月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

文字の大きさ
60 / 63
第三章

第二十一話 慢心

しおりを挟む
 夏休みも終わりに近づいていた。
 しかし、多駆郎絡みの不安な事件によって何もせずに終わろうとしている。
 高校最後の夏休みだというのに。
 そんな夏休みを過ごしているのが早貴。
 自室に向けて階段を上がっている所だった。
 携帯が鳴っているのが聞こえる。

「あ、はいはい」

 その声が相手に聞こえるわけではないが、つい言ってしまう。

「タクだ! もしもし」

『もしもし、こんばんは』

 デスク前の椅子に座る。

「もしかして、行っても大丈夫になった?」

『それが……』

 多駆郎は今回の事件についての経緯を話した。

「そんなことに……じゃあ、助手さんはもう来ないの?」

『この件に関係無ければまだ来ると思う。今は開発が済んだところだから休暇中なんだ』

「仕事は一段落したんだね。そっちに行くことはできないの?」

『確認をとってみるよ。それを確認してから連絡すれば良かったね』

 少々慌てていたこともあったのだろう。
 確かに早貴への不安を取り除くには、多駆郎の家に行けるかどうかで決まる。
 それ故、早貴は毎回多駆郎の家に行けるかどうかを確認している。

「でも、タクが無事そうで良かった。それだけでも安心するよ」

『まあ盗まれはしたけど会社のモノだし、自分の物は無事だから』

「なんかせっかく作ったものを取られるのって悔しいね」

『うーん。喜んで欲しい人とは違うっていうところが嫌なぐらいかな。開発はまた新しいものを作れば、もっと良いものになるし』

「タクは凄いね。そういう前向きな所が勉強になるの」

 最近会えない続きである幼馴染。
 会話が随分弾んだ。


 ◇


「浜砂が情報を掴んで、それを貝塚に渡したらしい。やられたよ」

「そうなのか。おやじからの指示だったから安心しちまっていたな」

 木ノ崎は、父親から事の経緯を伝えられていた。
 眉間に皺を寄せ、複雑な表情。

「俺も貝塚から振られた話だったからな。会社としてかと思いきや、まさかあいつ自身の名前で発表されるとは思わなかった。まんまと騙されたわけだ。貝塚派が出来上がっていたようだな」

「そっちも珍しく慢心していたのか? おやじらしくねえじゃんよ。敵を作っていたなんて、いよいよ歳か?」

「お前に引き継ぐ前に動かれた……慢心だったのかもしれんな。一番近くにいたあいつの企みに気づかなかったぐらいにな」

 ため息が双方向で流れた。
 親子でため息という、なんとも気分の悪い状況だ。

「亮太のことも社内外で随分と言われているようだ。女を引き離すなんて必要の無いことだったらしい。ただお前の悪評を作るためだけの指示なんだと」

「くっそ! 情けねえな」

「二人共蹴落とされたわけだ。こっちも信頼できる連中が抑え込むように動き始めちゃあいるが、たぶんどうにもできんだろう。いよいよ終わりだな」

 木ノ崎家が引きずりおろされる結末。
 おまけに恥も上乗せさせられる事態となっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、夫・拓馬と娘の結と共に平穏な暮らしを送っていた。 そんな彼女の前に現れた、カフェ店員の千春。 夫婦仲は良好。別れる理由なんてどこにもない。 それでも――千春との時間は、日常の中でそっと息を潜め、やがて大きな存在へと変わっていく。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになるのでご安心ください。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...