ボクっ娘剣士と奴隷少女の異世界甘々百合生活

沢鴨ゆうま

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第四章 ボクたちの町

第二話 新しい武器と溢れた思い

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Szene-01 レアルプドルフ五番地区、エールタイン家

「二人とも上達するのが早いですね、さすがです」

 エールタイン家から西地区を囲む町壁は目と鼻の先にある。壁には木の板が二枚掛けられていて、刺さる場所が無いように見えるほど矢は乱列し、地面には山となっている。
 そんな的に向けて射続けているティベルダは、刺さるか刺さらないかは気にしていない真剣な顔つきで弓を引いていた。

「んー!」

 エールタインは、ワンピースの裾とブーツとの間から見えるティベルダの白い脚に力が入るのをじっと見つめる。続いて真剣な表情へと目線を移すとにこりと微笑んだ。
 ティベルダは、矢が的に当たって落ちるところまで見届ける。コトンと音が聞こえると、次の矢を取り再び構えた。
 家の壁に背中を預けて座っているエールタインに、ヨハナが尋ねる。

「エール様、ティベルダを休ませなくてよいのですか?」
「あー、なんか可愛くってずっと見てた。ティベルダあ、ちょっと休もうよ」

 ティベルダは、片目を閉じて的を狙う恰好をしたまま一瞬動きが止まったが、そのまま矢を射ってからエールタインの元へと向かった。
 座っているエールタインは、手を地面に置いてティベルダへ隣に座るよう合図をした。
 ティベルダは矢を射る時の真剣な顔から一転、笑みを浮かべながらくるりと地面にお尻を向けて座った。

「お休みしなくてもできますよ?」
「休憩は大事なことだよ。能力に頼り過ぎるのはあまりいいことではないと思うんだ。ティベルダの体に負担をかけていることには変わりないからね」
「エール様――」

 ティベルダがエールタインの肩に頭を乗せると、二人一緒に全身の力を抜いた。

「ふぅ、剣とはまったく違うから慣れようとして集中し過ぎちゃったよ」

 弓を扱ったことのあるヨハナは、エールタインに頼まれて教えに来ている。ようやく二人が揃って休憩するのに合わせ、エールタインをティベルダとの間に挟むようにして座った。

「そうですね……弓は敵から離れて攻撃するので、これまでとは勝手が違いますから」
「でも弓に触れるのが遅れた分、早くみんなに追いつきたいし」
「剣の感覚を使えなくもないのですが――エール様ならそちらの方がいいのかも」
「なになに、ヨハナの話は何でも聞きたい!」
「あら、そんなうれしいことを言っていただけるなんて」
「ボクがヨハナと話をするのが好きなこと、知っているでしょ。今さら何を言っているのさ」

 町壁を見つめているエールタインの頬を、ハマンルソス山脈からの冷ややかな風がなでる。
 藍色混じりの銀髪は、日差しを透かして光りながらサラサラとなびき、青空と雲のようにも見えた。
 エールタインが作り出す独特な光景を何度も見ているはずのヨハナだが、いつも愛おしそうに見つめる。

「ふふ、ありがとうございます。そのお気持ち、アウフ様の分も一緒に頂いておきますね」
「――父がいたら今のボクのこと、なんて言うのかな。ダンとは全く違うのか、それとも似てるのか。父のことはいつもに持っているからさ、毎日気になるんだよね」

 エールタインは片手のひらを胸に当ててポンポンと叩いて見せた。
 ヨハナはエールタインを抱き寄せ、頭をゆっくりと撫でる。

「そのお気持ちはきっと届いていますよ、それだけ思っていらっしゃるのですから。んふふ、たぶんアウフ様はダン様より優しくしていたと思いますけれど」
「え、ダンより優しいの? それじゃあボクは強くなれないよ」
「アウフ様はエール様のことが大好きですから、それはもう可愛がるばかりになっていたかと」
「それじゃあ剣聖失格だ」
「もしかしたら見かねたダン様がアウフ様をお叱りになるかもしれません」
「あはは、それは見てみたいなあ――なんでいないんだろうね」

 エールタインの片目尻にじわりと涙が溜まって、一筋の跡を付けながら頬を下りた。
 ヨハナは気付いていないフリをして、頭撫でを続けている。
 エールタインとヨハナの話が途切れると、一つの寝息が二人の耳をくすぐった。

「あら、ティベルダが寝てしまいましたね」
「ほんとだ、真剣だったもんね。長い間修練の時間が無かったせいかな、真剣な顔をじっと見ちゃった。この子が本気になるとさ、負けていられないって思えるほど真剣な顔をするんだ。それがボクにとって心強くて、いないと自信が無くなるようで怖い。こうして懐いてくれるとこの上なく安心する――」
「アウフ様の贈り物なのかもしれませんね。そう思うと色々と納得できてしまいます」

 ティベルダは、ヨハナに抱えられたエールタインの体を枕にして寝息を立てている。
 エールタインとティベルダは、力を抜けきって無防備なティベルダを見て微笑んだ。
 ヨハナがさりげなくエールタインの頬を伝った涙を親指で拭う。
 エールタインはティベルダに片腕を添えると、三人は山脈の風を感じながら体を休めた。
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