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第二章
第十話 久しぶりのデート
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約束の土曜日。
そう、早貴が木ノ崎と映画を観に行く日だ。
久しぶりの市駅周辺に映画ということで、自然と準備が念入りになる。
しかしまだ梅雨。
いつ雨が降るか分からない。
それも考慮した身なりにする。
「あら、なんだか久しぶりね、おめかししているの」
「うん、ちょっとね。久しぶりに遊びに行ってくるね」
「そうね。足も治ったことだし、いいんじゃない?」
「その通り。足が治った記念のようなものなの」
玄関でレインブーツを履いている早貴に時子が尋ねる。
「でも誰と? 千代ちゃん?」
「ああ。映画のチケットが手に入ったって友達がいてね、その子と」
「へえ、映画なのね。私も行きたくなっちゃうわ」
「ふふ。お母さんもたまにはいいんじゃないの? 映画観るのも」
「最近はどんなのやっているのかしら。調べてみるか」
玄関ドアを開けて早貴は出て行く。
「行ってきま~す」
早めとは言え、登校するよりは遅い出発。
余裕をもって駅へ向かった。
木ノ崎との待ち合わせは電車の中。
早貴は日向駅から乗るが、木ノ崎は葉桜高校前から乗る。
電車は九時半に葉桜高校前に到着予定。
九時半。
それが二人の約束の時間だった。
早貴は乗り込んだドアから最寄りの空いている座席に座った。
川沿いを走る路線のため、車窓からは常に川が見えている。
電車に乗っているということを確認するかのように、川へ目をやる。
「映画、久しぶりだなあ」
白のデニム地トートバッグを軽く抱える。
当分無いであろうと思われた感覚が思いのほか早く訪れたようだ。
携帯が鳴ったため、画面を確認する。
『おはよう』
『無事に乗っているかな』
『まだ寝ているとか』
チャットの相手は木ノ崎だった。
電車に乗っているかどうかの確認。
『おはよう』
『ちゃんと乗ってますよ~』
『二両目にいるよ』
『了解』
『二両目な』
二駅目が葉桜高校前。
チャットのやりとりをしていればあっという間に到着する。
駅に電車が入構すると、すぐに木ノ崎の姿を確認できた。
「よう。改めて、おはようございます」
早貴は座ったままお辞儀をする。
「おはようございます。って何よ、丁寧語」
月の宮線は川側がロングシート、山側がクロスシート。
早貴はロングシートに座っていた。
木ノ崎が早貴の隣に座ろうとする。
「ここ、よろしいですか?」
「どうぞ。もう、なんなのよ」
隣に座って木ノ崎が答える。
「いやさ、一応初めてお出かけする女性相手だから礼儀だよ、礼儀」
「アタシにそんな気を使わなくていいよ。なんだか笑えるなあ」
「おいおい、それマジで言っているのか? これぐらいしておかないと全校男子にフルボッコにされちまう」
「どうしてそんなことになるの? みんなそうやってアタシで遊ぶんだよね」
ため息をついて、まただ、という表情をしている。
「なるほど。綿志賀さんってさ、自分が学校でどういう位置にいるか分かっていないってことか」
「あ、それ最近友達にも言われた。木ノ崎君、何か知っているの?」
「え? その友達は教えてくれていないの? う~ん、そういうことか」
木ノ崎は何かを察したようで、それ以上話そうとしない。
「ねえ、何か知っているんでしょ? 教えてよ。みんなどれだけ聞いても教えてくれないの」
「それさ、俺もわかんねえわ。ごめん。どうも思い出した話と違うみたいだ」
教えない方が良さそうだと考えた木ノ崎は話を誤魔化した。
「なんだあ。でも、立ち位置がどうとか言っていたじゃない」
「いや、人違い。頭の中で色んな話が混ざっちまったんだ」
木ノ崎は片手を挙げてごめんポーズをする。
納得いかない表情の早貴は、片足の踵をトントンと叩いている。
「なにこの子、マジで可愛い」
「へ? 何か言った?」
「あ、いや、綿志賀さん、今日の恰好可愛いなあと思って」
片脚の動きが止まり、自分の服装を見る。
「そう? 今日は雨が降るかもと思って随分ラフにしたつもりだったけど」
「いやいや、ラフとは思わなかった。まあ、俺がファッションに疎いからかもしれないけど」
白い長袖Tシャツに無地でワインレッド色のロングビスチェワンピース。
靴はパッと見では分からないレインブーツ。
雨を意識したことで早貴的には随分とアイテムを減らしている方だ。
「でも、ありがと」
先ほどの話で損ねた機嫌はもう直っているようだ。
軽く微笑む早貴に思わず見とれてしまう木ノ崎。
釣られて似合わない笑みを作っていた。
月の宮市駅に到着する。
二人はホームからモールへと移動中だ。
「この人たち、みんな映画だったりしてとか思わない?」
「俺はあんまり思ったことないけど、気持ちはわかる」
「いろんな所があるのに同じ方向へ大勢の人と歩いていると、いつも思うのよね」
「この先に一つのイベントしかないなら分からなくもないけどなあ、ライブとかさ」
早貴は木ノ崎の前に回り込むようにして思わず声が出る。
「ライブ!? いいよねライブ! 行きたいのよ~」
いきなり前に出て来た早貴の顔に少々驚きつつも話を続ける木ノ崎。
「お、ライブとか好きなの? 音楽聞くんだ」
「それぐらいはしますよ。でも好きなバンド一つぐらいしか聴かないからあんまり知らない」
「あんまり知らない人を嵌らせるバンドってのも凄いな。今度聴かせてよ」
「うん、是非! すっごくいいよ~。」
好きな事を話している早貴は、一段と明るい笑みを見せる。
木ノ崎はその笑みを見る度に今まで味わったことの無い鼓動の高鳴りを感じていた。
モールと併設されている映画館。
カーペットの模様が替わると映画館のスペースとなる。
独特な雰囲気やファーストフードの匂い、予告編が流れている大型ディスプレイ。
それだけでも映画の世界へ入り込んだような気持ちにさせてくれる。
「俺、チケット交換してくるよ」
「アタシも行く」
「交換するだけだぜ?」
「付いて行くだけだよ?」
お互いに軽く笑い合う。
「わかった。一緒に行こう」
受付でチケットを交換。
次に飲み物を買う。
早貴はミルクティー、木ノ崎はコーラ。
入場開始のアナウンスを聞きながら入場口へと向かった。
もぎりを終え、案内されたシアター番号を目指しながら早貴が話しかける。
「何か特典があるかと思った。こういうのって、結構もらえるんでしょ?」
「そうなのか? 俺、今までもらったことないけど」
「なんかね、友達でそれ目当てに何回かリピートするって言っている子がいたから」
「へえ。そういう話を聞くと色々と観に来たくなっちまうな」
「また機会があったら来る? って、まだ観てもないのに何言ってるんだろ」
話しながら目指すシアターに入る。
途端に静かな空間が待ち構えている雰囲気が漂う。
二人共それを感じ取り、自然に話を止めた。
木ノ崎が早貴の前を歩き、階段を上っていく。
チケットに印字されているシートナンバーを確認して早貴に教える。
「ここだね。随分端っこだな。少しでも中側の方がいいでしょ?」
座席はシアターの右端壁際の二席。
左右に人が居ない場所だ。
木ノ崎はそのまま壁際の席へと入っていく。
「あんまり変わらないと思うけど、いいの?」
「少しでも視点が違うだろうし、すぐに出られる方がいいだろ?」
「ありがと。ではお言葉に甘えて」
早貴はカーテシーをしてみせ、シートに座る。
「そこまでしてもらうようなことか?」
「だって、気を使ってもらったから」
後ろの座席からひそひそ声が聞こえてくる。
『ちょっと、前の彼女凄く美人さんよ』
『あれじゃ彼氏も丁寧になるわよね』
木ノ崎はその話し声が聞こえたことで、早貴の特別さを改めて認識した。
それに気づいているのか確認するように早貴を見てみる。
だが、早貴はバッグを抱えてスクリーンの予告編をジッと見つめている。
思い出したかのようにミルクティーに手を伸ばしたりしながら。
どうも気づいていないように見える。
「なあ、綿志賀さん?」
「あ、何? ごめん、映像に集中してた。何か話しかけていた?」
「いや、なんでもない……」
「遠慮なく言ってね。アタシよくあるんだ、聞いてないこと。友達に怒られるの」
木ノ崎は、結構はっきりと聞こえてくる後ろの客の声が聞こえていない早貴に驚く。
自分がどういう風に見られているのかを本当に知らないのだ。
後ろには聞こえない声量で確認をしてみる。
「後ろの人達の話って聞こえてなかった?」
「え? 後ろの? ごめんね、全然聞いてなかった。何かあった?」
「あ、いや、大したことじゃないから聞こえていなければいいんだ」
これ以上は聞くまい、と話を切り上げる。
「映画、楽しみだね」
「うん! もうドキドキしているよ~。予告編ですら楽しいよ」
木ノ崎は、ずっと笑顔が止まらない早貴をただ眺めていた。
◇ ◇ ◇
「ああ楽しかった~。ありがとね、木ノ崎君。こんなに楽しんだのっていつ以来かな」
「そんなに楽しんでもらえたんなら誘った甲斐があったよ」
「悪い事の後には良いことがあるもんだね~」
トートバッグを脚の前で左右に振りながら歩いている。
楽しさを表現せずにはいられないようだ。
「でも、悪い事はもう嫌だなあ。良い事だけがあればいいのに」
「ま、誰でもそう思うよな」
口は早貴に合わせているが、木ノ崎の表情は曇っていた。
「さて、これからどうしますか?」
木ノ崎に横から尋ねる早貴。
目が期待に満ちている。
そこまでの反応をされたことがない木ノ崎は少々困惑気味だ。
実際に来ているのはショッピングモール。
何をすると言ってもお店巡りか飲食、もしくはゲームセンターぐらいだろう。
そんなことを頭の中でざっと思い巡らせてからつい聞いてしまう。
「そんなに楽しいか?」
「うん、楽しいけど木ノ崎君は楽しくない? あ、男の子だとこういう所が苦手な人もいるのかな」
「俺はあんまりこだわりがないから構わないよ」
「ならいいんだけど。ずっと部活やっているか家に籠っているかだったから妙に楽しいの」
久しぶりのデートを楽しむ早貴。
これまでに無かった感覚の女子に困惑する木ノ崎。
新たに二つの心が接近しつつあった。
そう、早貴が木ノ崎と映画を観に行く日だ。
久しぶりの市駅周辺に映画ということで、自然と準備が念入りになる。
しかしまだ梅雨。
いつ雨が降るか分からない。
それも考慮した身なりにする。
「あら、なんだか久しぶりね、おめかししているの」
「うん、ちょっとね。久しぶりに遊びに行ってくるね」
「そうね。足も治ったことだし、いいんじゃない?」
「その通り。足が治った記念のようなものなの」
玄関でレインブーツを履いている早貴に時子が尋ねる。
「でも誰と? 千代ちゃん?」
「ああ。映画のチケットが手に入ったって友達がいてね、その子と」
「へえ、映画なのね。私も行きたくなっちゃうわ」
「ふふ。お母さんもたまにはいいんじゃないの? 映画観るのも」
「最近はどんなのやっているのかしら。調べてみるか」
玄関ドアを開けて早貴は出て行く。
「行ってきま~す」
早めとは言え、登校するよりは遅い出発。
余裕をもって駅へ向かった。
木ノ崎との待ち合わせは電車の中。
早貴は日向駅から乗るが、木ノ崎は葉桜高校前から乗る。
電車は九時半に葉桜高校前に到着予定。
九時半。
それが二人の約束の時間だった。
早貴は乗り込んだドアから最寄りの空いている座席に座った。
川沿いを走る路線のため、車窓からは常に川が見えている。
電車に乗っているということを確認するかのように、川へ目をやる。
「映画、久しぶりだなあ」
白のデニム地トートバッグを軽く抱える。
当分無いであろうと思われた感覚が思いのほか早く訪れたようだ。
携帯が鳴ったため、画面を確認する。
『おはよう』
『無事に乗っているかな』
『まだ寝ているとか』
チャットの相手は木ノ崎だった。
電車に乗っているかどうかの確認。
『おはよう』
『ちゃんと乗ってますよ~』
『二両目にいるよ』
『了解』
『二両目な』
二駅目が葉桜高校前。
チャットのやりとりをしていればあっという間に到着する。
駅に電車が入構すると、すぐに木ノ崎の姿を確認できた。
「よう。改めて、おはようございます」
早貴は座ったままお辞儀をする。
「おはようございます。って何よ、丁寧語」
月の宮線は川側がロングシート、山側がクロスシート。
早貴はロングシートに座っていた。
木ノ崎が早貴の隣に座ろうとする。
「ここ、よろしいですか?」
「どうぞ。もう、なんなのよ」
隣に座って木ノ崎が答える。
「いやさ、一応初めてお出かけする女性相手だから礼儀だよ、礼儀」
「アタシにそんな気を使わなくていいよ。なんだか笑えるなあ」
「おいおい、それマジで言っているのか? これぐらいしておかないと全校男子にフルボッコにされちまう」
「どうしてそんなことになるの? みんなそうやってアタシで遊ぶんだよね」
ため息をついて、まただ、という表情をしている。
「なるほど。綿志賀さんってさ、自分が学校でどういう位置にいるか分かっていないってことか」
「あ、それ最近友達にも言われた。木ノ崎君、何か知っているの?」
「え? その友達は教えてくれていないの? う~ん、そういうことか」
木ノ崎は何かを察したようで、それ以上話そうとしない。
「ねえ、何か知っているんでしょ? 教えてよ。みんなどれだけ聞いても教えてくれないの」
「それさ、俺もわかんねえわ。ごめん。どうも思い出した話と違うみたいだ」
教えない方が良さそうだと考えた木ノ崎は話を誤魔化した。
「なんだあ。でも、立ち位置がどうとか言っていたじゃない」
「いや、人違い。頭の中で色んな話が混ざっちまったんだ」
木ノ崎は片手を挙げてごめんポーズをする。
納得いかない表情の早貴は、片足の踵をトントンと叩いている。
「なにこの子、マジで可愛い」
「へ? 何か言った?」
「あ、いや、綿志賀さん、今日の恰好可愛いなあと思って」
片脚の動きが止まり、自分の服装を見る。
「そう? 今日は雨が降るかもと思って随分ラフにしたつもりだったけど」
「いやいや、ラフとは思わなかった。まあ、俺がファッションに疎いからかもしれないけど」
白い長袖Tシャツに無地でワインレッド色のロングビスチェワンピース。
靴はパッと見では分からないレインブーツ。
雨を意識したことで早貴的には随分とアイテムを減らしている方だ。
「でも、ありがと」
先ほどの話で損ねた機嫌はもう直っているようだ。
軽く微笑む早貴に思わず見とれてしまう木ノ崎。
釣られて似合わない笑みを作っていた。
月の宮市駅に到着する。
二人はホームからモールへと移動中だ。
「この人たち、みんな映画だったりしてとか思わない?」
「俺はあんまり思ったことないけど、気持ちはわかる」
「いろんな所があるのに同じ方向へ大勢の人と歩いていると、いつも思うのよね」
「この先に一つのイベントしかないなら分からなくもないけどなあ、ライブとかさ」
早貴は木ノ崎の前に回り込むようにして思わず声が出る。
「ライブ!? いいよねライブ! 行きたいのよ~」
いきなり前に出て来た早貴の顔に少々驚きつつも話を続ける木ノ崎。
「お、ライブとか好きなの? 音楽聞くんだ」
「それぐらいはしますよ。でも好きなバンド一つぐらいしか聴かないからあんまり知らない」
「あんまり知らない人を嵌らせるバンドってのも凄いな。今度聴かせてよ」
「うん、是非! すっごくいいよ~。」
好きな事を話している早貴は、一段と明るい笑みを見せる。
木ノ崎はその笑みを見る度に今まで味わったことの無い鼓動の高鳴りを感じていた。
モールと併設されている映画館。
カーペットの模様が替わると映画館のスペースとなる。
独特な雰囲気やファーストフードの匂い、予告編が流れている大型ディスプレイ。
それだけでも映画の世界へ入り込んだような気持ちにさせてくれる。
「俺、チケット交換してくるよ」
「アタシも行く」
「交換するだけだぜ?」
「付いて行くだけだよ?」
お互いに軽く笑い合う。
「わかった。一緒に行こう」
受付でチケットを交換。
次に飲み物を買う。
早貴はミルクティー、木ノ崎はコーラ。
入場開始のアナウンスを聞きながら入場口へと向かった。
もぎりを終え、案内されたシアター番号を目指しながら早貴が話しかける。
「何か特典があるかと思った。こういうのって、結構もらえるんでしょ?」
「そうなのか? 俺、今までもらったことないけど」
「なんかね、友達でそれ目当てに何回かリピートするって言っている子がいたから」
「へえ。そういう話を聞くと色々と観に来たくなっちまうな」
「また機会があったら来る? って、まだ観てもないのに何言ってるんだろ」
話しながら目指すシアターに入る。
途端に静かな空間が待ち構えている雰囲気が漂う。
二人共それを感じ取り、自然に話を止めた。
木ノ崎が早貴の前を歩き、階段を上っていく。
チケットに印字されているシートナンバーを確認して早貴に教える。
「ここだね。随分端っこだな。少しでも中側の方がいいでしょ?」
座席はシアターの右端壁際の二席。
左右に人が居ない場所だ。
木ノ崎はそのまま壁際の席へと入っていく。
「あんまり変わらないと思うけど、いいの?」
「少しでも視点が違うだろうし、すぐに出られる方がいいだろ?」
「ありがと。ではお言葉に甘えて」
早貴はカーテシーをしてみせ、シートに座る。
「そこまでしてもらうようなことか?」
「だって、気を使ってもらったから」
後ろの座席からひそひそ声が聞こえてくる。
『ちょっと、前の彼女凄く美人さんよ』
『あれじゃ彼氏も丁寧になるわよね』
木ノ崎はその話し声が聞こえたことで、早貴の特別さを改めて認識した。
それに気づいているのか確認するように早貴を見てみる。
だが、早貴はバッグを抱えてスクリーンの予告編をジッと見つめている。
思い出したかのようにミルクティーに手を伸ばしたりしながら。
どうも気づいていないように見える。
「なあ、綿志賀さん?」
「あ、何? ごめん、映像に集中してた。何か話しかけていた?」
「いや、なんでもない……」
「遠慮なく言ってね。アタシよくあるんだ、聞いてないこと。友達に怒られるの」
木ノ崎は、結構はっきりと聞こえてくる後ろの客の声が聞こえていない早貴に驚く。
自分がどういう風に見られているのかを本当に知らないのだ。
後ろには聞こえない声量で確認をしてみる。
「後ろの人達の話って聞こえてなかった?」
「え? 後ろの? ごめんね、全然聞いてなかった。何かあった?」
「あ、いや、大したことじゃないから聞こえていなければいいんだ」
これ以上は聞くまい、と話を切り上げる。
「映画、楽しみだね」
「うん! もうドキドキしているよ~。予告編ですら楽しいよ」
木ノ崎は、ずっと笑顔が止まらない早貴をただ眺めていた。
◇ ◇ ◇
「ああ楽しかった~。ありがとね、木ノ崎君。こんなに楽しんだのっていつ以来かな」
「そんなに楽しんでもらえたんなら誘った甲斐があったよ」
「悪い事の後には良いことがあるもんだね~」
トートバッグを脚の前で左右に振りながら歩いている。
楽しさを表現せずにはいられないようだ。
「でも、悪い事はもう嫌だなあ。良い事だけがあればいいのに」
「ま、誰でもそう思うよな」
口は早貴に合わせているが、木ノ崎の表情は曇っていた。
「さて、これからどうしますか?」
木ノ崎に横から尋ねる早貴。
目が期待に満ちている。
そこまでの反応をされたことがない木ノ崎は少々困惑気味だ。
実際に来ているのはショッピングモール。
何をすると言ってもお店巡りか飲食、もしくはゲームセンターぐらいだろう。
そんなことを頭の中でざっと思い巡らせてからつい聞いてしまう。
「そんなに楽しいか?」
「うん、楽しいけど木ノ崎君は楽しくない? あ、男の子だとこういう所が苦手な人もいるのかな」
「俺はあんまりこだわりがないから構わないよ」
「ならいいんだけど。ずっと部活やっているか家に籠っているかだったから妙に楽しいの」
久しぶりのデートを楽しむ早貴。
これまでに無かった感覚の女子に困惑する木ノ崎。
新たに二つの心が接近しつつあった。
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