月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第二章

第二十二話 共同作業で打ち解ける

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「コーヒーでも出しましょうか」

「助かります」

 機器のメンテンナンスも終わり、ブレイクタイム。
 先に浜砂が汚れた手を洗いに洗面所へ。
 入れ替わりで多駆郎が洗いに入る。

「この家、ずっと気になっていることがあるのよね」

 フロアを百八十度程見渡し、そんなことを呟く。

「あからさまだったから敢えて聞かなかったけれど……」

 玄関、台所、食卓とその下に敷かれたカーペット。
 コップなどの食器等々。
 目に付く場所には、およそ多駆郎が選択しないであろう物品がある。
 洗面所にもいくつかあるが、歯ブラシまでは無い。
 一度上がったことのある二階の部屋。
 そこにも飲み物を置くスペースが確保されており、布巾が掛けられていた。

「女性が来ているのは確かよね。正確には来ていた、かしら」

 台所にある女性用と思われる物を見る。

「最近使った状態ではないもの。誰なのかしら」

 洗面所から水の音が止まった。
 慌ててコーヒーを入れる手を動かし始める。

「こりゃ取れないや。油を素手で触っちゃだめですね。分かっていても素手でやってしまう」

 作業エリアに戻り、溶剤を使って手を洗い出した。
 常に漂っている工業用油の臭いの中に、改めて溶剤の臭いが参加する。
 専門職に携わっていないと、この中で食事をする事は困難であろう。
 二人は職業柄、平気になってしまっている。
 溶剤で洗った後、改めて洗面所の石鹸で洗い直してから食卓に戻った多駆郎。
 すでに置かれているコーヒー前の椅子に座る。

「お疲れさまでした」

「お疲れ様です。これでようやく作業ができるけれど……」

「けれど?」

「開発案を練らないと。今のままでは作業をするほどの案が無い」

「確かに。開発というものは得てしてそういうものですが」

 一口、一口とゆっくりコーヒーを飲む多駆郎。
 コップを持ったまま話を続けようとしたところで、浜砂から質問される。

「あの、こちらへお邪魔した初日から思っていたことがあるのですが」

「はい……何か?」

「お気を悪くされるかもしれないのですが」

 コーヒーを飲む手を止めずに聞いている。
 多駆郎らしく、マイペース。

「家の中に設備があることとか?」

「いえ、それは事情が分かっているので」

「すみません。聞けばいいことなのに当てようとするようなことを言って」

「ズバリ聞きますね。この家によく女性がいらっしゃいますか?」

 多駆郎は飲みながら一瞬目を見開いてすぐに表情を戻す。

「女性ですか……ああ、来ますね。最近は事情があって来ていませんが」

 飲むのを再開する。

「あちこちに女性モノの食器などがあるので」

「幼馴染ですよ。半分自分の家のように来るんです」

「幼馴染、ですか。彼女さんではなくて?」

 ズズッと音を立てた所で飲むのを止めた。
 ゆっくりと浜砂の方へ目をやり、答える。

「そういうのじゃ無いですね。あの子は彼氏ができていましたから」

「あら」

 今度は浜砂の飲む手が止まる。
 思っていた展開と違ったようだ。

「正直言って、この家の様子を見ていると半同棲しているように思えたので」

「そんな風に見えるんですか。早貴ちゃんに悪いことしていたかな」

「早貴ちゃんて名前なんですか、その人」

「高校生ですよ。オレの二つ下です」

「高校生!? 勝手に同じ歳だと思っていました」

「そういえば連絡していなかったな。久しぶりにしてみるか」

 興味が湧いてきたというような雰囲気を出しながら浜砂は質問を続ける。

「開発のこともよく知っているんですか?」

「いえいえ。オレのやっている事にはほとんど興味無いですよ」

 天井を軽く見上げて続ける。

「一つだけありました。オレの一番やりたい事には興味があります」

「一番やりたい事?」

「ええ。上にある機材で天体観測。特に星の音を聴くことです」

 コーヒーを飲むのも忘れて多駆郎の話を聞く浜砂。

「星の音、ですか。以前聞かせていただいたお話ですよね?」

「そうです。なんだか出会った当初から気に入ってくれて」

 あれやこれやと早貴についての話が続いた。
 その話が一頻ひとしきり続いた所で浜砂の定時に気づく。

「すみません。どうでもいい話をしてしまって。作業、お疲れさまでした」

「瀬田さんからお話を聞くのは楽しいです。また色々と聞かせてくださいね。お疲れさまでした」

 一日が終わる。
 どんな設備を使っているのか、そして身近な存在である幼馴染。
 なかなか話をしない多駆郎から珍しく色々と聞けた。

「いつもよりはマシな事を伝えられそうだわ」

 本部への連絡に困る毎日だったはず。
 それに比べると伝える内容があると思われる。
 心なしか、軽い足取りで家路につく浜砂であった。
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