが重くなったところで解散となった。
陸上部の三人は自然に集まり、早貴と千代が奏から陸上部の様子を聞いていた。
「今日も休みだそうです。他の部ならこういう日は時間が多くとれるので、寧ろ積極的に活動するところなのですが」
「春休み中も全然活動無かったし、これじゃあ陸上部自体が幽霊部じゃない」
「この学校で悔やまれるのは部活だったね」
「私も、お休みを伝えているだけのような気がして。お二人、足速いので勿体ないです」
ションボリとしてしまった奏を早貴と千代が両側から抱きしめる。
「奏が落ち込むことないよ~。いつもアタシ達の走りを楽しみにしていてくれたのは凄くうれしいんだけどさ、アタシ達ね、陸上部入ったのは、ただ昔から二人共人よりちょっと足が速いのが嬉しくて、二人で走る場所が欲しかっただけなんだよ」
早貴の話を聞いて奏は千代に振り向き、目で本意かどうかを聞く。
千代は二度大きく頷いてみせた。
「お二人が辛くないのであれば、私には何も言うことがないのですが」
「かなでー。私今日部活無いって~。だからいっしょに帰ろ~」
綾が教室の外から大きな声で奏に伝える。
「そっか、水泳部も休みか。じゃあさ、四人で甘いものでも食べに行く?」
早貴の企画に千代と奏が賛同して三人は綾を誘いに教室を出た。
三人が教室を出ていくまで話している様子をジーっと見ながら呟いている男子生徒達がいる。
「あのさ、なんなのあの娘さん達は」
「この学校の三大美女じゃん」
「あの子達と俺らは同級生なの?」
「だからラッキーにも同じクラスになれて、こうして眺めていられたわけじゃん」
「今年、おみくじ大吉じゃなかったんだが、大吉級じゃないか? これ」
「だろうな。間近で見られるなんて思ってもなかったからな、声すら聞けないと思ってたよ」
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