月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第三章

第四話 日常には裏がある

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 ハイタッチ。
 恒例になってから十年になる。
 今でも続けていられるのは、二人の相性が良いということなのか。
 いや、そんな安いものではないのであろう。
 出会うべくして出会ったのか、果てしない程の偶然が出合わせたのか。

「じゃあね」

「うん。また話そ」

 手を振って別れる早貴と千代。
 この流れを十年。
 この先も続けていくのだろう。

「そっか。タクに連絡していないんだった」

 千代と別れて家に向かい始めると、必ず目に入るモノ。
 瀬田家の敷地を囲む背の高い並木。
 外から見ると、藪ではなく森の一部にしか見えない程だ。
 近所の人たちは日常に溶け込んだ景色なので気にしていない。
 しかし早貴は多駆郎の家をよく知っているために、意識する。
 連絡することを思い出しながら家路に向かう早貴。
 すれ違うようにして、瀬田家から出てきた女性がいる。
 助手として毎日出入りしている浜砂だ。
 どちらもお互いに気づくことはなかった。
 その様子をしっかりと記録していく男が一人。

「浜砂さんは時間っすね。毎日入り込める役なんてよくゲットするなあ」

 千代の家を確認して早貴を追いつつ浜砂を確認。

「まあ本部が手を回したんだろうけど。ご苦労さんです」

 早貴が家に到着するのを確認してから来た道を戻る。
 そして千代の家を睨みつつ駅へと向かう。
 静かな日向町では知らず知らずのうちにとある企みに巻き込まれているようだ。

「ただいま」

「おかえり。早貴さあ、瀬田さんと連絡は取り合っているの? 最近全然話を聞かないから」

「全然」

「ちょっと……危険かも知れない事が起きているって話なのに。どう動いていいかも分からないからちゃんと聞きなさい」

「今日ちょうど連絡するつもりだったから。ちゃんと聞くよ」

「言われる前にしなさいよ。連絡ずっとしていなかった時点でアウトよ」

「……ごめんなさい」

 綿志賀家では珍しく、時子が早貴を叱っていた。
 早貴にしてみれば丁度今日連絡をしようとしていたところ。
 しかし、母時子にしてみれば何もしていなかった娘。
 まるで小学生が勉強をやろうとしたタイミングで親に勉強しなさいと言われる状況だ。
 しかし早貴は高校三年生。
 小学生の頃に感じた気持ちは抱くが、そこで粘りはしない。
 良し悪しは分かる。
 連絡を取らなさ過ぎていたことは重々承知している。
 自身の反省へとシフトし、多駆郎への連絡を最優先とした。
 夕飯後の自分の部屋から多駆郎に電話を掛けてみる。

「タクからも何も無いのよね。アタシからというよりはタクから連絡が無い方が心配ね」

 コール音を聞きながらそんなことを考える。
 考えているとコールは四~五回鳴っていた。

「出ないなあ。忙しいのかな」

 『忙しい』の一言で片づけるのは簡単だ。
 しかし余りにも連絡が無さ過ぎる。

「何か起きているとか? だから連絡が無いとしたら……家に行ってみようかな」

 コールが留守番電話に代わった。

「でも家には行っちゃだめだし。どうしたらいいのよ、タク」

 結局その夜は何度か連絡をしてみるも全て不発に終わる。
 早貴の不安だけが募るばかりであった。
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