月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第二章

第二十一話 弱まりゆく崇拝

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「やれやれ。情報収集の優先度が変わっちまったな」

 貝塚はズボン後ろのポケットからメモ帳を出す。
 様々な情報を書き留めているものだ。
 珍しくメモ帳を愛用している彼。
 何故携帯を使わないのか。
 それには個人的な理由がある。
 デジタルを信用していない。
 落とすだけで全てが台無し。
 毎度クラウドにセーブするとしても、情報を危険に晒す可能性があると考えている。
 クラウド先が本部のモノだとしても……。

「しっかしあの人が入れ込むなんて珍しいね。そういう事が無いってのが魅力だったのによ」

 貝塚は木ノ崎の付き人として中学生になる時に配属された。
 二人の父親がタッグを組んで作られた会社、木ノ塚ゴム。
 ツートップの息子が木ノ崎と貝塚だ。
 当然幼いころからよく知っている。
 そして木ノ崎の父が企画開発、技術、経営、その他諸々において貝塚の父より優れていたために、役職は同等であるが、実際の立場は木ノ崎家の方が上となる。
 それ故、貝塚が木ノ崎の付き人という立場に任ぜられた。
 幼少の頃から会社についての教育を受けてきている。
 諜報という役目も難なくこなせる程に。

「あの人が気になっている女を中心に、か」

 放課後に早速校内をうろつく。
 まずは早貴たちのいる進学コースの校舎へ。

「こうならなくても探る相手ではあるんだけどな。理由が増えるとはね」

 早貴たちのいるC組前を通った時に、仲の良い相手はチェック済みだ。
 その内の一人、千代が綾と話をしている所に遭遇する。

「早貴ちゃんはどう? 千代ちゃんの話は聞いてくれたの?」

「また揉めるか心配はしたけど、ちゃんと聞いてくれて、距離を置くようにするって」

「良かったね! 一番気にしていた事だったからさ。二人はいつまでも仲良くいて欲しいし」

「そんな簡単に壊れませんよ~」

「あはは。恐れ入りました」

 話し声が聞こえつつ存在に気づかれない位置取りをしている貝塚。
 綾を見るのが初めてのようで、メモを取りながら聞いている。

「あの人は最近見るの?」

「早貴ちゃんは千代ちゃんといるでしょ。だからあの時以来、二人だけでいる所は見ていないよ」

「そうなのね。早貴からも名前が出てこなくなったし」

「なら大丈夫じゃないの? 千代ちゃんがちゃんと捕まえていれば心配ないよ」

「だといいんだけどさ」

「私の方も引き続き気にはしておくから。時々こうやって話そうよ」

「ありがと。綾が心強くて助かるわ。それにしても木ノ崎って人、どういう人なんだろう」

 いつどんな情報が入手できるか分からないため、常に一言一句逃さず聞く貝塚。
 そこで、一番聞き馴染みのある名前が耳に飛び込んでくる。

「偶然あったにしては何だか不自然な所もあるのよね。こういうのを胸騒ぎっていうのかな」

「綾、まさか……」

「ちょっと! 適当なこと言わないで。どちらかと言えば、その真逆だから」

「わかっているってば」

 笑い合う二人に気を集中させつつも貝塚はメモをとる。
 綾を仲の良い友達だというリストに入れていた。
 だが急いで横線をフリーハンドで引っ張り消す。
 綾を要注意人物の枠に書き込んだ。

「なるほど。あいつが注意喚起をして女に伝わったわけか」

 千代と綾が手を振って別れたのを見て、自身も次の行動へと移った。
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