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第三章 平和のための戦い
第五十七話 上級剣士へ
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Szene-01 レアルプドルフ、謁見部屋
エールタインとルイーサは、息つく間もなく上級剣士となった。町長は、カシカルド王国のローデリカやアムレットとその仲間が伝えたザラの話は、始めから二の次だったようだ。
昇格の認定は、師匠と弟子が共に役場へ訪れて手続きをし、証石を渡されるという形式になっている。
そのため受付係は、謁見部屋に師弟として訪れているエールタインの昇格手続きを進めるべく動いた。
謁見部屋では町長が見守る中、ダンが書類にサインをして受付係に書類を渡した。
受付係は書類と引き換えに、赤色の装飾が施された底の浅い箱をエールタインの前に差し出す。
その中には上級剣士の証石であるホワイトサファイアが乗っていた。
エールタインがダンを見て手に取ることを目で尋ねると、ダンは目尻に皺をよせてゆっくりと一度うなずいた。
エールタインが恐る恐る手に取る所を、ティベルダもじっと覗き込んでいる。
ルイーサとヒルデガルドも様子を見守っている中で、エールタインは証石を取り出して掲げてみた。
「うわあ、今まで黒いのを見ていたから眩しいよ!」
「はあ、きれいですね――」
目を細めるエールタインと、口をあんぐりと開けているティベルダをヨハナとヘルマが嬉しそうに眺めている。
「ねえ、エール様が白を持っているわ。あの姿をこんなに早く見られるなんてね」
「ついこの間同じようなことを言ったはずなのに、エール様には驚かされてばかりだわ」
うっとりとエールタインを見つめるヨハナに寄り掛かかっていたヘルマは、体を起こしてエールタインに声を掛けた。
「エール様、持っている姿を近くで見せてくださいな」
エールタインは証石を持ってヘルマに近づいていくと、ヘルマは立ち上がってエールタインを抱きしめた。
「ヘルマ?」
「自分のことのように嬉しいんですよ。まったく、私たちの気持ちが追いつかないじゃないですか。従者の立場でこのようなこと、お許しください」
「ダン家にはそういうのないでしょ、もっとかまってよお。ヨハナはしてくれないの?」
ヘルマに続いてヨハナも立ち上がり、エールタインに寄っていく。
「もう、なんでヘルマが先にするの? そこは私が先でしょう」
「ダン家にはそういうのないから。どちらが先でもいいのよ」
「エール様の真似しないの! ほら、私はエール様に呼ばれたんだから」
「仕方ないなあ」
ヘルマは渋々エールタインから離れ、頬を膨らませる。エールタインがヘルマの熱から解放される間もなく、ヨハナの熱が届けられた。
「エール様、おめでとうございます。この先も見守らせてくださいね」
「それはボクからのお願いだよ。ヨハナが見ていてくれるから安心できるんだ。それに、まだ父には追い付いていないからね。そう思うとさ、父って偉大な人なんだなって感じる」
父について語るエールタインの背中を、ダンがじっと見つめている。その視線を感じたのか、はたまた思い出したのか、エールタインが言う。
「――ダンもすごいんだね」
「取って付けたように言うな。お前の中でアウフを越えられるとは思っちゃいねえが、少々ひどくないか?」
「そう? ちゃんとすごいねって言っているのになあ」
「くっ」
悔しがるダンを尻目にヨハナとの抱擁を続けるエールタイン。ティベルダは抱擁の邪魔になると思い、エールタインに渡すよう無言で手に触れる。
エールタインはティベルダに従って証石を渡すと、ティベルダはヒルデガルドに見せようと隣にしゃがみこんだ。
「ヒルデガルド、エール様が上級剣士だって。すごいね」
「ティベルダ、あなたも同じく昇格なのだけど」
「そうだけど、エール様がすごいからだよ。ヒルデガルドもでしょ? ルイーサさ――様がエール様のお手伝いをしていたから昇格になったんだよね」
ティベルダの言い回しにルイーサが即反応した。
「ちょっと、私のこと何だと思っているの!? ヒルデ、何とか言って!」
「私はルイーサ様が昇格することに何の疑問も感じていません。ティベルダ、ルイーサ様に謝ってくれる?」
「んー、がんばってみる――ルイーサ様、ごめんなさい」
ルイーサは片手を握ってプルプルと震わせて言う。
「はい、よく言えました――ねえエールタイン、ちゃんとしてよお」
「またティベルダが迷惑をかけているの? ボクがルイーサに嫌われちゃうからいい子にして」
ティベルダはエールタインに言われるとビクッと体を震わせて、元の位置に戻った。
「まったく困った子ね、エールタインが甘やかすから」
「ごめんねルイーサ、その通りだから何も言えないや。ティベルダっていい子だから。でも何度言ってもルイーサには悪い態度をとってしまうね」
「ティベルダの気持ちはわかるのだけど、度を超えているのよ」
呆れ顔のルイーサに、受付係が言う。
「ルイーサ様の昇格手続きは、ドミニク様とご一緒の時となりますのでご了承ください」
「はいはい、わかっているわよ。なんで私だけ嬉しさがこみ上げて来ないのかしら」
愚痴をこぼし始めたルイーサに、ダンが声を掛けた。
「ルイーサはエールの手伝いではなく、同等の仕事をこなした。俺はもちろんのこと、町長や町のみんなも同じ思いのはずだ。胸を張って証石を受け取りな」
「ダン様――なんて素敵なお方」
ヒルデガルドはクスッと笑うと、目を輝かせるルイーサに言った。
「良かったですね、ルイーサ様。私は出会った時からルイーサ様が素敵な方だと思っていますよ」
「ヒルデ――」
昇格話で盛り上がってしまった謁見部屋で、一人蚊帳の外となってしまった町長がボソッとつぶやいた。
「昇格を認めているのは私なのですが。まあ、みなさんが楽しければ良しとしますか」
受付係は町長のつぶやきを聞き逃さなかったようで、隣に移動すると顔をちらりと見て目を合わせ、にこりと笑って労っていた。
エールタインとルイーサは、息つく間もなく上級剣士となった。町長は、カシカルド王国のローデリカやアムレットとその仲間が伝えたザラの話は、始めから二の次だったようだ。
昇格の認定は、師匠と弟子が共に役場へ訪れて手続きをし、証石を渡されるという形式になっている。
そのため受付係は、謁見部屋に師弟として訪れているエールタインの昇格手続きを進めるべく動いた。
謁見部屋では町長が見守る中、ダンが書類にサインをして受付係に書類を渡した。
受付係は書類と引き換えに、赤色の装飾が施された底の浅い箱をエールタインの前に差し出す。
その中には上級剣士の証石であるホワイトサファイアが乗っていた。
エールタインがダンを見て手に取ることを目で尋ねると、ダンは目尻に皺をよせてゆっくりと一度うなずいた。
エールタインが恐る恐る手に取る所を、ティベルダもじっと覗き込んでいる。
ルイーサとヒルデガルドも様子を見守っている中で、エールタインは証石を取り出して掲げてみた。
「うわあ、今まで黒いのを見ていたから眩しいよ!」
「はあ、きれいですね――」
目を細めるエールタインと、口をあんぐりと開けているティベルダをヨハナとヘルマが嬉しそうに眺めている。
「ねえ、エール様が白を持っているわ。あの姿をこんなに早く見られるなんてね」
「ついこの間同じようなことを言ったはずなのに、エール様には驚かされてばかりだわ」
うっとりとエールタインを見つめるヨハナに寄り掛かかっていたヘルマは、体を起こしてエールタインに声を掛けた。
「エール様、持っている姿を近くで見せてくださいな」
エールタインは証石を持ってヘルマに近づいていくと、ヘルマは立ち上がってエールタインを抱きしめた。
「ヘルマ?」
「自分のことのように嬉しいんですよ。まったく、私たちの気持ちが追いつかないじゃないですか。従者の立場でこのようなこと、お許しください」
「ダン家にはそういうのないでしょ、もっとかまってよお。ヨハナはしてくれないの?」
ヘルマに続いてヨハナも立ち上がり、エールタインに寄っていく。
「もう、なんでヘルマが先にするの? そこは私が先でしょう」
「ダン家にはそういうのないから。どちらが先でもいいのよ」
「エール様の真似しないの! ほら、私はエール様に呼ばれたんだから」
「仕方ないなあ」
ヘルマは渋々エールタインから離れ、頬を膨らませる。エールタインがヘルマの熱から解放される間もなく、ヨハナの熱が届けられた。
「エール様、おめでとうございます。この先も見守らせてくださいね」
「それはボクからのお願いだよ。ヨハナが見ていてくれるから安心できるんだ。それに、まだ父には追い付いていないからね。そう思うとさ、父って偉大な人なんだなって感じる」
父について語るエールタインの背中を、ダンがじっと見つめている。その視線を感じたのか、はたまた思い出したのか、エールタインが言う。
「――ダンもすごいんだね」
「取って付けたように言うな。お前の中でアウフを越えられるとは思っちゃいねえが、少々ひどくないか?」
「そう? ちゃんとすごいねって言っているのになあ」
「くっ」
悔しがるダンを尻目にヨハナとの抱擁を続けるエールタイン。ティベルダは抱擁の邪魔になると思い、エールタインに渡すよう無言で手に触れる。
エールタインはティベルダに従って証石を渡すと、ティベルダはヒルデガルドに見せようと隣にしゃがみこんだ。
「ヒルデガルド、エール様が上級剣士だって。すごいね」
「ティベルダ、あなたも同じく昇格なのだけど」
「そうだけど、エール様がすごいからだよ。ヒルデガルドもでしょ? ルイーサさ――様がエール様のお手伝いをしていたから昇格になったんだよね」
ティベルダの言い回しにルイーサが即反応した。
「ちょっと、私のこと何だと思っているの!? ヒルデ、何とか言って!」
「私はルイーサ様が昇格することに何の疑問も感じていません。ティベルダ、ルイーサ様に謝ってくれる?」
「んー、がんばってみる――ルイーサ様、ごめんなさい」
ルイーサは片手を握ってプルプルと震わせて言う。
「はい、よく言えました――ねえエールタイン、ちゃんとしてよお」
「またティベルダが迷惑をかけているの? ボクがルイーサに嫌われちゃうからいい子にして」
ティベルダはエールタインに言われるとビクッと体を震わせて、元の位置に戻った。
「まったく困った子ね、エールタインが甘やかすから」
「ごめんねルイーサ、その通りだから何も言えないや。ティベルダっていい子だから。でも何度言ってもルイーサには悪い態度をとってしまうね」
「ティベルダの気持ちはわかるのだけど、度を超えているのよ」
呆れ顔のルイーサに、受付係が言う。
「ルイーサ様の昇格手続きは、ドミニク様とご一緒の時となりますのでご了承ください」
「はいはい、わかっているわよ。なんで私だけ嬉しさがこみ上げて来ないのかしら」
愚痴をこぼし始めたルイーサに、ダンが声を掛けた。
「ルイーサはエールの手伝いではなく、同等の仕事をこなした。俺はもちろんのこと、町長や町のみんなも同じ思いのはずだ。胸を張って証石を受け取りな」
「ダン様――なんて素敵なお方」
ヒルデガルドはクスッと笑うと、目を輝かせるルイーサに言った。
「良かったですね、ルイーサ様。私は出会った時からルイーサ様が素敵な方だと思っていますよ」
「ヒルデ――」
昇格話で盛り上がってしまった謁見部屋で、一人蚊帳の外となってしまった町長がボソッとつぶやいた。
「昇格を認めているのは私なのですが。まあ、みなさんが楽しければ良しとしますか」
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