月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第三章

第五話 気づけば迷路、気づくと出口

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「これで設備は問題無いけど……仕事、どうしよ」

 珍しくアイデアが浮かばない多駆郎。
 新技術の開発を急かされているが、どうにも案が出てこない。
 そんな状況では何もやりようが無く。
 よって作業を行えない。
 スランプスパイラルに陥っていた。

「浜砂さんから幾つかアイデアを出してもらおうかな。せめてヒントになりそうなことだけでも」

 いよいよ浜砂にも頼ることを考え出した。
 これまで何でも一人でこなしてきた。
 今回のような壁に当たったのは、初めてである。
 経験が無いと立ち回り方の検討がつかないから慌てる。
 浜砂の帰った後、家で一人只々焦るばかりの夜を迎える多駆郎であった。

 ◇

 多駆郎と連絡が取れなくて困っている早貴の携帯が鳴った。

「タク!? はい、もしもし」

『あ、こんばんは。木ノ崎だけど、今話できるかな』

 早貴はあからさまにがっかりした表情。
 そんな様子が分かるはずも無い木ノ崎。
 声は浮き立っている。

「えっと……今は無理かな」

『何かあった? 良くない事があったなら掛けなおすよ』

「ごめんね。ちょっと今は余裕が無いから」

『いや、こっちこそごめん。気を悪くしないでくれ。それじゃあ』

 多駆郎との連絡が取れないことで頭がいっぱいの早貴。
 木ノ崎のタイミングは悪過ぎたようだ。
 浜砂との連携話があったばかり。
 木ノ崎的にはスイッチが入った状態。
 完全に肩透かしを食らっていた。

「間を開け過ぎたか。全く興味が無くなっちまったみたいだ」

 放り出した携帯が着地するのに合わせるようにソファーへ身を下ろす。
 天井を見ながら足を組む。
 事が上手くいっていない時によくやるスタイル。

「くっそ! 本気になるとこうなる。ずっとそうだった……」

 今までの付き合いが脳内を通り過ぎる。
 それは古傷を見ているということ。
 下唇を噛みしめながら片腕で目を覆った。

 ◇

「早貴?」

「さっきから電話しているんだけど、出ないのよ」

「あら」

 自室で連絡を待っているだけでは手持無沙汰になるのだろう。
 何か飲むためにリビングへと降りた早貴。
 母の時子から様子を聞かれていた。

「なんかさ、こうしたいなって思うと上手くいかないね」

 時子は早貴の方をちらっと見て、優しい笑顔をする。

「どんなことでもそんなものよ。何故だか人の欲、特に一番気合が入ったものは目立つのよ。当然よね、気合が入っているんだから。それをただ見つかってしまった事として終わらせてしまうか、相手へのプレッシャーに変えるか。それが勝負の分かれ目なの」

「勝負って……」

「勝負よ。勝ったものだけが笑う権利を与えられる。なあんて堅苦しい言い方しちゃったけど、上手く行かないって思うより、今の自分は楽しいことをしていると思った方が良くない?」

 呆気にとられている早貴。
 そして久しぶりに母親としっかり話していることに気づく。

「お母さん」

「何?」

「お母さんなんだね」

「そうよ。あんたのお母さんですよ~。美人姉妹のお母さんになれて良かったわ~」

 洗濯物にアイロンをかけている母。
 その姿を微笑みながら早貴は眺めていた。
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