月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第三章

第一話 動き出す傀儡子

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 日向駅前にある葉桜高校スクールバス停。
 毎朝寸分の狂いも無いのではと思わせる程同じ場所にいる一人の女子。
 五代千代である。
 この日も片足を石垣に乗せてフラミンゴ立ちスタイル。
 見事な美脚を見せながら携帯を眺めている。
 そこへ、目の前に手をかざしながら近寄る早貴。

「おはよ。何よ、その発光美脚は。朝から悩殺してどうするの?」

 道の角を曲がる頃から声の主に気づいていた千代。
 挨拶をされるまでわざと気づいていないフリをするのが恒例。

「おはよ。悩殺できた?」

「他の人を悩殺しちゃうよ?」

「それは……困る」

 携帯をポケットに仕舞って脚を下ろした。
 その脚を見ながら幼馴染に問う。

「寝る前にマッサージしたからかなあ。早貴が気に入ると思ったのに」

「アタシは初めから好きだし。まだレベル上げられるんだね……あ、悩殺されてるわ」

「やった!」

 千代の方から準備をしていない早貴に向かってハイタッチを仕掛ける。
 慣れたもので、サッと片手を出してそれに応じる早貴。

「可愛いなあ。朝からそんな風だと、アタシ疲れて一日持たないよ」

「早貴が動けなくなったらあたしが介抱するから安心して」

「何かされるだけじゃん」

 肩をぶつけながら、

「愛情表現と愛でる事しかしないから」

「知ってる」

 クスクスと笑い合うタイミングでバスが到着。
 毎日この流れを続けている二人がバスに乗って学校へ向かう。
 それをずっと踏切の端から眺めていた男子生徒が一人。

「いつも仲の良いことで。あれは……いわゆるそういう関係か?」

 鼻で笑ってメモ帳を取り出す。
 新しいページを開いて何やら書き出した。

「もしそうなら、亮さん厳しいんじゃねえの? ついでにその辺も探ってみるか。綿志賀も幼馴染との関係がどうなのか……おいおい、こいつらどうなってんだ?」

 次々とメモ帳に書き込んでゆく。
 ジュニア繋がりということで幼少の頃から木ノ崎からの信頼が厚い。
 そのため何かと補佐役を務めてきた。
 木ノ崎父と貝塚父がツートップではあるが、木ノ崎父の方が格は上。
 立場は同じとなっているが、功績に圧倒的な差がある。
 亮太の右腕な立場になっているのはそれが理由だ。
 親子揃って木ノ崎家に一歩追いつけない。
 その気持ちを常に抱えて日々を過ごしている貝塚家。
 実力に差があるのだから仕方がない。
 しかし、立場が同じになっている以上差があることを認められない。
 よく知っている相手だからこそ、勝ち負けで物事を考えがちになる。
 今回の案件。
 貝塚茂の立ち位置は、木ノ崎と浜砂の絡む状況全てを把握する。
 本部から指示をされている二人。
 本部と貝塚のやりとりから垣間見える不自然な点。
 そこから感じられるもの。
それは案件の対象にされている人物たちに垂らされる糸。
 誰もが自身の思う毎日を過ごしているつもりだが……。
 果たしてそうなのか。

「さて、遅刻しないように登校しますか」

 メモ帳を仕舞って葉桜高校前行きの切符を買い、駅の改札を抜けてゆく貝塚。
 
――――日々楽しく過ごしたいと願う者。
 腹に一物持ったまま日々を過ごしている者。
 目に見えている世界は人の心までは形成できない。
 見えない心が動き出す。
 人の心は容易く波を操る。
 その波を乗り越えた者が笑う権利を与えられる――――
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