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第二章 剣士となりて
第四十一話 再会
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Szene-01 ブーズ入り口
東西街道を進むダン一行は、ブーズ地区内に入ろうとしていた。
街道上のブーズ敷地境界には、左右に背の低い柵が建てられており、道上には木造の簡易門がある。
門の内外には、西地区と同じく門番が駐在していた。
門外に立っている門番がダン一行に気づく。
「ダ、ダン剣聖様!?」
その声に内側にいる門番も顔を出した。
「どうした?」
「ダン剣聖様がお見えになったぞ!」
大声にならないよう必死に抑えた声量で伝える門番。
それに気づいた地区内の住民が一人走っている。
ダンはその光景を見ながら頭を掻く。
「こういう反応には慣れんな」
「上に立たれる方の悩みですか?」
「ヘルマ、茶化すなよ」
「あら、ご主人様のお気持ちを平静に保つのも従者の仕事だと思いまして」
頭掻きの速度を上げて答えるダン。
「ほんとに優秀だな、ヘルマは」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「褒めちゃいねえ」
「なら褒めてくださいな。褒めるといっぱい仕事をしますよ?」
エールタインとティベルダは、剣聖デュオを眺めながらニヤニヤと笑っている。
「仲いいよね、あの二人」
「私たちみたいですね!」
「そっか。ボクもダンと一緒なのか」
「んふふふ」
門番が笑みを浮かべる一行に戸惑いながら対応する。
「デュオ二組とのお話でしたので、ダン様がいらして驚きました」
「弟子はまだ剣士になって日が浅い。さすがに一人でという訳にはいかなくてな」
門番が案内役に合図を送ると、ダン一行を地区内へと通した。
Szene-02 レアルプドルフ、西門
町長からの計らいで、半ば強制的に休息をとることになったカシカルド王国の人材調査員。
腹ごしらえを済まし、山越えの支度も整えて帰国するところだ。
西門の衛兵が声を掛ける。
「調査員様、町の現状とはいえ、失礼な態度をとって申し訳ありませんでした」
「いえいえ。町を守るためには当然の事ですよ。町長とのお話ができましたので、陛下から怒られずに済みそうです」
「ははは。また是非来てください。今度はゆっくりと過ごすために」
「穏やかな日々が過ごせるように粛々と役目をこなします。また会えるといいですね」
調査員と衛兵は和やかな雰囲気で別れの挨拶をした。
門を出ると武具屋の手下たちが数名、調査員の元へ駆け寄る。
「俺たちの無礼も許しください」
「大丈夫ですよ。ちゃんと理解しております」
「山までお供させていただきます。トゥサイからお守りするよう指示が出されておりますので」
「そうですか! 実は心配していたのです。トゥサイ村を抜けるしか道も知らないですから」
調査員が言い終わるや否や、手下がマントを差し出した。
「あんたが来ていることは、トゥサイの連中に知られない方がいい。勘繰られるからな」
「それを気にしていました。来るときに使った道を使うのですか?」
「そうかもしれねえし、違うかもしれない。まあ、無事に山まで案内しますんでご安心を」
今となってはすっかり手下を信じている調査員。
「これ以上お聞きしない方がいいですね。ではすぐに着替えます」
不思議なもので、物というのは一度触れていれば戸惑うことなく扱うことができる。
調査員は、すでに何度か着ていたようにマントを羽織った。
「そいじゃ行きましょうか。立ち止まることが一番目立つんでね」
下手な丁寧語の手下に従い、調査員はレアルプドルフを後にした。
Szene-03 レアルプドルフ東地区、区長宅
ダン一行は、東地区西門から区長宅まで案内係に誘導され、到着した。
区長宅に入ると座っていた区長が立ち上がり、ダンを迎えた。
「ダン様! お久しぶりですな」
「おお! あれ以来、一度も顔を出さなくて申し訳ない」
「何を言っているのです。アウフリーゲン様の件があったのですから、皆承知しております」
言葉を交わしながら力強く手を合わせるダンと区長。
合わせた手により、十年分の思いを通い合わせているのだろう。
一頻りこれまでの時間に思いを馳せたところで、区長はダンの後ろに並ぶ女性陣に目をやる。
「ヘルマ! ダン様と一緒に来てくれたのか」
「当然です、ダン様の従者ですから。どこに行くにも一緒にいますよ」
「剣聖様の従者を務めていることは、我らにとっての誇りだからのう……そちらは?」
続いて若いデュオ二組へと目を移す区長。
ヘルマはエールタインの背中に手をやり、区長に紹介をした。
「区長、こちらがアウフリーゲン様の血を受け継いだエールタイン様ですよ」
「おお! なんと、なんと! 噂は耳にしておりましたが、娘さんだったとは!」
エールタインは少し恥ずかしがりながら答える。
「剣士になるまでは女であることを出来るだけ隠していました」
「そうでしたか。性別など関係はありません。立派になられているようで何よりです」
「いえ、決してそのようなことはありません。やっと剣士になった程度ですから」
英雄の子を目の前にして、さらに記憶が蘇る区長。
徐々に感極まって来ているようで、目が潤んでいる。
「区長、俺も昔に浸る時間は欲しいところだが、できれば今回の計画について話を進めたい」
「そうでした、急ぎの計画でしたな。我らにとって最高の計画だとか。皆期待しております」
「全員を集めて話をしたいところだが、各家の代表一人ずつぐらいを集めてもらいたい。できるだけ話が外部に漏れないように気を配りたいのでな」
ダンが計画を進めるための手回しを始めた。
エールタインはその様子をじっと見て、師匠の動きを習得しようと一言一句逃さない。
さらにその様子を見る四人が、エールタインの真剣な姿勢に釘付けとなっている。
いよいよ、レアルプドルフ東地区の防護計画が始まろうとしていた。
東西街道を進むダン一行は、ブーズ地区内に入ろうとしていた。
街道上のブーズ敷地境界には、左右に背の低い柵が建てられており、道上には木造の簡易門がある。
門の内外には、西地区と同じく門番が駐在していた。
門外に立っている門番がダン一行に気づく。
「ダ、ダン剣聖様!?」
その声に内側にいる門番も顔を出した。
「どうした?」
「ダン剣聖様がお見えになったぞ!」
大声にならないよう必死に抑えた声量で伝える門番。
それに気づいた地区内の住民が一人走っている。
ダンはその光景を見ながら頭を掻く。
「こういう反応には慣れんな」
「上に立たれる方の悩みですか?」
「ヘルマ、茶化すなよ」
「あら、ご主人様のお気持ちを平静に保つのも従者の仕事だと思いまして」
頭掻きの速度を上げて答えるダン。
「ほんとに優秀だな、ヘルマは」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「褒めちゃいねえ」
「なら褒めてくださいな。褒めるといっぱい仕事をしますよ?」
エールタインとティベルダは、剣聖デュオを眺めながらニヤニヤと笑っている。
「仲いいよね、あの二人」
「私たちみたいですね!」
「そっか。ボクもダンと一緒なのか」
「んふふふ」
門番が笑みを浮かべる一行に戸惑いながら対応する。
「デュオ二組とのお話でしたので、ダン様がいらして驚きました」
「弟子はまだ剣士になって日が浅い。さすがに一人でという訳にはいかなくてな」
門番が案内役に合図を送ると、ダン一行を地区内へと通した。
Szene-02 レアルプドルフ、西門
町長からの計らいで、半ば強制的に休息をとることになったカシカルド王国の人材調査員。
腹ごしらえを済まし、山越えの支度も整えて帰国するところだ。
西門の衛兵が声を掛ける。
「調査員様、町の現状とはいえ、失礼な態度をとって申し訳ありませんでした」
「いえいえ。町を守るためには当然の事ですよ。町長とのお話ができましたので、陛下から怒られずに済みそうです」
「ははは。また是非来てください。今度はゆっくりと過ごすために」
「穏やかな日々が過ごせるように粛々と役目をこなします。また会えるといいですね」
調査員と衛兵は和やかな雰囲気で別れの挨拶をした。
門を出ると武具屋の手下たちが数名、調査員の元へ駆け寄る。
「俺たちの無礼も許しください」
「大丈夫ですよ。ちゃんと理解しております」
「山までお供させていただきます。トゥサイからお守りするよう指示が出されておりますので」
「そうですか! 実は心配していたのです。トゥサイ村を抜けるしか道も知らないですから」
調査員が言い終わるや否や、手下がマントを差し出した。
「あんたが来ていることは、トゥサイの連中に知られない方がいい。勘繰られるからな」
「それを気にしていました。来るときに使った道を使うのですか?」
「そうかもしれねえし、違うかもしれない。まあ、無事に山まで案内しますんでご安心を」
今となってはすっかり手下を信じている調査員。
「これ以上お聞きしない方がいいですね。ではすぐに着替えます」
不思議なもので、物というのは一度触れていれば戸惑うことなく扱うことができる。
調査員は、すでに何度か着ていたようにマントを羽織った。
「そいじゃ行きましょうか。立ち止まることが一番目立つんでね」
下手な丁寧語の手下に従い、調査員はレアルプドルフを後にした。
Szene-03 レアルプドルフ東地区、区長宅
ダン一行は、東地区西門から区長宅まで案内係に誘導され、到着した。
区長宅に入ると座っていた区長が立ち上がり、ダンを迎えた。
「ダン様! お久しぶりですな」
「おお! あれ以来、一度も顔を出さなくて申し訳ない」
「何を言っているのです。アウフリーゲン様の件があったのですから、皆承知しております」
言葉を交わしながら力強く手を合わせるダンと区長。
合わせた手により、十年分の思いを通い合わせているのだろう。
一頻りこれまでの時間に思いを馳せたところで、区長はダンの後ろに並ぶ女性陣に目をやる。
「ヘルマ! ダン様と一緒に来てくれたのか」
「当然です、ダン様の従者ですから。どこに行くにも一緒にいますよ」
「剣聖様の従者を務めていることは、我らにとっての誇りだからのう……そちらは?」
続いて若いデュオ二組へと目を移す区長。
ヘルマはエールタインの背中に手をやり、区長に紹介をした。
「区長、こちらがアウフリーゲン様の血を受け継いだエールタイン様ですよ」
「おお! なんと、なんと! 噂は耳にしておりましたが、娘さんだったとは!」
エールタインは少し恥ずかしがりながら答える。
「剣士になるまでは女であることを出来るだけ隠していました」
「そうでしたか。性別など関係はありません。立派になられているようで何よりです」
「いえ、決してそのようなことはありません。やっと剣士になった程度ですから」
英雄の子を目の前にして、さらに記憶が蘇る区長。
徐々に感極まって来ているようで、目が潤んでいる。
「区長、俺も昔に浸る時間は欲しいところだが、できれば今回の計画について話を進めたい」
「そうでした、急ぎの計画でしたな。我らにとって最高の計画だとか。皆期待しております」
「全員を集めて話をしたいところだが、各家の代表一人ずつぐらいを集めてもらいたい。できるだけ話が外部に漏れないように気を配りたいのでな」
ダンが計画を進めるための手回しを始めた。
エールタインはその様子をじっと見て、師匠の動きを習得しようと一言一句逃さない。
さらにその様子を見る四人が、エールタインの真剣な姿勢に釘付けとなっている。
いよいよ、レアルプドルフ東地区の防護計画が始まろうとしていた。
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