155 / 218
第四章 ボクたちの町
第一話 留守番と父の喜び
しおりを挟む
Szene-01 レアルプドルフ五番地区、エールタイン家
上級剣士へと昇格したエールタインは、ティベルダと共に五番地区の地区道を歩いている。
普段ならばルイーサたちも一緒に帰るところだが、師匠であるドミニクと改めて役場へ出向くために実家へ向かった。
ルイーサがいないことで笑みが絶えないティベルダは、エールタインの腕に抱き着いて歩いている。
「んふふ」
ティベルダは腕に頬ずりを始めるが、エールタインは特に気にせず歩みを進める。
二人がデュオを組んで間もない頃、エールタインはティベルダの懐き度合いの大きさに困惑することもあった。しかし今ではティベルダが所構わず懐いてきても、そばにいることを感じ取れるからと、自然に受け入れるようになっている。
「んふふふ」
「さあ、久しぶりの我が家だよ。まずは傷んでいる所や、侵入を試みた跡がないかを確認しよう」
「はい!」
エールタインは自分が回り込む反対側を指差し、ティベルダに見回りの指示をする。
ティベルダは一度うなずくと、指示を受けた方へ足取り軽く向かった。
エールタインは素直に従ったティベルダの背中を見送ってから見回りを始める。
「扉を触られてはいなかったみたいだから、たぶん大丈夫だと思うけど」
エールタインは、数日空けられた剣士の家を狙う盗人がいるという話をダンから何度も聞いている。
師匠の言葉を守り、留守にした時間があれば見回りをすることを怠らない。
上下左右にくまなく目をやるが、記憶にある限りの状況と比べても、人為的な破壊や工作が行われた形跡は無い。
いや、破壊や工作は確かに無いが、一つだけ人為的に追加されたものがエールタインの目に入る。
人一人なら優に入る真新しい箱が、家の裏へ回り込んだ角に置かれていた。
「おっきいな、なんだろ。役場の箱だから怪しいものではないけれど」
レアルプドルフの町役場が使用する物品は、ほとんどトゥサイ村の職人が製作したものだ。
剣士の証石である青、白、黒の色を塗られていることでもわかるが、レアルプドルフの民は、トゥサイの職人による独特な面取り加工を見ることでトゥサイの物だと認識する。
「あっちにもあるのかな。ティベルダ、そっちはどう?」
エールタインは反対側へ回り込んだティベルダに声を掛けた。
「あは、発見しました」
「え?」
エールタインは、無事だという答えが返ってくるつもりで聞いていたため、ティベルダの答えに驚いた。
自慢の脚力が発動して、一瞬でティベルダの元へたどり着く。
「誰かいたの!?」
「はい、二匹でお話していたみたいです」
エールタインはもしもに備えて力を入れた肩を下ろして大きく息を吐いた。
「もお、驚かさないでよ。アムレットのお友達だよね」
「そうです。ずっとこの家のお留守番をしていてくれたみたいですよ」
「そうなの!? 心強いなあ。何かと助けてもらってばかりで申し訳ないよ。いつもありがとね」
二匹のリスは、エールタインに宙返りや尻尾を振るなどして喜んでみせる。
「うわあ、エール様に感謝されてとっても嬉しいみたいですよ! ヒルデガルドに報告しなきゃって言ってます。あ、あと、留守の間に不審な人は来なかったそうです」
「あはは、喜ぶだけじゃなくてちゃんとお仕事もして偉いね」
エールタインはしゃがんで二匹の頭を交互に撫でた。ティベルダもしゃがんで左右に揺れている尻尾を触って遊んでいる。
「こうしてリスと遊べるなんて考えたことなかったなあ。これもヒルデガルドの能力のおかげなんだよね。たった一つ壁が無くなるだけでこうして幸せになれる――町壁の必要が無くなればいいのにね」
Szene-02 レアルプドルフ二番地区、ドミニク家
「そうか、上級剣士に。最近は修練に付き合えていないというのに、知らないうちに実績を上げていたのだな。よくやったと言っておこう」
「まったく、素直じゃないですね。気持ちよく喜んであげればよいものを。ルイーサ、とても誇らしいですよ」
ルイーサはドミニク家に着くと開口一番、昇格を報告した。椅子に座ることもせず、全員が立ったままで話が始まる。
ルイーサにピタリと付いているヒルデガルドは、くすりと笑わうことはせずに主人と同じく昇格の喜びを噛みしめる笑みを浮かべていた。
ルイーサが、両親とドミニクの従者メリアに言う。
「正確にはまだ上級剣士ではありません。その――」
ドミニクが皆まで言うなとばかりに、片手のひらを上げてルイーサの話を止めた。
「ルイーサよ、このまま役場へ向かうぞ。良い話はすぐに応じることで価値が上がる」
「お父さま……はい!」
ドミニクは、ルイーサの口から久しぶりに発せられた「お父さま」には気づいていないフリをするためか、いきなり出発して背中を見せた。
突発的な主人の動きに難なく応じるメリアが、口角を上げている主人の喜びを隠す助けとなる。
ルイーサとヒルデガルドは、母であるリジーに軽く会釈をしてドミニクとメリアを追った。
四人の背中を見送りながらリジーはつぶやく。
「あなた、嬉しかったのね。ルイーサに見つからないよう頑張って――いえ、気付くのはヒルデガルドかしら、ふふふ」
二組のデュオの足元からは土が鳴り、二番地区の風を震わせる。新たな世代の訪れを祝うように、足音は民家で反響して四人を包んでいた。
上級剣士へと昇格したエールタインは、ティベルダと共に五番地区の地区道を歩いている。
普段ならばルイーサたちも一緒に帰るところだが、師匠であるドミニクと改めて役場へ出向くために実家へ向かった。
ルイーサがいないことで笑みが絶えないティベルダは、エールタインの腕に抱き着いて歩いている。
「んふふ」
ティベルダは腕に頬ずりを始めるが、エールタインは特に気にせず歩みを進める。
二人がデュオを組んで間もない頃、エールタインはティベルダの懐き度合いの大きさに困惑することもあった。しかし今ではティベルダが所構わず懐いてきても、そばにいることを感じ取れるからと、自然に受け入れるようになっている。
「んふふふ」
「さあ、久しぶりの我が家だよ。まずは傷んでいる所や、侵入を試みた跡がないかを確認しよう」
「はい!」
エールタインは自分が回り込む反対側を指差し、ティベルダに見回りの指示をする。
ティベルダは一度うなずくと、指示を受けた方へ足取り軽く向かった。
エールタインは素直に従ったティベルダの背中を見送ってから見回りを始める。
「扉を触られてはいなかったみたいだから、たぶん大丈夫だと思うけど」
エールタインは、数日空けられた剣士の家を狙う盗人がいるという話をダンから何度も聞いている。
師匠の言葉を守り、留守にした時間があれば見回りをすることを怠らない。
上下左右にくまなく目をやるが、記憶にある限りの状況と比べても、人為的な破壊や工作が行われた形跡は無い。
いや、破壊や工作は確かに無いが、一つだけ人為的に追加されたものがエールタインの目に入る。
人一人なら優に入る真新しい箱が、家の裏へ回り込んだ角に置かれていた。
「おっきいな、なんだろ。役場の箱だから怪しいものではないけれど」
レアルプドルフの町役場が使用する物品は、ほとんどトゥサイ村の職人が製作したものだ。
剣士の証石である青、白、黒の色を塗られていることでもわかるが、レアルプドルフの民は、トゥサイの職人による独特な面取り加工を見ることでトゥサイの物だと認識する。
「あっちにもあるのかな。ティベルダ、そっちはどう?」
エールタインは反対側へ回り込んだティベルダに声を掛けた。
「あは、発見しました」
「え?」
エールタインは、無事だという答えが返ってくるつもりで聞いていたため、ティベルダの答えに驚いた。
自慢の脚力が発動して、一瞬でティベルダの元へたどり着く。
「誰かいたの!?」
「はい、二匹でお話していたみたいです」
エールタインはもしもに備えて力を入れた肩を下ろして大きく息を吐いた。
「もお、驚かさないでよ。アムレットのお友達だよね」
「そうです。ずっとこの家のお留守番をしていてくれたみたいですよ」
「そうなの!? 心強いなあ。何かと助けてもらってばかりで申し訳ないよ。いつもありがとね」
二匹のリスは、エールタインに宙返りや尻尾を振るなどして喜んでみせる。
「うわあ、エール様に感謝されてとっても嬉しいみたいですよ! ヒルデガルドに報告しなきゃって言ってます。あ、あと、留守の間に不審な人は来なかったそうです」
「あはは、喜ぶだけじゃなくてちゃんとお仕事もして偉いね」
エールタインはしゃがんで二匹の頭を交互に撫でた。ティベルダもしゃがんで左右に揺れている尻尾を触って遊んでいる。
「こうしてリスと遊べるなんて考えたことなかったなあ。これもヒルデガルドの能力のおかげなんだよね。たった一つ壁が無くなるだけでこうして幸せになれる――町壁の必要が無くなればいいのにね」
Szene-02 レアルプドルフ二番地区、ドミニク家
「そうか、上級剣士に。最近は修練に付き合えていないというのに、知らないうちに実績を上げていたのだな。よくやったと言っておこう」
「まったく、素直じゃないですね。気持ちよく喜んであげればよいものを。ルイーサ、とても誇らしいですよ」
ルイーサはドミニク家に着くと開口一番、昇格を報告した。椅子に座ることもせず、全員が立ったままで話が始まる。
ルイーサにピタリと付いているヒルデガルドは、くすりと笑わうことはせずに主人と同じく昇格の喜びを噛みしめる笑みを浮かべていた。
ルイーサが、両親とドミニクの従者メリアに言う。
「正確にはまだ上級剣士ではありません。その――」
ドミニクが皆まで言うなとばかりに、片手のひらを上げてルイーサの話を止めた。
「ルイーサよ、このまま役場へ向かうぞ。良い話はすぐに応じることで価値が上がる」
「お父さま……はい!」
ドミニクは、ルイーサの口から久しぶりに発せられた「お父さま」には気づいていないフリをするためか、いきなり出発して背中を見せた。
突発的な主人の動きに難なく応じるメリアが、口角を上げている主人の喜びを隠す助けとなる。
ルイーサとヒルデガルドは、母であるリジーに軽く会釈をしてドミニクとメリアを追った。
四人の背中を見送りながらリジーはつぶやく。
「あなた、嬉しかったのね。ルイーサに見つからないよう頑張って――いえ、気付くのはヒルデガルドかしら、ふふふ」
二組のデュオの足元からは土が鳴り、二番地区の風を震わせる。新たな世代の訪れを祝うように、足音は民家で反響して四人を包んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる