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第二章 剣士となりて
第一話 証石との出会い
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Szene-01 レアルプドルフ三番地区、地区道
三番地区は一番地区や二番地区に比べて居住者が少なめだ。
そのため地区の主要道路から奥地へ行くほど住居は減ってゆく。
主要道路と言っても獣道が広がっただけのような道だ。
地区道からは草原の中や小さな茂みの横にポツンと住居が見える程度。
街道沿いから一変、のどかな風景が広がっている。
ダンとヘルマはそんな三番地区に町役場から戻って来た。
特に急いだりのんびりしたりもせずに歩いている。
「はあ……この景色を見ながらエール様の証石を持っているなんて」
ヘルマは預かっているブラック・サファイア入りの小袋を胸に当てる。
「ヘルマよ。これからが本番と言えるが、今まであいつの面倒を見てくれたこと、感謝する」
「いいえ。私よりもヨハナの方が色々と思う所があるでしょう」
ダンは街道と家の途中にあるカーベル家に目をやりながら言う。
カーベル家。
アウフリーゲンの家である。
そしてそれはエールタインの生家。
「そうだな。アウフの思いを受け継いでいるのは俺よりもヨハナだ」
アウフリーゲンの奴隷としてカーベル家に仕えたヨハナ。
アウフ亡きあとはアウフの気配を残す意味も込めてダン家に招かれた。
エールタインを寂しくさせないようにするためである。
ヨハナはエールタインの両親代わりを務めてきた。
「エールタインの成長を感じて喜ぶのは俺よりもヨハナだよ」
ダンは言う。
「普段のエールはヨハナありきで生活しているのだから」
ダンはカーベル家に片手を挙げて挨拶の仕草をした。
「全員で行くからな」
アウフリーゲンに向けてであろう言葉を残して、家へと足を進めた。
Szene-02 ダン家、敷地内
ダン家の前には草原が広がっている。
三番地区は六つある地区の中では一番狭い。
ダン家は三番地区の中心からは南東。
地区の中心から町壁との間にあり、家からは草原の先に町壁を見渡すことができる。
町壁沿いの小さな茂みに少女二人の姿があった。
一人の少女が地面を蹴って町壁を駆け上がりてっぺんに座った。
パチパチパチ――――
拍手が町壁に反響する。
「おお! 壁に乗れちゃった」
「エール様、すごいです!」
少女二人の正体はエールタインとティベルダだ。
「見晴らしいいよ! 町をここから見ると凄くきれいだ。ティベルダも来る?」
エールタインは壁と茂みの間に立っているティベルダを見下ろして言った。
壁の上を見上げながらティベルダは言う。
「上がれないですよー」
「そっか、越えられないようにするためのものだったね」
エールタインはもう一度景色を見渡してから降り始める。
片足の側面を壁にトンと数回当てながら斜めに降りてゆく。
地面に着くと一言呟いた。
「降りる時って上る時より高さを感じるんだよね……ちょっと怖かった」
そう言いながら苦笑いをしてティベルダの所へ向かった。
「足大丈夫ですか!? 怪我はしないでくださいね! 私の大事なご主人様なのですから」
「ティベルダが治してくれるっていう安心感があってさ」
ティベルダは片手を胸にやり、主人に物申した。
「エール様。私がヒールを使えなくなっていたらどうするのですか?」
「え!?」
エールタインは驚いて足を止めた。
「そんな……」
「それだと治せないですよね? 怪我をしたらそのままです」
ティベルダは続けた。
「私がいなくても良いように無事に過ごしてください」
止まった足に力を込めて一瞬でティベルダに近寄るエールタイン。
その勢いを抑えると同時にティベルダを長い藍色の髪ごと力強く抱きしめた。
「……いなくてもなんて言わないでよ。そんなこと、絶対に嫌だ!」
「ふふふ、冗談ですよ。エール様と離れるなんて私が嫌です」
ティベルダは抱きしめ返して言う。
「まだ上手に使いこなせないですけど、使えるかどうかは分かります」
「使えなくたってティベルダはいなきゃダメだ! 嫌だと言っても話さないから……主人からの命令だよ」
ティベルダの目がオレンジ色に変わって少し口角が上がる。
「命令ですか。ならば従わないといけませんね。私はあなたのもの、あなたは私のもの……」
がっちりと抱き合う二人の背後から男性の太い声が届いた。
「エール! ティベルダ!」
二人が声のする方を向くと、家の前にダンとヘルマが立っていた。
ヘルマは手招きをしている。
「ティ……」
言いかけたエールタインの口を手で塞ぐティベルダ。
「寝るときにゆっくりお話ししましょ。まずは師匠の所へ行かないと」
「……うん」
Szene-03 ダン家、暖炉前
ダン家に住む五人が暖炉前に集まっていた。
ダンがヘルマに合図をすると、役場から受け取ったものを出した。
「エール、正式に手続きをした。お前は今日から剣士だ」
ヘルマがブラック・サファイアを見せてエールタインに受け取るよう促した。
「証石……本当に剣士になったの!?」
「お前なあ。師匠がわざわざ役場で手続きをしたからここに石があるんだろ? なのに疑うとは……」
ヘルマがダンの肩に優しく手を乗せて制止した。
「エール様、おめでとうございます。そしてティベルダもおめでとう」
ヘルマはにっこりとほほ笑んで話を続ける。
「主人が昇格したということは従者であるあなたも昇格です。主人と同格であることを肝に銘じて励みなさいね」
エールタインが証石を手に取ってまじまじと見つめる。
ティベルダも横から珍しそうに見ていた。
「きれい……」
石を見つめている二人が同時につぶやいた。
「コホン……とまあそういうことだ。まだ早いとは思っているのだが、昇格には理由があってだな」
「理由?」
証石を下ろしたエールタインは師匠に向き直った。
ティベルダは石を受け取り改めて見つめている。
「ティベルダの能力についてだ。町で得た情報があって……」
その後ダンは聞き取りをした情報の全てを話す。
ティベルダも石からダンへと目線を変えて主人と共に話の中に入る。
その横でヨハナは一人静かに嬉し涙が流れないようにエプロンで目を抑えていた。
それに気づいたヘルマも感慨深げな表情をしていた。
一通り情報を話し終えたダンが付け加えた。
「当面は、剣士として依頼案件をこなしつつ、ティベルダの能力について調べる。そこでだ……」
一拍おいてダンが続けた。
「エール、ティベルダ。これからはお前たち二人だけで暮らせ」
「ええ!?」
二人は再び同時に反応した。
「これも剣士昇格の決まり事だ。少々甘いとは思うが、ヨハナにはこの家とエールの家、どちらも面倒をみてもらうことにする。ヨハナ、いいか?」
その話を聞いたヨハナは満面の笑みを浮かべた。
「よろしいのですか!?」
「ティベルダが家事までこなすのはまだ辛いだろう。家事を手伝いながら教えてやってくれ」
「はい! もちろんやらせていただきます!」
剣士昇格の報告から二人暮らしをすることまで伝えられたエールタイン。
驚きを隠せていないエールタインとは対照的に喜びを見せるティベルダであった。
三番地区は一番地区や二番地区に比べて居住者が少なめだ。
そのため地区の主要道路から奥地へ行くほど住居は減ってゆく。
主要道路と言っても獣道が広がっただけのような道だ。
地区道からは草原の中や小さな茂みの横にポツンと住居が見える程度。
街道沿いから一変、のどかな風景が広がっている。
ダンとヘルマはそんな三番地区に町役場から戻って来た。
特に急いだりのんびりしたりもせずに歩いている。
「はあ……この景色を見ながらエール様の証石を持っているなんて」
ヘルマは預かっているブラック・サファイア入りの小袋を胸に当てる。
「ヘルマよ。これからが本番と言えるが、今まであいつの面倒を見てくれたこと、感謝する」
「いいえ。私よりもヨハナの方が色々と思う所があるでしょう」
ダンは街道と家の途中にあるカーベル家に目をやりながら言う。
カーベル家。
アウフリーゲンの家である。
そしてそれはエールタインの生家。
「そうだな。アウフの思いを受け継いでいるのは俺よりもヨハナだ」
アウフリーゲンの奴隷としてカーベル家に仕えたヨハナ。
アウフ亡きあとはアウフの気配を残す意味も込めてダン家に招かれた。
エールタインを寂しくさせないようにするためである。
ヨハナはエールタインの両親代わりを務めてきた。
「エールタインの成長を感じて喜ぶのは俺よりもヨハナだよ」
ダンは言う。
「普段のエールはヨハナありきで生活しているのだから」
ダンはカーベル家に片手を挙げて挨拶の仕草をした。
「全員で行くからな」
アウフリーゲンに向けてであろう言葉を残して、家へと足を進めた。
Szene-02 ダン家、敷地内
ダン家の前には草原が広がっている。
三番地区は六つある地区の中では一番狭い。
ダン家は三番地区の中心からは南東。
地区の中心から町壁との間にあり、家からは草原の先に町壁を見渡すことができる。
町壁沿いの小さな茂みに少女二人の姿があった。
一人の少女が地面を蹴って町壁を駆け上がりてっぺんに座った。
パチパチパチ――――
拍手が町壁に反響する。
「おお! 壁に乗れちゃった」
「エール様、すごいです!」
少女二人の正体はエールタインとティベルダだ。
「見晴らしいいよ! 町をここから見ると凄くきれいだ。ティベルダも来る?」
エールタインは壁と茂みの間に立っているティベルダを見下ろして言った。
壁の上を見上げながらティベルダは言う。
「上がれないですよー」
「そっか、越えられないようにするためのものだったね」
エールタインはもう一度景色を見渡してから降り始める。
片足の側面を壁にトンと数回当てながら斜めに降りてゆく。
地面に着くと一言呟いた。
「降りる時って上る時より高さを感じるんだよね……ちょっと怖かった」
そう言いながら苦笑いをしてティベルダの所へ向かった。
「足大丈夫ですか!? 怪我はしないでくださいね! 私の大事なご主人様なのですから」
「ティベルダが治してくれるっていう安心感があってさ」
ティベルダは片手を胸にやり、主人に物申した。
「エール様。私がヒールを使えなくなっていたらどうするのですか?」
「え!?」
エールタインは驚いて足を止めた。
「そんな……」
「それだと治せないですよね? 怪我をしたらそのままです」
ティベルダは続けた。
「私がいなくても良いように無事に過ごしてください」
止まった足に力を込めて一瞬でティベルダに近寄るエールタイン。
その勢いを抑えると同時にティベルダを長い藍色の髪ごと力強く抱きしめた。
「……いなくてもなんて言わないでよ。そんなこと、絶対に嫌だ!」
「ふふふ、冗談ですよ。エール様と離れるなんて私が嫌です」
ティベルダは抱きしめ返して言う。
「まだ上手に使いこなせないですけど、使えるかどうかは分かります」
「使えなくたってティベルダはいなきゃダメだ! 嫌だと言っても話さないから……主人からの命令だよ」
ティベルダの目がオレンジ色に変わって少し口角が上がる。
「命令ですか。ならば従わないといけませんね。私はあなたのもの、あなたは私のもの……」
がっちりと抱き合う二人の背後から男性の太い声が届いた。
「エール! ティベルダ!」
二人が声のする方を向くと、家の前にダンとヘルマが立っていた。
ヘルマは手招きをしている。
「ティ……」
言いかけたエールタインの口を手で塞ぐティベルダ。
「寝るときにゆっくりお話ししましょ。まずは師匠の所へ行かないと」
「……うん」
Szene-03 ダン家、暖炉前
ダン家に住む五人が暖炉前に集まっていた。
ダンがヘルマに合図をすると、役場から受け取ったものを出した。
「エール、正式に手続きをした。お前は今日から剣士だ」
ヘルマがブラック・サファイアを見せてエールタインに受け取るよう促した。
「証石……本当に剣士になったの!?」
「お前なあ。師匠がわざわざ役場で手続きをしたからここに石があるんだろ? なのに疑うとは……」
ヘルマがダンの肩に優しく手を乗せて制止した。
「エール様、おめでとうございます。そしてティベルダもおめでとう」
ヘルマはにっこりとほほ笑んで話を続ける。
「主人が昇格したということは従者であるあなたも昇格です。主人と同格であることを肝に銘じて励みなさいね」
エールタインが証石を手に取ってまじまじと見つめる。
ティベルダも横から珍しそうに見ていた。
「きれい……」
石を見つめている二人が同時につぶやいた。
「コホン……とまあそういうことだ。まだ早いとは思っているのだが、昇格には理由があってだな」
「理由?」
証石を下ろしたエールタインは師匠に向き直った。
ティベルダは石を受け取り改めて見つめている。
「ティベルダの能力についてだ。町で得た情報があって……」
その後ダンは聞き取りをした情報の全てを話す。
ティベルダも石からダンへと目線を変えて主人と共に話の中に入る。
その横でヨハナは一人静かに嬉し涙が流れないようにエプロンで目を抑えていた。
それに気づいたヘルマも感慨深げな表情をしていた。
一通り情報を話し終えたダンが付け加えた。
「当面は、剣士として依頼案件をこなしつつ、ティベルダの能力について調べる。そこでだ……」
一拍おいてダンが続けた。
「エール、ティベルダ。これからはお前たち二人だけで暮らせ」
「ええ!?」
二人は再び同時に反応した。
「これも剣士昇格の決まり事だ。少々甘いとは思うが、ヨハナにはこの家とエールの家、どちらも面倒をみてもらうことにする。ヨハナ、いいか?」
その話を聞いたヨハナは満面の笑みを浮かべた。
「よろしいのですか!?」
「ティベルダが家事までこなすのはまだ辛いだろう。家事を手伝いながら教えてやってくれ」
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