月の声が聴きたくて ~恋心下暗し~

沢鴨ゆうま

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第三章

第二十二話 恋敗と書いて連敗

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 始業式前日。
 早貴は多駆郎からの報告を受けていた。

「調査委員会が立ち上がってからは情報を掴むのが早かったよ。あっちにしてみれば、バレたところで発表をした後だからどうでもいいのかもしれないけどね」

「でもさ、狙われる程の物を作ることができるタクって凄いね!」

「研究所の人たちの方が専門なんだからよっぽど凄いはずだよ。それなのにオレに頼るからこんなことになるんだよ」

「研究所の人より凄いってことじゃない」

「あ、それと……」

「何?」

 多駆郎はとても言いにくそうに話を続けた。

「木ノ崎って人、知っているよね?」

「え! あ、うん。知っているよ。ずっとその人の事で相談をしたかったのよ」

「それを聞くと途中で話す時間を作るべきだったなって後悔しちゃうな。実は、オレから早貴ちゃんを引き離すために動いていたらしい」

 早貴は電話を持ったまま固まった。
 付き合うかどうかの相談をしようとしていたのだから無理もない。

「早貴、ちゃん? 大丈夫?」

「――本当なの、それ?」

「ここで嘘を言っても……もしかして、そういうことだった?」

「……うん」

 今まで何度も聞かされてきた早貴の恋愛話。
 片手で頭を掴み、下を向いて首を振る。

「その気持ちになってしまっていたのか。また、またなのかよ」

「タク、明日の始業式が終わったら、そっちへ行ってもいい?」

「……もちろん!」

 少し鼻をすする音が聞こえる。

「家に帰ったら連絡するね」


 ◇


 葉桜高校では新学期が始まった。
 一部の生徒以外は休みを満喫したオーラが滲み出ていた。

「早貴ちゃん! 大変だったみたいだね。大丈夫?」

 早貴の元へ寄ってきて、ハイタッチをしたのは佐戸倉綾だ。
 水泳部なこともあって、合宿などしっかりとこなした模様。
 誰もがこんがりと焼けた肌に目が行く。

「綾、すごっ!」

「何が? 可愛い?」

「それはもちろんそうなんだけど……黒いね」

「あはは! ひたすら泳いでいたからね。ちょっと筋肉ついて可愛さにダメージあるかも」

「大丈夫! 可愛いままだよ」

 早貴の横で黙って見ているのは奏。
 綾の目には当然入っていた。

「奏はどう思う?」

「私はいつも見ていましたから知っています。日焼けした綾を突然見る驚きを感じられない事が悔しいけれど」

「おお! よく会っていたんだね!」

 隣の早貴が奏の顔を覗き込む。

「はい。綾はすぐ寂しくなるのでいつも会ってあげていました」

「何よそれー。奏が会えない? って電話してきてたんじゃん」

「綾が寂しがる前に会ってあげていただけです」

「ああ!? そういう風に言うんだあ。今日は一人で帰ってね」

「そんなことしたら、綾の背が縮みますよ?」

「う、背は縮ませたくない……じゃなくて! 奏が、ああ、何これー」

 休み前と同じ光景がそこにはあった。
 早貴と千代が綾と奏のやりとりを見ながら笑い転げている。
 他の生徒たちもその様子を見てどこか安心しているような雰囲気だ。
 しかし、笑い転げながらも時々寂しい顔をしている早貴を千代は見逃さなかった。
 始業式はいつも通りわざわざやらなくても良いのでは? という内容だった。
 これは葉桜高校の名物になっている面でもあるが。
 休み中に登校日は無い学校だ。
 生徒にしてみれば、休み明けで久しぶりに友達に会える時間となっている。
 話の尽きない生徒たちは残って続けている。
 そこへ木ノ崎が現れた。

「綿志賀さん!」

 その声を聞いた生徒たちは全員白い目で木ノ崎を見ている。
 でっち上げられた悪評は見事に知れ渡っていたからだ。
 しかし早貴に対しては本気で好きになっている。
 悪評にされてしまってはいるが、全てが嘘ではないために木ノ崎は文句が言えなかった。

「本気なんだ! その気持ちは分かっていて欲しい」

 早貴は何も言わずスクールバスへと向かう。
 話を浅くしか聞いていない奏と綾はただ早貴についていくしかできない。
 ほぼ全容を聞いていた千代は早貴の肩を抱く。


 ◇


「やっぱりみんなの顔を見ると嬉しくなるなあ」

「そうやって綾が言ってくれるから、こっちも元気に学校へ行こうって思えるよ」

「ほんとに!? それも嬉しいなあ」

 雰囲気を明るくしようと、綾が盛り上げる。
 それでも周りの生徒がどうにも暗い。

「みんな。アタシ大丈夫だからさ、気にしないで」

「早貴ちゃん、それ、無理だわ」

「綾、なんで?」

「なんでって、分かっているでしょ。私たちと早貴の仲だよ! 嫌がっても気にしまくります!」

「しまくらないでよ。はいはい、わかりました。でも本当に大丈夫なんだ」

「……そうなの?」

 千代も同じ言葉を言う所だったらしいが、綾が一歩早かったようだ。

「うん。今回の事でね、色々分かったの」

「そっか。よし! 早貴ちゃんがそうやって言う時は、大丈夫な時だ。報告を待ってるね」

「綾はさすがだ。みんな、本当にありがと」

 大丈夫な事を確信できたのか、綾と奏は笑顔でバスを降りて行った。
 葉桜高校前を出発すると早貴と千代の二人きり。
 周りに残りの生徒はいるが、二人の世界に入ってしまうから。

「今日ね、タクの家に行ってくるよ」

「そっか。久しぶりなんだよね?」

「うん。やっと話を聞いてもらえるから、それでスッキリしてくるね」

「今となってはその理由も分かっているから、行ってらっしゃい。その後はあたしにご褒美ちょうだいね」

「うふふ。思いっきり甘やかしてあげますよー」

 謎が解かれた後の二人。
 夏の終わりを感じ始めた今。
 季節の交代に合わせるように、元の明るい雰囲気が醸し出されていた。
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