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第二章 剣士となりて
第四十九話 小川のほとり
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Szene-01 ブーズ東側、ウンゲホイアー川
エールタインとティベルダは、ルイーサたちと共にブーズを訪れていた。
最短でも町壁の完成までは訪れる日々が続く。
エールタインとルイーサは、別の場所へ分かれて見回っている。
幸いにもブーズの民の作業が早く、壁は着々と増設されていた。
「早いなあ。壁があるって分かるぐらいにはなってきたね」
「ブーズは貧しいだけじゃなくて、色んなことが出来る人の集まりでもありますから。貧しいと西地区で暮らすのが難しくて移ってきたという人も多いです」
エールタインたちは東の森を抜け、まだ壁の出来ていないところに来ていた。
ブーズ東地区の民だけが使用するという小川が近くに見える。
「もったいないような気がするけど、この森だから技術が生かせているようにも思うし――あ、川だ。この川って例の?」
エールタインが、なだらかな坂を下りて川のほとりへ向かう。
ティベルダは、その背中を見ながら主人の問いに答えつつ後を追った。
「はい、この水を使っています。飲むととてもおいしいですよ」
浅く細い川だが、水の流れはしっかりある。
川の両側はコケや背の低い草しか生えていない。
「水が増えることもあるのかな。明るい緑色が続いていてとてもきれいだ」
川の両側だけ木が生えていないため、水路がはっきりとわかる。
なだらかな坂の上部には、所々木製の床が設置されている。
ティベルダがエールタインの背中をポンポンと叩き、最寄りの床を指さした。
「水は、あそこまで増えることがあります。あまり無いですけど。ここの景色はずっと見ていられるので、よく眺めに来ていました。水もおいしいからいっぱい飲んでしまって――」
「それが能力につながっているかも知れないんだよね。この水が能力と関係があるのか――やっぱり、ダンが言っていた遠い国へ持っていって調べてもらおうか」
ティベルダはエールタインの腕に抱き着いて言う。
「飲まない方が良かったのかな。でも、能力のおかげでエール様のお手伝いが出来ているし」
「こーら、またそんなこと言って。能力は偶然じゃないか。気にさせたのならごめんね」
エールタインは不安気になってしまったティベルダの頭を撫でて言う。
「この水を使っている東地区の人たちにとって、悪いことが無いのか心配なんだ。ただ能力が使えちゃうってだけならいいけど、体に良くないなら使わないようにして欲しいからさ」
頭を撫でられ、笑みがこぼれているティベルダは、エールタインの顔を見上げた。
「エール様は、本当にブーズのみんなを心配してくださっているのですね。みんなに嫉妬しちゃうな」
「えー。みんなを心配するのもダメ? ティベルダの心配をしているからだよ?」
ティベルダはエールタインに抱き着き、胸に顔をうずめて言う。
「みんなのことは、ついでなのですね? それなら我慢しようかな」
「ティベルダは困った子ですねー。ずっと一緒にいるのに。今も二人きりだよ?」
エールタインから顔を離し、見上げて目を合わせるティベルダ。
主人をじっと見てからゆっくりと笑みを浮かべる。
エールタインは首を傾げてティベルダに問う。
「安心した?」
「……すこし」
「少しかあ。欲張りさんはどうしたら満足するのかな」
ティベルダはエールタインの手を掴んで、左右に振っている。
そこへ、町壁建築の作業班が通りかかった。
「エールタイン様……本当にうちの子たちと仲良くされているのですね」
ブーズでは、奉公のために送り出した者のことを、うちの子と呼ぶ。
地区が一丸となっていることをうかがわせる。
「ボクは普通にしているつもりですけど――不思議ですか?」
班員は皆、顔を見合わせてからエールタインに言う。
「実際、色々な話が届いていました。エールタイン様のお話も、にわかには信じ難く――」
エールタインが班員の言葉に動じた様子は無い。
話の続きを言い辛そうにしている班員に、手を差し伸べた。
「ひどい目に遭っているのだろう――そう思っていたのですよね。最初に話した通り、少なくともボクとティベルダはこんな感じです」
エールタインは揺さぶられていた腕を止め、ティベルダの肩を抱き寄せた。
するとティベルダは、肩越しに主人の顔を見て微笑む。
「もちろん、相性というものはありますから、紹介所では多くの子と会って話しました。その中で、ティベルダなら上手くいきそうだと思えた」
班員たちの視線に力が入る。
エールタインはティベルダの肩をさすりながら続けた。
「その通りになっているし、ティベルダはボクをしっかりと支えてくれています」
じっと聞いていた班員たちの中から一人が口を開いた。
「先程も、ヒルデガルドがルイーサ様に懐きつつ、仕事をこなしている姿を見掛けました。剣士様も変わられているというエールタイン様のお話は、本当なのだと実感したのです」
「良かった。ボクなんかの話でも、みなさんの気持ちが軽くなったのなら何よりです」
班員それぞれが力を抜いて息を吐いた。
エールタインとの話により、随分気が楽になったように見える。
「それでは移動しましょうか。ボクたちもきれいな景色を見てついゆっくりしてしまって」
「ははは。私たちも好きなところでしてね、良く癒してもらっているのですよ」
エールタインたちは、班員と談笑しながら移動する。
ウンゲホイアー川――魔獣の川と名付けられた小川から。
エールタインとティベルダは、ルイーサたちと共にブーズを訪れていた。
最短でも町壁の完成までは訪れる日々が続く。
エールタインとルイーサは、別の場所へ分かれて見回っている。
幸いにもブーズの民の作業が早く、壁は着々と増設されていた。
「早いなあ。壁があるって分かるぐらいにはなってきたね」
「ブーズは貧しいだけじゃなくて、色んなことが出来る人の集まりでもありますから。貧しいと西地区で暮らすのが難しくて移ってきたという人も多いです」
エールタインたちは東の森を抜け、まだ壁の出来ていないところに来ていた。
ブーズ東地区の民だけが使用するという小川が近くに見える。
「もったいないような気がするけど、この森だから技術が生かせているようにも思うし――あ、川だ。この川って例の?」
エールタインが、なだらかな坂を下りて川のほとりへ向かう。
ティベルダは、その背中を見ながら主人の問いに答えつつ後を追った。
「はい、この水を使っています。飲むととてもおいしいですよ」
浅く細い川だが、水の流れはしっかりある。
川の両側はコケや背の低い草しか生えていない。
「水が増えることもあるのかな。明るい緑色が続いていてとてもきれいだ」
川の両側だけ木が生えていないため、水路がはっきりとわかる。
なだらかな坂の上部には、所々木製の床が設置されている。
ティベルダがエールタインの背中をポンポンと叩き、最寄りの床を指さした。
「水は、あそこまで増えることがあります。あまり無いですけど。ここの景色はずっと見ていられるので、よく眺めに来ていました。水もおいしいからいっぱい飲んでしまって――」
「それが能力につながっているかも知れないんだよね。この水が能力と関係があるのか――やっぱり、ダンが言っていた遠い国へ持っていって調べてもらおうか」
ティベルダはエールタインの腕に抱き着いて言う。
「飲まない方が良かったのかな。でも、能力のおかげでエール様のお手伝いが出来ているし」
「こーら、またそんなこと言って。能力は偶然じゃないか。気にさせたのならごめんね」
エールタインは不安気になってしまったティベルダの頭を撫でて言う。
「この水を使っている東地区の人たちにとって、悪いことが無いのか心配なんだ。ただ能力が使えちゃうってだけならいいけど、体に良くないなら使わないようにして欲しいからさ」
頭を撫でられ、笑みがこぼれているティベルダは、エールタインの顔を見上げた。
「エール様は、本当にブーズのみんなを心配してくださっているのですね。みんなに嫉妬しちゃうな」
「えー。みんなを心配するのもダメ? ティベルダの心配をしているからだよ?」
ティベルダはエールタインに抱き着き、胸に顔をうずめて言う。
「みんなのことは、ついでなのですね? それなら我慢しようかな」
「ティベルダは困った子ですねー。ずっと一緒にいるのに。今も二人きりだよ?」
エールタインから顔を離し、見上げて目を合わせるティベルダ。
主人をじっと見てからゆっくりと笑みを浮かべる。
エールタインは首を傾げてティベルダに問う。
「安心した?」
「……すこし」
「少しかあ。欲張りさんはどうしたら満足するのかな」
ティベルダはエールタインの手を掴んで、左右に振っている。
そこへ、町壁建築の作業班が通りかかった。
「エールタイン様……本当にうちの子たちと仲良くされているのですね」
ブーズでは、奉公のために送り出した者のことを、うちの子と呼ぶ。
地区が一丸となっていることをうかがわせる。
「ボクは普通にしているつもりですけど――不思議ですか?」
班員は皆、顔を見合わせてからエールタインに言う。
「実際、色々な話が届いていました。エールタイン様のお話も、にわかには信じ難く――」
エールタインが班員の言葉に動じた様子は無い。
話の続きを言い辛そうにしている班員に、手を差し伸べた。
「ひどい目に遭っているのだろう――そう思っていたのですよね。最初に話した通り、少なくともボクとティベルダはこんな感じです」
エールタインは揺さぶられていた腕を止め、ティベルダの肩を抱き寄せた。
するとティベルダは、肩越しに主人の顔を見て微笑む。
「もちろん、相性というものはありますから、紹介所では多くの子と会って話しました。その中で、ティベルダなら上手くいきそうだと思えた」
班員たちの視線に力が入る。
エールタインはティベルダの肩をさすりながら続けた。
「その通りになっているし、ティベルダはボクをしっかりと支えてくれています」
じっと聞いていた班員たちの中から一人が口を開いた。
「先程も、ヒルデガルドがルイーサ様に懐きつつ、仕事をこなしている姿を見掛けました。剣士様も変わられているというエールタイン様のお話は、本当なのだと実感したのです」
「良かった。ボクなんかの話でも、みなさんの気持ちが軽くなったのなら何よりです」
班員それぞれが力を抜いて息を吐いた。
エールタインとの話により、随分気が楽になったように見える。
「それでは移動しましょうか。ボクたちもきれいな景色を見てついゆっくりしてしまって」
「ははは。私たちも好きなところでしてね、良く癒してもらっているのですよ」
エールタインたちは、班員と談笑しながら移動する。
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