月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第三章

第十四話 粋な計らい

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 木ノ崎に告白されたお祭りも一通り楽しんだ。
 告白後はギクシャクする、というのはよくある話。
 しかし、この二人は互いに納得いく良い雰囲気で結論が出た。
 早貴が振らなかった上、今後も続けられる仲としてくれたからだ。
 木ノ崎も告白には早過ぎたことを反省した。
 それをその場で早貴に伝えもした。
 そんな姿も早貴が木ノ崎に対する印象を崩さなかった。
 寧ろこれまでより良い印象として受け取ったようだ。
 祭りのエリアを出るのに合わせて見覚えのある車が到着する。

「凄い! ずっと待っていてくれたのかな」

「絶妙だろ? あの運転手は凄く気の利く人でね。よく助けてもらっているんだ」

 木ノ崎は後ろのドアを開けて乗るように合図する。
 いわゆるレディファースト。
 エスコート感を出したようだ。

「あ、ありがと。緊張するじゃない」

「これぐらいはさせてくれよ。振られなかったんだから」

「……そうなるのね。そっか、アタシ振ってはいないね」

「おいおい、そんな風に言うなよ。不安になるだろ?」

「あはは、ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど、変な言い方したね」

「頼むよ」

 クスクスと笑いながら二人共車に乗り込んだ。
 慣れないシートベルトをして姿勢を正す早貴。
 その姿を見て軽く笑う木ノ崎。

「そう緊張するなって」

「スクールバスぐらいしか車って乗らないから」

「なるほどね」

 丁寧に走る車の中。
 早貴が独り言のように話し出す。

「そっか。一緒にどこかへ行ったりするのって、デートになるのか」

「はは。言われてみればそうだな。俺も気付けってんだ。なんだ、付き合っているようなもんじゃねえか」

「あのね、彼女ではないからね! そこはちゃんと言っておきます」

「はいはい。確かに早過ぎたのは分かるから、了解だよ。でも、たまにはデートできるんだろ?」

「もお、デートって言わないで。付き合っていないから。そもそも付き合うとか特別感っているのかな。要らない気がする」

 早貴は窓の外を見ている。
 その横顔を見ながら木ノ崎は話に乗った。

「……そうかもな。付き合っていなくても、デートはできるんだから」

「あ、でもやっぱり要るかも」

「え? なんだよそれ。ははは、面白いやつだな」

 早貴は木ノ崎の方へ振り向く。

「アタシ、言う事コロコロ変わるから付いてくるの大変だと思うよ? あ、そういうところなのかな、上手く行かないの」

「上手く行かない?」

「これまで付き合ってきた人、全員振られているのよね。それが原因なのかなって今更思っただけ」

 軽く腕を上げて合点がいったような動きをする。

「やっぱり付き合い経験は豊富だったか」

「長続きしていないから人数だけだよ」

「何人だか知らないけど、それだけ寄ってこられるってことは、魅力があるってことだろ? 現に今、この俺が寄らせてもらっているし」

「こんな人でいいの?」

「そんな人だからいいんだよ」

「たぶん、木ノ崎君は奇特な人だよ」

「それでも構わないさ。俺が気に入った人に少しでも気にしてもらえれば」

 話が弾んできたところで日向駅が見えてきた。
 車は駅が見えつつ少し離れた絶妙な場所に停車する。

「運転手さん、ありがとうございました。凄く安心できました」

「こちらこそそんな風に言ってもらえるなんてありがとうございます。他の連中も喜びますよ」

「他の連中?」

 木ノ崎が車から出ようと動きながら話に加わる。

「ああ。実は万全を期すために、祭りの所にも見張りが数人いたんだよ」

「ええ!? そこまで……。その方々にも本当によろしくお伝えください!」

 運転手は軽く後ろを向いて会釈をした。
 木ノ崎が歩道からドアを開ける。
 早貴も運転手に軽く会釈をしながら降りた。
 早貴が信号を渡り、坂を上り始める。
 建物で姿が見えなくなるまで木ノ崎は見送っていた。
 車の中に戻ると運転手がアクセルを踏む。

「ありがとうな」

「いえいえ。せっかくですから少しでもと思いまして」

「おかげであんな感じになれたよ」

「良かったですね。こちらもお役に立てて嬉しく思っています」

 早貴と話す時間をできるだけ作るためにしていたこと。
 運転手はさりげなく遠回りをしていた。
 それに対して木ノ崎は礼を言ったのだ。
 小さい頃から木ノ崎を見てきた運転手からの計らいだった。
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