ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第四章 ボクたちの町

第一話 留守番と父の喜び

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Szene-01 レアルプドルフ五番地区、エールタイン家

 上級剣士へと昇格したエールタインは、ティベルダと共に五番地区の地区道を歩いている。
 普段ならばルイーサたちも一緒に帰るところだが、師匠であるドミニクと改めて役場へ出向くために実家へ向かった。
 ルイーサがいないことで笑みが絶えないティベルダは、エールタインの腕に抱き着いて歩いている。

「んふふ」

 ティベルダは腕に頬ずりを始めるが、エールタインは特に気にせず歩みを進める。
 二人がデュオを組んで間もない頃、エールタインはティベルダの懐き度合いの大きさに困惑することもあった。しかし今ではティベルダが所構わず懐いてきても、そばにいることを感じ取れるからと、自然に受け入れるようになっている。

「んふふふ」
「さあ、久しぶりの我が家だよ。まずは傷んでいる所や、侵入を試みた跡がないかを確認しよう」
「はい!」

 エールタインは自分が回り込む反対側を指差し、ティベルダに見回りの指示をする。
 ティベルダは一度うなずくと、指示を受けた方へ足取り軽く向かった。
 エールタインは素直に従ったティベルダの背中を見送ってから見回りを始める。

「扉を触られてはいなかったみたいだから、たぶん大丈夫だと思うけど」

 エールタインは、数日空けられた剣士の家を狙う盗人がいるという話をダンから何度も聞いている。
 師匠の言葉を守り、留守にした時間があれば見回りをすることを怠らない。
 上下左右にくまなく目をやるが、記憶にある限りの状況と比べても、人為的な破壊や工作が行われた形跡は無い。
 いや、破壊や工作は確かに無いが、一つだけ人為的に追加されたものがエールタインの目に入る。
人一人なら優に入る真新しい箱が、家の裏へ回り込んだ角に置かれていた。

「おっきいな、なんだろ。役場の箱だから怪しいものではないけれど」

 レアルプドルフの町役場が使用する物品は、ほとんどトゥサイ村の職人が製作したものだ。
 剣士の証石である青、白、黒の色を塗られていることでもわかるが、レアルプドルフの民は、トゥサイの職人による独特な面取り加工を見ることでトゥサイの物だと認識する。

「あっちにもあるのかな。ティベルダ、そっちはどう?」

 エールタインは反対側へ回り込んだティベルダに声を掛けた。

「あは、発見しました」
「え?」

 エールタインは、無事だという答えが返ってくるつもりで聞いていたため、ティベルダの答えに驚いた。
 自慢の脚力が発動して、一瞬でティベルダの元へたどり着く。

「誰かいたの!?」
「はい、二匹でお話していたみたいです」

 エールタインはもしもに備えて力を入れた肩を下ろして大きく息を吐いた。

「もお、驚かさないでよ。アムレットのお友達だよね」
「そうです。ずっとこの家のお留守番をしていてくれたみたいですよ」
「そうなの!? 心強いなあ。何かと助けてもらってばかりで申し訳ないよ。いつもありがとね」

 二匹のリスは、エールタインに宙返りや尻尾を振るなどして喜んでみせる。

「うわあ、エール様に感謝されてとっても嬉しいみたいですよ! ヒルデガルドに報告しなきゃって言ってます。あ、あと、留守の間に不審な人は来なかったそうです」
「あはは、喜ぶだけじゃなくてちゃんとお仕事もして偉いね」

 エールタインはしゃがんで二匹の頭を交互に撫でた。ティベルダもしゃがんで左右に揺れている尻尾を触って遊んでいる。

「こうしてリスと遊べるなんて考えたことなかったなあ。これもヒルデガルドの能力のおかげなんだよね。たった一つ壁が無くなるだけでこうして幸せになれる――町壁の必要が無くなればいいのにね」

Szene-02 レアルプドルフ二番地区、ドミニク家

「そうか、上級剣士に。最近は修練に付き合えていないというのに、知らないうちに実績を上げていたのだな。よくやったと言っておこう」
「まったく、素直じゃないですね。気持ちよく喜んであげればよいものを。ルイーサ、とても誇らしいですよ」

 ルイーサはドミニク家に着くと開口一番、昇格を報告した。椅子に座ることもせず、全員が立ったままで話が始まる。
 ルイーサにピタリと付いているヒルデガルドは、くすりと笑わうことはせずに主人と同じく昇格の喜びを噛みしめる笑みを浮かべていた。
 ルイーサが、両親とドミニクの従者メリアに言う。

「正確にはまだ上級剣士ではありません。その――」

 ドミニクが皆まで言うなとばかりに、片手のひらを上げてルイーサの話を止めた。

「ルイーサよ、このまま役場へ向かうぞ。良い話はすぐに応じることで価値が上がる」
「お父さま……はい!」

 ドミニクは、ルイーサの口から久しぶりに発せられた「お父さま」には気づいていないフリをするためか、いきなり出発して背中を見せた。
突発的な主人の動きに難なく応じるメリアが、口角を上げている主人の喜びを隠す助けとなる。
 ルイーサとヒルデガルドは、母であるリジーに軽く会釈をしてドミニクとメリアを追った。
 四人の背中を見送りながらリジーはつぶやく。

「あなた、嬉しかったのね。ルイーサに見つからないよう頑張って――いえ、気付くのはヒルデガルドかしら、ふふふ」

 二組のデュオの足元からは土が鳴り、二番地区の風を震わせる。新たな世代の訪れを祝うように、足音は民家で反響して四人を包んでいた。
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